28話-2「20階層のボス」
しかしこのタイミングで兼次さんが声を掛けてくれたのはラッキーだったと思うな。どれだけ一人で頑張りたいと言ってもいつまでも続くわけではない。早めに教えを請った方が成長は早くなる。
自分で基礎は出来てると思っているが基本と実戦は違うわけで、頭でわかっていてもどのような動きが最適かわかっていなかった。
それを兼次さんの動きが教えてくれる。
「まあまあ勉強になったか?」
そう十数体のモンスターを倒してから声をかけられる。
「はい、勉強になりました」
たったの数分だったが今理解できる技術を盗もうと努力する。全てが全て盗めたわけではないがこれはレベルは上がったと思う。
「じゃあ後はお前が倒していけよ」
「はい、わかりました」
さっきまで感じていなかった感情。この人の言うことは素直に聞ける。尊敬という思いが出てくる。
それから19階層に出てきたモンスターは僕の技術発展の餌食となる。
早々兼次さんの技術を使えるようになるのは難しい。頭で理解できても身体が動かないことが多い。少しでも感じるレベル差から来る身体能力の差。あれだけ綺麗に動くことは長い時間ダンジョンに潜って来た賜物なのだとわかる。
でも、着々と技術は使えるようになってくる。
「あっ、ちなみに兼次さんは今どこに住んでるんですか?」
「ん? 今か? 今はここに住んでるよ。ゼロ階層」
下に指を向けてそう言う。
「え? この中に住んでるんですか?」
「そやな。ここら辺が地元なんやけど、近いといっても毎日ダンジョンに潜るし帰るのも面倒になってな。住んでしまったわ」
めんどくさいからって。住めるとは思っていたけど、まじで住んでるんか。
「ホテルとか宿泊施設は金がかなりかかるんじゃ……」
「ん? あー、ホテルに住むんは流石に高いしな無理やぞ。今はマンション的なのに住んでるわ。割と快適やな」
は? そんなのもあるんか?
「別にゼロ階層に住もうと思ったら共同宿舎もあるな、寮みたいなんやけどお金が貯まるまでは住んどるやつもいるよ」
まじっすか。そんなのもあるんですか。そうなったらダンジョン内って快適すぎないか。
「驚いてるなぁ。今度うち来いや。外とそんなに大した差がないからちょっとがっかりするかもやけど」
「あ、はい。行かせてもらいます」
ちょっとこれからの事を考えると気になるしな。
「さて、この階層も後少しやしさっさと終わらせるか!」
別にさっきから話しながらも攻略は進んでいるのだが、ペースを上げてすることになる。
それから1時間も経たないうちに19階層の攻略が終わる。何も変わったことはなくモンスターを倒してただ進んで行くだけだった。
レベルは一つ上がり16レベルになった。そこまでモンスターを倒したわけではないが新しい技術を使いながらの戦いだったので上がったのだろう。もう少しレベル上げをしたかったが仕方ない。
今は20階層へ続く階段の前で座り休憩している。
「さて、次は20階層だな。ここまで見ていて俊ははっきり言って強い。次のボスは油断しない限りは難なく倒せるレベルだ。しかしそれはソロで行った場合だと思う。10階層のボスの時もそうだったが複数人で行くとボスは強くなる」
「あー、はい。そうみたいですね」
祐也達が入って来る前と後では明らかに強さは違った。
「それで、今回は俺も一緒に入りそいつを一人で倒してもらう」
「え? 僕一人でですか?」
「20階層の強化ボスぐらい一人で倒せたら30階層までは余裕やしな。修行と思ってやってみろ。今の見立てならギリ倒せるぐらいやな」
「は、はい。わかりました……」
意味はわかるけどかなり不安だ。
ここまでの戦いで僕の力の全てを見せた訳ではないが不安は顔をだすわけで。
「ちなみに危ない時は……」
「俺の加減によるけど、その時は割り込むから安心し。お前に死なれたら元も子もないからな。でもまあ、そんな事にはならんと思うよ」
兼時さんがそう言うなら試してみる価値はあるよな。この人なら簡単に倒せるだろうしな。ちょっと安心してもいいかもしれん。
「さて、そうと決まれば早速行くか」
「そうですね、ちょっとテンション上がって来ましたし」
兼次さんが腰を上げると同時に僕も立つ。テンションが上がってきたのも本当だ。あのレベルの戦いを見せてくれた人に強いとお墨付きを貰い、次のボスも難なく倒せると言われたのだ。やる気が出ないわけがない。
話しながら階段を降りる。
「あ、思ったんですけど。攻略ってパーティ組んでする人が多いと思うんですけど、これから強化ボスばかりと戦う事になるんですか?」
「ん? あーそうやな。30階層からのボスはソロ時に強化されるな。20階層までと逆やな」
「え? なんで……」
「さて、着いたぞ。その話はまた後でやな。まずはこのボスのことだけ考えよか」
おお。いつのまにか階段を下り終えてたみたいだ。目の前には大きな扉が開いている。
その話は気になるけど後にして。
ここからは意識を変える。兼次さんからあれだけお墨付きをもらってるが内心不安しかない。
それでも自分の実力がどこまであるかはかなり気になるところだ。強化ボスを一人で倒せて僕の場合は一人前だということだろう。まだパーティも決まっていない。今のところほとんどソロでの行動だから強くならないといけない。
「兼次さん、ちなみにここのボスはなんですか?」
「おいおい、それを今聞くか? 目の前にいるんやから自分で見ろよ。それが楽しみやろ」
それもそうだな。自分の目で見てだ。
やべ、ドキドキしてきた。
躊躇なく一歩足を踏み入れる、それと同時に部屋に光が灯る。
中に僕と兼次さんが入ると目に入る、二足で立つ巨体。オーガの倍はあるだろう巨体が中央に陣取っている。
「ははは! そうか……」
僕の身体より太い腕に脚。その手には僕では決して触れないような斧が握られている。見ただけで威圧を感じる、身体は人で顔が牛のモンスター。殆どの物語で出てくる怪物。
「……ミノタウロスかぁ!」