33話-1「最大の攻撃と最速の行動①」
ボス戦一体目。
「ここが24階層」
階段を降り、目の前に聳え立つのはいつも見るボスの間と同じ重厚な扉だ。
中級冒険者になれるかならないかの壁であるボス戦。
緊張しないわけではないが、強敵だろうモンスターと戦う事に少しワクワクしている自分がいる。
「よし」
呟き、扉に手をかけようと一歩進む。
「あ、一つだけ言っとくわ」
僕が扉を開ける前に兼次さんが呼び止める。
「俊なら無いやろうけど、もし無理やと感じたらそっちからは扉を開ける事は出来るから、逃げられるしな」
「……ん? 逃げられるんですか?」
「そや。こっちからは入れへんけど、そっちからは出れる。それは今までのボス部屋と同じやな」
「そうなんですか」
兼次さんの言葉を聞いて驚く。
知らなかった。
今までボス部屋から出ようと思った事が無かったから気にもしなかったが、ボス部屋から出られるのか。
だったらさっきの「入った者が出ない限り」と言うのはてっきり「攻略」か「死」かと思っていたが、「逃げる」事も出来るのか。
そう思い出すと、兼次さんと会う前に絡まれたあのおっさんが25階層を攻略できないって言ってたのがそう言う意味だと理解できる。
「攻略できたら勝手に扉が開く。逃げるなら扉を開ける。まあ、俊ならそんな事にはならんやろうけど」
「……そうですね。わかりました! その期待には答えます。勝手に扉が開く事を楽しみにしていてください!」
兼次さんの言葉で気合が入った。
僕は目の前の扉に手をかける。
内心ここまで期待される事は今までになかった。
学生時代も社会人になっても。
大抵普通にこなしていた僕は一定のレベルに達すると普通の事が多かった。
だからこそ期待と言う目で見られる事には慣れてないし、むず痒い感じがするが、それ以上に嬉しい感情が上回っているのかも知れない。
「おう! 行って来い!」
「はい!」
さて、24階層、攻略開始といこうじゃないか!
腕に力を入れて扉を押す。
重低音を響かせながらスムーズに扉が開く。
そして、開き切る前に一歩、部屋に足を踏み入れる。
「……」
目の前に、いつものボス戦の様に、部屋の中心にモンスターが滞在している。
そして後ろの扉が音を立てて勝手に閉まる。
これで周りからの助けはなくなる。
1人の時間だ。
「さて、今回のモンスターは……っは?」
しっかりと目の前にいるモンスターを見て、僕の口から驚いた声が漏れた。
「なんだ、こいつは……」
目の前にいたモンスターの姿に困惑する。
大きさは全長4-5メートルほど。
深緑の色合いで4本の足で巨体を持ち上げ、後方には尻尾の様なモノが生えている様に見える。
顔はしっかりと僕の方を見つめ、威嚇をする様に口を開けている。
「いや、こいつって……」
そして、そのモンスターの最大の特徴が、「甲羅」を背負っていた事だった。
「カメ……だよな?」
そう、なんと言っても完璧な巨大な亀が僕の目の前に立っていた。
「ガメェェェェ!!」
「……」
そのカメは僕をみるや否や激しい咆哮で威嚇する。
いやいや、吠え方が「ガメェェェ」って……。
その雰囲気に恐怖は全く感じなかった。
と言うか、その大きさのくせに目がつぶらで可愛くも見えるのだ。
……これが中級冒険者になるための一体目なのか?
もっと凶悪なモンスターが出てくると思っていたのだが、こんなモンスターだったとは。
なんとも言えない……。
しかし、油断はしない方がいいだろう。
こんな見た目でもボスなのは変わらない。
手強い相手だからこそ、振るいにかけられるわけだ。
「すうっっ……、はぁぁ……。よし」
深呼吸をして、剣を抜き構える。
さて、見た目通りなら防御力が高いんだろう。
「だったら魔法も考えて撃たないと……」
その時、目の前のカメよ目力が急に鋭くなり。
「……っ!!」
前足で地面を大きく殴りつけ、
「ガァーメェェェェェ!!」
「……っ!!」
その瞬間、レーザビームの様に水の塊がカメの口から発射された。
咄嗟に僕は横に飛び、その攻撃を避けるが……。
「……これは、やばいな」
避けた場所を見て身構える。
元居た場所が抉り取られる様に削られていたからだ。
「ガメェェェェ!!」
「中々の強敵だな……!」
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