恋の予感
濃いアイメイクの彼女と再会を果たした約1ヶ月後。季節は巡り暑い夏が訪れていた。定期試験も終わりこれから夏休みに入る。そんなときマホから誘われた。
「私の男友達と飲みに行こうよ」
試験も終わり夏が来る。気分は上がっていた。二つ返事で了承した。
その人は大きめの二重が印象的な、あまり背は高くないけれどよく喋る楽しい人だった。名前はコウジというらしい。同じ学年で同じ学科の人だった。
「で、俺、最近彼女と別れちゃって」
お酒が入り、恋の話が盛り上がる。
「めっちゃ束縛激しいんだもん。すげぇ嫌になっちゃった。なんで付き合ったんだろ〜」
コウジくんは元カノの愚痴を延々と話したあと、私に向き合って言った。
「かわいいよね。目の感じとか酔ったときの仕草とか」
私はもうお酒が回ってよくわからなかった。
「そんなこと、ないよ〜」
と適当な返事を返すしかないくらいフラフラした。でも褒められてることはわかる。かわいいという言葉が心地よかった。生まれて初めて、両親と女子以外にかわいいと言われた。恋愛ご無沙汰の私はそれだけでコウジくんに惹かれてしまいそうだった。その日は3人で終電まで飲んでいた。駅までわざわざコウジくんが送ってくれた。ちゃんと電車に乗って家に帰った。本当に、楽しかった。
次の日、スマホのロック画面を見て飛び起きた。
『コウジです。昨日は楽しかったね。これからよろしく!』
朝から、いやもうお昼だけど、なんて幸せなんだろう。男性からLINEが来るなんていつ振りだろう。私はドキドキしながら返信を打つ。
『楽しかった!よろしくね。また飲みに行こう』
これを送れば、もしかしたらまた飲みに行けるかもしれない。淡い期待を持って送信ボタンを押す。
「っはー…」
無意識に息を止めていたようだ。私しかいない部屋に呼吸が響く。じっとりと汗をかいているのは、夏のせいだけではないだろう。エアコンのスイッチを入れてシャワーを浴びに浴室へ向かった。
お風呂から上がって、実家から送られた素麺をすすって、スマホを見た。新着LINE3件。マホと母と企業公式だった。スマホをベッドに投げて、近くにある雑誌を手に取った。夏のおすすめデートプランの文字を見て雑誌を閉じる。相変わらずスマホは鳴らない。大丈夫、きっと来ると自分に言い聞かせた。しかし、次の日もその次の日もコウジくんからのLINEは来なかった。たいぶ下にあるコウジくんとのトークルームを恐る恐る覗く。『既読』というメッセージが私の返信の隣にあった。目の前が暗くなった。膨らんだ風船の空気が勢いよく抜けるようにテンションが下がったことに気づいた。
気分を変えようと、外に出てみた。太陽はギラギラして、セミの鳴き声があちこちから聞こえた。物の色彩も全てが明るかった。それらのおかげで夏がうるさく感じて嫌になった。公園を走り回る子どもとそれを見つめる親、ベンチでアイスクリームを食べるカップル、日陰で本を読むお年寄り。夏のうるささが気にならないのだろうか。私だけが夏を楽しめていない気がしてイライラする。じっとりと汗をかいて、不快だった。自動販売機があった。何か飲もうと商品をみると、ミルクティーに目が止まった。
-喫茶店に行こう。