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42話-3「中級冒険者への一歩」



 吹き飛んだウサカメは甲羅から手足と頭を出し、赤い目を僕に向ける。

 その目から見える感情は明らかに憎悪だ。


「ウザガァァァァッ!」


 怒気が混じった鳴き声と共にウサカメの口元に魔力が集まるのを感じる。

 そして大きく息を吸い込んだ。


「まさか、なっ!」


 その瞬間僕は横に跳んだ。


「ウザガァァァァッ!」


 その咆哮と共に発せられたのは圧縮された水のビームだ。

 僕が元居た場所に大きなクレーターができている。


「カメが使っていた攻撃だろ……これも使えるのか……」


 ウサギの俊敏性にカメの防御力。大きくなった体長と甲羅による質量により蹴りなどの物理的な攻撃力は増えている。そして『ギアルタートル』と変わらない威力の水のビーム。圧倒的に強くなっている。足して2で割ったのではなく、足し算がかみ合っている。


「断然強いだろ。どこが期待外れだよ。こいつにソロで挑んだら勝てない奴もいるだろ!」


 剣を構えウサカメを見ながら呟く。

 十分に強い、こいつなら30階層のボスとして納得する。



 数秒の間があった後、ウサカメは先ほどと同じように高速移動をする。しかし、ある一定の距離までくるとウサカメは近づく素振りを見せない。何かを警戒しているように……。


「……あれを気にしてるのか」


 最初にお見舞いした『スパーク』。あれは強烈だったのだろう、半径1メートル以内には踏み込もうとしない。


 だったら……


「『ウォーター・ボール』」


 水球を十数個自分の周りに展開する。


「行け!」


 そして動き回るウサカメに向けて放つ。


 しかし、ウサカメはその動きで全ての水球を避けきる。

 だからこそその間に込めていた魔力で直径1メートルほどの水球を作り上げる。


「『ウォーター・キャノン』……くらえ!」


 そしてウサカメの進行方向だろう個所に放つ。しかし、それは命中しない。


 その瞬間目の端に動く影が映った。


「だろうな……ぐっ!」


 腹部に鈍痛が走る。それを我慢して蹴りっぱなしのその脚を掴む。


「ウサカッ?」


「前と同じような手に引っかかるなよな!」


 そのまま『スラッシュ』を込めた剣を振り下ろす。その攻撃はウサカメにクリーンヒットするが、まだダメージを与えきれていないのか逆の脚で僕の手を蹴り上げ掴んでいた手から離れその場から離脱する。


 パシャパシャと水音と共に動く音がする。


「……それも想定済み」


 座り込むようにして手を前に出し、目の前にある水たまりに向かって魔法を放つ。


「『サンダー・ボール』!」


 その電撃は水を這うようにして水たまり全域に広がる。

 そして、


「ウザガァァァッ……!?」


 ウサカメの悲鳴が響いた。


 僕はポーションを飲みながらその悲鳴の場所へ近づいて行く。


「この戦法は前のガンラビットにもしたぞ。同じ攻略法が通じるならソロでも十分だろうな。脇腹はかなり痛いけど、わかっていたら我慢できる。防具も新調してるし」


 新調したのにすぐに修理かなと思いながら少しへしゃげている防具を撫でる。


「じゃあな、動けないなら一発で消えてくれよ」


 そう言ってウサカメの目の前で剣を振りあげる。残りのSPを全て注ぎ込むように溜める。


「リア・スラッシュ!」


 そして振り下ろした。

 砕けていた甲羅の部分を狙うように振り下ろした攻撃はウサカメごと甲羅を真っ二つに割る。


 そして光の粒となって消えるウサカメ。


「これで、30階層攻略」


 いつも通り、光の粒が消える瞬間を見送る。そしてレベルアップの音色が聞こえる。これで21レベルだ。小百合さんも言ってたけど、ソロでボスを倒せば経験値の入りが大きいみたいだ。



 そしてギギギという音と共に後ろの扉と前の扉が開いた。


「……奥山君、早かったね」


「物の数分だったぞ」


「今回もレコードホルダーでしょうね。もう驚きはしないけど」


 そう言いながらボス部屋に入ってくる3人。

 その3人を見ながら剣を鞘にしまう。


「大樹さん、このボスかなり強かったですよ。何が期待外れですか。まったく余裕はなかったですよ」


「いやいや、ソロは未知数だから気をつけろって言っただろ。期待外れってのは、見た目があれだからだよ」


「……そう言う事だったんですね」


 肩を落として「はぁ」と息を吐く。


「で、強かったって言ってもかなり早かったぞ? そこまで強かったのか?」


「はい。ポーション使いましたし」


 その言葉に3人が驚く。


「おい、ポーション使ったから強いって基準は何だよ」


「えっ、その言葉の意味を素直に取れば、通常はポーション使わないってこと?」


「小百合さんそれはないでしょ。ポーションってHPにMP、SPがあるから最低でもどれかは1回の攻略で使うのが普通だけど……えっ、本当に使ってないの!?」


「えっと、『独眼のウェアハウンド』から逃げれた時は使いましたよ。それ以外はあまり……」


 その言葉に3人が本当に驚いている。


「ここまでくれば俊くんの対応と考えを学ばないといけないわね。後でミーティングしましょう!」


「そうだな。受けるより避ける方がいいのはわかるけど、それはどう戦闘を組み立てていくかも重要だからな。俊、しっかり話を聞かせてもらうぞ」


「そ、そうですね。奥山君は会社でと違って、ダンジョンでは規格外だぁ……」


 三方向から圧が強くなる。


「早速だけど、『タートルガンラビット』はどんな感じだった? 剣と魔法だけではあのスピードに対応できないから、盾を使って攻撃を受けながら地道に削るのが無難だけど」


 あいつ、そんな名前だったのか。ただ単に合体してるだけやん。


「主に、魔法であのスピードの対応ですかね。雷系統の魔法で対応できます。スピードさえ何とかすれば剣スキルを何度か当てれば」


「雷系統かぁ。ちなみにどんな感じで使ったの? 無難なら『サンダーボール』でしょ? でも奥山君でもあれには当てられないんじゃ?」


「そうだね。えっと……河合さん『魔力の膜』ってイメージできる? その膜に触れたら『スパーク』で攻撃して……」


「ちょ、ちょっと待って! 魔力の膜!? ……それ、今私が杏子さんに教えてもらってる事なんだけど……」


 そう言った河合さんが項垂れるように肩を落とした。





 30階層の転移ゲートをくぐらずそのまま階段を降りると目に映るのは、広大な草原と奥に見える森。

 新たな階層、31階層の始まりである。


 しかし、今までとそこまで変わらないなと思ったのは31階層を見ての素直な感想である。


「ふふっ、あまり変わらないって顔してるわね。31階層は今まで通り草原と森のエリアになっているわ。それだけを見ると今までと変わらないけど、一番の違いはエリアの広さよ」


「エリアの広さですか?」


「兼次さんに聞いた事があると思うけど、29階層までは大体1周5キロほど。ちなみに俊くんはエリアの端っこまで行ったことある?」


「……ないですね? いや、あるのか? ちょっと待ってください……え? ……はっきりわからないです」


 小百合さんに言われてそう考えてみると、端まで行ったのかはっきりわからない。歩いていると崖があった事はあるからそれが端だと思ってたけど、実際に登って確かめた事もない。崖がないエリアでは風景だけなら永遠に続いているように感じている。

 今思うとどうなってるんだ?


 しかし僕が言った答えに小百合さんは真剣に頷いた。


「俊くん、それが答えなの。答えははっきりわからない」


「……それでいいんですか」


「それが当たり前なの。理由は初めてこのダンジョンに来た時の0階層と同じ理屈。認識阻害がかかっているからそこに先があるのかないのかがわからないってわけ」


「認識阻害ですか……」


 初めてダンジョンに来た時、0階層は何も無い洞窟の様に見えた。でも『虐殺のオーガ』を倒してから0階層に戻るとそこには街ができていた。でもそれには何も違和感がなく、初めて来た時はただ何もないという認識しかしていなかった。それが、認識阻害か。


「何も見えないし見えてる物が全てだから何も違和感が沸かない。今回みたいに考える事で違和感が発生するけど、それも検証するには材料が足りなくなる。だから私にはこのダンジョンの中で『認識阻害』が一番意味が分からないわ」


 ダンジョンに来た時点でここは現実とは全く違う世界なんだとわかっていたが、この世界はそういうモノなんだと思っていたのもそれが原因なのだろうか。


 すると、河合さんも付け足してくれる。


「魔法を使う私でも認識阻害って魔法は聞いた事がないから、たぶんこのダンジョンの性質なんだと思うんだよね」


「ちなみに兼次さんが29階層までは1週5キロほどって言ってたのは実際に認識阻害がかかった状態で、できる限り認識している端を歩数と時間で計ったらそうだったみたい。でもここで面白いのは31階層からはさらにその倍以上の広さがあるってこと。そして、31階層を一度でも踏み入れたら他の階層もその分広くなっているってこと」


「えっ? 他の階層も広くなるってことは、29階層もですか?」


「まあ、31階層ほど広くはなってないけど、一回り大きく感じるはずよ。1階層や2階層は全く変わらないけどね。あ、もしかするとユニークやネームドモンスターは、私達では認識できないエリアを動いているから見つかりにくいってのもあるかもしれないわね」


「ユニークがあまり見つかりにくいのですか? 僕の時も兼次さんの時も見つかったですよね?」


「うーん、そうね。浅い階層はダンジョンの広さがそこまでだから大丈夫だけど、深い階層に行けば行くほど見つかりにくいわ。実際に50階層以降のネームドはそういう風に報告されているわ。到達階層によって、31階層以降も階層ごとの広さは変化するからそうなるのよ」


 このダンジョンで見つかったネームドは6体ほど。その中の何体が今いるかは聞いていないけど、まだ数体は倒しきれていないようだ。そしてそのネームドはどこにいるかわかりにくいと。


 なら本当に早く『独眼のウェアハウンド』を倒さなければならないだろう。浅い階層にいる内に。


 そんな階層の話を詳しく聞いていると、少ししびれを切らしたのか大樹さんが手を叩いた。


「小百合、話はそこらへんにして、もうそろそろ進むぞ。31階層の出口まで俺らが知ってる道順を真っすぐ進むだけでも3時間ほどかかるからな」


「そうね。じゃあ俊くん、行きましょうか」


「わかりました。行きましょう」


 そして、僕達は新しいエリアを進み始めた。






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