37話-2「ユニークモンスター」
あれから1時間は探したところ、通常のモンスターは出てくるがユニークゴブリンが見当たらない。というか、魔道具に映らない。
「23階層を隅々まで探すつもりだからここで弱音吐いててもだけど、まだ半分も行ってないって思っているより大変な作業だなこれは」
愚痴を言いながら歩く。
というより、この魔道具の探索範囲が思っているよりも狭い。直径500メートルしか探索できないようで、森の中や隠れているのを探せるから見落としが無いのはいいが、このだだっ広いエリアを捜索するには行ったり来たりしないといけないのではっきり言ってめんどくさい。
「シルクさんが22階層付近で確認したと言っていたから、23階層にいる可能性もあると念入りに探しているんだけどまだ来ていない可能性もあるよな」
そこからもう1時間ほど探したのだが、出てくるモンスターは通常のオークやゴブリンなど。求めているユニークゴブリンは見当たらなかった。
そしてそのまま22階層へ進む。
「ここで見つからなかったら余裕だと思って依頼を受けた自分を殴りたい。21階層へ逆走だけはしてくれてるなよ」
そう思いながら22階層へ踏み込む。
広がる草原と森。元々わかっていたが、23階層と同じ捜索をしないといけないと思うと億劫になりそうだ。
とにかく23階層と同じようにしらみつぶしに探していく。
探し始めてから約30分ほど、とうとう反応した。
目を落としていた画面の中に赤い点が点滅する様に光っていた。
「見つけた!」
少し開いた広場から森の中に入り、その赤い点が近づくように移動する。ここでバレて早々に移動されたらまた面倒臭くなると慎重に行動する。
「いた! あいつか」
森の中。そいつは木々に隠れるように立っていた。
見た目は他と変わらないゴブリンだが、持っている武器が違う。
今まで見た様な棍棒や安そうな剣ではなく、立派な冒険者が使うような剣だ。倒した冒険者から奪ったのか、落ちていた武器を拾ったのかどちらかだろう。
少しだけ観察する。どのような動きをするのかどう対処するべきなのか。そしてそれも数分で終わる。
「さて……」
このまま様子を見ているだけでは意味ないからな。こいつを見つけるのに少し時間もかかっている。サクッと終わらせるか。
とにかく先手必勝。ぎりぎりまでゴブリンにばれないように静かに魔力を練り上げる。
「凝縮して威力を増大……『ウォーターキャノン』!」
前に出していた右手からボウリングの球ほどの大きさの水球が勢いよくゴブリンに発射される。そして同じタイミングで剣を抜き走り出す。
「ゴギャァッ!?」
見事顔面にぶつかった水球によってたたらを踏むゴブリン。
いつものゴブリンならこれで倒せることもあるが、やはりユニークと言ったところか、耐久力が高い。ダメージは与えられているとわかるが、ゴブリンは倒れること無く踏ん張り僕を一心不乱に睨みつけた。
「ゴギャァァァッ!」
咆哮によって少し威圧を感じるがあの時のオーガとは比べものにならない。余裕で耐えられる。
そのまま僕は剣を横薙ぎに振り切る。
「はあぁぁぁっ!」
しかしその攻撃は大きい金属音を立ててゴブリンの剣に防がれる。
だが、それは想定済みだ。
僕が戦ったユニークモンスターは剣を十分に使えてた。それを前提に想定すればユニークとまで呼ばれる個体ならこれぐらいの対応はしてくるだろう。それと階層が上がるにつれて普通に戦うモンスターは五万といるはずだ。こんなことで驚いていたらすぐに負けてしまう。
そして剣を振り攻防を続ける。一撃一撃慎重に振り続ける。
やはりこのゴブリンは強い。
だけどギルドマスターが僕なら倒せると踏んでた通り、このままなら十分倒せると確信できた。
「はあぁぁぁぁっ!」
「ゴギャァァァァッ!」
横薙ぎ、振り下ろし、振り上げ、所々にフェイントを入れた攻撃で徐々にゴブリンに傷が増えていく。まだ致命傷には至っていないが、このままでも十分渾身の一撃を入れる事ができるだろう。
そしてその隙はすぐに来た。
鍔迫り合いになった瞬間、練っていた魔力を魔法に変える。
「『ウォーターボール』!」
それを真横からゴブリンの顔面にぶち当てる。それによりたたらを踏んだゴブリンに大きな隙ができた。そこに渾身の一撃を繰り出す。
「スラッシュ!」
上段から振り下ろしたスキルによる一撃はゴブリンを切り裂いた。しかしまだそれだけでは倒せていない。耐久値が高いだろうユニークモンスターならこの一撃だけでは倒せないと織り込み済みだ。
それにどれだけ強いのかわからなく、長時間の戦闘も想定していた事で、オーバーキルにならないようにSPを調整しながらスキルを使ったのもある。
しかしもうこれで終わりだと、横薙ぎに剣を構えSPを込める。
だからこそ目の前のゴブリンだけしか見えていなかった。
数分間に及ぶ攻防が続く中、その攻防に終わりが来る。
「ゴアァァァァッ!」
その咆哮が聞こえた瞬間、目の前のゴブリンが横に吹き飛んだ。
「ゴギャァッ……」
「なっ!?」
その光景に何が起こったかわからず間抜けな声が漏れた。しかしすぐに頭を回転させる。
ゴブリンが勝手に吹き飛んだわけではない。何かが吹き飛ばしたんだと。
それが目の前にいるモンスターだということ。
そしてそのモンスターは見た事があるモンスター……
……左目に傷をつけたコボルトだった。