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42話-4「中級冒険者への一歩」



 31階層を進んで3時間ちょっと過ぎたころ、2度目の休憩を取る。


「奥山君、31階層はどんな感じ?」


「うーん、そうだな。はっきり言って拍子抜けって感じかな?」


「だよねー。そんな顔してた」


 腕を組み悩んだ末出た答えを聞いた河合さんが何とも言えない様に笑う。


 31階層は最初に思った通り、29階層までとほとんど変わらなかった。草原と森が入り乱れている感じで、今は森の中を歩いている。森と言っても樹海レベルではなく、林に近い森だ。それほど移動することは難しくない。


「31階層はそんなもんだ。ここよりも深い階層に潜るための準備段階って感じだな。まあ、俺らが出口を知っているからってもあるけどな。後はそうだな、俺としては35階層からが中級冒険者の本番って感じだ」


「35階層からですか。もうちょっと先ですね」


 大樹さんの話を聞いた後、水筒に入っている水を飲み息を吐く。


 今までとそこまで変わらないと言っても探索に加えてモンスターと戦いながらの3時間は疲れることは疲れる。一応モンスターの強さも29階層よりかは強くなっているし、2種類だけど新しいモンスターも出て来た。二足歩行の猫の『ケット・シー』と体長1メートルほどの猫の『ネイルドキャット』だ。


 そこまで手ごわくはないけど、ちょっとその見た目に一瞬攻撃をためらってしまった。どちらかと言うと僕は猫派だ。『ブラックハウンド』や『ヘルドック』の時は見た目が厳つかったから躊躇はなかったけど、この2種類は少し愛嬌があったのがダメだった。

 まあ、倒したんだけど。


「それにしても、ダンジョンってこんな広大な自然のエリアばかりで構成されているんだな。少し今更だけど、ダンジョンに入る前に想像していたのと違うんだよな。プレステージみたいな洞窟のダンジョンが続くのかとイメージしてた」


「それは私も最初は思ったよ。でも後でシルクちゃんに聞いたけど、あれが特別なんだって。最初に『観光』か『冒険』かって聞かれたでしょ? あの時にどうするか分けるためにチュートリアルやプレステージを作ったらしいよ」


「作ったって、ダンジョンを? いや、このダンジョン自体がどうなって作られたのかわからないから、エルフが作ったって言ってもおかしくないな」


「うん。そんな感じ」


「じゃあ、こんな感じの自然な広大なエリアがこれからも続くって事?」


「私も先はあまり知らないから、たぶんとしか言いようがないけど……」


 すると横から大樹さんが解説してくれた。


「他の冒険者曰く、50階層以降もそうらしいぞ。俺の考えでもその可能性は高いと思う。俊はこのダンジョンの中に盗賊というかシーフみたいな罠を対処する役割を聞いた事あるか?」


「今までに必要なかったですし……聞いた事もないですね」


「ないだろ。モンスターや先に何があるか探る『斥候』の様な役割は必要だけど、シーフみたいな役割はいない。それが答えだと思っていいと思う」


「なるほど。納得します」


「そうですよね。宝箱もボスを倒した後にしかでないですし。罠は一度もないですから」


「だからこの先もこんな感じのエリアが続くらしい。まあ、自然環境に影響するエリアはあるみたいだけどな。今みたいな快適なエリアじゃなくて、暑かったり、寒かったりするらしい」


「それは大変そうですね」


「砂漠とか極寒とかちょっとどう対処するかわからないですね」


「やばそうだよな」


 まだまだ先だが、これから先の未知のエリアに思いを馳せてると、離れた所で警戒をしていた小百合さんが近寄ってきた。


「面白そうな話をしてるけど、休憩は終わりよ。進みましょうか」


「了解です」


 10分ぐらいの休憩を取り終わり、出口に向かうために足を進める。


 3時間も探索していれば、31階層でも出口まではもう少しだろう。


「待って」


 しかし森を抜ける瞬間、先頭を歩いていた小百合さんが手で制止した。


「ここを抜けたらすぐそこに出口があるわ。でも案の定、出口の前にはモンスターがいる」


 そう言った小百合さんが手招きをする。

 それに従い僕達も小百合さんの横に並ぶ。


「ほんとですね。いち、に、さん……12体ですね。ネイルドキャットが」


「たぶん、ケット・シーも数体いるぞ。あいつらは大体同じところにいるからな」


「ですね。どうします? 魔法で先制しますか?」


 一応今日のリーダーとしている小百合さんに確認する。


「そうね、いつも通りまずは魔法で数を減らしましょうか。魔力の波長で気づかれたら私が牽制するから、真由ちゃんが魔法を放ったらそのタイミングで大樹と俊くんが斬り込む感じでいい?」


 小百合さんが確認をしてくれる。その答えに周りが了承する前に僕は待ったをかけた。


「ちょっといいですか?」


「どうしたの?」


 3人が僕を見る。その3人の目を見て自信ありげに自分の案を離す。


「魔法を使うなら僕も使います。河合さんと魔法を合わせたら低コストで大きい魔法を使えるはずなので」


「私と合わせる?」


 僕の言葉に河合さんが首を傾げる。


「相性の良い属性を合わせれば魔力も抑えても十分な威力が出せると思う」


 僕の意見を聞いて河合さんが悩むように手を口に当てる。そして、笑った。


「面白そう。それやってみたい。小百合さんいいですか?」


 河合さんが少しテンションが上がった声で小百合さんに確認する。僕も小百合さんを見る。

 そして僕達の目を見て小百合さんも少し笑う。


「いいわよ。別に失敗しても4人いたら負ける数ではないし、試してもいいわ」


「ありがとうございます! 河合さん、試してみようか。ちなみに得意な属性は?」


「一応、適正は火。だから一番威力を出せるのは火かな。全属性は使えるから、森の中では火はあまり使ってないけど」


「了解。出口前は草だけだからそれで大丈夫だと思う。森の中じゃないから火は燃え移らないだろうし。じゃあ、僕は風属性を使うわ」


「わかった。えっと、私は人と合わせた事がないからどうしたらいいかな?」


「僕も合わせた事はないけど、したいことはイメージしてる。とにかく河合さんは火属性の魔法で、一番燃えそうな魔法をお願い」


「一番燃えそうな魔法ね……わかった。やってみる」


 そして河合さんと僕は出口付近にいるモンスターを見る。


 各自集中して魔力を練る。

 僕がするイメージは火を燃え上がらせる風。火は大きくなると炎となり、その熱量で上昇気流が生まれる。それを助けるようにモンスターがいる場所全体に風をいきわたらせるイメージ。最終的には燃え上がり上昇する竜巻の様な。


 すると、横で河合さんの詠唱が聞こえた。


「『壮大なる火炎の王よ。我に全てを燃やし尽くす一撃を貸し給え。放て。』」


 その詠唱に合わせる。


 その瞬間魔力の波長を感じ取ったのかモンスターが一斉に僕達の方を向く。

 しかし、それは遅い。


「『フレイムバンナート』!」


「『ウィンド・ストーム』!」


 河合さんの魔力が炎の塊となりあたり一面を焼き尽くすがごとく燃える。それを助けるように僕の風が地面を這い、周りを囲み、上昇気流を強くするように燃え広がる炎を助ける。

 そして、離れていても火傷するかのようなその場にいるモンスター全てを包み込むほどの巨大な炎の竜巻が出来上がった。


 その巨大さに魔力の供給を途中で遮断するが、燃える炎は収まらない。次第に弱くなってくるが、その炎の竜巻は数分間にも及んだ。


 僕達は近寄ることもできず、ただただその炎が収まるのを待つだけだった。


「……すごいね、この威力」


「うん。ちょっと衝撃だな。思った以上の威力だった……」


 炎の竜巻を膨れ上げさせながらネイルドキャットがいる場所を全て燃やし尽くしたその惨状を見て僕と河合さんが目を丸くする。


 うん、森に火が燃え移らなくてよかったね……。


「俊、俺が戦うモンスターがいないんだが……」


「魔導士が2人集まったらそこまでの威力になるのね……攻撃リソースはこれで十分ね……」


 そう言う大樹さんと小百合さんは呆れた様に笑っていた。二人も僕達と同じようにその光景に若干引いていたのだろう。


「ちょっと、ここまでの威力になるとは……」


「うん、俊くん。言い出した本人が驚いてたら、ダメよ……」


 と冷静にツッコミを入れる小百合さん。

 そして自分の感情を入れ替えるように息を吐いた小百合さんと大樹さんが動く。


「とにかくドロップ品を拾って31階層出口に行きましょうか……」


「だな。戻ったら兼次さんに良い土産話ができそうだ」


 小百合さんと大樹さんが先頭に立ってドロップ品を拾いに向かった。






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