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閑話-上「五色を操る少女」

シャロン視点の話です。


「シャロン呼ばれてるよ」


 ギルドの奥で作業をしていたらシルクが私を呼びに来た。


「今忙しいんだけど……シルク誰かわかる?」


「あなたの担当の冒険者でしょ。行ったらわかるから、早く行ってきなよ」


「はいはい」


 いつも通りシルクは私に対してあたりが強い。それもこれも私が貪欲に良い冒険者を片っ端から自分の担当にしていくためだ。その中にはシルクの担当だった冒険者もいる。だからシルクは私にあたりを強くする。まあ、その気持ちはわかるんだけどね。


 他のギルド職員も私の事を良く見ていない人は多いだろう。でも私はそれを止めない。私が少し誘った程度で私の担当に変わる冒険者が悪いし、簡単に変わるような対応をしている職員側も悪い。

 それにこの世界はどれだけダンジョンを攻略した冒険者の担当になれるかだ。この『ライトロード』の中でトップ冒険者の担当をしているセリエーヌさんを見たらわかる。職員側の担当の圧倒的な格差を。

 黙って順番に来た冒険者の対応をして運だけを待つなんて私にはできない。

 だからシルクには悪いけど、私にあたられても私はもう何も感じない。

 私の目的はシルクには絶対に理解できないことだから。


 そして、シルクに言われた通り受付に向かう。


「あっ、シャロシャロおはよー」


「アンズさん、おはようございます」


 私を待っていたのは受付カウンターから少しだけ顔が出ている幼い顔をした女性だ。その見た目は冒険者と言うより、冒険者の真似をした少女だ。腰まで伸ばした長い黒髪に白と赤と黒を基調としたフリルが付いた可愛らしいスカートと服。一応動きやすいようにフリルが付いたスカートは必要以上には膨らんではいない。他の冒険者達が言うにはこれはロリータファッションというものらしい。それに黒色のローブを羽織って魔法使いっぽくしているのは少し違和感がある。

 というか、こんな服をダンジョンの中でどうやって用意したのだろうか。


 ちなみに、この見た目で冒険者が務まるのかという疑問は私が担当した初日に一瞬にして四散した。一応年齢は非公開と言う事で教えてもらっていないが、私達はこのダンジョンに入った人のステータスはわかるので年齢も分かっているけど。


「それで今日はどうしましたか? いつもなら何も言わずに攻略しに行きますよね?」


「えー、シャロシャロ忘れたの? 前話してたでしょー? 前に来た新人冒険者さんのことっ! 誰が担当なのかわかった?」


 あー、その話か。

 誰の事を言っているのかわかっているけど、それを話すと担当替えをする感じがしたからまだ話してなかったんだよね。私の担当の中でもソロでのレコードホルダーで記録を何回も出してるエリート冒険者だから、逃がしたくはない。

 もしかするとこれはソロからパーティへ変更するためなのかもしれないから。


「えっと、それが誰かはまだわかっていなくてですね……」


 そう言った瞬間。アンズさんの目つきが変わった。笑顔を見せながらも鋭く、私を見透かすように見つめる。


「シャロシャロ、嘘はダメだよー。そんな簡単な嘘はすぐにばれるから付かな方がいいよ。まあ、シャロシャロがその嘘をつきたくなる気持ちはわかるけどね。でも、今のところそれは大丈夫だから。わたしの担当はシャロシャロのままでいいからね」


 ウインクしながら可愛く言うその言葉には重みがある。見透かされてたと冷汗が流れる。

 この少女の様な見た目とは裏腹にこの女性が話す言葉は全て重く感じる。だからこそ冒険者としてのここまでの強さを持つことができているのだとも理解できる。


「で、わかっているよね? 『虐殺のオーガ』を倒した奥山俊って冒険者の担当は誰かって」


 その目は全てを物語っていた。

 ここで嘘をついたら確実に別の担当に乗り換えるだろう。でも本人も担当は私のままでいいと言っているんだ。ここは素直に話すしかない。


「すみません。アンズさんの言う通りです。嘘をついてました、申し訳ございません。アンズさんが探している冒険者であるオクヤマシュンさんの担当ですが……シルクです」


「へーそうなんだ! ありがとシャロシャロ! まだダンジョンに潜り始めたばかりだし、わたしの到達階層まで来るのはまだかかるだろうし、それにどうなるかわからないからねー。まだまだ安心していいよっ!」


 ニコっと笑うその笑顔は可愛いのだけど、その言葉はシュンさんが同じ階層まで来たら私の担当から外れると言う事でしょ。

 ……いや、逆に考えた方がいい。シュンさんを私の担当にすればいいだけの話だ。


「じゃあ、さっそくだけど、シルシルの所に行ってくるね!」


「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってください! それってオクヤマシュンさんの事について話しに行くんですよね!?」


「そうだけど?」


「だったら、私もついて行きます」


「どうして?」


 アンズさんが私に向ける目が笑ってない。

 しかし私がいない所で色々と勝手に動かれると困る。


「私の担当であるアンズさんがシルクの担当であるオクヤマシュンさんについて話すんですから、私も立ち会う義務があります」


 本当はそんなルールなど無いけど、少しでも言い訳として聞こえたらいい。


「……ま、いっか。いいよ、じゃあ一緒に行こっか」


 一瞬間があったけど、了承してくれたことに胸を撫で下ろす。


 そしてギルドの中を掃き掃除していたシルクを見つけて声をかけた。


「シルク、ちょっといい?」


「っ? なにシャロン。何か用?」


 その目は睨んでるようにも見える。

 でもその目は仕方ないと割り切って、私はシルクが向ける感情を軽んじて受けるが顔には出さず、茶化す様に言う。


「そんなに睨まなくてもいいじゃない。それよりも、私の担当のアンズさんがあなたに用があるの」


「アンズさんが?」


 そして私の後ろからにょこっと顔を出したアンズさんが前に出る。


「シルシルお疲れさまー。少しお話良い?」


「あ、アンズさんが私に用事ですか!? 50階層をソロで突破した超エリートのアンズさんが私にですか!?」


 シルクは驚きながらも何か嬉しそうに顔を赤らめる。

 この子はあまり上級冒険者から声をかけられる事なんてないから、有名人に声をかけられた事にテンションが上がってるんだろう。


「超エリートだなんて、シルシル褒めすぎだよー! じゃなくて。えっとね、シルシルが担当している冒険者に奥山俊って子がいると思うんだけど、その子について教えてほしいんだよねー」


「……シュンさんについてですか?」


 その瞬間、シルクの目が警戒心に満ちた目に変わる。

 そしてその目が私に向けられてキッっと睨みに変わった。


「シャロン、どういうこと? どうしてアンズさんがシュンさんについて聞こうとするの?」


 その目は私からまた冒険者が取られるかと思った怒りと脅えが入り混じった目だ。


「違うよシルシル? 奥山俊くんについては私が聞きたいだけだから、シャロシャロは何もしてないよ?」


「そ、そうなんですか……」


 次は疑疑問符を浮かべた様な顔になり、私を睨んでいた目はアンズさんに向けられる。


「そうだよー。奥山俊……うん、しゅんしゅんだね! そのしゅんしゅんについて教えられる分だけでいいから何か情報が欲しいんだー」


「えっと、それは難しいですね……」


 アンズさんがシルクにお願いをしたが、シルクは口を尖らせながら断った。それに疑問の表情を浮かべるアンズさん。


「どうして?」


「えっと、一応冒険者個人の情報は本人に確認をしてからでなければ教えてはいけないルールになってまして、シュンさんに聞いてみないといけないんですけど……」


「そっかー、じゃあ、しゅんしゅんに確認してくれない? それか直接しゅんしゅんに会わせてくれたら嬉しいんだけど」


「シュンさんに会わせる、ですか……。理由を聞いてもいいですか?」


「それは簡単。今期待の新人が気になったからだよ! 誰だって興味を持っちゃうでしょ?」


「なるほど……」


 真剣な目になって右手を顎に当てて悩み始めるシルク。この状態になった時は通常よりも頭の回転が速くなる……という特殊能力があるわけではない。単純に悩んでいるだけだ。

 そこまで悩むような事はないと思うけど。

 その体勢になってから十秒後シルクが口を開いた。


「でしたら、私からのお願いも聞いてもらえますか?」


「交換条件ね、いいよ!」


 アンズさんは笑顔で受け入れた。


「私の担当する冒険者に魔導士の女性がいるんですけど、その冒険者に魔法を教えてほしいんです」


「うーん……その子のレベルは?」


「28レベルです」


「28レベルで、女の子ねー」


 アンズさんはその場で腕を組みながらうーんと悩み、数秒後パッと顔を上げた。


「いいよ! その交換条件で交渉成立だね!」


「ほんとですか! ありがとうございます! マユさんもアンズさんに教えてもらえるなら絶対嬉しいはずです!」


 驚いた。二人ともこれで条件大丈夫なのか。私ならもっと別の交渉を考える。

 でもまあ、シルクにとっては自分の担当の冒険者が少しでも強くなれば自分の成果になるし、アンズさんは魔法を教えるなんて簡単な事だろう。しかし自分の時間を少しでも他人に費やすとは、それほどオクヤマシュンと話したいってことなのだろう。


「その子まゆって言うんだね。じゃあまゆまゆだ! えっと、じゃあね日程はそっちの都合に合わせるよ。わたしはいつでもいいから、シャロシャロと決めといてもらってもいい?」


「わかりました。じゃあシャロン、マユさんに確認して後で伝えに行くよ」


「わかった。それと魔法の教える日、その時は私も立ち会うから」


「……わかった」


「アンズさん、それでもいいですか?」


「いいよー。シャロシャロもよろしくねー」


 笑顔で答えるアンズさんに私は頷く。

 内心立ち会う必要はないのだけど、私の意図とは違う事が起こらないように監視をしなければならない。私が見ていない所で接触していたらどうにもならないけど、こんな特別なイベントが目に見えてるなら私は動こうと思う。

 アンズさんは何かしら全てにおいて、規格外だからだ。



もう1話続きます。

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