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閑話-中「六体目のネームド」



 盾を構えた直後、ウェアハウンドから振り下ろされる剣。その一撃は想像していたよりも重い。これを体制が不十分のまま受けれた仁君はよくやった。


 しかしウェアハウンドが剣を持ってるなんて聞いた事がない。しかも想像以上の剣筋や。中級冒険者と同じレベルの剣技を持ってる。

 しかし、それだけなら甘い。


「はあぁぁぁっ!」


 俺の後ろから出た仁君が双剣の特徴を生かした手数で攻撃を加える。

 そして体制を整え終わったのは仁君だけやない。


「兼次さん! 仁さん! いきます!」


 真奈美の声が聞こえた瞬間、バックステップで各自ウェアハウンドと距離を取り、仁君は魔法がかかりやすいように俺の近くに来る。


「『ファーストアップ』!」


 その瞬間、身体能力が向上するのを感じた。

 これで今以上に動ける。


「仁君、挟むぞ!」


「はい!」


 仁君がサイドステップと瞬動でウェアハウンドの後ろに周り込み、地面を蹴る。それと同時に俺も距離を詰める。


「ダブルスラッシュ!」


「スラッシュ!」


 白く光る軌跡が前と後ろからウェアハウンドを襲う。

 それは見事に命中してウェアハウンドに傷を与える。しかし、思っているより傷が浅い。


「硬いな! 兼次さんもう一発行きます! ダブルスラッシュ!」


 双剣特有のスキルの間隔の短さを生かし、仁君が再度スキルを使う。


 しかしそれはウェアハウンドの剣によって防がれる。双剣の二段攻撃を奇麗に剣一本で受けきった。


「なっ!」


 その防御に仁君が一瞬戸惑う。その隙を見逃さずウェアハウンドが剣を振りあげる。


「パワーシュート!」


 しかしその声と同時に正人の矢がウェアハウンドの肩に刺さる。


「ガアァッ!」


 その隙をついた攻撃でウェアハウンドの攻撃が止まり、仁君がバックステップでその場から離れる。

 それと同時に再度真奈美の声がかかった。


「兼次さん! 仁さん! 離れて! 『偉大なる雷の王よ。我に霧を晴らす一撃を貸し給え。放て。』」


 詠唱が完了する瞬間、俺も後ろに跳びのき衝撃のため盾を構える。


「『ライトニング』!」


 その瞬間、轟音と共にウェアハウンドに向かって雷が落ちた。


「ガアァァァッ!!」


 ウェアハウンドが叫ぶ。

 かなりのダメージが入っただろう。ウェアハウンドと遭遇してすぐに戦闘を開始した事でまだ魔力が溜まりきっていない状態だっただろうが、このタイミングは十分だろう。


 しかし、まだ終わってはいない。


「まだ終わってないぞ! 次の準備しぃや!」


 俺の掛け声で仁君が俺の近くまで戻り、真奈美が魔力を溜める。そして正人が弓を構える。


 たったの数分の攻防で倒せるとは思っていない。倒せるなら蒼介達がそこで転がっている意味がわからん。

 そして思っていた通り、ウェアハウンドが動き始める。


「ゴガァァァァァッ!」


 ウェアハウンドの咆哮。

 それによって一瞬だが俺以外の3人が硬直する。

 そしてウェアハウンドが狙うのは最も攻撃力のある魔法職。その場を蹴る様に一瞬にして真奈美に近づくように走った。


 しかし、その行動は織り込み済みや!


 俺はウェアハウンドと真奈美の動線上に割り込む。


「ゴガァッ!? ガァァァッ!」


 その行動が読めなかったのか一瞬戸惑ったウェアハウンドが剣を振りあげる。剣を受け止めるように盾を構える。

 その一瞬の戸惑いが俺の攻撃の準備時間になる。


「パリィ!」


 剣が盾に当たった瞬間、ウェアハウンドの剣が弾けるように後ろにそらされた。そして俺はもう一段連携する。


「パワーチャージ」


 剣を持つ右手を下げて溜める。

 剣スキルの一撃の攻撃力上昇スキル。溜めが長い方がその分威力が上がるが、今回は大きな隙を作れれば十分や。


「スラッシュ!」


 そして剣を振りあげてから、重力を乗せるようにスキルを振り下ろす。


「ガァァァッ……!」


 命中したそれはウェアハウンドを倒す事が出来ないが、十分に怯ませる事ができただろう。

 一瞬の隙が生まれる。そこを見逃さない。


「今や! 畳みかぇっ!」


 その声と同時に動けるようになった仁君達が駆け出す。

 まずは先行して正人が溜めていた矢を放った。


「パワーシュート、連装、増装、ポイントシュート!」


 通常の倍の威力を持つ『パワーシュート』を『連装』によって次のスキルとつなげる。『増装』により構えている矢が3本に増え、『ポイントシュート』によって全てウェアハウンドに命中した。


 そして正人がもう一段大きいのを撃つために弓を構える。


 その間に仁君が連撃を放つ。


「スラッシュ、(チェーンコネクト)、ダブルスラッシュ、(チェーンコネクト)、ラッシュソード!」


 双剣は『チェーンコネクト』というスキルを挟むことによって連続してスキルを使用でき、次のスキルの威力は繋げるほど増加する。そのスキルとスキルを繋げるタイミングはシビアで、尚且つ『チェーンコネクト』で繋げるスキルは別のスキルでなければならないという縛りがあるが、最後は『ラッシュソード』の1秒で5連撃を放つスキルで3つのスキルを繋げきった。


 そしてもう一度正人が矢を放つ。


「仁さん離れて! メイガーショット!」


 その矢はパワーシュートよりも高威力で高スピードでウェアハウンドの左肩を貫通させた。


「ゴガァァァァァッ……!」


「皆さん、もう一撃いきます!」


 そして魔力が溜まったのか真奈美が詠唱を開始する。それを聞いて何が来るのか予想した俺達は立ち回る。

 仁君はバックステップで下がり、俺は真奈美が魔法を当てやすいようにウェアハウンドの体制をより崩しにかかる。


「ほら! もう一撃くらっとけや! シールドバッシュ!」


 盾をぶつける一撃がウェアハウンドの顎に命中して顔を跳ね上げさせる。


「『壮大なる火炎の王よ。我に全てを燃やし尽くす一撃を貸し給え。放て。』」


 そして俺はその場から離脱する。


「『フレイムバンナート』!」


 構えた杖の先から轟音と共に炎の塊がウェアハウンドに向かって一直線に放射された。

 その火炎放射の様な高火力の魔法は動線の地面を焼け焦がし、ウェアハウンドも燃やす。


「やりましたね」


 燃えているウェアハウンドを見ながら近づいてきた仁君が声をかけてくる。


「ああ、これならかなりのダメージを与えられたやろ。通常のウェアハウンドなら十分以上に倒せてるはずやで」


 そう自分で言ったのだが、まだ引っかかる事がある。


「しかし、かなりの防御力ですね。あのウェアハウンドは。私の魔法を食らってもまだ動いてますよ」


 魔法が終わった後も炎に包まれているウェアハウンドを見ながら真奈美が話す。


「そうだね。パワーシュートでも刺さりが甘かったからね、牽制にしかならないとは思わなかった」


 正人も合流して、俺達は少し離れてウェアハウンドの様子を見る。


 炎に囲まれながらもまだ動いているウェアハウンド。それがまだ終わりを告げていない事は明らかだが、通常であればあれだけのダメージを食らえば息絶えるはず。

 しかし、その状態がまだ危険だと俺の脳内にベルが鳴っている。


 そこで思い出す。先行して出会っていた冒険者が倒れていた状況を。

 俺と同じレベルの冒険者が5人も倒れていた事だ。あいつらが戦っていた事で俺達がここまでできたとは思うが、こんなに簡単に終わるのか。


「季里華! そっちの様子はどうや!」


 俺はウェアハウンドから目を離さずに、回復の状況を確認する。


「いま丁度全員は回復させたけど、まだ意識が戻って……あっ、一人意識が戻ったみたい」


 そう言った季里華に一瞬目を向ける。

 季里華が動き始めた男性の所に寄る。そいつはそのパーティリーダーの田島蒼介だ。


「……うっ、助かった。今の状況を説明して貰っても……兼次、気を付けろ!」


 目を開けて少し周りを見渡しただけで今の状況が分かったのか、一瞬で俺に目を向け叫ぶ。

 それと同時に仁君からも焦った声が上がった。


「兼次さん! やばいです! こいつまだ生きて……!」


「ゴガァァァァァッ!!」


 その瞬間再度ウェアハウンドの咆哮が響き渡った。


 その咆哮は先ほどよりも威力が大きい。少し油断してたのだろう、俺も硬直してしまう。

 いや、普通にウェアハウンド自体が中級冒険者を硬直させる咆哮を放つことが異常なんや。それをネームドというだけで納得していた俺が馬鹿やった。


 その数秒の硬直の間にウェアハウンドが攻撃の体制に入る。たったの数秒がこの世界では命取りになる。

 剣を拾ったウェアハウンドが走って向かうのは一番前にいる双剣を持つ仁君の元。


「仁君!」


「くっ……動け……る!」


 ウェアハウンドが攻撃に入る前に仁君が動ける状態になる。同じくして俺も動ける状態になるがカバーに行くには時間が足りない。


 ウェアハウンドが剣を横に振りぬく体制に入る。

 それを受けるために仁君が二刀を交差させる。


 そして……ウェアハウンドの剣が光った。


「なっ! 嘘やろ! 仁君受けるなぁっ!」


 俺の叫びもカバーも間に合わず、仁君がウェアハウンドの剣を正面から受けた。

 そして、


「がはっ……!」


 仁君が勢いよく吹き飛ばされ、地面を激しく転がった。




あと1話続きます。

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