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4話「エルフとダンジョン」



「やっぱり、ダンジョンか」


 目の前に建っている塔のような巨大な建造物はダンジョンだ。

 青年を追いかけて、あの身体の強さの謎を掴もうとしたのだったが、想像していた通りだった。つまり、


 ダンジョンに潜ってレベルを上げる。


 自分の予想が正しければだが。少し推測してみる。

 ダンジョン内の物は決まっているモノしか持ち出せないが、身体能力は別。

 どれぐらいの割合なのかわからないが、ダンジョン内での強化による影響はこちらの世界にもあることになる。


 ダンジョン内には魔素というものがありそれを取り込みレベルが上がる。

 こちらの世界には魔素が無い。

 これについてはダンジョンが賑わっていた時期に一応調べてみたから覚えている。


 そうなると、ダンジョンから出てからも魔素は体内に残る。

 大きな身体能力の変化がないとなると、ダンジョン外にでることで、魔素が分散し体内の魔素量は少なくなるのだろう。しかし、レベルが上がったぶんの魔素量は体が何かしら覚えていることで、ダンジョンに戻ればレベル自体は元に戻る。


 これが正しければ、


 レベルの上昇による身体能力の向上。


 つまり、これがあの青年の強さの秘訣、というか源だったわけだ。


 燻っていた心が昂ぶる。


「でも、こんな近くにあったんだ……」


 まじまじとこの建造物を眺める。

 憧れていたモノがそこにあるかの様に。


 今日までに、日本に2つのダンジョンが出現した。

 1つが東京。もう1つが大阪。

 東京にダンジョンが出現してから2年が経ったある日、大阪にも新しいダンジョンが出現。そこでもう一度ダンジョンは賑わいを見せた。

 しかし、東京の時の様には至らなかった。二番煎じ、だからだろう。少し一般市民には飽きられていた。関西に住んでいる、ダンジョンに行きたい人からしたらラッキーだったくらいの印象しかない。


 実際僕も大阪のダンジョンが中継された時は映像で見たが、見に行こうとはしなかった。それが就活で忙しかった時期だからもあるが。


 その大阪のダンジョンが出現してから約1年が過ぎている。

 ダンジョンの周りには出店など、ダンジョンを観光地としたイベントなどが開催されている。海外からの観光客も多いと思う。その周り自体がテーマパーク化していて、入場するのに身分証が必要なのだが。

 東京や大阪などは元々の観光地として人気はあったので、ついでにダンジョンに潜る客も多くなる。ダンジョンは現在1つの名所として存在しているのだろう。


 その様なダンジョンに常に潜っている人の数は知れている。日々に刺激が欲しい人か、自衛隊員のみだ。いや、中にはダンジョンだけで食べて行けてる人もいると聞いたことはあるが。

 しかし、ダンジョンでの身体の変化が外にまで影響することは、実はほとんどの人が知らないだろう。知っていたらアスリートが潜っているはず。潜る人が少ない理由としては後はたぶん、モンスターを相手にすることに嫌悪感、恐怖感を抱いていることがあるだろうか。


 わからないことだらけだったダンジョンが、あの青年を見つけたことによって少しずつ紐解ける。


 ダンジョンに到着してから数分眺めていた。


 ここに来てから込み上げてくる感情が収まらない。


 自分が何をしたいか。


 ダンジョンはもう一般市民が入ってはいけないなどの規制はない。


 なら、どうするか。


 一歩前へ進む。


 久しぶりに感じたワクワク感。

 もう自分のことは止められないだろう。


 ダンジョンの入り口に向かって歩き出す。


 右ポケットに入っているスマホが鳴っているのも無視して。


 そして、ダンジョンに足を踏み入れる。







 目の前を白い光が包む。


 水の中に浮かんでいる様な感覚。


 思考を置き去りにし、何かに身を委ねる様な感覚。


 その感覚を言い表すなら、ほとんどの人間は覚えていない、母親のお腹にいるような、始まりの感覚。







 眼を開き周りを見渡す。


「お、ぉぉ」


 目に映る光景は、一言で言えば『異世界』。


 ゲームやアニメで見たことがある様な光景。


 洞窟の中に知らない植物が生えており、所々が発光し、洞窟内を照らしている。


「お待ちしておりました。冒険者様」


「っ!」


 初めての光景に意識を置いていたところに、横から声をかけられ、見事に驚かされる。


「あ、驚かさせてしまい、申し訳ありません」


 掛けられた声の方向を向き、もう一度驚く。


「ぅぉぉ、エルフ」


 不意に言葉が漏れる。


 耳の長い女性。テレビで紹介されていたエルフが目の前に立っていた。いや、本人じゃないな別のエルフか。


「はい、ご存知の通りエルフでございます。そして私達エルフがこのダンジョンの案内人として、異世界の方々、冒険者様達に尽くさせていただきます」


 深々とお辞儀をされて、人を魅了する様な笑顔を向けられる。


 テレビ越しでははっきりとわからなかったが、エルフがここまで綺麗だとは。芸能人でも滅多にいない、かなりのレベルの可愛さだ。簡単に惚れてしまいそうだ。


 何か知らない感動に浸っていたところ、質問を投げかけられる。


「早速ですが、冒険者様はこちらには観光に来られたのでしょうか?」


 また見事な質問が来た。


「いえ、ダンジョンに潜りに」


 間を空けず即答する。


 この質問が来たことは、観光のために来る人の方が多いとわかる。


「えっ! 本当ですか! じゃあ、本物の冒険者様ですね! 久しぶりです! あ、ありがとうございます!」


 エルフの態度がかなり変わった。

 飛び跳ねる様に喜ぶ彼女は、勢いよく抱きついて来そうだった。


「あっ、すみません。最近は観光目的の方しか来なかったので、久しぶりに会えました。冒険者様に」


 抱きつく寸前で立ち止まり、少し顔を赤らめる。そのまま抱きついてもらっても良かったのだが。

 彼女は一度深呼吸をし、説明を始めた。


「失礼します。もう一度改めて……

 わたくし、エルフのシルクと申します。この度、冒険者様のアシストを任されております。ご質問などは全て私にお申し付けください」


 決まっているのだろう文言をなぞる様に話す。


「では、本説明の前に冒険者様、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「名前ですか。あ、もしかして身分証明書とかもいります?」


「いえ、名前だけで大丈夫です。といいますか、このダンジョンには何も持ち込めませんので、そういう物は出せないはずですが」


 その言葉にポケットを探る。

 ポケットの中にはスマホも入っていなかった。そのついでに自分自身をまじまじと見る。

 ダンジョン内の光景に意識を奪われていたためか、何も考えていなかった。自分の見た目すらも。


「……服装が変わっていますね」


 着ている服は全く違うものだった。元々はスーツ姿だったのだが、ゲームで見る初期の服装みたいになっていた。


「今お気づきになられたのですね。

 ご存知だと思いますが、ダンジョンには何も持ち込むことができませんので。そして、ダンジョン内ではダンジョン専用として、初期装備が自動で付与されています。

もちろん、ダンジョンで生きていくためにですね」


「そうなんですか」


 服がどこに行ったとか、どういう理屈なのかはわからないが、ダンジョンが様々な仕様を創り出しているのだと再確認する。

ファンタジーの世界にいるのは事実なので全てを受け止める準備はできている。


「で、僕の名前ですよね。

 奥山俊と言います。よろしくお願いします」


 名前をいい、少しお辞儀をする。するとシルクもお辞儀を返してくれた。


「ありがとうございます、オクヤマシュン様」


 そう言いながら俺に向かい両手を伸ばす。すると、青白い光が僕を包んだ。


「これでダンジョンに仮のあなたの情報が登録されましまた。ありがとうございます」


 シルクは両手を戻し、お辞儀をする。


 青白い光、テンプレだな。全体的にダンジョンで起こることはテンプレだと感じる。見たまんまダンジョンだとわかる塔の形。案内人がエルフの女性。そして、服装。


「では早速ですが、武器を選んでください。剣、槍、斧、弓。この4つからお願いします」


 4種類の武器、テンプレだ。

 どこから出しているのか、武器が次々と地面に置かれる。

 これアイテムボックスだよな、夢がある。


「おすすめは、オクヤマシュン様の見た目からすると槍ですね」


 そう言いながら槍を拾い上げる。手渡してくれそうだが、自分が選ぶものは決まっている。


「やっぱこれですね」


 剣を拾い上げる。思っているより軽く感じる。ワクワクが錯覚させるのか。実際は十分重いのだが。


「やっぱり、皆さん最初は剣を選びますね。種族の違いでしょうか。ちなみにエルフは弓を即決します」


 シルクは持った弓を少し引きながら言う。


「まあ他の人もそうだと思うんですけど、僕的には一番使いやすいのは剣だと思うので。他の理由はやっぱり、剣が一番かっこいいと思いますしね」


 そう言いながら剣を少し振ってみる。やっぱりあまり綺麗には振れない。あと、やっぱり重かった。


「では、あとこれを」


 剣で少し遊んでいると、ポーチを渡される。


「その中にはダンジョン内で必要だと思われる最低限の物が入ってます」


 ポーチの中を見てみると2つの小瓶と水筒らしき入れ物、そして固形の食料らしき物が入っていた。


「回復薬とかですよね」


「そうです。ポーション類と最低の食料ですね。後々食料などは自分で調達するか、ここゼロ階層で購入することができますので。もちろんダンジョンからの持ち出しはできませんが。

 あ、すみません。ここの名前はゼロ階層と言います。このダンジョンの始まりの階層ですね」


 ダンジョン内に何も持ってこれない時点でここで調達するしかないのだが。で、ここがダンジョン内でのスタート地点という事がわかった。しかし、ゼロ階層で調達といってもここは僕とシルクしか居ない殺風景な場所なのだが。


「では、準備が整ったということで早速行きましょうか」


 シルクは話しながら歩き始める。

 ダンジョン内に入ってから気になっている奥の青い光の場所に向かう、たぶんあれが入り口だろう。というか、中々遠いな。無駄に広い空間だし。

 そう思いながらシルクの後をついて行く。


「今から行ってもらう階層を最後までクリアできれば一旦ここに戻ってきます。クリア出来なくても戻ってきますが、そうなればもうダンジョンに潜れませんので、ぜひクリアしてくださいね。全く違う世界を堪能できると思います」


 光の元に到着する。近づくとわかるが、その光は下から吹き出る様に光っている。その青い光の前に立つ。


 装備は剣だけだ。防具などは後で調達するのだろうか。


 ん?

 ふと横を見る。少し向こう側にも階段なのか、入り口らしきモノがあるが、


「では、改めまして」


 考え中にシルクに声をかけられ反射的に振り向く。

 僕は入り口を背にしてシルクの方を向いている。

 シルクは両手を広げ話し始める。


「ダンジョンへようこそ、冒険者様! このダンジョンでは大きな力を得ることができます。そして今、私達の国は魔物達に支配されようとしております。冒険者様の力でどうかお救いください。

 では、ダンジョンの攻略の健闘とご武運をお祈りしております」


 シルクの言葉を聞き、入り口の方を向く。まるでゲームの様だ。しかしその言葉には、より気持ちを奮起させる力があった。


 ではこれから、ダンジョン生活を始めようか!


 そして、一歩踏み出す。

 ふと、何かを感じ後ろを振り向く。


 微笑みながら手を振るシルク。その手は微かに青色を帯びていた様に見えた。そして祈る様に、


「…………生きて戻ってこれるように……」


 かすかに聞こえた言葉に違和感を感じたが気にすることなく。前を向く。

 そして、僕は入り口に足を踏み入れる。








『チュートリアルステージ〜始まりのダンジョン〜』


 不意に頭に流れる言葉。


 入り口に入った瞬間、視界が切り替わった。


 目の前に広がるのは学校の体育館ほどの広さの洞窟の様な場所。


 そこに1人、いや1体立っている。


 良くゲームで見る様なモンスター。


「やっぱ、テンプレ」


 雑魚の代名詞と言われている人型のモンスター。


 ゴブリンが立っていた。


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