再会
相変わらず、肌寒い静かな喫茶店だった。まだ梅雨は明けない。しとしと雨が降り続いていた。あの日の席に1人で座って紅茶を頼んだ。ぼうっと窓の外の降りしきる雨を見ていると、パッとした赤が目に入った。赤い傘。胸がドキドキする。あの日、彼女がさしていた赤い傘だろうか。間も無くカランカランと小さなベルが鳴り、綺麗な黒髪がドアに見えた。濃いアイメイクがこちらを向く。
「…久しぶり」
彼女から声をかけてくれた。しかし私は思わず目をそらして、テーブルを見つめる。
「うん」
彼女が私の前に座った。彼女は「コーヒー」とマスターに告げ、前を向いた。
「目をそらさないでって言ったよね」
「ごめんなさい」
何故だろう。会いたい、話したいと思ったのは何故だったのか。昔のここにいた自分に戻ったような気分になった。
「でも、あなた変わったよ」
「えっ…」
「少しだけね。少しだけ前より楽しそう」
「うん。楽しいかも。友達とも上手くいってるし、あとは彼氏がほしいかな」
マスターが紅茶を持ってきた。私は何言ってるの、と恥ずかしくなりこの前のようにミルクと砂糖を入れてかき混ぜた。程なくして彼女の元にもコーヒーが届く。それぞれの飲み物をそれぞれ口にした。
「彼氏募集中」
彼女がふと呟いた。それと同時にスマホが鳴った。
「やめてください。恥ずかしい」
私はそう言ってスマホを取り出した。なんでもないメールだった。
「この前はスマホみてなかったのにね」
「あの日は家に忘れちゃって」
「家に忘れたぐらいが丁度いいわ」
「…どういうこと?」
一言一句聞き逃したくない。彼女の言葉は私を変えてくれる気がするから。私はスマホをバッグにしまい彼女の目を見た。そらさずにその濃いアイメイクをじっと見つめた。
「スマホ。SNS、電話、メールこれ全部連絡ツールだから」
「うん。そうだよね」
「コミュニケーションは対面してとるもの」
訳がわからなかった。だからなんなんだ。
「つまり、どういうこと?」
彼女はふぅっと息を吐く。伏し目がちにした目をあげて、私を見つめる。
「彼氏が欲しかったら、スマホに頼らない」
「スマホに頼らない…どうすればいいの?」
「カンタンなの。LINEやメール、電話で連絡や約束を取り付けてもいいけど、デートで落としなさいってこと」
彼女はコーヒーを一口飲んでカップを揺すった。
「デートする努力だって、本当はスマホなんかいらないんだから」
「それは、流石に無理でしょう」
彼女はスッと立ち上がった。
「私とあなたは連絡も約束もせずに会えた」
彼女はそのままあの日のようにテーブルに五百円硬貨を置いて赤い傘をさして店をあとにした。スマホに、頼らない。頭に、胸に刻むようにその言葉を叩き込んだ。