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3・決して毒物を作っているわけではないんです。

 こんにちは。

 カノア・ロスパーニです。

 現在、荷馬車に揺られてます。


 神様二人が御者というこの状況。


 この事実を知れば、みんな卒倒するだろうな。

 卒倒だけで済んだらいいけど。

 と、いつも思う。


 というわけで、真面に街から出ていく事にしたあたし達は、三十分程先にある門前で正しく手続きです。

 街を出入りするにも手続きが必要で、それすらもやってくれてます。

 とはいえ、最低でも三か月に一度は出入りしているのでもう顔馴染み。

 おかげで手続きと言っても、身分証とか確認する事もなく名前を書いた書類すらも確認する事なく許可印をポンっと押され、「気を付けてな~」と笑顔で手を振られたので、荷台の中から顔を覗かせて、「お仕事頑張って~」と手を振り返しておきました。


──えっ! 手続き早っ!

──どっかのお貴族様かよ!?

──御者の二人、なんか相当お金持ちな貴族の従者っぽい!?

──いやでも、馬車がその辺に転がってる様なやつだぞ!?


 とかとか、後続の順番待ちの人達が口々に言うのを後ろに聞きながら、馬車は何事もなく出立です。


 今に見てろー……。

 その内豪華な馬車にしてやるんだからーっ!


 いつか勤務態度に難あり! とか言われてお説教喰らったりしないのかな?

 大丈夫?


 とか思いながら、特にする事もないのでゴロゴロしたり景色眺めたり途中休憩入れたりしている内に、目的の場所の入口まで来ました。


 眼前には鬱蒼と樹木が立ちはだかっています。

 それこそ拒絶感すら覚えるその光景を見る度に、背筋がこうぞわぞわっと。


 というわけで、今いるのは王都から二時間程離れた森の手前。

 普通ならここで引き返してしまうものだけど、遠慮なく馬車は中へと突き進みます。

 鬱蒼とした木々が、ざざーっと行く道を開ける様に避けてくれます。

 

 時間のかかる場所にあるとはいえ、道が勝手に出来ていくというのは楽ちんだよね~。


 新鮮な材料の方が良いので、大抵は採取場と作業場が一緒になっているのだけど。

 特に必要な魔草が群生している所は、職人達の縄張りみたいなのがあって、良さそうな所に新参者のあたしが入り込む隙間は何処にもない。

 残っている場所は、痩せた土地に申し訳程度に魔草が生えている感じで使い物にならないし……。


 どうしようかと困っていた所に、「そういう事でしたら、いい場所をお教えしましょう。主もお世話になっておりますし、カノアなら安心出来ますし」と、まさに神の声が舞い降りました。

 宣ったのは、ウィンベル・シェロ・アリハイドという大陸神様です。

 ちなみにここでは「ウィン・シェリド」と名乗っておられます。


 森の更に一時間近く奥に進んだ場所。

 全部、馬車での移動時間ですよ?

 徒歩にしたら相当な距離です。


 いやいや。

 そんな場所勧められても。


 だって、人里離れてる場所にあるその森は、腕に覚えのある冒険者達ですら尻尾巻いて逃げ帰るんだよ?

 深層に近付こうとすれば、あれよあれよと彷徨って、どこをどう歩んだのか分からない内に巻き戻りっていう摩訶不思議な現象が。

 おまけに森の主達の狂暴な事と言ったら。

 森にちょっと足を踏み入れただけの範囲で狂暴な獣とか魔法でなかなかくたばらない魔獣とか。

 どう考えても、死亡フラグ!

 おまけにさらにちょっと歩みを進めただけの深部は、人の手が加えられておらず、鬱蒼と茂る草草草! 木木木! で光を遮り暗くてそれだけで恐怖をそそる。


 そんなわけであたしが尻込みしていると、「私がいますし問題ないですよ?」とエルが、「あの森は私の管理地の一つなので私の許可を授ければ問題ないかと?」とウィンが、「あ、はい」と妙に納得したあたし。


 神様が用心棒って心強い。


 そんなわけで森の深部に連れて来られるなり、「日帰りも大変でしょうし、この辺りに作りましょうか」とウィンが手を翳すと、木々がザザーーーーーーーッと気持ちよく周辺を開け、平地が出来上がり、ちょちょいのちょーいってコテージが完成。


 今いる住宅店舗より遥かに凄い立派な建物で獣や魔物防止の結界付き。

 神様仕様なのでちょっとやそっとじゃ壊れません。

 快適な生活と安眠をお約束します。的な?


 だだっ広いお洒落を通り越して豪華な二階建てで装飾品も無駄に凝って、なんというかもう貴族屋敷っぽい感じになってるよね。


 いやー。

 神様って便利だよね~~。


 ていうか、これの何処がコテージ!?

 つっこんだら負けです。


「カノア、着きましたよ」

「おお~。大儀であった! ん~~っ! 身体がのび~~るっ! 癒される~~っ! これぞ自然の力なり~!」

「はい、馬鹿な事言っていないで荷を降ろしますよ」

「エル君、ちょっとノリが悪い」

「これはいつもの所に運んでおくのでしょう?」

「ウィン君、スルースキル高すぎ」


 力仕事とか全部任せて馬を厩舎に連れて行く。

 力仕事って言っても魔法で移動させてるだけなんだけど。


「ねぇねぇ、ウーさんや、マーさんや、あの二人冷たいよね」


 移動を頑張ってくれた二頭の馬にしっかりと水と飼葉を与え、ブラッシングしながらグチグチ。


──ブルルルルゥン。

──ヒヒィィン。


「全く……。カノ、いつまでもしょげていないで、少し休憩にしましょう」

「は~い」


 庭でテーブルを囲い、やっと落ち着いてティータイム。

 街の喧騒から逃れてもうずっとここで生活したいとすら思う。

 挙句にこの辺りだけ季節ガン無視で、いつでも欲しい物が新鮮なまま手に入るありがたーい場所なのですよ。


 急にこんな空間が出来ておかしいとは思われないのかと聞けば、上から見ると木々がひしめき合っている様にしか見えない魔法をかけているから問題ないって。

 その辺の魔法達者な人には、神魔法を見破る事はまず出来ないらしい。


「カノア、あれを全部作るのです?」

「うん~。出来るだけそうする予定。あと回復薬とか傷薬とかも大目に在庫作っときたくて」

「あぁ。そう言えば、もうすぐ本格的に温かくなる時期でしたねぇ。冒険者達も増えるのでしたね」

「そうそう。ちょっと森を虐めちゃうけど……」


 毎年の事だけど、温かくなると冬ごもりしてた冒険者達も一斉に活動を始める。


 冬眠動物かよっ! と言いたいけど、特に大仰な依頼がない限り、街で普通に働ける人は寒い時期にわざわざ冒険する事もなく、普通に働いて生活してたりする。

 なので、冬の間は行商人か冒険するのが趣味な人の買い足しか、後は街の人達が利用するくらいで忙しい事はないんだけど、温かくなると冒険者達が準備を始めるのでちょっとばかし忙しくなる。

 こうなると、あたしみたいに遠くが採取場となってる人達は、なかなか店を離れられない事になるので、今のうちに作り置きしておくんだよね。


「となると、広範囲の採取になりますね」

「うん」

「遠くへ行く時は声を掛けて下さいね」

「わかった~。今日は材料集めと加工準備で終わりそうだねぇ」


 というわけで、手分けして材料採取に向かいます。

 まずは、近場の魔草摘みに。

 変に魔力を流してしまうと逆に使い物にならなくなるものもあるから、普通に力仕事です。

 土は、コテージを近場に作ってくれたおかげで、いつでも採取できるから後回し。

 水だけは最初に汲み溜めて置いて、蒸留機にかけておきます。


 まずは、ランテロ。

 早めに採取して、乾燥させておかないと。

 魔法板にも薬にも必要だから大量に必要。

 かといって同じ場所から大量に採取すると、そこから取れなくなったりする可能性もあるので、また次に採れる様に場所を変え、間引きする感覚でひたすらに採取。


「くっ……おっもーーーーーーーーっ!」


 荷車とは楽に荷を運べる便利道具ではなかったか。


「流石に積み込み過ぎたか……」


 変に魔力を与えると、使い物にならなくなったりするものもあるので本当に力仕事。

 遠くにそれを見たエルもウィンも苦笑しながらこちらを見ています。


「カノ? 加減という言葉を覚えましょうか?」

「だーってーーー。一度に終わらせた方が何回も往復せずに済むかと思って?」

「横着はいけません」

「ぶぅぅぅぅ」

「はい、諦めましょう」

「ウィンさんウィンさん。最近エルが厳しいんですよ。分からずやなんですよ。ケチなんですよ。どうしたらいいですか?」

「どうしたらよろしいのでしょうね(苦笑)」


 遠慮なく荷を減らして、「さぁどうぞ」と荷車へと誘ってくれました。


「行ってきまーす……」

「はい、行ってらっしゃい」


 往復した後、花・茎・根を分ける作業。

 花の部分はちょっとの刺激ですぐ取れてしまうので、束に持ってシャララーンと揺らして花だけをひたすら落としていく簡単なお仕事。

 根は束に持ったまま土を洗い流し、引っこ抜く。

 これも力を入れて引っ張っただけで綺麗に茎から取れてくれるので比較的楽なのだけど、量が量なだけに結構疲れる。

 とりあえず、花を入れた通気性の良い籠に蓋をして、外から風を送り込む様に魔法を掛け、更に周りの温度も上げて置く。

 魔力貯蓄型の魔法を転写したので、これで自動温風機の出来上がり。

 茎と根っこは別々に磨り潰し、液状になったら軽く煮立てて水気を飛ばし粘り気をだす。

 磨り潰すのも煮立てるのも全部魔法で、いい所で勝手に止まってくれるので楽ちん。

 要は、材料に直接余計な術式の魔力が流れなければいいだけなのです。


 それでもまだまだ足りないんだよね。

 もう一往復分は必要。

 なのでもう一度採取して同じ工程をこなすのです。


 次は、魔法板用の十種類の魔草と蔓液。

 次々にエルとウィンが運んでくれるので、あたしはひたすら作業、作業、作業。

 どんっでんっだんっと詰まれていく籠、籠、籠。


 ランテロ以外の魔草はほんとに見た目は草だけど、使う魔法によって組み合わせや分量が違ったりするので、いずれも別個に加工。


「素晴らしい魔法板のために、いい素材になっとくれ~」


 といっても道具に魔法を施して、ひたすら磨り潰す。

 程度を見ながら魔水を少しずつ加えていくだけの手作業。

 魔水というのは、出来るだけ雑さのない魔力を流し込んだもので、不純物の少ない魔力の帯びた清水を使う程いい。

 あたしは、更にその水を蒸留して本当に魔力だけが帯びた蒸留水を使用して更にあたしの魔力を流して純度の高い魔水にする。

 清水のままでも魔法板に使えるのだけど、魔力というのはその人の個性があって、使用する本人の魔力を加工の工程で最初から馴染ませておくと一層質の良い物になるため、手間がかかっても外せない作業。


 そうやって出来た先から専用の容器に入れて一晩寝かせると、素晴らしい魔法板の素となるのですっ。


 次にランテロの茎と根。

 根も他の魔草と普通に磨り潰します。

 茎は纏めて叩いて繊維を解します。

 そして、この茎の繊維は結構しっかりしているので、叩いて柔らかく解し、更に繊維が全部潰れてしまわない様に注意しながら磨り潰します。

 他の魔草と同様に容器に移して一晩放置です。

 以上です。


 次に回復薬の素を作りたいと思います。


 まず、ランテロの花をどばーーーーーーっと鍋に入れます。

 その中に魔水をだばーーーーーーっと入れます。

 それをひたすらひたすら煮立たせて濃縮します。

 それはもう、花が原形を留める事無く崩れはて魔水と同化するくらいに!

 普通に磨り潰すんじゃだめで、乾燥と加熱という工程が必須。

 乾燥からの加熱により花の成分が反応を起こして、薬の素として魔水に染み出て来るのです。


「元気の素にな~ぁれっ」


 グルグルグルグルかき混ぜます。


 香りは凄ーくいいんだけど。

 ぶっちゃけ、あたしがやっている事は、現時点では毒を作ってるんだよね。


 このランテロ、分量と工程さえ守ればそれはそれは素敵な薬になるんだけど、もともと毒成分が含まれていて、煮詰めれば煮詰める程薬の成分と共に毒性が増して、服用すると良くて廃人最悪死人なんてとんでもない事に。

 なので、ランテロが群生している地域はそれぞれ国の管理下にあって、使用するには厳重な審査の上に認可が必要になって来る。

 しかも、用途に合わせて加工処理された状態の物が国から降りてくる感じで。


 だけど、この森は神様の管理下にあるんだよね。

 ウィンの許可貰ってるし……。

 国より神様の方が偉いもんねっ!

 何しろ最高神だってここにいるっ!

 国家権力がなんぼのもんだっ!


 実際それを使ったらアウトなんだけど、現段階ではギリギリセーフ……という事で。

 ある意味、作業場が森の中で良かったと思う。


 まぁ、そんなわけであたしは毒を作っています。


 さて、いい具合にドロドロエキスが出来上がって参りました。

 が、まだまだ。

 鍋がいくつもあるので結構大変で、泣きそう。

 この工程でちょっとでも魔法を使うと魔力を吸収しちゃって、このランテロは無駄になってしまうので使えないのがとっても辛い。

 あ。

 ここで使う魔水はあたしの魔力の入ってない普通の自然100%の蒸留魔水で、しかも同じ土地の物同士なので特に影響はございません。


 でも、そろそろ、腕が、やばいかもおおおお……。


「カノ、材料は恐らくこれで足りると思いますが、どんな具合……で……」

「エルうううううう!! 待ってた……ちょーーー待ってた!!」

「これはまた……」


 そう、思わずエルが身構える程の熱気と雑多ぶり。


「他の薬の材料乾燥させてあるから粉末にして貰えると~。ああああっ! 土を篩にかけるのも忘れてるかも……。うあああああああ……水……水も残り少ないんだったああああっ! うわああああんっ」

「そうですね……。今はこれを片付けましょうか……。大事になっているようですし……」

「うえぇぇぇん……。辛いよおおおお……」

「手伝いますから、頑張りましょう」

「びえぇぇぇん……」


 半泣きのあたしの鼻をハンカチでチーンと拭う。


「子どもじゃないんですから……。いつまで経っても貰い手は現れませんよ……?」


 いいもんっ!

 独身の超魔法使いになってやるんだからっ!


「いいんですか? 超魔法使いになると、のんびり生活出来ませんよ? 恐らく今のこの状況より大変な事になるでしょうねぇ……。ご愁傷様です……」

「エルなんか嫌いだあああっ」

「はい。泣いていないで、手を動かしましょうね」

「ずび……」


 そして黙々と攪拌を続ける事十五分。

 ねっとりとした液体が出来上がりました。


「そもそも、一度に作ろうなんて事が間違いです」

「あ゛い」

「時間はあるんですから、慌てなくてもいいでしょうに……」

「どぅわぁって~~~……」

「だってもなにもありませんっ。危険物なんですからもっと慎重にやらなくては。何かあってからでは遅いんですよ? 分かっていますか?」

「あ゛い゛……ずびぃ……」

「危なっかしいんですから。本当に……気を付けて下さい……」


 と、本当に心配げな顔をしながらポンポンと頭を撫でるエルを上目で見ながら、ちょっとだけ反省を。


「はい、分かったら、ついでに毒消しの準備をしましょう」

「うぁ~~い」


 気を取り直して、ランテンが蒸発して効力が損なわれてしまわない様に専用容器に密封し、残りの工程を。

 このままでは、百害あって一利なしなので毒を消してしまう作業です。


 実はこれ、結構な発見かも知れない。

 

 この毒を上手く中和出来れば効果の高い薬になるのにな~と思い続けていた所、ふと目に入ったアポルトの赤い実。

 アポルトの実は、万能な毒消しとして重宝される。

 消毒薬としても気付け薬としても有効だし、麻痺や体力減少毒とか、ガス毒も中和してくれちゃったりなんかして。


 って事はだよ?

 アポルト汁を濃縮させちゃったら、濃縮した後のランテンの毒素消えちゃわないかな……。

 と思ったわけですよ。


 結果。

 成功しちゃったよね。

 高濃度薬の素(毒素抜き)。

 この発想が今までなかった事が不思議で仕方ありません。


 かなーり研究しましたとも。

 出来損ないの失敗作は使えないので、美味しそうなお肉に混ぜて上手に誤魔化して、その辺の狂暴な魔物さん達にぽーいっとお裾分け。

 ランテンの毒性はアポルトのお陰でそこそこ薄まってたので、ご臨終するまですこーし時間が掛かりました。

 ご遺体は、纏めて火葬しておきました。

 毒肉は食べたら危険だしねっ。

 結構間引き出来たし、いい仕事したと思いますっ!

 

 ランテンとアポルトの割合が重要になってくるわけだけど、これも極秘っ。


 この高濃度のアポルト汁。

 ただでさえアポルトの実は、酸味が強くて口にするには厳しい物なのに、濃度を上げた事により更にえぐい事になりました。

 通常、塗り薬としては液をそのまま直接患部に塗布出来るのだけど、服用として使うには一昼夜砂糖漬けにし酸味を中和させ、その後更にじっくりと干し酸味を飛ばしたものを粉末にする。

 そこまでしないと飲めないんだよね。

 

 出来たはいいけど、この酸味をどうするか。


 薄めたんじゃ意味がない。

 砂糖漬けにするんなら、甘味料入れちゃえばいいんじゃない?

 どうせ飲料になったり、錠剤になったりするんだもん。

 というわけでヴェクレーシュ・シリーズと言われる砂糖なんかめじゃない歯が浮きそうになる程の甘味料(粉末)を容赦なくどばーーーーっ。

 

 見事に中和されたのだけど、「薬なのにカロリーを上げてどうするんですか!」とエルからゲンコツを貰ったので没になりました。


 失敗作は、ものすごーく薄めてキャンディーにして疲労回復キャンディーとして売りました。

 食べやすい。美味しい。疲れが吹っ飛ぶ。携帯に便利。なぜか毒にも強いかも。とか非常に好評だったので、未だに作り続けています。

 そりゃ、アポルト使ってるしね。

 それなりに毒耐性はあるでしょう。

 成分好評してないだけで……。


 むしろもうこれでいいんじゃないだろうか。


 と思ったけど、食べ続けた結果肥満気味になる人が増えた様で、『ヴェクレーシュ・シリーズを使用しているため食べ過ぎの肥満にご注意下さいね♡』と、注意書きを添える事になった嗜好品の類になりました。


 結局、酸味のえぐさを取り除くためにやり直し。


「干せば酸味がある程度飛ぶんですから、ランテンと混ぜる前に少し寝かせてみては?」


 そんな一言で、少しずつ魔水を足しつつ攪拌しつつのお日様に当てつつの一日寝かせてみました。


 おおおおお……。

 酸味が軽減しました。

 果実の味と効果が残った、程よい酸味の美味しい果汁となりました。


 そんなわけで、毒抜きランテンのアポルト入りと、それぞれの効能に応じた薬草と、飲み易い様に味付けした特性魔水と混ぜ合わせ、飲料・錠剤・塗布剤の三種類を作りました。

 取り扱うのは、体力回復薬・魔力回復薬・中和剤・軽度の病気の諸症状に効く薬・傷薬・後は化粧水とかヘアオイルとかリラックス効果の香水等の美容グッズを気休め程度に少しばかり。

 

 あまり手広くやってもキリがないので、この程度に留めています。


「終わったああああっ。後はこれを明日日中丸々寝かせて~……」

「丁度落ち着いたみたいですねぇ。……何と言いますか……壮絶な戦いの痕跡が見えますね……」

「あ、ウィン~~。大変だったんだよおおおお」

「それは、カノが自滅しただけですよね?」

「ぐぬぬ……」

「くすくす。こちらも一段落つきましたから。もう遅いですし、晩御飯の支度を致しましょう」


 作業小屋の外には、明日の作業がし易い様にピカーンっと綺麗に並べられた、処理済みの材料と道具。

 気になっていた魔水と篩にかけられた土も。


「うおおお、これは眩しいっ!」

「魔水は蒸留しただけですから」

「うんうんうんうん! 後で魔力は流しとくです! ウィン様、いいえ、ウィンベル様。ありがとーございましたあああっ!」

「はい、どういたしまして(にっこり)」


 作った本人は「あくまでもコテージです」と言い張るこの貴族風な館に入り、一緒にご飯の支度。

 といっても、既に加工された物がほとんどなので基本温めるだけで、作ったのはスープくらい。


「五臓六腑に染みわたるぅ」

「「……はぁ……」」


 深ーいため息とともに、「本当に一生貰い手が現れませんね」という呟きが聞こえたのは、気にしない事にしておきます。

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