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17話「パーティよりも今は一人」



「わん、わん、わん」


 目の前で複数の子犬が吠えている。犬派が見ると可愛い! と言って飛び付くだろうが、僕は猫派なので犬ははっきり言って興味がない。ハスキーとかカッコいいのは好きだけど、チワワとか可愛い系は猫の方が可愛いと思ってしまう。いや、全体的に動物はそこまで好きではないのだけど。


 まあ、そんな事は置いておいてこの階層はゴブリンやコボルドではなくて、新しいモンスター、ブラックハウンドがいるようだ。で、僕の周りを囲んでいるのはそいつらの子供なのだろうか、子犬の大きさでチュートリアルで見たのと違う。


「でもまあ、流石にこいつらは倒せないよな。まじで気が引ける」


 子犬達は僕の周りをぐるぐる回っているだけで危害を加えてない。それなら別に倒さなくていいかと思う。てか、そんなに回っているとバターになっちゃうよ?


「しかし、邪魔だなこいつら。ここにいるって事はモンスターだから蹴ってもいいが、蹴りたくない!」


 動物の子供は何でも可愛いから可愛いと思ってしまう。犬でも関係なかったか。

 さて、どうしようか? でも、


「で、パターン的にはもうそろそろ来るんだろうなー」


 8階層に入ってからすぐこんな状況になっている。という事は……ほら来た。なんかデジャヴを感じる。


「ぐるるるるるる……」


 のしのしと奥から数体の犬らしきモンスターが歩いて来る。ブラックハウンドだな。


「こいつらの親ってやつか」


「わん、わん、わん、わん、わん、わん、わん、わん、くるるるる」


 親が登場したら急に吠えるやん。さっきまでむっちゃ可愛かったのに。


 こんな状態ならもう関係ないな。


 剣を抜く。そして、周りの子犬は関係なしに飛び越える。そしてブラックハウンドに向かって走り出す。

 ブラックハウンドもチュートリアルで倒したし、今の僕なら余裕だろ。まあ、こういう慢心は良くないが、それも理解しながら戦っている。


 先手必勝。出会い頭に横薙ぎを振る。


「はあぁ!」


「ぎゃんっ!」


 走ってくるとは思わなかったのか戸惑っていたブラックハウンドを横薙ぎが捉える。


「さて、一体目。次は……『ウォーターボール』!」


 一体目を倒し少し離れていた二体目に左手を向けウォーターボールを放つ。これもクリーンヒットする。

 よし! 威力は上がっている、一撃で倒せなくても致命傷は与えただろう。まだ瞬時に使うにはタメが足りないな。威力が落ちる。

 水球で吹き飛んだブラックハウンドはゆっくりと起き上がるが、僕は立ち上がるまでに一気に距離を詰める。


「このリズム……」


 そしてトドメを刺す。

 戦い方としてはかなりスムーズだ。この調子で三体目……


「きゃん、きゃん、きゃん」


「逃げた?」


 残りのブラックハウンドが逃げた。それに続いて小さいのもついて行く。尻尾を巻いて逃げる。その言葉のままの光景だった。


「なんだったんだ?」


 しかし、逃げられるのは初めてだ。変な感じだが悩んでも意味がない、先に進もう。まあ、経験値が得られなかった分少し残念だけど。


 入り口からあまり進んでいない。とにかく歩くか。ここでも魔法の練習をしながら歩こう。ウォーターボール以外に何かないかな。ボールではない他の形を作ってみるか。ふと思い実践してみる。


 空中に水を浮かべ形を変えて……


「いや、歩きながらは無理だ」


 すぐに断念する。水がすぐに形を崩した。集中しないと無理だろう。後で少し腰を落ち着けて練習してみるか。

 じゃあ、今は魔力の増強をしようか。


 そのまま数分間歩く。ここにはゴブリンもコボルドも出てこなかった。いるのはブラックハウンドのみで、大きさは様々だった。いわゆるこの階層は犬の楽園みたいなものだろうか。人によっては楽しいに違いない。僕には関係ないが。


 出てくるモンスターには極力魔法で応戦する。剣もだが、魔法の方が便利だ。瞬時にでも魔力さえ高ければこの階層のモンスターは一撃で仕留められると確信できる威力になる。少しずつ動きながらでもコントロール出来るようになって来た。


「さて、今までの感覚ならもう半分まで来たと思うんだけどな。しかし、連続で5階層更新は割と疲れるみたいだな」


 モンスターとも戦い続けて、歩き続けて、そりゃ疲れるよな。ここが攻略できれば今日は終わろうかな。疲れは溜まって来ているし、このまま行けば少し危ないだろう。

 レベルアップによる身体能力の上昇は大きく気持ちにも作用しているが、もうそろそろ気が抜ける可能性がありそうだ。


 とにかくそのまま歩く。まあ、こうやってエリアを移動するだけでも楽しいけどな。

 そこから少しだけ歩いたところ、何か聞こえてくる。叫び声?


「なんだ?モンスター同士が争ってるのか? ……いや、声も聞こえる? 人の声?」


 少し早足で向かう。側から様子を見よう。モンスター同士の争いなら放っておけば良いのだし、



「っくそ、しつこいなこいつら!」


「将貴! そっちをお願い!」


「ぐるるるるる」

「がうぅぅぅぅ」


 あいつらか? あのうざい奴と一緒にいた男女。ブラックハウンドに襲われてる? しかも数が多い。大丈夫か? 少し関わるのめんどくさいし、まあ、あいつがいれば大丈夫だろうけど……


 少し様子を見る。まだ死ぬまでのレベルではないし、どちらかといえば劣勢だけど。しかし、あいつ出てこないな、どこにいるんだ? やばいぞ、早くしないと。

 そいつらの戦いにこっちが焦ってくる。


 祐也ってやつが一向に出てこない。ここにはいないのか……? これはやばい!


「くそぅ、いってぇよ」


「大丈夫、将貴!?」


「だ、だいじょう……!? 里奈うしろ!!」


「……え?」


 劣勢の中の少しの油断。ブラックハウンドから目を一瞬離した途端、その隙を見逃すかと一体が里奈の方に襲いかかる。


「ぐるあぁぁぁ!」


「きゃぁぁぁ!」


「『ウォーターボール』!」


 圧縮された水球が襲いかかったブラックハウンドを吹き飛ばす。


「あ……」


「危なかった。てか、まじであいつ来なかったよ!」


 あと一歩で死ぬだろう瞬間から助かった事に二人は驚いている。

 そうだろうな。確実にあそこで僕が攻撃しなかったらリタイアコースだっただろうし。しかし、この二人8階層にいるのに動きが鈍すぎないか?女の方は背後のブラックハウンドに気付けてなかったし、男の方も伝えるタイミングが悪すぎる。しかも、今も少し呆けてるしな。


 そんなことよりもとにかく今はこいつらを殲滅するか。うん、数が多いな。


「ぐるるるるる!」

「ガウゥゥゥぅ!」


 お! 一斉に僕に焦点を当てて来た。敵と認識されたのだろう。そりゃそうだ、仲間が吹き飛ばされてるんだから。あの二人には目線はない、全て僕に注いでいる。二人と距離が離れているから好都合だ。


 剣を抜く。この数はまだ僕の魔法では対処しきれないだろうし、久しぶりに剣も使わないと腕が錆びて来ちゃいそうだしな。


「よっしゃぁ! レベルアップイベント!」


 勢いよく駆け出す。ブラックハウンドの方も一斉に向かってくる。

 一発牽制だ!左手を前に出す。


「大きめで、『ウォーターボール』!」


 左手から放つのは威力を上げるために圧縮するのではなく、そのまま大きくしたウォーターボールだ。

 前列にいたブラックハウンドが魔法の勢いで押し戻され、後列の動きに支障をきたす。そのまま倒れているのを起き上がる前に切り飛ばす。その調子で一体ずつ倒していく。数にはスピードが重要だ。


「おい! お前達も余裕があったらそっち側をお願い!」


「「は、はい!」」


 僕の戦闘をただ見ていた二人に指示をする。何もしなくても別にいいが、ここに経験値を稼ぎに来ているのだろうから、少しでも戦った方がいいだろう。まあ、数が減るとこっちも楽になるしな。数体ぐらいならあいつらでも対処出来るだろう。


 確実にブラックハウンドを倒して行く。チュートリアルで手こずっていたのが嘘みたいだ。もう僕の中では雑魚モンスター扱いだな。

 しかし、この数ほとんどがここに集まってるんじゃないだろうか? あの時逃げていったのもここにいるんじゃ。まあ、弱い奴を倒す方が楽だもんな。

 そんな事を思いながらブラックハウンドを倒していく。かなり経験値が貰えそうだ。



「はあ、はあ、はあ。里奈、この周りはこれでラストだ……」


「そうだね、やっとだよ」


 二人はそんなやり取りをしている。それを僕は側から見ている。もちろん僕はもう全滅させた。

 しかし、この二人がどんな戦い方をするか見ていたのだが、はっきり言って見てられなかった。せっかく二人でいるのに立ち回りがダメだ。あれなら一人一人で戦った方が良いんじゃないだろうか。僕も連携とかは出来ると思わないから言えないけど。

 でもそっか、この前まで素人なんだし、そんなものなのかな? 一人でなら違う戦いをするのだろうか。あ、僕ももしかして側から見たらこんな感じなのだろうか?


「はあぁぁぁぁ!」


「ぎゃんっ」


「やったぁ!」


 そんなこんなで最後の一体を倒した二人。危なっかしかったが、まあよかったと思う。


「よし! じゃぁ次に行かない、と?」


「お疲れ様です」


 ブラックハウンドが消えた頃合いを見計らって二人に声をかける。


「え、え? あれ? ほ、他のモンスターは、」


「うそ、もう全滅してる……」


 他のモンスターがいない状態に驚いている二人。少しドヤ顔をしたくなるが、気持ちを抑えて話す。


「他のは倒しておきました。しかし、お二人危なかったですね」


「あ、すみません。ありがとうございました。本当に助かりました」


「ほんと危なかった、ありがとう……って、あれ? 君ってあの時の?」


 僕の顔を見て思い出してくれたようだ。良かった。この二人は覚えていてくれたんだ。


「いえ、危なかったので放っておくわけには。しかし、あの祐也って人はいないんですか?」


「祐也ですか。あいつは先に行ってるので。でも、この階層の大抵のモンスターを倒してから行ったので、俺たちは安心してレベル上げしてたんですけど、急に」


 ほう、あいつはこいつらを放って行ったと。少ない敵なら大丈夫だと思ってたんだろうな。何も考えられてない奴だ。


「しかし、君。すごく強いんだね! 祐也には勝てないかもだけど、それぐらい!」


 女性の方が話しながら近づいてくる。それはそれでいいけど、あいつと比べられるのはちょっと。嫌な奴と比べて欲しくないし、ダンジョン歴が違うだろうし。でも、ここまで笑顔で言ってくれるのは悪くない。


「あ、あの!」


 青年の方が話してくる。なんだろうか?


「あの! すみませんが、もし良かったら、階段までついて来てくれませんか? ちょっと俺たちだけでは安心できなくて。あんなことがあったので」


「ほんとだ。私からも頼みます。えーっと、」


「あ、僕は奥山俊です」


「あ、俊さん。お願いできますか」


「お願いします!」


 お願いをされる。どっちにしても行くところだからまあ、いいか。もし、ここで二人がやられたら後々感じ悪いしな。


「大丈夫ですよ。行くとこ同じなので」


「本当ですか! ありがとうごさいます!」


「ありがとう! 俊くん!」


 ん? 俊くん、か。年下に見られてるのかな。



 そこから三人で8階層を進んだ。途中にもブラックハウンドが出て来たが、大体を僕が倒した。大丈夫だと思ったタイミングでは二人にも倒させたが、あまり戦わせたくなかった。危なっかしいからな。ていうかどっちも剣とか、パーティ的にはどっちかが弓を持った方が良いと思う。

 しかし、やっとだ。良かった。無事に階段付近まで来れた。


 割と時間がかかって、ここまで話しながら進んできた。それでかなり二人のことを知れたけど、まあ知る必要もなかったんだけどな。


 女性の方は坂口里奈で男性の方は山田将貴。どっちも21歳で大学3回生。祐也って奴も同じで、幼馴染らしい。ダンジョンに来たのは祐也を追ってで、将貴は反対してたが里奈は元々スポーツは好きみたいでノリノリだった様だ。それに渋々将貴が付いていった形。まあ、幼馴染たちの色々なところが見えて、ここは漫画の世界じゃないよ、と突っ込みたかったが、抑えた。フラグが凄いことになっていそうだ。

 ダンジョンに来たのは3ヶ月前からみたいだけど、本当に時々しか来ていない様子だから、まだこの階層までしか進んでいないみたいだ。祐也の方は先に進んでいるみたいで一人でレベルアップしているらしい。でも、新しい階層には手を出していない。ちょっと律儀なところもあるみたいだ。でも、それならこの二人を助けてやれよとも思う。


 ちなみに僕の方が年上と知った時はびっくりしていた。若く見えるのはいいことだけど、幼く見えるのはちょっと気になるな。


「あ、見えてきましたね!」


「ほんとだ。よかったぁ」


 そんな話をしながら階段通路前まで到着する。この二人を見ながら来たので思ってるより時間がかかった。いつかパーティを組むなら自分より強い人か同程度の人にしようと、強く思います。


「ん? あれ? あそこに」


「あ! 本当だ!」


 入り口前に人が立っている。それに向かって二人は駆け出して行く。


「おーい、ゆうやー」


「ん? おー。やっと来たか。待ちくたびれたわ」


「もう。そんな事言わないでよ! こっちも大変だったんだから!」


 はあ、やっぱりあいつか。めんどくさいし関わりたくないな。てか、なんでここにいるんだ?


「でも、祐也。なんでここにいるの? 先に行ってたんじゃ」


 そんな疑問を持ったところ、里奈も同じ事を思った様で聞いていた。


「え? あー、ちょっとな。少し心配に……ひ、暇だったから来ただけ!」


「えー、本当にー?」


「ほんと、ほんと」


 ……ツンデレかよ! てか、なんかキャラがぶれてる気が。


「それはそうと、ここまで来れたのもあの人のおかげなんだぁ! ねっ、将貴!」


「あ! そうだ! 祐也もお礼言っといてくれないか? 助けてもらったんだよ。俊さんに!」


「ん? 俊さん? 誰って……お前」


「どうも」


 里奈と将貴に言われて祐也がこっちの方を向く。すると、なぜかすっごい睨まれてる? わけわからんな。


「え? お前らあいつに助けて貰ったん? まじか?」


「どうしたの? 何か悪いことでも、」


「いや、お前には関係ないから。でも、こいつに助けて貰ったとか、本気で?」


「本当だって! 祐也、お前もお礼を言ってくれないか? パーティのリーダーとして、普通のことだろ?」


「いや、それは嫌だな。別に俺が言わなくてもいいだろ」


「は? なんで? 言うだけだろ?」


 なんかごたごた言い始めたな。お礼を言いたくないとか子供か! まあ、こっちもこんな感じで言われても癪に触るからいらないけどな。


「あ、別にお礼は良いですよ。里奈さんと将貴さんから聞けたので。それより僕はもう行きますね」


 一応フォローする感じで言葉をかけるが、


「え、いや。すみません。なんかこいつ頑固で」


「はあ? こいつもそう言ってるんだからもういいだろ! てか、俺らも行くぞ!」


 あまり意味が無かったようだ。


「え? 祐也! 私たち今来たところだよ? もう少し休ませてくれても……」


「いや、俺たちは9階層まで今日は行くからな! 後1階層だろ! 今回は俺もいるし、大丈夫だろ!」


「ちょっ! 祐也!」


 そんなこんなで祐也って奴は先に歩いて行った。なんなんだろうなあいつ。もう訳が分からなすぎて苛立ちもしなくなってきた。


「俊さん。ほんとすみません。また今回のお礼はさせてください! では、俺たちも行きます! ほんとすみません!」


「俊くんごめんね、あいつバカだから。また今度ね!」


 そして、二人とも行った。癪だが祐也って奴の強さは本物だからあの二人は安心だろう。


「はあ、疲れたな。最後が余計疲れたわ」


 しかし、なんであいつは僕のことを目の敵みたいにしてるんだろうか? わからない。毎回会ったら何か言われるのはかなりめんどくさいし。できる限り会わないようにしたい。


「さて、僕は帰りますか」


 まあ、今日はかなり進んだ。ドロップアイテムもいっぱいだし、レベルも上がったし、今日は満足としておこう。ていうか、最初は5階層までのつもりだったけど8階層まで行ってしまった。これはあれだ、ゲームをして夜更かしする時の感覚と一緒だ。

 つまり楽しかったという事だ。


 今のところダンジョンに来た日はかなり充実してると感じている。あんな奴に会ってもだ。非日常は、刺激がある事はいい事だとより思う毎日だ。


 この調子で、明日は10階層のボスを倒して11階層を見て終わりかな。次の日仕事だし。切り良く終わろうかな。




 

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