37話-3「ユニークモンスター」
「ゴギャァァァッ!」
吹き飛ばされて転がっていたゴブリンが起き上がりコボルトに向かって吠える。
それを合図に僕を一瞬見たコボルトがゴブリンに向かって走り出した。
そしてコボルトとゴブリンとの戦闘が始まる。
走ったコボルトはその勢いのままゴブリンにぶつかり再度吹き飛ばす。吹き飛ばされたゴブリンはなされるままに地面に叩きつけられた。
体力が僕との戦闘で限界だったのか、先ほどみたいにすぐに立つことはできない。
それが致命的だったのだろう、吹き飛ばした瞬間に走りだしていたコボルトがゴブリンに剣を突き刺した。
その一撃だけでは致命傷ではなかったのか叫びながら身を捩り逃げようとするゴブリンだったが、再度剣を突き付けられた事でゴブリンの断末魔が消えた。
そしてその勝負は5分も経たず終結した。
動かなくなったゴブリンを見てコボルトが立ち上がる。そして、
「ゴアァァァァァァァッ!」
叫ぶコボルト。
その瞬間ゴブリンが光の粒となって消え、光の粒はコボルトに吸い込まれる様に消えていった。
満足そうに、ゴブリンを倒した事でもう一段階自分がレベルアップしたかの様な喜びにも似た咆哮がコボルトからにじみ出る。実際にはそんな感情は僕にはわからない。
しかしこの瞬間はその感情がひしひしと感じた。
だからこそ、その咆哮は僕の感情にも影響を与えた。
「なんだよこれ……」
目の前でさっきまで戦っていたユニークゴブリンが倒された。
ゴブリンに対して圧倒的な強さを見せたコボルト。それは戦闘というほどではなかった。
かなりのダメージを負っていたゴブリンとダメージを負っていないコボルトでは自力やランクの問題ではない。一瞬の攻防でダメージが限界に達したゴブリンはあっけなく倒された。
自分が狙っていた獲物を横取りされたような気分は後を引く。
モンスターが冒険者の獲物を横取りするなどシルクさんに聞いた事がない。しかしこいつは確実に僕の獲物を横取りして行った様に見えた。
「まさか……」
こいつ、このタイミングを狙っていたのか。
横槍を入れられたタイミングは明らかに僕がゴブリンを倒す瞬間だった。確実に最後の一撃を放つ瞬間に横から掻っ攫って行った。不発に終わった俺のスラッシュはその場で霧散し、無駄なSPだけを使う事になった。
これがユニークモンスターの行動か。普通のモンスターとは行動が違う。
そしてコボルトが俺を見る。次はお前だと言うかの様に僕の事を睨む。それに対応する様に僕も剣を構えた。
あっちも僕の事を覚えているだろう。2回会っているんだ。それに一度モンスターを押し付けられた、あれは僕の記憶に鮮明に残っている。
それゆえの敵対心なのか、ユニークモンスターとしての性なのかわからないが僕に対しての威圧がゴブリンに対するモノとは明らかに違った。
さっきのゴブリンとの攻防だけでは強さがわからないが、少なくとも今のコボルトはあの時の奴よりも強くなっているだろう。
だけど、気を抜かずに対応すれば負ける事は無いはずだ。ゴブリンが瀕死になるまで待って、横から掻っ攫って行った事がゴブリンと同等の力だという証拠。だったら勝てる。
しかしその考えは一瞬で四散した。
「なんだっ!?」
その時、コボルトが黒い霧に包まれ始めた。
初めて見た光景。それは異常な事が起こったのだと一瞬で認識する。
その黒い霧はコボルトを全て包み込んだ後、一回り程大きく膨らみ始める。その中で異様な何かが起こっているとわかる。それほどのプレッシャーがその黒い霧から放たれていた。
そして黒い霧が晴れた時、僕の警戒のアラームが鳴り響く。
「嘘だろ……」
その姿は元のコボルトとは似ても似つかない。
僕よりも小さかった身長が180センチを超え、灰色だった毛色が黒色に染まる。その毛の中に隠れている筋肉も一回り程大きくなっている事を感じ、顔つきも犬と言うより狼に近い顔つきに変わっている。
そして、異様なまで威圧感が増大し、傷ついて閉じている左目が異様な空気に拍車をかけていた。
「ゴアァァァァァァァッ!」
「……っ!」
そのモンスターの咆哮がびりびりと空間を震わせる。
先ほどまでとは違う咆哮が見た目だけではなく強さも変わっていると強制的に認識させられる。
その威圧感は初めてダンジョンに潜った……『虐殺のオーガ』と引けを取らないほどの圧力。
「な、なんだよこれ……進化したのか……」
進化。このモンスターにはその言葉が当てはまった。
初めてモンスターが目の前で進化した瞬間を見たが、しかしこれは通常の進化ではないと瞬時に理解する。
それはそうだ。明らかにコボルトではない。
兼次さん達から聞いたコボルトがそのまま大きくなったようなハイコボルトなどとは違う。種族自体が進化したような、見た目からして変わっている。
だからこそすぐに魔法で確認する。目の前にいるモンスターが先ほどまでもコボルトなのかどうかと。
「『サークナ』……まじか……」
思っていた通りだった。
目の前にいるモンスターはコボルトではない。コボルトなんかとは似ても似つかない、もう一段上のモンスター。
僕の目に映ったそのモンスターの名前は……『ウェアハウンド』だった。