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18話「ヘルハウンド」






「りなぁぁぁ!」


「うっ……えっ……まさき……」


 将貴が里奈を庇うように力強く押し飛ばす。

 一瞬の出来事で里奈は呆然としている。それを見た将貴は少し笑顔になり、


「よかっ、た……」


 その瞬間、バチンと歯と歯が噛み合う音が響き渡った。







「シルクさん今日はまだあのグループは来てないですか?」


「あ、シュンさん。あのグループ? ああー! そうですね。今日はまだ見てないですよ」


「まだ来てないですか。うーん、どうするか」


 昨日は祐也って奴に色々と邪魔されたからな。まだあいつらが来ない内に行くか。このまま9階層をさっさと突破して、10階層のボス戦に入れば流石に横取りはしないだろう。あの二人が付いているし、大丈夫だと思いたい。


「じゃあ、今日はボスを倒してきます」


「順調ですね。頑張ってください!」


「はい! 行ってきます!」


 来て早々と僕は9階層に向かう。とにかくあいつらに邪魔されない内に倒したい。走るか。


 ギルドから出て足早に転移ゲートに乗る。

 9階層の階段前に転送されると駆け足で階段を降りる。

 階段を降りると目に入るのはこれまでとあまり変わらない自然の景色。そこを駆け足で行く。


「体力も付いてるし、この距離なら走りきれるだろ」


 今なら走りながらでもブラックハウンドぐらいは倒せるし大丈夫だろうと思う。とにかく急ごう。


 ランニングする感覚で走る。

 案の定襲ってくるのはブラックハウンドだった。ただ牙や爪を立てて襲ってくるだけなので対処は慣れると簡単だ。ただ剣を振るだけ、魔法を放つだけ、大抵はその単純作業で倒せるレベルになっている。強くなって来ていると実感が出来る。


「この階層までならもう危なくなる事はないだろうな。どれだけ慢心してても」


 慢心は良くないが、出来る程余裕が生まれている。


「後はレベルが順調に上がったらいいんだけど。剣スキルも上がってほしいし、思う事は色々あるな」


 少し走るのも疲れて来た。


 ここまで十数分。割とモンスターは出てきた。全部ブラックハウンドだったから代わり映えがなかったけど。

 どうこう言いながらも出てくるブラックハウンドは倒す。そこから数体倒してもう一度走り出す。

 走りながら魔法を放つのも慣れてきた。なら次の段階に行きたい。実は違う魔法も考えている。ここでは使うこともないだろうけど、ボス戦では使えるだろう。


 そんな感じでもう十数分走ったところ階段通路前の広場に出た。


「お! 今日はいるんだな」


 普通モンスターは階段入り口前にいることがなぜか多い。昨日はほとんど祐也って奴が倒していたから見る事は少なかったが、今日はいた。しかもブラックハウンドとは大きさが違う犬型のモンスター。


「ブラックハウンドよりでかいな、見た目は似ているけど。上位互換かな?」


 見た目はブラックハウンド。だが大きさはその二倍はあるだろうか。大型犬の大きさを超えている。それが数体。全てこっちを見ている。

 名前は、どうしよう。ブラックハウンド大でいいか。


「なんか番犬みたいだな」


 いや、まさしく番犬。側からは入り口を守るように見える。

 さて、どう倒すか。やっぱし最初は魔法での牽制だな。


「『ウォーターボール』!」


 空中に浮かぶ水球。でも、今回はいつもと違う。移動中に出来た、集中さえ出来れば作れることが判明した。複数の水球だ。

 割とかっこいい。


 ブラックハウンド大の数に合わせられないが、攻撃対象が増える事は楽になる。今作れるのは三つだけ。それを一気に放つ。


 勢いも威力も一個の時より落ちるが、それでも申し分ない攻撃力だと思う。


「「ぎゃん!」」


 命中。


 それで倒す事は出来なかったが、ダメージは与えられている。これをあいつらがバラバラに動くまで放ち続ける。

 魔力はまだまだある。昨日の練習のおかげだな。


「ぐるぁぁぁぁぁ」


 続けていると堪らず一匹が走り出してきた。こう慣れば楽だ。大きくてもブラックハウンドだろう。剣で対処する。


 突進に対して受け流すように避ける。力は強くなっているが、当たらなければ関係ない。避けたところを切り上げる。


「んっ?」


 少し硬い。深い傷を与えたが一撃では倒せなかった。この切れる剣でも切り方によっては倒しにくいのか。じゃあ。


 一歩踏み込む。久しぶりに感じるこの感覚。剣に何か吸われるような感覚。それを放つ。


「『スラッシュ』!」


 切り飛ばしたブラックハウンド大に追撃でスラッシュを放つ。オーバーキル気味だが一瞬で真っ二つだ。光の粒となって消えていく。


「やっぱりスキルはかなり疲れるな。これも魔法みたいに練習したらいっぱい使えるようになるのだろうか。シルクにまた聞いてみよう」


 今回は久しぶりに使おうと思って使ってみたが、これは切り札として残しておこう。魔法ばっかでスキルについては何も考えてなかったから、ボス戦が終わったら腰を落ち着けて色々と考えてみるか。


 今はスキルを使うのはやめておいて、普通に剣技だけで戦う。そうしている間にもブラックハウンド大は僕を囲み始めている。


「さてと、『ウォーターボール』!」


 威力を込めた水球を放つ。一撃で倒せないなら数を当てるだけ、それで怯んだら剣でとどめを刺す。さっきと変わらない行動だ。

 一撃で倒せない分時間は掛かるが一体一体確実に倒していく。囲まれる前に一体倒して逃げる。そして攻撃に転じる、それの繰り返しだ。


「ふぅ……」


 ラスト一体。ブラックハウンドも必死だった。だが、こっちも必死だ。ここまで十数分はかかっている。早く終わらせたい気持ちでいっぱいだった。


「ぐるるるるるるぅぅぅ」


「終わりだ」


 最後の一撃を与える。最後のブラックハウンドも光の粒となって消えていく。これで全滅できた。


「ふう、中々大変だったな。よし、行くか」


 とにかく10階層に行かないと。その場で休憩する事なく階段に小走りで向かう。

 もう通路を通り階段を降りるだけだ、すぐに10階層に到着する。


「良かった。扉が開いている」


 階段を降りた目の前には3、4メートルほどの扉が開いていた。シルクが言うにはボスがいて誰も戦っていないなら扉は開いていて、戦っている時は扉は閉まっているとの事だ。いない時も開いてるみたいだが、暗ければいるらしい。

 様子を見ようとするが中は暗く見えない。なんかそそる感じだ。つまり、今回はボスがいるという事。


「少し息を整えて。準備は大丈夫だな……よし! 行くぞ!」


 気合を入れて10階層扉をくぐる。


 入った途端、自分側からロウソクが一本一本付くように照らされていく。中々良い演出だ。かっこいい。

 明るくなったその部屋は石造りのイベントでもするようなどこかのホール程の広さ。


「ゴルルルルルルル」


 その中心から響く動物の低い唸り声。


「は、は、でっけぇな」


 2トントラックを超える程の大きさ。真紅に光る全てを威嚇する眼光。噛みつかれると一撃で絶命しそうな剣よりも太い牙。熊をも丸呑みできそうな口。


 後ろの扉が音を立てて閉まる。それと同時にそいつが僕の方を向く。


 そして、


「ゴオアァァァァァァ」


 咆哮。部屋に響き渡る巨大な音は鼓膜を破るほどの圧力。


「す、すげぇな。見た目はブラックハウンド大だけど、大きさが違う。てか、デカすぎるだろ!」


 咆哮が収まるまで待つ。両手が耳を押さえるために塞がっているから動けない。


 咆哮が、止まった。


「グルアアァァァァ」


 大きく口を開けて、急にこっちに向かって走ってくる。トラック以上の大きさの物体が向かってくるのは半端ない圧力があった。


「う、うおおっ!」


 瞬時に横に飛ぶ。ギリギリ躱せたが、怖すぎだろ。てか、ボスは初手で問答無用に攻撃してくるようにインプットされてるのか? デジャヴを感じるわ!

 いや、僕も僕で様子を見過ぎか?


 体勢を立て直し剣を抜く。圧力はあるがオーガに比べると物足りない感じがする。でかいから怖いけど、倒せないとは一切思わない。

 深呼吸をして落ち着く。そして扉に激突しているボスに対して左手を向ける。


「自分で突撃しておいて動かないとか、隙」


 集中。今一番威力を込めるように魔力を込める。形成された水球は今までより大きく、そして密度が高くなる。ボウリング玉程の大きさ。それをボスに向かって放つ!


「『ウォーターボール』!!!」


 一直線に飛んでいった水球はボスに命中する。


「グルアアァァァ……」


 大きい音を立てて、数メートル吹き飛ぶ。あの大きさの物体を吹き飛ばす威力って、どれだけだよ。


 地面と擦れることで砂煙が起きる。そのせいで状態が見えないが多分、


「グルルルルル」


「流石にこれでは倒せないよな」


 ゆっくりと起き上がるボス。流石ボスだと思うが、右脇から血を流している。かなりダメージは与えられている。


「威力は申し分ない。後はもう一回これを撃つ隙を作れるかだな」


 今ので順調にいけば倒せると確信した。それも手こずることはないだろうと、何かイレギュラーが起きない限り。


 剣を構える。先手必勝は変わらない、思いっきり駆け出す。

 魔法が当たらなくても、あの巨体だ懐に潜り込めればスラッシュで決めれるだろう。


 剣でも魔法でも倒せる。今思うことはどっちを使って倒した方が楽かだ。

 とにかくまずは剣で翻弄させる。


「はあぁぁぁぁぁ! せや!」


 ただの斬り付けでは思っているよりダメージは与えられていないが、少しずつダメージが蓄積される。そして一撃一撃気合を入れて攻撃をする。


 戦っているとこいつの攻撃パターンわかる。それは単純だ。噛みつき、切り裂き、踏みつけ、突進、この四つだった。巨体の割にスピードは速いが、対処できる速さだし、本当にあのオーガよりかは簡単だと思う。

 てか、こいつなんて名前なんだろうか。そうだ、そういう時にこれだったな。


「『サークナ』。なるほど、ヘルハウンドね」


 看破の魔法を使う。それほど戦いに余裕があるわけだ。しかしヘルハウンドか、地獄の犬って怖いわ。でも、大層な名前の割には、


「弱いな!」


 ヘルハウンドの右前足を思いっきり攻撃する。割と深く斬りこめたと思う。そして相手の攻撃は当たらない。避けながら攻撃するのは全て足。倒れたらこっちの勝ちだ。


「グルアァ」


 と、足ばかり狙っているとヘルハウンドがバックステップを踏み大きく下がった。そして、大きく口を開ける。


「ん? 咆哮じゃない? なんだ」


 ヘルハウンドの口の周りに火の玉ができる。それがバランスボール程の大きさになり、


「魔法か!」


 放たれる。


「っく!」


 大きさ的にこの距離では避けきれない。剣で斬ることは勿論できない。とにかく剣を持ちながらも両手を前に出す。


「間に合え! 『ウォーターウォール』!」


 考えていた新しい魔法。目の前に2メートルほどの水の壁を出現させる。

 それが火球とぶつかり小さい爆発を生む。その風圧に飛ばされ数メートル転がっていく。


「いってぇ……どうだ」


 爆風により少しダメージを負ったが戦いに支障はない。しかし、相手の火球は相殺できたみたいだ。

 ウォーターウォールは成功した。しかしまあ、運が良かったのかあの爆発でこのダメージしかならなかったのは良かった。でも、あの攻撃に対してこれは使わないでおこうか。


「しかし、魔法も使うのか。流石ボスだな! そうでなくちゃ!」


 ヘルハウンドの攻撃に少しワクワクする。俄然戦いが楽しくなってきた。よし、仕切り直しだ。立ち上がり剣を構える。ヘルハウンドもこっちを見ている、様子でも伺ってるのか、


ーギギギギギ


「なんだ?」


 後ろから音がした。何か擦れる音だ。扉が開く音……まさか!


「うおー! いるじゃん!」


「え? でか! てか、祐也入って良かったの?」


「祐也早いって! ちょっとま、でか!」


 僕はその声の方向を振り向く。そこには思った通りあいつら、祐也達が扉を開けて入っていた。


「大丈夫だって。シルクちゃんがここにはあいつしかいないって言ってたし! ほら、あいつだけじゃん!」


「え? え? だからダメなんじゃ、」


「いいっていいって!」


 まじかよ。何も関係なしに入って来やがった。僕だからいいみたいに聞こえたけど、礼儀も何もないのかよ! しかも、あの二人もしっかり止めてないし、まじかぁ。


「グルアァァァ」


 この状態に唸るヘルハウンド。そのヘルハウンドが一瞬笑った様にも見えた。

 あいつらは放って置いて戦いに集中しようとした途端、


「ゴオアァァァァォ」


 鼓膜を破るほどの咆哮。


「きゃぁぁぁ……」


「うぁぁぁぁ……」


「うぉぉぉぉ……」


 耳を塞ぐ三人。もちろん僕も塞いでいるが、ヘルハウンドを見つめている。


「……は?」


 何かヘルハウンドの足元で黒い影が蠢いている。それが大きくなり、形作る。


「そんな能力があるのか」


 その黒い物体がブラックハウンド大となる。影から産み出された様だ。


「はは! 知らねえ。そんなん前には見なかったぞ! お前ら! 行くぞ!」


 そう言い祐也が走り出す。


「え、動けな、待ってよ!」


「くそ、待ってくれ祐也! 里奈、行こう!」


 二人もゆっくり歩き出す。


 やっぱり戦う気満々だったのか。てっきり様子見で終わってくれると思っていたのだけど、甘すぎた。全く想像の上を行く行動だ、唖然としてしまう。


 しかし、ヘルハウンドの能力も未知数になった。こんな状態なら様子見をした方がいいんじゃ、


「だめた! 出遅れたら終わりだ。また持っていかれる。関係なしに僕が先に倒したらいいんだよ!」


 この状態に諦める。こうなった以上じっくり戦うことは出来ないだろう。目的があいつらより先に倒すことになる。


 祐也達を見る。流石のあいつでもブラックハウンド大は一撃で倒せないらしい。じゃあ。

 左手を前に出し、集中する。次はより深いダメージを与えることに重点を置く。


「よっしゃあ! やっとヘルハウンドだ! 里奈、将貴! そいつら雑魚は任せたしな!」


「え? 祐也、ちょっと! 待ってよ!」


「祐也! 俺らだけでこいつらは、」


「大丈夫だって!」


 祐也がヘルハウンドに一人で向かって行く。

 はっ! こっちの方が早いわ。


「くらえ! 『ウォーターボール』!」


 大きさはさっきと変わらずボウリング玉程の大きさだがより魔力を込めたつもりだ。それが勢いよく飛んで行く。


「なっ!」


 祐也の横を通り抜けヘルハウンドに命中する。


「よっしゃ! 命中! これならさっきよりダメージを……」


 魔法は命中した筈だが吹き飛ばせていない。さっきはこれより弱い一撃で吹き飛んだヘルハウンドがその場で立っている。

 効いていないのか? いや、効いている筈だ、傷跡は残っている。ん? ちょっとまて、あれ、さっきの脇腹の傷は……薄くなっている!?


「はっ! びっくりさせんなよ! 効いてねぇじゃん! この距離なら俺の勝ちだ!」


 祐也はヘルハウンドの目の前で跳躍する。スキルを放つつもりなのだろう。しかし、それは悪手だと思った。さっきとヘルハウンドが全く違う様に見えるからだ。

 その瞬間ヘルハウンドが大きく息を吸う。瞬時に僕は耳を塞いだ。


「スラ……」


「ゴオアァァァァォ!」


 再びの咆哮。


「か、は……」


 至近距離で咆哮を食らったのだ、意識も失いかけるぐらいの大きさで、スキルも出せないだろう。そのまま祐也は空中で停止する。それは格好の的だった。


「って、思っている場合じゃない! これはやば……」


「グルアァ!!」


「ぐ、ぉ……」


 僕が何もできない一瞬で、ヘルハウンドの突進により祐也は吹き飛ばされる。

 激しい一撃。人間がボールの様に吹き飛ばされる。


「が、ぁ、ぁ、ぁ、ぉ」


 そのまま地面に激しく打ち付けられ転がって行く。


「ゆうやぁぁぁ!」


「祐也ぁ!!!」


 その光景は仲間を恐怖に落としただろう。


 二人の叫ぶ声がこだまする。






 

ちなみにブラックハウンド大はヘルドックって言います。サークナ使うこと忘れていました。


ヘルハウンドと戦いはまだ続きます!

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