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38話-2「進化」


「ゴアァァァァァァァッ!」


 吠えながら僕の前に相対するウェアハウンド。

 さて、抗ってみるか。


「『ファイアーボール』!」


 ウェアハウンドが広場に出てくるまでに練っていた魔力で魔法を展開する。5個ほど生まれた火球がウェアハウンドに向かって放たれる。命中すれば少しぐらいは体力を削れるだろうと思っていたが……。


「まじかよ……」


 命中した。命中したんだが、ウェルハウンドは煙も上げずに左腕だけで防いでいた。

 防御力も格段に上がっている。今までゴブリンなどには確実に効いていた魔力量だが、こいつには全く効かないレベルになっている。


 考えろ。接近戦にするか、遠距離で戦うか。

 しかしその思考を遮る様にウェアハウンドが走り出す。


「くっ! うらぁぁぁっ!」


 接近してきたウェアハウンドに合わせるように剣を振るが、その剣はウェアハウンドの右手によって遮られる。

 傷一つ付いていない。


「硬すぎるだろ!」


 そう呟いたのも束の間、ウェアハウンドが左手を振るう。

 すぐさまバックステップで飛びのくが相手の攻撃は収まらない。

 右手左手と左右から振りかざされる爪による攻撃を剣でいなし続ける。しかしその攻撃はコボルト時代とは比べ物にならない程、重く、早い。受け切れずに所々傷ができ始める。


「くっ、そ……」


 漏れ出す様に声が出る。

 それぐらいこの攻撃をいなすことが難しくなってくる。


 とにかく離れないと。


「瞬動!」


 少しの攻撃の境目でバックステップを取り、スキルを口に出してウェアハウンドから距離を取る。

 そして剣を前に出して魔力を練り上げる。


「『ウォーターボール』!」


 そしてすぐさまもう一つ威力を込めた魔法を発動する。


「『ウォーターキャノン』!」


 この威力なら少しは攻撃が通るだろう。

 そう思い発動したボーリング玉ほどの水球がウェアハウンドにぶつかり弾けた。


「くそっ。この程度か」


 しかしその攻撃にウェアハウンドは少し仰け反っただけだ。本当に少しのダメージは通ったがそれだけだ。

 だからウェアハウンドはまだまだ僕から目を離さない。そのまま何もなかったかのように僕に向かって走り出す。


「ゴアァァァァァァァッ!」


 進化して知能は上がっているだろうが、なぜか攻撃は単調だ。スピードと威力頼みの大ぶりな攻撃。防御力が高くなったことによる突進。

 勝機を生み出すにはそこしかない。


 迫りくるウェアハウンドの顔面に向かって『ファイアーボール』を爆発させる。


「ゴアァァッ!?」


 その一瞬、ウェアハウンドが怯んだ瞬間に一撃を食らわせる。


「スラッシュ!」


 ウェアウルフの攻撃を避けながら横薙ぎに脇腹を切り裂く。その瞬間、瞬動でさっきと同じように距離を取る。

 そしてウェアウルフの状態を見る。


「スラッシュでもこの程度か……思ったよりも防御力が高いぞ……」


 しかしその攻撃は思っていたよりも効いていなかった。少しだけ脇腹を切り裂く事には成功しているが、その傷はナイフで切った程度。ゴブリンなら一撃で沈んでいる威力だが、それをウェアウルフは傷一つだけで済ませる。


「だけど、勝ち筋はあるな」


 声に出して自分の状況を認識する。

 傷がつくと言う事は何度もすればダメージを蓄積させることができると言う事。なら、これを何度もするだけだ。


「それに一つ奥の手……試したいこともある……っ!」


 少しだけでも勝ち筋が見えた事で一瞬でも気が抜けたのかもしれない。


 考えながらもう一度さっきの攻撃をしようと構えた瞬間、ウェアハウンドが吠えた。

 その直後さっきまでのスピードとはけた違いの速さで僕に肉薄する。


「なっ……!」


 ウェアハウンドの振り上げられた右腕が僕の首を掻き斬る様に迫る。だが、ギリギリその間に剣を滑り込ませる。しかし、その勢いは止まらず僕の体ごと数メートル吹き飛ばした。


「ぐうぅ……」


 地面に叩きつけられ口から変な声が漏れる。

 一瞬の油断が命取りになる。

 剣で防いだことでダメージは少ないが、地面に叩きつけられた事によって僕の動きが停止する。それを敵は見逃すはずがない。


 立ち上がる瞬間、目の前に黒い影が迫っていた。それは僕の行動を許さないように腹を踏みつけた。


「ぐふっ……!」


 踏みつけられた事によって肺から息が漏れる。

 レベルの恩恵で致命的なダメージとはなっていないが、この状態はやばい。踏みつけられているだけだが、その脚力は人間のそれとは違う。動いても持ち上がらず、蹴る事も出来ない。できるとしたら殴るか、剣で切るだけだ。しかしそれもこの体制ではまともな攻撃にはならない。進化したその強靭な皮膚にはただの撫で斬りでは傷一つ付かない。

 だからこの状態はマウントを取られている状態と同じ。手も足も出ずに、すぐに攻撃されれば一瞬で僕はやられる。


 冷汗が流れる。その場で逃げようと何度も藻掻くが全くびくともしない。


「グルルゥゥ」


 しかし、その声に僕は動きを止めた。

 違和感があった。その違和感を確かめるようにウェルハウンドの顔を見た。


 ……笑ってる?


 その声は唸り声ではなく笑ったような声。ウェアハウンドの声など知らないがその声色は今までとは違う音が混じっているように感じた。


「ガルゥゥゥゥゥ!」


 そして遠吠えの様に空に向かい雄叫びをあげた。

 そいつは確信したのだろう。これで僕の事を倒せると。ユニークモンスターになった事で少し上がった知能がこいつに油断を与えた。

 この状態になってしまったのは油断していた僕が悪い。しかし、この瞬間に起死回生の一手を考える。


 僕を舐めるな!

 二回ほど死にかけてるんだぞ!

 これぐらい対処しないでどうする!!


 ウェアハウンドが雄叫びをあげて僕から目を離した瞬間、練っていた魔力で魔法を構築する。

 構築するのは水魔法。それは通常とは違い固めずに流動する様に、そしてその場で留まる様に。


「『ウォータープリズン』!」


 剣を手放し右手を上にかざしたと同時に魔法がウェアハウンドの顔面に向かって飛んでいく。その水の塊は油断していたウェアハウンドの顔面に見事に命中して、顔全体を覆うように留まった。


「ゴボァァ……」


 ウェアハウンドが息を漏らし顔面を覆う水の中で空気の泡となる。そして、息ができないと顔面の水を掻き取ろうと手を動かす。そうしている間にウェアハウンドの足元は緩み、僕はその場から離脱する。


「くっ、はぁ、はぁ、はぁ……舐めすぎだ」


 立ち上がりながら距離を取る。その間にも魔力を練り続ける。

 ウェアハウンドはまだ水を取れていないようだ。しかし、それも時間の問題。飲み干されたり取り払われたらすぐに戦闘に戻るだろう。


 だから今までで一番大きいのを!

 魔力を練り上げる。イメージは巨大な柱。このモンスターを埋め尽くすほどの炎!

 僕の今の最大の魔法だ!


「『フレイムピラー』!!」


 ウェアハウンドの真下から高さ3メートルほどの炎の柱が立ち上がる。

 その炎はウェアハウンドを燃やし尽くすかの如く轟音を轟かせながら赤く輝いていた。



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