26話-3「ユニーク」
目の前にいるのは大量のモンスター。モンスタートレインされたのかっていうほど、多くのモンスターが集まっている。コボルドと戦う前に倒した大量のモンスターで目の前が埋め尽くされている。
それよりここまで気づかなかった自分に驚く。それほどコボルドとの戦いに夢中になっていたのかと。
攻撃された部分に痛みはある。それに対する後悔と怒りがこみ上げ来る。
「てか、どいつが飛ばしたんだ……あいつらか」
僕が元いた場所を見る。多くのモンスターがいる中、そのニ体だけ前に出ている。
「ゴブリンごときがっ!」
無手の、何も持っていないゴブリンが二体僕を吹き飛ばしたのが嬉しいのか、楽しそうに叫んでいる。
「絶対にぶっ飛ばす!」
周りを見てなかった自分も悪いが、せっかくのコボルドとの楽しい戦いを邪魔されたのだ、イラつくのは仕方ない。それにその喜んでいる姿が余計イラつかせる。
そう思いながら体勢を立て直しているうちにもモンスター達は近づいて来る。
しかし冷静に考えると、もう一度この数を相手するのは骨が折れる。それに加えてあのコボルドだ、かなり難しいんじゃ、
……ってあれ? いない?
コボルドはどこ、に……
「って、な、逃げてる!?」
そこにいるはず、それどころか反撃が来るだろうと思っていたコボルドは少し離れたところまで走ってた。逃げの一手だ。全力で走っている。
おいおい、まじかよ。あいつが逃げるとか考えてなかったぞ。どう反撃されるか考えていたところなのに。
……いや、まて。この方が良いのか。
「ぎぎゃぁ!」
考えている間にゴブリンが目の前に来ている。
しかし、いると認識したらもう問題はない。
「……ふっ!」
剣を振り切り一撃でそのゴブリンの首を跳ねる。
うん、そうだよな。
この数を切り抜けるならその方が良いわけだし。あと、あいつが生きてればまた楽しく戦えるかもしれないし。このまま放っておいた方が後々楽しみが増える。あいつが逃げた方が僕のためになるか。
この時点で少しあのコボルドに気持ちを奪われているのがわかる。
そう思いながらコボルドの方を目で追ったところ、何かを捨てた。
「は? え? おい、あれって……いやいやいやそれはないって。ないよな……って、お、お前が犯人かよ!」
叫ぶ。コボルドが捨てたもの。それがよく見たことある集香草だったからだ。追い討ちをかけられたことに、一瞬で怒りがこみ上げて来る。
さっきの感情が薄くなっていく。
「おまっ! お前! 絶対に次あったら経験値の肥やしにしてやるからなぁぁ!」
声を荒げ、コボルドに届くように叫ぶ。それが聞こえてるのかどうかわからないが、コボルドはよりスピードを上げて走っていった。
「あーー! くそ!」
その後ろ姿を見ながら悪態を吐く。
そしてそれを合図に集まっていたモンスターが攻撃し始める。
とにかくモンスターの攻撃をさばいていく。
「っく。まずはこいつらを切り抜けるか」
数が数だ、一瞬の隙でやられる可能性がある。とにかくこの数から増やさないようにするためにまずはあの集香草を燃やしに行く。
その間のモンスターの壁は厚い。全力で斬り抜けていく。
「はあ、はあ、っ、『ファイアーボール』」
やっとのことで集香草を燃やす。
「……多すぎるだろこいつら」
その大量のモンスターに対して今までと同じく牽制に魔法を使い剣でとどめを刺す戦い方だが、ここまで連続で戦っているとMPもSPも無くなってくる。
四分の一程倒したところで魔法が使えなくなり、スキルも感覚的にあと少ししか使えないと感じる。このまま魔法もスキルも無しで剣だけでは切り抜けられない。
手段はひとつだけ。
節約のためにあまり使いたくなかったのだが、仕方ないよな。
「瞬動」
弾ける様に移動する。スキルを使いモンスターから一瞬で距離を取る。
そのまま逃げるという選択肢もあったがそれは何故かプライドが許さなかったわけで。
そして、ポーチからMPポーションとSPポーションを取り出す。
「ああ、使いたくなかったけどなぁ」
そう言いながら二本のポーションを飲み干す。
「じゃあ、ここから殲滅開始だな!」
勢いよく走り出す。
「『ウォーターボール』!」
魔法の威力を上げ、全力でモンスター共に向かって行く。