表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/148

閑話「二人目の感化、もう一人の始まり」

間幕です。もう一人の青年がダンジョンに行く話です。



「あっ……」


 横に伸ばした手は空を切る。何も掴むものもなくそのまま空中に投げ出される。その間、頭に浮かぶのは今までの情景。走馬灯のように思い出されていく。たった1メートルくらいの高さなのに、落ちるまですごくゆっくりに感じた。


 全身に感じる重い衝撃。


 線路に落ちた。でも、痛みは感じていない。感じないほど疲れているのだろうか。起き上がる気力もない。

 別に思い残すことはないとか、そんな事はない。けど、もう諦めようかと思ってしまう現状だった。


 うるさく聞こえていた周りの声が警笛の音とブレーキの音でかき消される。


 そして思う。


「ああ、人生って……」


 襲ってくるだろう衝撃に備えて目を瞑る、が……



「俺は助かったのか……」


 思っていた衝撃は来なかった。軽く持ち上げられるような感覚が来ただけだった。というか、生きている?


 恐る恐る目を開けると、目の前で青年がはにかんでいた。


「大丈夫ですか?」


 青年が声を掛けてくれる。この人が助けてくれたのか?え?助かったのか?


「……あ、あの」


「大丈夫ですか。もうすぐ駅員さんが来ると思いますので、安心してください」


「いえ、あ、あの……」


 周りの騒ぎ声がうるさくて、俺の声が届いていないのか。


「大丈夫ですよ。でも、俺も行かないといけない所があるので行きますね」


 そう言って青年は俺を置いて走って行った。


「何も聞かなかった……」


「あのう! 大丈夫ですか!?」


 気がつけば駅員が俺の近くに来ていた。俺はただ呆然と走っていく青年の後ろ姿を眺めていただけだった。


 この状態に対して俺も何もわかっていないが、駅員に色々と質問された。何があったのか、どうやって助かったのか。防犯カメラや周りの人の証言で色々とわかった。この出来事に対して、俺が助かったのはありえない事だと認識した。この現状には駅員も後から来た警察も訳がわからない状態で、俺はかなりの時間拘束されてしまった。最終的には、ただ本当に運が良かったという事で片付けられてしまった。


 しかし、今思うと確実に死んでいたはずなんだ。目の前まで電車は来ていたし。あの状態から俺を助けるなんてありえないだろう。高速移動でもしたのか?でも、今ある事実は俺が助かったという事。だけど、それを運が良かったで片付けられるのは少し癪に触った。


 はあ、あの人はなんだったんだろうか。今すぐに会って、とにかくお礼を言いたい。


 そんな事を考えてるから駅員の話なんて上の空だった。半分ぐらいしか聞いていなかったし、警察の話も頭に入って来なかった。

 ちなみに会社は警察からの連絡で休みとなった。







「どこにいるんだろうか?」


 あれからも会社はまだ辞めれずにいる。はっきり言ってあんな出来事があったのだ、会社にも居づらい。でも、あの青年は何か俺に勇気を与えてくれたと思う。線路への飛び込みを助けられただけだけど、他に色々と助けてもらえた気がした。それは、何でもできると俺に教えてくれたんだと思う。

 そうじゃないとこの状態で会社にはいられない。実際、周りの小言や上司の圧は何も感じていない。多分同じ事を言われているはずなのに、気にならなくなってきている。


 しかしあれから1週間ちょっと、まだあの青年には会えていない。すぐにでもお礼を言いたいのに会えないのはもどかしい。出会った駅が会える確率が高いと思って毎日来ているのだけど、まだだ。


「会えないのかな。やっぱり滅多に来ないとかかな?どうし……あれ? あの人って!」


 駅のホームで座って電車から降りて来る人を眺めていたところ、見覚えのある青年が電車から降りて来る。


「……やっとだ!」


 駆け足に向かう。この人は歩くスピードも速いな。急ぐ。


「はあ、はあ、はあ、あ、あの!」


「ん? 俺ですか?」


「あ、はい! あのっ! あの時は助けてくださりありがとうございました!」


 90度のお礼をする。青年は若干引いていると思うが、これでもまだまだ俺の気持ちは伝えられていない。


「……あっ! あの時の! 線路に落ちた人ですか!?」


「そ、そうです! 線路に落ちた! 本当にあの時はありがとうございました!」


 もう一度お礼を言う。


「いえいえ。俺は当たり前のことをしただけなので。それより今日は元気そうですね」


 俺の顔を見て笑顔を向けてくれる。かっこいいな!


「はい! あの時以来あなたに勇気をもらえました! 何でも出来そうな気がしています!」


「ん? 俺は何もしていないですけど。まあ、それは良かった」


 何もしていないって、そんなわけない。ここまで俺を元気にしてくれたんだ。感謝しきれない。


「それで、ずっとあなたを探してて、お礼が言いたくて。あと、聞きたいことがあって……」


「そんなに。えー、聞きたいことですか? いいですよ」


「はい! あの、その強さの秘訣とかってあるのですか?」


 直球に聞く。強さがあれば何でもできる。力も心の強さも。


「そうですね、秘訣ですか……。それは、ダンジョンに潜ることですね」


「ダンジョン? ですか?」


 ダンジョン。聞いたことがある。東京に突如出現した謎の建造物。大阪にも出現したと聞いたけど、そういうのに俺は疎いから全然気にしてなかった。


「ダンジョンに潜れば強くなれる。それは色々なモノと交換になるけど、強くなりたいならあそこは打って付けの場所だね。行ってみてもいいと思うよ」


 そう青年は言う。


「ダンジョンですね! 行ってみます!」


 この人が言うなら正しいだろう。強くなりたい。何にでも勝てる心が欲しい。力が欲しい。そしてこの人みたいになりたい!


「ねえ、相良。早く行かないとまた隊長に怒られるよ?」


「あ! そうだった! 行かないと!」


 青年と話していると横から女性が声をかけて来た。青年に話しかけている。知り合いなのだろう。でも、いつからいたんだろう?全然気付かなかった。


「ごめんなさいね。でも君もあまりこいつに憧れない方がいいよ? こいつは特別だからね」


「っえ、あ、はい……」


 女性に話しかけられてしまった。あまり経験がないから黙ってしまう。でもこの人、可愛いな……


「おい、優希菜。俺は特別じゃない。誰だってなれる人間だぞ?」


「ごめん、ごめん。あんたはそうだったね」


 何を話してるかわからないが、強くなれればこんな可愛い彼女も手に入れられるのだろうか。


「じゃあ、俺たちは行きますね。何か色々と頑張ってください」


 青年たちがもう行こうとする。


「あ、」


 だめだ、まだ聴けてない。


「あの! 止めてすみません。でも……」


「ん? なんですか?」


 二人が足を止めて振り向いてくれる。そして、


「あ、あなたの名前教えてくれませんか!?」


 勇気を出して質問をする。

 青年は、少しはにかんで答えてくれた。


「あー、名前ですね。言ってなかったですね。俺は伊藤相良です。全ての世界の困ってる人を助ける人間になる男です」


 そう言い残して二人は駅を出て行った。


 やばい、心臓が凄く激しく動いている。多分この人は俺が尊敬できる一番の人になるだろう。


 そして、とにかく俺が思ったことは、


 「かっこいい」だった。







 ダンジョン。周りが言うにはいいところではない。稼げると思って行ったが稼げないし。実際は死なないけど、死ぬのは怖いし。行かない方がいいんじゃない? オススメはしない。それが周りの意見だった。


 でも俺は稼ぐために行くわけではないし、死ぬような事態になるぐらいの事をしなければ、強くなれないと思っている。逆に俺にはぴったりな事だと思った。

 周りが何と言おうとも俺はダンジョンに潜ることに決めた。


 そして、


「これがダンジョンか……」


 青く光っている大きな門の中に飛び込み変な感覚を味わったあと、目の前には知らない景色が広がっていた。どれも見たことがないものばかりだ。何というか違和感しかない。


「こんにちは」


「っ! こ、こんにちは」


 後ろから声をかけられてかなり驚いた。反射的に挨拶仕返しだが、誰だ?


 え? 耳が長い? いや、テレビで見たことがあるけど……あれだ、エルフというやつか。作り物みたいだな。


「ダンジョンへようこそ。私は案内人のシャロンです。早速、貴方は観光? それとも冒険? どちらですか?」


 いきなりの質問で、内容はわからないが、


「観光? ですか? それはないです。俺は強くなりにここにきたので!」


 即答する。強くなりにダンジョンに来た。冒険をするわけでもない。


「ふふ、強くなりにですね。では冒険、しましょうか」


 笑っている。なんでかはわからないが。そのエルフははにかみながらこれからのダンジョンについて説明をしてくれた。

 理解できたところを要約すると、モンスターを倒してレベルアップをすれば強くなれる。それだけわかれば十分だった。しかし、そのモンスターとは一体なんだ。


「百聞は一見にしかずです。見ればわかりますよ。あの青いゲートに乗ってください」


 そう言い俺を青い光に促す。エルフが先行してくれるし、そのまま付いて行こう。説明の時に渡された槍とポーチを持って進む。


「いってらっしゃいませ」


 青い光の前に着いた途端、エルフは手を降り始める。なんなのか全くわからないが、強くなるためには飛び込まなければならない。

 俺は何も考えず青い光に飛び乗った。





「これは、怖すぎるだろ」


 プレステージという所に降り立ち目の前のモンスターと対峙している。

 なんなんだこの醜いやつは。本当にモンスターだ。


「ごぉぁぁぁぁ」


 二足歩行で猿よりも動物的で、見た目は醜い。そいつが、唸っている。気持ち悪い。

 でも、この悪魔みたいなのを倒せばレベルがあがるのだ。それなら倒すしかない。でも、足は震えているし、息は途切れ途切れ。動悸もすごい。倒せるのか、本当に。


 深呼吸し様子を見る。ん? こいつは近づいて来ないのか? じゃあこっちから行けばいいのか? 少し近づく。


「ごぉぁぁぁぁ」


 こっちが動くとあっちも動く様だ。ゆっくり近づく。怖いがこれも勇気だ。走れる距離になり一気に詰める。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 槍を突き出し走る。そのままモンスターに体当たりをする。


「ぐぎゃぁ……」


 槍越しに伝わる生々しい感覚。肉に包丁を刺した時とは違う感覚が手に伝わる。しかしそれが気持ち悪いとは思わなかった。

 俺はしっかりと、このモンスターに槍を刺したのだ。そう思った瞬間何か吹っ切れた様な気がした。


「はは、ははは、ははははは」


 笑い声が聞こえる。自分の口からだ。身体の底から湧き上がって来る感情。

 少し経ってもモンスターからの反撃はない。急所にでも刺さったのだろう。そのまま槍を引き抜く。その反動でモンスターがこっちに倒れる。


 そうか、今確実に俺は生き物を殺したんだ。初めての感覚だ。手に伝わる感覚、重さ、臭い、感触。普通全て嫌がる感覚なはずなのに、俺は逆で悪くない感覚だった。







 今までの俺は本当に弱かった。このダンジョンに来てすごくわかった。でも、ここから俺は変わっていけると確信している。



 チュートリアルステージ5階層はボス戦だとあのエルフは言っていた。ボスとは普通のモンスターより一際強い個体らしい。

 そして目の前にいるのは、


「あの醜いモンスターが鎧を着ている」


 その見た目はおかしい、変だ。ここまで来るのに同じやつと戦ったけど弱かった。そいつがどれだけ鎧を着ても変わらないと思う。というか、鎧と言っても胸当てとかそれぐらいだし意味がない。あとは剣を持っているくらいか。

 まあ、今の俺なら倒せないわけはない。レベルアップして、今はレベル3だ。余裕だ。戦い方も慣れてきたし、体力だって上がっている。そして一番は、何も、怖くないことだ。こんな弱い生き物ならこの槍で一瞬で倒せる。


 さあ、あいつも動き始めたし俺も戦うとしよう。


「ごぉぁぁぁぁ!」


 モンスターが走って来る。何も対処はしない。ただ狙いを定めて槍を突き出すだけだ。一直線の攻撃なんて怖くない。俺でも避けることだってできるだろう。


「はあぁぁぁぁぁ」


 少し気合を入れて突き出す。それは見事モンスターの喉元に刺さる。はっ、鎧なんて関係ないな。

 そのままモンスターは振りかぶろうとした剣を落とし、光の粒となり始める。

 はっきり言って弱すぎる。


「なんだよ、ボスって言うから強いと思ったのに他のと変わらないのかよ。がっかりだわ」


 この現状に落胆する。ここまでで攻撃は一切もらっていない。というかもらう訳ない。全部同じ醜いモンスターだったから代わり映えしなかったし。ただ槍を突き出すだけで死ぬ。こんな楽なことをして強くなれるんなら、簡単すぎる。


「いや、俺が才能あるのかも知れないな。こんなトントン拍子なら稼げるのかもしれないし。他に稼げてないやつは才能がないんだろうな」


 今の俺は、昔の俺が聞いたらびっくりする様な事を言ってるだろうな。でも、そこまで俺には自身がある。


『プレステージ5階層、ボス「ゴブリンソルジャー」を討伐しました。これによりプレステージのクリア条件を満たしました。』


 頭に言葉が流れる。これで終わったんだとわかった。

 入り口の対面側に青い光が見える。あれに乗ったら帰れるのだろう。


「はっきり言ってあっけなかった」


 出てきたモンスターは代わり映えしないし、弱いし。本当にこんなんで強くなれるのか?と思う。でも、実際は体が最初より軽いし、強くなっているとわかる。続けることが強くなれる秘訣なのだろう。頑張るしかない。


 何にも負けない心、何にも負けない力。そして目標はあの人、


「伊藤相良さんみたいになる事だ」


 拳を握りこむ。目標は果てしない先だと思う。だけど、頑張ればあの人みたいになれると、本人が言っていた。とにかく頑張るしかない。


「寝る暇もない。急いで強くなりたい」


 そう思いながら青い光に一歩足を踏み込んだ。





 

間幕を読んでくださりありがとうございました!次回から本編に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ