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2・魔法でお仕事やってます。

「ねーむーいーよおおおお」


 寝不足。

 夜寝るのが遅いと、早く寝た時と同じ時間を寝たとしても、だるさと眠気が取れないのはあたしだけではないはず。


「早く寝ないからですよ」

「だって~……」


 あたしは、カノア・ロスパーニ。

 行き遅れ間近の二十二歳。

 五年前から、ここ王都に引っ越してきて生活してます。

 神様拾って同居する羽目になった、どこにでもいる平凡な町娘です。

 神様拾った時点で、平凡ではないかもしれない。

 あぁでも、傍目には普通の人だから……うん、やっぱり平凡な町娘でいいや~。

 普通がいい。

 いやむしろ、普通でいい。


 あたしはここに来てから半年は、営業権利を得るためと、魔法関連に関しては専門学校を出ていなければその幾ら権利を持っていても営業する資格すらないという事で、家族の残した財産を使って二つの専門校を同時にこなしてました。

 いやー、しんどかったなぁ。


 魔法専門学校は通常三年間かけて知識を学ぶ。

 最低半年は在籍が必要で、その後は知識さえあれば必要な試験を手あたり次第受けて合格すれば卒業できる飛び級システムがあって、速攻で飛びついた。

 しかも何度でもチャレンジ出来るという。


 小さい頃から、親なり師なりで学んで充分な知識がある子達はそのシステムを活用してたし、珍しい事ではないので気楽だったし、おまけに合計学費の半分で済み、経済的負担が減るってのは食いぶちのないあたしはかなり助かった。


 ちなみにこの魔法専門学校は、多少の薬の知識も学ぶ事が出来るので、範疇を出ない程度なら薬剤も取り扱う事が可能。

 でもやっぱりそれだと物足りないので、薬剤校も同時に「飛び級」で卒業する事に。

 魔法は日中、薬剤は夜間と分けて受講していたから、それが結構きつかったなぁ。

 どちらも一日六時間・食事休憩一時間で、計七時間。

 これ以上だったらほんとにやばかったよ。

 お金に関しては、残してくれた財産があったので助かったけど。

 お母さん、お父さん、おばあちゃんには、感謝しなくては!


 あたしが元々住んでいた町で、代々同じ場所でずっとお店をやってた。

 店主の先々代がおばあちゃんで、跡を継いだのはお父さん。

 お母さんは、魔法には長けていたけど、細かい作業が苦手で家業に向かなかった代わりに、あちこちで依頼を受けて仕事をしてた。

 街の外は道をそれれば獣が闊歩していて危険なので、獣の間引きを主に、時には遺跡に潜って新人冒険者の護衛とか。


 で、娘のあたしは住んでいた町から然程離れていない先にある王都で、名前はそのままに店を新たに構えてる。


 店の名前は『イール』。

 神聖な庭って意味。

 魔法を使える人にとって、魔法は神聖なものだから。

 魔法を大事にする人のたまり場になればいいなー、って感じなのかな? 多分。


「またこんなに散らかしてして……。寝る前にまた落書きしてましたね?」

「落書きいうなああ……」

「はいはい。食事出来てますよ。早く着替えて来て下さい(くすくす)」


 もっと簡略的に使い易く出来たら流通間違いなしの魔法陣の出来損ないの数々を拾い上げ、お日様の差し込む窓のカーテンをシャッと開け放ち、部屋を出ていった。


(鍵とは一体何だったのか……)


 最早プライバシーすらないんじゃないだろうか。

 しょっちゅう鍵を攻略して、平然と乙女の部屋に入って来る。


 乙女は言い過ぎました。

 ゴメンナサイ。


 凝った細工をし魔法を駆使して作り上げた渾身の作ですら意味がないときたらもう、諦めるしかないよね。

 で、いっそのこと取っ払ってやったら、「女の子が鍵もかけずに不用心ですよ?」とか何とか言っちゃって。

 お前が言うかっ!


 ボリボリと頭を掻きながら、あっという間に綺麗になった床に立つ。


 正直、みんなの生活がより楽により便利になれば良いなと思って、色々工夫してるんだけど。

 だけど、いつの間にか人が人に使う道具に改良されて。

 そういうのが嫌で、改良し辛い独自魔法陣を開発したり誓約交わしたり色々と工夫してるんだよ。


 なのに、その苦労を……落書きと言いやがりました。


(その内ぎゃふんと言わせてやるんだから……)


 もんもんとしながら服を着替えて顔を洗い、食卓に着く。


 出来立ての立ち込める湯気と共に広がる美味しそうな匂い。


 神様クッキング。


 正直あたしが作るより美味しいのはなんで。

 てか天はニ物を与えずではなかったでは!?


 あ、この人端から神様でしたね。

 そうでした。

 ニ物も三物もありますね、はい。


 そんな神様からしたら、「落書き」にしか見えないんでしょうねっ。

 フンッ。


「いっただきまーす!」

「はい、どうぞ」

「起きたら美味しいご飯のある幸せ~」


 食べ物には罪はないっ。

 美味しいものは美味しい。

 もぐもぐ食べるあたしを、にこにこと満足そうに見つめてきます。

 非常に食べにくいから、やめてっ。


「あ。そ~だ。今日お休みにしたし明日もお休みだし、そろそろ怪しい魔法板作り直そうかなぁ」

「そう言えば、罅の入っている物もありましたねぇ」

「えっ、皹入ってるやつもあった?」

「えぇ。滅多に使わないですが、保管庫用と大型照明用。あぁ、それから確か重量変換用の魔法板が残り少なかったと思いますよ」

「うへ……」

「仕方ありませんね。カノの作るものは質はいいですが板の劣化が他と比べて早いですからね」

「一応明日もお休みにしておこうかなぁ~」

「その方がよさそうです。時期も時期ですしついでに在庫も増やしておきましょう」

「そうする~」

「では、先に準備進めておきますから」

「は~い」


 魔法板というのは便利な物で、板に魔法陣とか魔法句が模られ、魔力を流してそれを道具や魔法紙に転写する。

 すると、その道具は効力を発揮しそれに見合った働きをする様になる。

 大掛かりになればなる程耐久度は低くなり、数回使っただけで壊れたりるんだけど、基になるものさえ作って置けば楽になる。

 とは言っても、魔力を込めながら直接発動させた方が効果は比較にならないのだけど、何しろ疲れる。

 魔力が充分にあって、詠唱も苦でなく、魔法陣もしっかりとイメージ出来る人なら必要ないけど、オリジナルが多くなるとそれはそれで大変。

 そこで開発されたのが魔法板。

 大抵が魔法陣とイメージしやすい詠唱句がセットになって模られている。

 魔力を流すだけで済んで、あれこれといちいちイメージや詠唱に集中しなくてもよくなるから非常に便利。


 そして魔法板さえあれば、魔力の少ない人でも難なく使える。

 詠唱や魔法陣を展開する作業だけでそれなりに魔力を必要とするから。

 ただ、魔力量によってその効果に差が出るけども。


 一般的な物は、あくまでも魔力ありきの物。

 効力はそんなに高くないけど魔法板の保ちはいい。


 でも、あたしが作るのは。


 魔力が無くても使える様に工夫した。

 ただ、効力は高いけど魔法板の劣化が激しい。

 魔力が無きゃ意味がない物もあるけど、それでも生活していく分には楽になったかと思う。


 例えば、照明。


 従来の物は魔力がある人が、魔法陣に魔力を流して発動させ明かりを点ける。

 つまり、家人に魔力のある人がいなければ意味をなさないんだよね。

 更に以前だと、照明もさっきも言った継続的に使う部類に入るので、下手をすると魔力回復薬を口にしながら、或いは交代しながら丸一日ひたすら維持していたとか。


 比べてあたしが提供する物は。

 元になる魔法陣と対になる魔法陣を作り二つを関連付けた上で、対となる魔法陣はあたしの魔力を留めておく容器に施しておく。

 元になる魔法陣は本体に。

 対になる魔法陣は人の手の届く所に。

 それに触れると魔法陣が起動し、溜めておいた魔力が元となる魔法陣に流れ明かりがつく。


 こんな感じで、魔法陣に工夫を凝らして、魔力が無くても触れるだけで起動出来るようにした。


 大体、これくらいは保つだろうという道具に見合った魔力を貯め込んでおく。

 保つというのは、時が経てば字が擦り減っていく様に、手が直接触れる魔法陣も擦り減っていく。

 そして使えなくなった時が故障という感じ。

 それを使う頻度や人数に合わせて調整をする。

 だって、無駄に魔力を流すの疲れるんだもん。


 ちなみに、この仕掛けはあたしが開発した。

 むしろ、今までそんな発想がなかったのが不思議なくらい。


 大抵の魔法板は、且つ誓約であたしでしか使えない様にしているんだけど、その代わり模倣品が増えた。

 しかも、粗末な上に燃費が悪い。

 複雑怪奇な仕組みとなっているので真似ようにも出来ないだろうし、あれこれ解析した結果近いものは出来たけど……みたいな。

 下手したら半月程で道具が使えなくなったりね。

 その場凌ぎで使うには充分なんだろうけど、しょっちゅう買い替えるとなると費用が掛かる。

 そんなわけで、少し高いけど結局依頼をしに来るのだから、客が途切れる事はない。

 

 魔法板制作に必要な物は、基となる魔法陣や詠唱句が浮き彫りにされた板に、出来るだけ不純物のない魔水と魔土、数種類の魔草、粘り気と凝固性質のある蔓の魔液。


 効果の違いは、この魔法板に使う素材も影響してる。

 魔法板の質で効果の大小が決まると言ってもいいかも。


 水も土も液もそうだけど、一番差が出るのが魔草。

 この魔草、種類も割合も秘伝みたいなものだけど、あたしも例外じゃなく半分くらいは何処も被っていたりする。

 あたしが使っている魔草の種類も代々引き継いでいる物に加え、新たに種類を加えてみた。


 薬草としてしか使われてない物で、薬と称する物の中に大抵入ってたりする。

 ランテロという白い小さな鈴の様な花をつける多年草。

 薬となるのは花の部分で、これを乾燥させ煎じたものをものを使う。

 という風に言えば簡単に思えるけど、量を間違えると毒になる。

 一般的に売られているのは濃度の薄いランテロ水と用途に合わせた薬草を加工したもので、1日に何回かに分けて規定量を服用するタイプ。


 このランテロは、薬としての使用が確立されてしまったために、それ以外の用途で活用されるのを見た事がない。


 もともと魔力の通りがいいとは思っていて、試しに花の部分だけじゃなく茎も根っこも全部混ぜ込んで作ったら、質も上がった上に通常の半分の速さで転写出来る様になってしまいました。


 魔法板の質が良いと魔力の通りが良くなり、転写した時に込められる魔力の濃度が上がる。

 転写された時の魔法陣が濃い=魔力の濃度が高い。

 逆に薄いと魔力濃度が低い。

 通す魔力濃度が高いと、負荷も相応な物になり皹が入ったり劣化が早まる。

 だからあたしが作る魔法板は、使用頻度にもよるけど二~三か月程で作り替えないといけない。

 これでも、随分と改良して保つようになったんだけど。

 質が悪いと通りも悪くなって、効果は薄いわ燃費は悪いわで最悪な魔法具が出来上がるが、莫大な魔力を通すわけではないので、板そのものの燃費はいい。


 配合は秘密ですよ?


 あ。

 ちなみに根っこは毒性が強い上に加工そのものに向かないので、根っこの重要性に気付いて目を付ける人はいないと思う。

 

「お待たせ~~」

「彫り板以外の積み荷は全部乗せましたから」

「うおお……。やっぱ男手があるってのはいいよねええ! じゃあ、ちょっと作り直すもの確認してくる!」

「その間に、食料でも調達しておきましょう」

「うん、お願い~!」


 劣化が進んでるものを中心に、作り置きしといた方がよさそうな物も含めた型を取り出し荷馬車に積み上げること四十分。


「よいしょっと。う~ん。結構な量になってしまった。仕方ないか……。君達頼りにしてるからね! 頑張って!」


──ヒヒィーーン。

──ブルルルッ。


「うん、いいお返事っ」


 任せろっとでも言いたげな嘶きをする二頭の馬。

 どんだけ乗せられてもいつもみたいに平気でしょっ? と余裕綽々な風でもある。


 まぁ流石にこれだけ乗せちゃったら、いくら足が太くて力強い馬でもたったニ頭で数時間も無理。

 というわけで、荷台と積み荷を纏めてえ~いっ。

 幌に展開した魔法陣を張り付けて、荷台と積み荷を軽量化。

 まだ肌寒いので馬車全体を覆う様に温度調整の領域魔法陣もえ~いっ。

 仕上げに振動を減らす魔法陣を車輪にえ~いっ。

 

 どれも敢えて魔力常時展開型を選びました。


 転写すれば常時発動させなくてもいいんじゃない?

 いえいえ、あたしの魔力の集中と持続を兼ねた練習の機会でもあるのですよ。


 容量に限界があるにせよ、魔力が少なくても鍛錬次第で容量が増える事もありし、何をどれくらいすれば維持時間増えるか分かったりとか。

 体術や剣術と一緒で、ちょいちょい使ってないと魔力が乱れて不安定なものになったりするし。

 驕って怠ったら使い物にならなくなるっていうアレだよね。


「戻りました。……またあなたは……」


 展開された魔法を見て、呆れたように頬を引くつかせてらっしゃる。


「えっ。何かダメだった?」

「二つならまだしも三つ展開でしかも常時型ですか……。常時型は一つだけにしておきなさい……」

「えぇぇぇぇっ……」

「いいですか? いつも言っていますが、のんびりと生活したいのなら少しは控えましょうね」


 三つ四つと複数同時展開出来ると分かると、最悪良く分からない組織とか出張って来て脅されたり争奪戦が始まったり暗殺されたりとか……、本人の意思とは関係なくいざこざに巻き込まれるらしいけど……。


 そもそもこんだけ魔法使えるなら暗殺とかあり得なくない? って言ったら、あなたみたいな人がドジ踏むんですよ。って冷たく言い返されたっけ……。


「くすくす。私もお手伝いしましょう。たまには私も一緒に修行しましょうか」


 仕方なく魔法板を取りに行こうとしたあたしの後ろから聞きなれた声。

 一週間の内に二度三度と現れる大陸神ことウィンベル・シェロ・アリハイド。


 修行ってあなた。

 する必要なくない!?


「ってか、いつも思うけど、暇なの!?」


 ホント暇なのかと疑ってしまうレベルだよねっ。


「冬の奉納祭も終わりましたしねぇ。今の時期は少し暇なのですよ。ですので私もご一緒致しましょう」


 何が「ですので」なのかさっぱり何ですけど……。


 神様的魔法でひょんっと送ってくれてもいいんだよ?

 あたしも出来ない事はないんだけど、今から行く所は魔法陣を設置しても歪んだ空間のお陰で変な所に出ちゃったりして大変な目にあったから二度と使わない事にしてるんだよねー。

 酷い時には獣や魔獣の群れの中に飛んだ事も……。


「いえいえ、たまにはのんびり景色を眺めながら行くのも乙というものです(にっこり)」


 ちっ。楽できると思ったのに!


「鍛錬も兼ねてるんですから、ずるはだめですよ? さっき怠けたらダメになると聞いたような気がしますが」


 まさか、離れたとこから心の内を読んだとでもいうのかっ!

 ちくしょおおお。


 そんなあたしの思いも虚しく。

 神様二人が御者となり、あたしは荷台で快適移動というおかしな構図で、採取場へと向かう事になりました。

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