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閑話-下「六体目のネームド」



 仁君が地面を転がる様に吹き飛ばされ木にぶつかる。


 やばいぞ、これはっ!


「季里華ぁ! 回復走れぇ! 正人は牽制しろぉ! 真奈美はあいつを閉じ込めろぉ!」


 瞬時に各自の行動を叫び、俺も『瞬動』でウェアハウンドに肉薄する。

 別に全員危機管理を怠ったわけではない。想像以上の行動を取ると考えて切れていなかっただけ。しかしそれが、全員を危機に追いやる。


「お前の相手はこっちや! こっち向けぇ!」


 そして『挑発』を使う。ヘイトが一瞬俺に向くことで、正人の牽制の為の矢が刺さる。その怒りが俺に向けば、俺から攻撃しやすくなる。


「ゴガァァァァァッ!」


 思った通りウェアハウンドが俺に目を向け剣を振り下ろす。

 そして俺はその剣に向かって盾を繰り出す。

 そして、


「カウンターシールド!」


 盾に当たった瞬間、白い光と共にウェアハウンドの剣が弾かれ、その勢いでたたらを踏み体制を崩す。『カウンターシールド』は相手の攻撃をそのままの威力で返すスキル。『パリィ』で弾くとは威力が違う防御で相手に隙が生まれる。


 そして真奈美の魔法が放たれる。


「『全てを包み込む強大な水の監獄とあれ。』『ウォータープリズン』!」


 そして巨大な水の塊がウェアハウンドに纏わりつき水の中に閉じ込めた。


「これで数秒は稼げるやろ……」


 しかし後ろから叫ぶような声がかかった。


「兼次、それじゃダメだ! そいつは『狂化』するぞ!」


 蒼介の声が聞こえた瞬間、ウェアハウンドから弾けるほどの魔力が放たれる。そして、包んでいたはずの水の塊が一瞬にして弾けた。


「えっ、うそっ!?」


 その光景に戸惑う真奈美の後ろで、正人が込めていた矢を放った。


「メイガーショット! ……嘘だろ」


 矢はウェアハウンドに刺さるが、先ほどと同じように貫通はしない。

 見てわかる。防御力が異常に上がっていると……。


「狂化やと……? なんでこいつが使えるんや……」


 灰色だった体毛が赤く染まる様に色付く。それはオーガが使うような『狂化』と同じで身体能力が上昇するスキル。それにさっきも通常ではありえない剣スキルを使っていた。


 スキルを多用するモンスター。

 こいつは異常すぎる。だから、ネームドって言うんか。


 そして俺は判断した。


「みんな、逃げるぞぉ! 俺が殿を務める! 早く下がれ!」


 その言葉を言い切る前に、間髪れずにウェアハウンドとの距離を詰める。


「兼次さんでもっ!」


 真奈美が叫ぶが聞いてられない。


「良いから行け! 全員死ぬぞ!」


 そして俺は歯を食いしばる。そしてウェアハウンドの剣が振り下ろされる。それを剣で受ける。


「ぐっ……さっきより重いやんけ!」


 次々に振り下ろされる剣を盾で受けながらスキルを放つ機会を伺う。さっきスキルを連続で使った事でSPも少なくなっている。少し前に回復薬を飲んだのはいいが、回復量も半分ぐらいだ。

 一人で殿をするならスキルの使い時を考える必要がある。


「だったら俺も……」


 そこに蒼介が俺に並ぼうと前に出ようとするが、言葉で止める。


「蒼介! お前が来たらそれこそ全滅や! まだ回復しきってへんやろ! 俺と一緒に戦うよりもする事があるやろ! 誰がまだ倒れている仲間を連れて行くんや! お前しかおらんやろ! さっさと行け!」


 その言葉に蒼介が歯を食いしばる音が聞こえた気がした。


「くっ……わかった。ここは任せた。でもな死ぬなよ兼次! 必ず逃げて来い!」


「頼むで、蒼介!」


 そして走り出す足音が聞こえた。


「みんな行くぞ!」


 俺はウェアハウンドと相対してる為蒼介達がどう動いているかはわからないが、蒼介がいたら大丈夫だとウェアハウンドの攻撃を受け続ける。


「待って蒼介さん!」


 しかしその場で止まる足音が二人。


「どうした! 早く行くぞっ!」


「これだけ! 季里華ちゃん、合わせるよ!」


「わかってる!」


 そして後ろで魔法を発動する声が聞こえた。


「『ファーストアップ』!」

「『セカンドアップ』!」


 その身体能力向上のバフ魔法は重ね掛けする事で二重に効果を発揮する魔法。それによって俺の動きも変わる。


「助かったわ! ありがとな二人とも!」


「はい! 死なないでください、兼次さん!」


「必ず逃げてくださいよ!」


 走り出す音が聞こえる。しかしその声だけで余計に力が沸く気がした。


 最後の魔力を使ってかけてくれたんだろう。だからまだまだ俺はやれる。


「あっちにも興味があるんやろ? せやけどな、行かせへんでっ!」


 ウェアハウンドが剣を振り下ろしながらも俺の後ろに興味がある様に余所見をする。


 せやけどな、今の俺を相手に余所見はあかんで。

 そしてウェアハウンドが剣を振り下ろすタイミングでスキルを発動する。


「パリィ! で、もう一丁! シールドバッシュ!」


 盾ではなく剣で相手の剣を弾き飛ばし、盾を相手にぶち当てる。ダメージはそんなにないと思うが、距離を開いた。

 だから、俺のとっておきを見せてやる。残りのSPの半分を使って、俺はもう一段狂暴になる。


「狂化!」


 血が沸騰する様に駆け巡り、魔力と気力が体内を駆け巡る。燃えるように皮膚が赤く染まる。それは戦斧スキルの身体強化スキル。


 2つのバフ魔法に加えての『狂化』は初めてで制御できるかはわからへんけど、やりきるしかない。


「俺はまだ死ぬ気はあらへんからな。最後まで付き合ってくれや! 犬っころがぁ!」


 そして俺はウェアハウンドに向かって剣を振り下ろした。





「これは、やばいなぁ……」


 体が動かへん。仰向けになったまま、大の字で剣も握れてへん。

 流石の俺もここで終わりかぁ。まあ、それでもええか。別に俺もここまで楽しくやって来れたんやからな。最後の最後にここまでの強敵と戦って負けたんやったら悔いはない……いや、そんなわけないわ。


 そう言えばあいつら無事に逃げ切れたんかな。俺は逃げ切れんかったなぁ。


 そんな事を思いながら、耳に聞こえてくるのはウェアハウンドの足音。最後の最後で左腕を切り落としたが、まだあいつは立っていた。


 どう考えてもあのウェアハウンドは適正レベル40は低すぎやろ。45~50でもええぞ。帰ったら絶対あのギルマスに文句言ったるわ。俊君基準で考えるなってな。


 やばいな、ガチでもう指一本も動かへん。

 でもな、まだ死にたないなぁ。


 そんな事を思った時……


「『エクスプロージョン』」


 その言葉と共に俺の真横で爆発が起こった。


 その爆風が俺の傷ついた身体によりダメージを与える。死ぬようなダメージではないがかなりきつい。

 しかしそんな事より、爆発音の後に聞こえるのはウェアハウンドの叫び声。そして走って遠ざかっていく足音。

 そして聞こえる女性の高い声。


「逃げちゃった……まあ目的はあいつの討伐じゃないし、まっいっか。わたしとのレベル差を見て逃げるって事はわたし以下って事だし。シャロシャロに報告しないとねー」


 そんな声が聞こえるが俺にはその声の主が何者なのか見えへん。増援って事はわかるし、ほんま助かったけど、爆風のせいで転がってしまい、仰向けからうつ伏せになってしまっている。


 足音だけで近づいてきているとはわかるけど……。


「えっと、あなた西川兼次さんだよねー? この状況だから確定だけど、顔見えないし……よっこらせっ!」


 その俺を仰向けの状態に転がしなおした。


「一応これで助けたって事になるよね?」


「あ、ああ……助かっ……ぶふっ!?」


 何か液体をかけられた。そしてもう2回液体をぶっかけられた。

 なんやこれ、回復ポーションか?


 しかしそのおかげで体を起こすまで回復できた。ここまで瞬時に回復するなんてかなりいい回復薬を使ってるやろ。


「いや、本当に助かったわ。あんたが蒼介達が呼んでくれた冒険者か? ウェアハウンドが逃げるって事はよっぽどのレベルの……って、はぁ!? あんたまさか……」


 その助けてくれた人物を見て驚きを隠せなかった。なんでこんな人物がここにいるんや。


「ん? わたしの事知ってるの? そりゃそうか、わたし有名だもんねー」


 そりゃそうや。ダンジョンというモンスターと戦う場所でそんなロリータファッションをしている冒険者を2人も見た事ない。そんな恰好をしている冒険者なんて一人しか知らへん。


「姫宮杏子……ソロで中級冒険者の中で最強の魔導士の……」


「うん! ありがと! おじさんでも知ってくれてたんだー」


 おじさんって……まあ、俺はおじさんやけどな。でもあんたも毎日昼間からダンジョン潜ってるからその見た目よりも歳いってるって事はなんとなくみんなの認知なんやけどな。

 まあ、そんなことを言ったら大変な事になるから言わへんけど。


 そしてそんな俺の思考も関係なく、姫宮杏子は俺に質問を投げかけてくる。


「で、助けたお礼にお願いしたいことがあるんだけど、いい?」


「そうやな。なんでも言ってくれ。俺ができる事なら何でもするわ」


「うん! その言葉が聞きたかったんだー!」


 その言葉と一緒に少女の様な女性は笑顔になる。

 当たり前や。死にかけていたところを助けてくれたんや、俺にできる事なら何でもする。


 しかし姫宮杏子は俺が考えてもいなかったお願いを言った。


「今度一回でいいからわたしとパーティを組んでくれないかなぁ?」


 その言葉に一瞬何を言ったのか理解が遅れた。

 このレベルの冒険者が俺とパーティを組みたがる意味が分からない。しかも助けたお礼としては安すぎるお願いだ。


 その言葉の意図が分からないまま、しかし断る理由もない。だからその場で即答する。


「ああ、それなら別にいいんやけど……」


「やった! 絶対約束ねっ!」


 食い気味にそう言った姫宮杏子の満面の笑顔はあの凶悪な魔法を放ったとは思えない程不釣り合いな笑顔だった。


 そして、目的が何なのかわからないが、俺は今ここに命がある事に感謝をしながらその無邪気に笑うレベル50越えの冒険者を眺めていた。




兼次さん視点の閑話終了です。

次回から第5章が始まります!


それと、ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

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