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39話-2「特別指定モンスター」


「しかし、そのネームド相手に良く生きてこれたね」


「そうですよ! シュンさん! 本当にご無事でよかったです!」


 ギルドマスターは腕を組み感心したように、シュナさんは心配と安心が入り混じったような声をかけてくれる。


「まあ、さっきも話した通りで僕一人ではギリギリ倒せなかったので。そこにこの2人が来てくれたおかげで生きて帰って来れましたから」


「まあ、それでもランクが上のモンスターに一人で戦うのは文字通り命懸けだ。よく頑張ったよ」


「あ、ありがとうございます」


 素直に褒められたことでなんだが胸が熱くなる。

 ここまで素直に褒められることなんて今までにあまりなかった。社会人になってからは尚更褒められる事などない。怒られることばかりだった生活にこの言葉は何だが心地よかった。


「でもまあ、あんたはいつも重大な情報を持ってくるね。コボルトがウェアハウンドに進化する例も初めて聞いたよ。それに10階層以上も上のモンスターが下位の階層にいる事もだよ。そう言う情報は常に求めているから助かるんだけどね」


 そう言ったギルドマスターは満足そうにカップの中身を飲み干し机の上に置いた。

 そして腕を組み、僕をじっくりと見る。


「じゃあ、最後の話だ。ネームドは通例として見つけた第一人者が二つ名をつける事になっている。オクヤマシュン、あんたに名付けの権利があるんだが、どうする?」


「僕が付けるんですか?」


 そんなことを唐突に言われても戸惑うだけだ。

 二つ名をつけるなんて考えてもいなかったからな……。


「いやなら、ギルド側で決めるんだが、何かないかい?」


「そうですね……」


 そう言われ、口に手を当てて考えるとすぐに一つ浮かんだ。安直だが、見分けるのには早いと思う。


「隻眼……いや、『独眼』はどうですか?」


「『独眼』? またどうしてその名にしようと考えたんだい?」


「あー、本当に安直なんですけど、そのウェアハウンドの左目が閉じてるからですね。コボルトの時に何かに潰されたんだと思います。会った時はもう片目だけでしたから」


「なるほどね。わかった。独眼……『独眼のウェアハウンド』にしようか」


 その瞬間、ウェアハウンドの二つ名が決まった。


 そしてギルドマスターが勢いよく立ち上がる。


「さてと、二つ名も決まった事だし、ここからはアタシ達の問題だね。あんた達3人とも時間を取らせて悪かったね。しっかりと報酬は出すよ。シャロン、シュナわかってるね」


「はい」

「手続きはできます」


 そして2人を見たギルドマスターが一層真剣な顔になった。


「シャロン、シルク。緊急クエストだ。ネームドの捜索依頼と討伐依頼を対応の冒険者に通達するよ」


「「わかりました」」


「3人とも以上だ。聞きたいことは聞けたからもう戻っていいよ」


「「はい」」


 その言葉に隣の2人は立ち上がる。しかし、僕はまだ立ち上がらなかった。

 それにおかしいと思ったのかギルドマスターが声をかけてくる。


「どうした? オクヤマシュン、何かあるのかい?」


 何かある……そう何かある。

 ここで僕は一つ確認しないといけないことを思い出す。

 いや、思い出すと言うか常に考えていたのだが。


「あの、一ついいですか?」


「なんだい?」


「依頼だった、倒したユニークゴブリンについてなんですけど……」


 それを聞いて、あっと言う顔になるギルドマスター。


「ああ、そうだったね。アタシがあんたに依頼していたクエストだからね。そんな中でそれよりも重大な事を持ってくるから忘れかけていたよ。ちゃんと証拠は持ってきたんだね?」


「はい、もちろん」


 そう言って僕はゴブリンの牙と魔玉を机の上に置いた。


「ほう。通常のゴブリンのよりも質が高い牙に欠片じゃなくて魔玉か。うん、確実にユニークの物だね。シルク、準備はできているんだろ?」


「もちろんです! 私は覚えてましたから!」


 満足そうにニコニコの笑顔で返事をするシルクさん。


「そりゃね、あんたの昇給に関わる案件だからね。よし、シルクはオクヤマシュンのユニークモンスター討伐依頼完了の手続きをしてから通常の業務に戻りな。シャロンは適正冒険者を持つ他の職員達を集めな。捜索討伐対象は『独眼のウェアハウンド』、適正レベルは40だよ」


「「はい! わかりました」」


「あ、シルク。わかってるだろうけど、ニシカワケンジにも確認しとくんだよ」


「はいっ!」


 いい返事をして部屋の扉に向かおうとするシルクさんをシャロンさんが呼び止めた。


「あっ、シルク。私もいい? コウイチさんとユウヤさんにもネームドモンスター発見の報酬の手続きを頼める?」


「シャロン……自分の担当なんだからそれは自分でしてほしいんだけど」


「だって、あなたより私の方が担当が多いから。他にも声かけないといけない冒険者がいるんだからね。それにあなたは通常の業務に戻るんでしょ? ついでにお願いしてもいいでしょ」


「でも……」


 シルクさんが中村さん達とシャロンさんを交互に見ていると、ギルドマスターが口を挟んだ。


「そうだね。シルク、この2人の対応も頼むよ」


「は、はい。わかりました」


 その一言でその場は収まった。


 そして各自行動に移る。

 ギルドマスターは奥に戻り、シャロンさんは走って応接室を出た。そして僕達はシルクさんについて行き応接室からいつもの受付まで戻る。

 その途中でシルクさんが上機嫌な声で話しかけてくる。


「シュンさん! お手柄ですね! 私とってもうれしいです!」


 シルクさんがニコニコの笑顔のまま僕の顔を見る。とてもまぶしい笑顔は相変わらずで、あのウェアハウンドとの攻防の傷も癒えそうだ。


「いえ、たまたまですよ。と言うか、運が良かったのか悪かったのか……」


「あっ、すみません。そうですよね。ネームドと言えば死にかけの戦闘になりますよね。でもそのネームドから逃げられたのは凄いことですから! それにきっちりとユニークモンスターを討伐したのは凄いです! 流石シュンさんです!」


 いつも以上に褒め散らかすシルクさん。褒められる事はうれしいので素直に受け取っておく。


「ありがとうございます、シルクさん。これでシルクさんの成績も上がりますもんね」


「はい! 私の成績も上がります! ……あっ! ち、違います! 違うくは無いんですが……純粋にシュンさんの成果がって……」


「わかってますよ。でも、僕もシルクさんの成績が上がるのはうれしいことですし。今回依頼を受けたのはそれも少しはありますから」


「えっ? そうなんですか?」


 じっとシルクさんが僕の目を見つめる。

 嬉しい感情と疑問が混じった様な目を向けられ、僕は少し戸惑う。

 なんと言ったら良いものか……。


「あの、俺達もいるので、二人の世界はそれぐらいにしてもらえますか?」


 と、シルクさんと見つめ合っていると隣に居た中村さんが割って入ってきた。


「わわわっ! すみません! えっと、ナカムラ様とユウヤさんの報酬ですよね、すぐに準備しますっ! カウンターで待っててください!」


 そう言って慌てながらカウンターの奥に向かうシルクさん。それを見ながら僕達もカウンターに向かった。




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