39話-3「特別指定モンスター」
奥に向かって行ったシルクさんを見ながら中村さんが呟く。
「シャロンさんと見た目はそっくりなのに、性格は違うんですね。今の感じなら噂通りなのは頷けますね」
「幸一さん……あれがシルクちゃんのいいとこなんですけどね。ダンジョンの最深部を目指すならシャロンちゃんの方が効率は良いのはその通りですけど」
少し冷めたような中村さんに対してこの前まで担当だった祐也がシルクさんをフォローする様に言う。しかし、シルクさんに対する評価が少し厳しいんじゃないだろうか。
「すみません! お待たせしました!」
そんな話を聞きながら少し待ったところ、シルクさんが準備をして戻ってきた。
「えっと、ナカムラさんとユウヤさんにネームドモンスターの発見報告報酬です」
そう言ってシルクさんと中村さん達がギルドカードを合わせる。
「……金貨10枚ですか。通常のユニークとは違って高いですね」
「そうですね。ネームドはユニークよりも上位の個体になるのでその相場になります」
そのやり取りに僕は目が点になる。
金貨10枚って、10万円か!? ネームドを見つけるだけでその金額って破格過ぎないか!?
隣で同じように貰っていた祐也も「まじか!?」と驚いてる。
「それだけ、ネームドは危険と言う事ですね。報告するために早急に戻ってきてよかったです。ですね、奥山さん」
「そ、そうですね……」
そこまで危険なモンスターだったとは……。
ほんとにあのタイミングで中村さん達が来てくれて助かったな。
「では、俺達の用事はこれで終わりましたので、失礼します。それとシルクさん、今から俺達はもう一度ダンジョン攻略に戻ります。先ほどは攻略の途中で帰って来たので。そうシャロンさんに伝えておいてもらえますか?」
「あ、はい。シャロンに伝えておきます」
淡々と用事を終わらせて次の行動に移る中村さん。少し淡泊だが、仕事ができる人間という感じだ。
そう考えるとあの時電車に飛び込んだ人物とは思えないな。あれは何だったんだろうか?
「あと、奥山さん。今日はお疲れの様なので誘いませんが、次回よければ一度ダンジョンに一緒に潜りませんか?」
「えっ? 僕とですか?」
急に想像していなかった話を振られたので返し方が変になってしまった。
それにその言葉でシルクさんの目が驚きで見開いてる。
「あれ? 嫌でしたか? 前にシャロンさんが奥山さんがパーティを組みたい様な話をしていたので、一度潜りたいのかと思っていたのですが」
「い、いえ。その話はしてましたよ! ただ今その話をするとは思ってなかったので。ぜひ、一度潜りましょう!」
「そうですか。では、日程をまた決めましょう。奥山さんの大丈夫な日程をシャロンさんに伝えておいていただければ大丈夫ですので。今のパーティとの日取りもあるでしょうし」
その言葉に僕は瞬時に返す。
「あ、それでしたら。僕は大体週末しか来ることが無いので早くても来週の金曜日になりますよ」
「そうなのですか? 今週は毎日来ていると聞いていたので2,3日後にはと思っていたのですが」
「あーなるほど。えっと、今週は有給を取っていたので毎日潜っていたんですけど、通常は仕事もありますから、2,3日後はちょっと難しいですね」
その言葉を言うと急に中村さんの態度が変わった。
「仕事……奥山さん、ダンジョンで生活してるのではないのですか? ……サラリーマン?」
「そ、そうですけど。後々はダンジョンで食べていけるようにと思っていますけど……」
「でも今はサラリーマンをしていると。こんな良い環境があるのにダンジョンだけで生きていかないと……」
その顔は真剣で、尚且つ少し狂気に感じた。
「あの、中村さん……?」
「あ、申し訳ありませんが、先ほどの話はなかったことに。その話だとたぶん俺達の方が先に進むのが早いでしょうから、足並みがそろいません。俺から誘っていてすみませんが忘れてください」
「え、ああ、はい?」
その一瞬の対応の変化について行けないまま中村さんは話を終わらせた。
「祐也くん行きましょう。奥山さん、またギルドで会えば良い情報交換でもしましょう。シルクさんもシャロンさんに言伝お願いします。では」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
そう言って中村さんと祐也はギルドを後にした。
そして俺は置いてけぼりの状態であった。
「えっと、シュンさん。シャロンとの事を聞きたいのはあるのですけど、なんかなかった事になったので大丈夫です」
「そ、そうですね。なんかまだ僕は理解できていないんですけどね……」
急に話が始まって自分で解決して終わって去っていった感じだ。当初思っていた人物像とは違う感覚が追加された。
何というか「真面目な自己中心的な人物」を加える事になりそうだ。
でもそう考えたら祐也とも性格が違いすぎると思うんだが。
「まあ、それよりもシュンさんの報酬を清算しましょうか」
僕が頭の中で今の急速な出来事をぐるぐる考えていると、シルクさんが手をポンと叩いて良い提案をしてくれた。
「はい。ぜひ! そうしましょう!」
「わかりました。ではシュンさんには、ユニークモンスターゴブリンの討伐で金貨2枚と魔玉(小)です。魔玉(小)は換金できますので換金しますか?」
「そうですね。必要ないので換金で」
「わかりました。では、ユニークモンスターゴブリンの討伐報酬は金貨3枚になります。それと、ネームドモンスター『独眼のウェアハウンド』の発見報酬が金貨10枚になります。合計金貨13枚、ギルドマネーでのお支払いになりますのでギルドカードをお願いします」
「わかりました」
いつも通りにギルドカードをシルクさんのと合わせる。
そしてギルドカードに表示されている金額を見ながら僕は口元が緩む。
今この瞬間、所持金が金貨20枚を超えた。つまり20万円を超えたという事だ。大学新卒初任給ぐらいは稼げたという事! まじか! すげえ!
「おぉぉぉぉっ」
「シュンさん嬉しそうですね」
シルクさんが僕の顔を見て笑いかける。
「そりゃもちろん。ここまでお金を稼げたんですよ! 前に話していた夢に一歩近づきましたから!」
「夢……あ、会社を辞めるって話ですか! 良かったですね!」
「はい! と言いたいところですけど、辞めるにはこの金額を安定的に稼げるようにしないといけないですけどね」
「ふふふっ。でもすごく楽しそうですよ」
まだ一歩近づいただけだ。それでも僕は笑っていたみたいだ。
いや、まじ嬉しいぞ?
少なくとも今ダンジョンから持ち出したら20万円分臨時収入になるわけだ。
実際は今日使用したポーション類の補充や武具の調整も含めると……あれ? 思っているより持ち出せない?
……武器とかポーションは経費で落ちないだろうか。