28話-1「20階層のボス」
「まじか、めんどくさいなぁ」
ダンジョンを出てからの帰り道、思い出すのはあの強烈な人物。
「え? 一緒に潜るんですか?」
一緒に潜ると言われ少し動揺しそう答えたのに対して、
「いい案やと思わんか? これなら奥山くんの実力もわかるし」
「え、えーっと……」
「なんや、嫌なんか……」
いや、別に嫌と言うわけでは無かったんだけど。
って、なんかしょんぼりしてるんやけど。急に言われるから準備など考えてなかったわけで、
「まあ、大丈夫ですけど」
そう返事を返すと、
「それなら決定やな!」
力強く拳を握り、強引に決定されてしまった。
何というか強引というより豪快なイメージの人だった。身体が大きいのも相まってかもしれないが。
その後来た餃子と後で頼んだラーメンを食べて解散になった。どっちも美味かったから良しとしよう。某餃子屋さんと比べても遜色がない程だから、この店の料理人は流石だ。ちなみに冷凍品が無い中あの回転率は凄いと思った。
そんなことよりだ、まさか兼次さんと潜ることになるとは思わなかった。まずレベルが違うし、いつかは合流するかもと思っていたけどここまで早く潜ることになるとは。はっきり言って気にして無かった。
てか、あのテンションで来られたら断るに断れないよな。別に一緒に潜るのが嫌と言うわけでは無いが、まだ一人で行動したかったのは確かだからな。
そんなことを今更考えても仕方ないし、明日に備えますか。
「んーー! 夜風も気持ちいな。体もいい疲れ方してるし、帰ったら一瞬で寝れそうだ」
軽く伸びをしながら夜の道を歩く。
この一週間は気分良く帰れてる。仕事をしていた時には考えられない感じだな。
◇
「おはようさん」
「おはようございます」
ってことで朝の9時。ギルドの前で待ち合わせる。
この時間は少し遅いかもしれないが、仕事では無いわけで自由に生きるならこれぐらいの時間がベストだと思っている。いい時間だ。
ちなみに9時待ち合わせは僕が指定した。自分の時間を削られるならそれぐらいは、と思ってだ。
「しかしなぁ、奥山くんはもう少し早い時間から始めた方が良いと思うわ。早起きは三文の徳っていうやろ?」
「そうですね。わかるんですけど慣れるまではこれでいいかなーって」
仕事じゃないので他人にどうこう言われたくない。別に一生この時間にダンジョンに来るわけではないからな。
「まあ、別にええんやけどな。さて、準備もできてるやろうし早速行くか」
「そうですね」
そうして転送ゲートに向かって歩いて行く。
18階層。これまでの階層通りの風景でありモンスターも変わらずだ。このまま普通に攻略はできるだろうなと思う。
しかしだ、ここでモンスターと戦うのは僕だけだった。兼次さんは戦うわけでなく様子を見ている。剣すら出していない。
兼次さんが言うには「俺が戦っても意味ないし、今日はお前の強さを見る為だからな」とのことである。納得するからいいがなんか腑に落ちなかったので次の階層では少し戦って欲しいと言うと了承してくれた。
18階層の攻略は難なくスムーズにいった。危ないところもなくいつも通りモンスターを狩って行くだけだ。
兼次さんの一言「想像以上だな」の言葉はかなり嬉しく思った。
続けて19階層の攻略に入る。やはり階層内は相変わらず進むに辛いことはなかった。約束通り剣次さんと途中まで行ったところで交代する。
「ちょうどゴブリンが出てきましたし、兼次さんそろそろ見せてくださいね」
そう促す。
「約束だしな。よし、じゃやるか」
そう言い今日初めて剣を抜く。
「勉強だ。よく見ておけよ」
兼次さんの戦闘スタイルは要するにタンクだ。大きめの盾と剣で戦うのを得意とする前衛なのだが、今は盾を構えず背中に背負っている。今回は盾は使わないらしい。というか使う必要がないのだろう、ゴブリンだし。
僕は盾を使わないので剣だけの方が参考になるのでじっくりと観察する。
兼次さんは動かない、まずは様子見か。先に動くのはゴブリン。武器を持っていないからただ突進するように兼次さんに向かい走って行く。それをバックステップもせず少しの動作で避け、避けきる前にゴブリンの首に剣を当て、飛ばす。
……おお。その動作だけでわかる、この人は強いと。
「こんな感じやな」
声をかけられるまでその動作に意識を持っていかれていた。今の僕ではあそこまで綺麗に動けないだろう。どれだけ弱くても少し構えるところはあるので、大きく避けてしまう。最小の動きで倒す、あれはかなり慣れなければ出来ないと理解する。
「凄いですね。はっきり言ってビビりました。あそこまで綺麗に動けないですよ」
しかも、それが本気ではない盾無しの剣だけの動きである。ゴブリンだからかもしれないがそれでも今見たのは一部なのだということだ。
「慣れたら奥山くん……もう俊でいいか? 俊でもできるようになるわ。大したことしてないからな」
「え、そうですかね」
大したことはない。それは本当なのだろう。そういう顔をしてる。
「兼次さんってダンジョンに来てどれぐらいなんですか?」
「俺か? そうやな、1年とちょっとか? ここが出来てすぐに来なかったからな、そんなもんか」
約1年でこのレベルか。今も力の一端しか見てないが、強いな。ちょっと自分との力の差を感じてしまった。
「一応頑張って攻略はしていたからな。俺のレベルらへんは一度修羅場をくぐってるからなこれぐらい出来て当たり前や。それでももっと上には上がいるし、果てしないけどな」
笑いながら兼次さんはそう言う。
「さて、俺の戦いもお前の勉強になるみたいやしどんどん倒していこか!」
そう言いモンスターを探し始める。