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1・なんでも拾えばいいというものではありません。

(今度こそ!!)


 今。

 あたしは、自分の家から抜け出そうとしていた。

 こっそりこっそり、足を忍ばせ物音を立てず。


 そう、慎重に……慎重に……。


──キィッ。


 裏戸を開ける音が、しんとした闇夜の空間に響き渡ったのにビクッとしつつ。


(大丈夫、大丈夫。落ち着け、あたし。今度こそ!)


 前後左右左・斜め右前後斜め左前後……要するに三六〇度ぐるりと見渡し素早く家を抜け出す事に成功!


 ……したつもりだった。


「カノア、こんな暗い内から何処へ行くのですか?」


 ヒィッ!


「あーうーえー……っと……ちょっとおさん……ぽ……に……? えへっ?」

「こんな時間に散歩なんて、誘拐なんてされたらどうするのです? そんな事になったら、きっと、ええ、間違いなく……気が狂ってこの街ごと破壊してしまいそうです(にっこり)」


 あ、ハイ。

 戻ります。

 街壊すのやめて?


 というか、こっそり抜け出したのに、なぜっ!

 キミ、部屋でぐっすり寝てたの知ってるよ?


 時には窓から。

 時には煙突から。

 時には地面から。

 時には……。


 あの手この手を尽くしているというのに!


 所詮、人間の浅知恵なのか。


 という訳で、彼が家に居座ってから何度目かになる家から一歩だけの脱走劇が幕を閉じたのでした。


 あ。

 申し遅れました。


 あたし、カノア・ロスパーニと申します。


 お世辞にも美人とは言えません。

 容姿も普通、痩せもせず太りもせず平凡な体系をした、どこをどう切り取ってもその辺にいる様な普通の町娘の一人です。

 ちなみに二十ニ歳になったばかりです。

 この大陸じゃ二十五くらいには行き遅れとか言われるんですよ。


 周りは、二十歳前までに結婚をすませてるんですよ。

 大抵十六歳っていう成人とともに、その前から自分とか親とかで決めた相手と結婚するのですよ。

 幾ら平凡だからって、ここまで相手が現れないのは酷いですよね。

 まぁ、束縛されるのは面倒なんでいいんだけど……。


 気にしてませんし。

 置いてけぼりなんて。

 全く。

 これっぽっちも。


 周りのお友達は、みんな結婚しちゃってるけどもね!?

 なんで男は行き遅れとか言われないのか!

 不公平にも程がある!


 でも、正直な所。

 結婚とかっていう束縛で面倒なのは、あたしには無理。

 好きな事出来ないじゃないですかっ!?


 はぁ。

 ただでさえ、面倒見の良すぎる居候から逃げ出したいと思っているくらいなのに……。


 彼が居座ってから、店も変な意味で騒がしくなりました。

 そりゃあもう、五年前の厄災で王都に行ったっきりお父さんとおばあちゃんが行方不明になってしまったけど、しょんぼりする間もない程騒がしいです。


 せっかく一人になったんだし、心機一転と思って引っ越したのです。

 どうせ住むなら王都がいいよね! そんな短絡的思考で王都の外れにやってきました。

 ちょっとでも手がかりが見つかればな~と思って。


 あぁでも、なんていうか。

 生きてるような気がするんだよね~。

 女の勘っていうの?

 女の勘、侮っちゃいけないのは世の常だからね?

 お母さんは、あたしが十二の時、これまた行方不明に。

 でもこれもやっぱり、生きてるような気がするんだよね~。

 女の勘っていうの?

 舐めちゃいけませんよ?

 リピートしたけど、結構重要な事かも知れない。


 ……うちの家族、行方不明体質何なんだろうかと思っちゃう。

 とはいっても、やっぱり寂しいものは寂しいですよ。


 やっとお店を構えてこれで少しは落ち着くかな~と思っていたのに。


 あたしが一体何をしたと?


 拾うんじゃなかった。

 失敗したよおおおおおお!


「ささ。まだ外は冷え込むんですから、戻りますよー(にーっこり)」

「むぅぅぅぅ」

「明日もお店開けるのでしょう? 早く寝ないといけませんよ」

「臨時休業にするからいいもーん」

「困った方ですねぇ」


 そんな彼の事細やかなお世話が時折窮屈感を覚えさせるせいで、息抜きしたくて家を脱走してみようと試みているわけですよ。

 脱走といっても、夜にしか咲かない薬草花を取りつつ、息抜きがてら夜のお散歩する程度なんだけど。


 夜は危ない。

 夜更かしは駄目。

 決まった日に付添い(彼)がいる時だけ。


 と制限が付き、あたしの好きな夜更かしが出来なくなってしまった。

 故の夜中の脱走。


 で、無駄あがきをするあたしの背中をぐいぐい押して、家に押し込めようとするこの彼。


 エルロード・ディ・メレオール。


 普段、「エル・ディオーレ」と名乗っておりますけどね、……実は何を隠そう……。
















 ……最高神様です。


 この世には五つの大陸があって六人の神様がいて、元々一大陸につき一人の神様と彼等を統べる神様、つまり最高神様の六人が世を統治していたのですよ。


 それはもう人と密接に関わって、各大陸に存在する聖地と神様達のお空の国をそれはもうしょっちゅう行き来して、遊……もとい、お仕事されているわけなのです。


 現在、各大陸各地に様々な神様が存在して大所帯に。


 最高峰ともいえる六人の神様を含めた大所帯な彼等は、まだ大陸に国という概念もなく大陸民と呼ばれていた頃、祈りと力に見合った神となり、なんちゃら教のなんちゃら神みたく現在に至ると。


 神様世界ってのは、消滅してしまったり、「俺神様辞める!」と辞神宣言していなくなったりすると、信仰の厚さ・神様組の信頼の厚さで繰り上がるシステム。

 ちなみに最高神は、子孫後継システムらしい。

 

 人間世界と同じだねー。


 辞神宣言てなんだよ! って思わず突っ込みたくなったけど!

 ちなみに、うちにいる最高神様は七代目だそうで。


 最高神

 五大陸神

 信仰神(上位神)

 信仰神(中)

 信仰神(下)


 といった序列な様です。


 ……いやいや。

 こんな説明を長々としても仕方ない。


 そんな最高神様がなぜうちにいるかって。


 拾ったんだよね~。

 まさに野良仔犬を見つけたみたいに。


 いや、知らなかったんだよ。

 だって、神様のご尊顔を知ってるのって、王家と・役人幹部と大祭司様と副祭司様に祭司長様……要するに、国のえらーい方くらいなんだもん。


 で、見つけたのは四年と半年前に軒下で。

 ボロボロの服に困ったような顔で、真夜中にしんしんと降りつもる雪凌いでちゃ、そりゃ気になるでしょうよ。


 不審者かと思って、路地の角からじっと見物してしまったのは当然だと思う……。

 待ってても拉致あかないし、寒いだけだし、家入って温まりたいし?


 で、思わず家に上げて治療して、賊に襲われて文無しで行く当てがないなんて……。


 やーっとお店を再開して、慣れない店の切り盛りで人手が欲しいなーって所だったから、屋根付き部屋付き三食昼寝付き給金付きで当てが出来るまで雇ってあげましょうというわけで、うちに居候するようになって八日目の事。


 店を開ける前に訪ねて来た人が放った一言で、思わず商品落として壊しちゃったんだよ。


「こちらにおいででしたか。 エルロード・ディ・メレオール様」


──ボトッ。

──ガチャンッ。

──パリーンッ。


 ええ。

 抱える様に持っていた商品全部、パッリーンですよ。


 今、なんて仰いました?


 エルロード?

 メレオール?


 顔知らなくっても、アレですよ?

 トップな神様の名前くらい知ってますよ?


 最高神様の名前ですよね~。


「はいいいいい!?」


 ていうか、この方どなた様で……。


「おや。見つかってしまいましたか。力は使わないようにしていたんですけど。ウィンベル、良くここが分かりましたね」

「あのぉ……もしもーし。置いて行かないで下さいます~……?」

「あ、すみません。すこーし事情がありまして……」


 そう言って、ひょいっと手を頭から下へ下げる様に空でさっと撫でると……。

 金色よりのプラチナブロンドの結わえたセミロングから蒼白銀の艶っとした腰辺りまであるスーパーロングに。

 吸い込まれそうな青目から黄金色と銀色のオッドアイに。

 きもーち骨格もシャープな感じに。


 あぁ、うん。

 なんか色々追いついていないかもしれない。

 というか、このあたしが変装魔法に気付かないなんて!


「えーっと、その、アレですね。何でショウ? 聞き間違いという可能セイもありますカモですノデ、モウ一度お名前をオッシャッテ下さいマスと~……」

「(くすくす)騙していたつもりではないのですが……。私の名は『エルロード・ディ・メレオール』と申します(にっこり)」


 きゅぅ~……バタンッ。


「!? 大丈夫ですか!?」

「あぁ、ハイ。生きてます。生きてますよ!? どう反応してどう突っ込んでいいのか分からない程度には思考ありますよ!? それで、もしやとは思いますけども! 思いますけども! さっきウィンベルさんとか呼ばれておられましたよーですが……もしやと言いますかまさかと言いますか……」

「はい、もしやでまさかの『ウィンベル・シェロ・アリハイド』と申します(にーーーっこり)」


 この方。

 この我等が大陸の大陸神様でした。


 あ、無理。

 もう、無理。

 あたし、ちょっと気絶しよーと思います。


──ドタンッ。


 数時間後。

 あたしは、なんとなく温かい空気を感じながらゆったりと漂う心地好さに包まれぼんやりと目を覚ましたわけですよ。


「えーっと、あたしどうしたんだっけ……?」


 何かおかしな夢を見た様な。


「良かった。気が付かれましたか」

「ふぇっ!?」


 ガバッと飛び起き辺りを見渡す。

 ベッドの脇でエルがにこりと微笑みながら、あたしの顔を覗き込みポンポンと頭を軽く撫でるわけですが。

 物凄く、間抜けな顔をしていたかと。


「うん、夢だっ……たぁ~……」


 パタン。


 部屋の戸が開き、例の人物がやって来てポカンとするあたしに目を配る。


「目が覚めましたか? 驚かせてしまって申し訳ありません」

「えーっと……アレは夢でコレはまだ夢。うん……(ぎぃゅぅぅぅっ)……いったあああああ! 夢じゃなかったあああッ!?」


「主から事情はお伺いしております。カノア殿、ご迷惑を掛けるかもしれませんが、主の本来の力が戻るまで今暫くお世話をお願い致します」

「力? 戻る?」

「ウィンベル」


 首を振り、大陸神・ウィンベル様に目配せする最高神・エルロード様。


「あぁ、そうだったのですね。これは配慮が足りませんでした」


 神妙な面持ちでふか~~~~くお辞儀をするウィンベル様。

 何が何だかさ~~~~~っぱりなあたし。


「カノ、何でもありませんよ。気にしないで下さいね。ただ……あなたが構わないのであればこのまま居候させて頂きたいのですが。今『あちら』へ戻るのは少々アレですので、暫く身を隠したいのです。ご迷惑掛からない様にしますし。それに女の子の一人住まいは危険ですよ?」


 いや。

 確かにあたしは十七だけど!

 むしろ、傍目には十七の年頃の娘と居候するこの人の方が怪しいのでは!?


「私も、時折様子を伺いに来ますので」


 最高神が家に住み込み。

 大陸神が家を出入りし。


 確かに、人間世界で人と密接に関わっているといっても、上のえらーい方々が相手にする「程度」の方々で、平民は余程の事がない限りお目にかかる事はない。


 そんな神様二人が、しがない店の普通の一軒家に住む平凡町娘に頭を下げる光景とは、これ如何に。


 そもそも……。

 幾らあたしが面倒な事やだって言ったところで、断れるわけないじゃないですか!?


「分かりました。えぇ、分かりました! 分かりましたとも! 後でやっぱりすごーく立派なお家が良かったとか言わないで下さいよ!? 改めて言いますけども! いやもうご存知の通りですけども! ひろーい部屋とか豪華なシャンデリアとかないですからね!?」

「(くすくす)そんな事気にしませんし、気にする程の事ではありませんし」

「それに、こちらはとても居心地が良さそうですしね? エルロード様?」

「ウィンベル? それ以上言ったらお仕置きですよ?」


──ふふふ。

──ふふふ。


 何その二人してよく分からない空気。

 ちょっとその含み笑い怖いんですけどっ!?


「あのー、お二人で世界を作らないで貰えます~……?」


 とまぁ、そんなわけでうちに最高神様が居座る事になり。

 気が付きゃ四年半という月日が経ち。


 いやね? もう年単位で時が過ぎてるんだから、よく分からないけどもう力の一つや二つや三つや四つ戻っていると思うんだよね~~。


「はい、お休みなさい。灯り消しますよ~」


 この人を神様だと知っているからこそ、何かがおかしいこの光景。

 そして、いつの間にか神様を平気でこき使うあたし。


 アレだよね。

 慣れって怖いよね。


──アオォォーーーーーーーーン。


 遠くに獣の遠吠えを聞きながら。

 布団を綺麗に掛け直されながら。

 ふかーい眠りにつきました。

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