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28話-4「20階層のボス」



 一瞬で状況を判断する事はできないが、ミノタウロスの振り下ろしと同時に走る。


「っ! 瞬動!」


 逃げる方向はミノタウロスの足下。後ろや横に逃げてもさっきの破片攻撃が来る。じゃぁ決まっている。


「……くっ、はっ」


 とっさにスキルを発動し避けるのは間に合った。思った通りの場所、ミノタウロスの懐。大きさに差があるから懐というよりは足下だが。


 しかしだ、どうやって近づこうか考えていたのに、あっちから近いてくれ攻撃を避けれたのはラッキーだ。

 ここまで近づけたら出来る選択肢は増える。というかこれで決める。


 幸い今のミノタウロスの攻撃で砂煙が舞っている。

 大きく振りかぶり、溜める。ミノタウロスは一瞬僕を見失ってるのだろう、追撃がない。


 まだ動かないのなら。


「っ!! スラッシュ!!」


 その場で横長にスキルを放つ。いつもより溜めた威力を乗せ斬撃はミノタウロスの左足を斬り裂く。


「グオォォォォッ!」


 切断するまではいかなかったが腱を斬ることは出来ただろう。大きく叫びながら目の前で膝を着く様に倒れるミノタウロス。

 そこからミノタウロスの攻撃はない。


 これだけ時間が出来たら、いける。


 一方後ろに下がり手を前にかざす。イメージ、そして魔力を溜める。丁寧に素早く練り上げる。威力を上げ、範囲を広くし、燃やし尽くすイメージを。


 ミノタウロスがこっちに気づき、一瞬目が合った。


「『フレイムブロード』!!」


 今最大の威力で撃てる火の魔法。


「グ、グオォォォォォ、ォォ……」


 叫びながらミノタウロスが燃やされる。これで倒せるとは思っていないが大きなダメージを与えられるだろう。もちろんミノタウロスはその巨体を動かし必至に身体の火を消そうとする。

 僕の魔力ではまだ一撃でこいつを倒すことは出来ないのはわかる。だから次の一手を考える。

 今使える技の中で一番の威力を出せるのはやはり剣だ。剣の性能もあり僕のレベルでは出せない攻撃力だと兼次さんが言っていた。

 それを急所に、尚且つ最大の威力で放てばどうなるか。これで確実に決める。


 構えながら溜める。今のSPを全て出し切る勢いで。


「グオォォォォォ!!」


 ミノタウロスが身体の火を消し終わり座り込んだ瞬間を見計らう。

 怒りで叫んでいるが気にはならない。後ろに回り、瞬動を使い一瞬で首元に飛ぶ。

 そして放つ。


「はあぁぁぁぁぁ!! スラッシュ!!」


 今出せる最大の威力で横長にその太い首目掛けて放つ。

 全力で放った斬撃はミノタウロスの防御力を上回り、その太い首を斬り飛ばす。

 赤い鮮血が吹き出し周りに水溜りができる。


 その一瞬の出来事で雄叫びもあげる事なく、光の粒となり消えていくミノタウロス。


 戦いが終わる。その巨体が居なくなった空間に静寂が訪れる。その場に残るのは巨大な斧とミノタウロスの二本の角。


 型にはまるというかイメージ通りに動くことが出来たらここまでうまいこといくのかと感じた戦いだった。


「ふーぅ。……ん?」


「流石だな。ここまでやるとは思っていなかったわ。ほらよ」


 拍手しながら近づいてくる兼次さん。そしてSPポーションとMPポーションを渡してくる。


「え? これいいですよ。別に僕も持ってますし」


「ええよ、ええよ。ミノタウロス倒した祝いと思って取っとき」


「はい。じゃあ遠慮なく」


 一気に飲み干す。じわじわと回復してくるのがわかる。どっちも値段が張るから助かるな。


「どうや、ミノタウロスは弱かったか?」


「いやいや、中々強かったですよ。でも、まあここまで綺麗に倒せるとは思ってませんでした。一瞬ドキッとしたところもありましたけど」


 笑いながら聞いてくる問いにそう返す。


「いや、これだけ圧倒的に倒せたら上出来だわ。何度も言うけど予想以上だわ」


「ははは、そんなに褒められたら僕も調子乗ってしまいますよ」


 ここまで褒められたら嬉しい。久しぶりに褒められるのは心地よい。


「身体の使い方はここまでの階層でしっかり使えるのはわかっていたが、スキルの使い方も独学でここまで使いこなすのはひびった。やっぱ俺の目に狂いはなかった」


「あ、ありがとうございます」


「極め付けはあの魔法だな。この短い時間であのレベルの魔法を使えると、しかもこれも独学で。どれだけ将来有望なんだと思ったわ。はっきり言って俺なんか一瞬で抜かされるな」


「いやいや、何を言ってるんですか」


 てか、一段と褒め始めたけど。なんだ、僕を褒め殺すつもりか? 嬉しいから良いんだけど、ウェルカム。


「しかし、実際はもっと苦戦してくれた方が良かったんだがな。お前の実力を少し下に見過ぎでいたわ」


 ん? 何を言ってるんだろうか。苦戦しない方が良いと思うんだが、僕の実力がわかってもらえただろうし。


「これじゃあ、強化ミノタウロスにした意味も薄くなるな。でもそりゃそうか、お前あの「虐殺のオーガ」を倒してるんだもんな。この結果は当たり前のことなんだろうな」


 何言ってるんだ。話が読めないのだが。


「まあどれだけお前が謙遜していてもそれは口だけで、実際は絶対に負けないって自信がある。じゃないとあんな動きは出来ないしな。ミノタウロスを見た瞬間から勝てると思っただろう」


「はい? ってなんの話ですか?」


「まあ聞け。お前の実力ならこのまま30階層までは余裕だろう。レベルを超える経験値がある。武器も技もある。しかし、何か足りないだろ」


 足りないもの。


「それは出来るなら早めに味わって、そして乗り越えて欲しいと俺は思う。というかそれを味わった奴しか先に進めないと思う。お前は成長速度が速いからそれも早めに味わえってこと」


「ちょ、ちょっと待って下さい……」


「察したか? つまりは、一回完膚なきまで負けろってことだ。その敗北感、死ぬ一瞬の感情。それを味わえってことだ。それをミノタウロスで味わって欲しかったんだかな、俺の計画ミスだ」


「いやいやいや、何言ってるんですか。冗談はやめて下さいよ……」


 次に来る言葉が予想できて、兼次さんの言葉を遮ろうとするが。


「俊、構えろ。そんで一回完膚なきまでの敗北って奴を味わえ!」


 そう言い兼次さんは剣を構えた。




 

28話終わりです。

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