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15話「レベルは中々上がらない」



「やっぱ慣れないなこの感覚」


 ダンジョンからの帰り道、やはり感じるのは倦怠感。ダンジョンの外と中での違いが感覚を変える。たったレベル6のステータスではダンジョンの外で少し作用が残るの事も、あまり機能しないのだろう。とにかく体が重く感じる。いつかダンジョンの外でもあんな感じに走り回れるのだろうか。

 内心この状態でいつもより良く動けてるのかはわからない。逆にいつもより動けてない気の方が強い。ダンジョンの中での身体が軽すぎるから出てからとの差が凄い。

 まあ、いつまで経ってもこれには慣れないだろうな。


 少し歩いて感覚が戻って来るが、それまでは辛い。家に帰るまでが辛い。やっぱりお金出してでもゼロ階層で泊まった方が良かったかな。

 それでもどうのこうの言いながらやっと自宅に到着する。社会人になって一人暮らしを始めているわけだが、この時間に帰って一人というのは少し寂しいものがある。早く彼女ができたらいいんだけどな、としみじみ思う。

 そんな事を思いながら家の扉を開ける。


「ただいまー」


 誰もいないのに帰ってきたと挨拶する。子供の頃からの癖だなこれは。


「おかえりー」


「っ!?」


 え? 今、おかえりーって声が聞こえた。

 あ、入り口にも靴があるし。そうか、今日か。あの人が来る日は。

 まあ、あの声が女の子だったらテンション上がってたんだけどな。


「お疲れー。こんな時間まで仕事頑張ってるんやな」


 部屋に入ったら少しガタイが大きめの男性がエプロン姿で立っていた。

 この姿だけ見てたらシュールなのだが、様になっている。


「兄さん来てたんだ」


「おう。今日も泊まらせてもらうわ」


 僕が新社会人となって一人暮らしを始めてから、ちょくちょくこうやって兄さんが様子を見に来る。別に来なくてもいいんだが、母さんに命令されているらしい。兄さん自体はついでに寄ってる感覚だろうが。ちなみに兄さんは実家暮らしだ。


「そっか、今日第二金曜日か。じゃあ明日も練習?」


「そうだな、明日は大学生との練習だな。女の子が多いらしいぞ」


「まじで! 羨ましいなーそれ」


 兄さんは見た目も悪くないしガタイが良いから女子には人気だろう。昔はそうでなかったが、最近はコミュニケーション能力の上昇が半端ない。兄弟揃ってコミュ障だったのにな。時間は人を変えるってか。


「ちなみに明日は何の練習なん? いつも通り剣道?」


「ううん、明日は合気道だな」


「え? 兄さん合気道もできたっけ?」


 元々兄さんは武道が好きで小学校から空手をしていた。そんなに才能はないと言われていたのに、いつのまにか大会で優勝するレベルに達してた。それに釣られて僕も武道を齧り始めたのだけど。兄さんには及ばなかった。

 ちなみに兄さんと戦って勝てた事は一度もない。


「いや、2回目だな。共通の先輩が来てくれって事でついていくだけだけど。まあ、合気道も奥が深いし楽しいわ」


「へー。楽しいのは女の子に囲まれるからだろうけど?」


「はは。それが80パーセントかな」


 80パーセントって、本当に好きなんだな武道。まあ、女の子は今度紹介してもらおう。


「俊も暇なら来たら? 人手があれば助かるし。お前も中々筋があるしな」


「明日だよなー。ちょっと最近ハマった事があってさ。一日中出てるから、また今度かな」


「そっか。残念だな。また、パルクールみたいなんにハマったんやろうが、無茶するなよ。あの時は、厨二病心がくすぐられたーとか言いながら走り回っていたし」


 そう笑いながら兄さんはあの時のことを思い出させる。懐かしいパルクールにハマった時代。


「うーん、無理かな。できる限り無茶はしないけど、むっちゃ楽しいから無理や」


 ちなみにダンジョンに潜っていることは伏せている。母さんに言われるとめんどくさいしな。


「まあ、そんな事よりも! 泊めてあげるからこその等価交換。晩飯はなんですか!」


 泊めてあげるから晩飯を作れと。それが最初に兄さんが来た時に契約した事だ。場所を貸すからお前の出来ることをしろと。ちなみに兄さんの料理は美味い。てか、女子力高くねーか。その割に彼女がいないってなんでなんだろな。


「お! そうだな。今日はトンカツだ!」


「うお! まじっすか! よっしゃー! すぐ食うわ!」


 部屋に入った時から匂いがしてたからわかっていたけど、トンカツって響きがまた食欲をそそる。とにかく手洗いうがいだ。



 席に着く。


「「いただきます!」」


 目の前に出されたトンカツにすぐさまがっつく。ダンジョンに潜るとやっぱり体を動かすのでお腹が減る。トンカツと白飯の相乗効果は洒落にならんな。


「やっぱ美味いな、兄さんの飯は!」


「そうか、嬉しいわ」


 そんな話をしながらも箸は止まらない。見る見るトンカツが無くなっていく。


「話変わるけど。今何してるかまた話してな。楽しいことは共有したいやん」


 唐突な兄さんの言葉に箸が止まる。ダンジョン潜っていることはわかってないかもしれないが、何か隠しているとわかるらしい。まあ、兄さんも何か隠している事があるし。それを言わないので、僕のもあまり追求してこないか。


「また今度言うわ。落ち着いたらきっちり話そうと思ってるし、まだ始めたばかりだからな」


 そう言い、再び箸を動かす。

 内心いつか兄さんも誘おうと思っている。この人が前衛にいたらかなり心強いし、アタッカーとしてもやばそうだし。


「んー! ふう。ご馳走様でした! 美味かったわ!」


「おう! ご馳走さん。じゃあ後片付けはお願いな。俺はもう寝る準備するし」


 そう言い兄さんは席を立つ。明日も早いだろうし。役割は決まってる。


「んー。おやすみー」


 そのまま僕も後片付けに入る。疲れているからちゃつちゃと終わらせて僕も早めに寝よう。明日は朝からいくつもりだからな。

 ちなみに部屋は多くないから寝るところもかち合うのだが。


「お、はや。もう寝てるし」


 後片付けをし終わって戻ると、もう兄さんは寝ていた。行動が早い。それが何でもできる秘訣なのだろうか。


「僕ももう寝よ」


 そんな兄さんにはつられてか、僕も眠くなって来た。明日も楽しみだしな。

 そんな事を思いながら布団に潜り込む。




「ふぁぁぁぁ、おはよー……。って、もういないか」


 朝起きるといつも通り兄さんはもう、出かけている。割と今日は早く起きたんだけど、やっぱ早いな。


「よし。じゃあ僕も行きますか!」


 起き抜けだがちゃっちゃと用意をする。今からダンジョンに行くのが楽しみで仕方ない。さて、今日は何階層まで潜ろうかな。

 そんな事を考えながら用意をし家を出る。


「ん? なんか体が軽い気がする。一度寝たからなんとなく感覚が違うんがわかるんかな? ふふ、楽しい」


 少しいつもと感覚が違うことに嬉しくなり、ダンジョンに向かい少し小走りになる。







「シルクさん! おはようございます!」


 ギルドの入り口付近にいたシルクさんに声をかける。昨日もここに居たな。何してるのだろう。


「あ、シュンさんおはようございます。昨日はすみませんでした」


 シルクが僕を見た瞬間謝ってきた。


「いやいやいや、逆にこっちこそすみません。あの状態でシルクさんを置いて帰ってしまって」


「あれはもう慣れていますので。ああいう方でも力はあるので頼らさせていただくこともありますし」


 まあ、そうだろな。ダンジョンで生き残る人はエルフ達にとっては重要なのだろう。でも、あの場から去ったのは男らしくなかったな。


「ちなみにシルクさんはあの後カフェに……」


「あ! シルクちゃん! 今日も来たよー!」


 横からまた声が乱入して来た。


 まじか、またあいつかよ。タイミング悪すぎないか。


「ん? あれ? お前昨日もいたよな? タイミング悪すぎやん! おもしろ!」


 笑ってやがる。その反応かなりうざいんだけど、まじで。まあ、タイミングが悪いのは納得するけどな。

 あれ? こいつ今日は一人じゃないのか?


「シルクちゃん、おはようございます」


「シルクちゃん、おはよー」


 あいつの後ろに二人続いて来ている。どっちも若いな。ぱっと見普通の平凡な青年と、体育会系かな? 活発そうな女性。割と可愛いな。


 そんな事を思っていると、とことことその女性が近づいてくる。


「あ、ごめんね君も。あいつちょっと口が悪くて。でも中身はいいやつなんだ、許してあげて」


 その子は目の前に来てそう言う。可愛い子にそう言われると許さずを得ないな、この子に免じてだが。やべ、僕ってちょろすぎないか。


「あ、はい。別に気にしてないですよ」


「ほんとに! ありがとう! また何かあったら言ってくれていいしね!」


 僕の言葉に満面の笑みを返してくれる。すごく可愛く見える。あいつの所にいるのが勿体無いな。


「すみませんね。祐也のやつアホなだけで。言っときますんで」


 いつのまにか男の方も来ていた。また真面目そうな青年だな。ぱっとしない感じが共感できる。


「いえ、ありがとうございます。別に何も思ってないので、」


「将貴! 里奈! そんな奴に構ってないで行くぞ! 今日もレベル上げなんだからな。早く俺のレベルまで上げるぞ!」


「おい祐也! そんな言い方ないだろ。ほんとすみませんね」


「あのバカ。ごめんね。私たち行くんで」


 そう言い二人は走って祐也の元に行く。

 どっちも優しい性格してそうなのに、なんであんな奴についてるんだろ。


「シルクちゃーん! 行ってくるね!」


「行ってきます」


「またねー」


「はい。行ってらっしゃいませ」


 三人がギルドから出て行く。おー、静かになったな。


「あの三人ら幼馴染らしいんです。マサキさんとリナさんはユウヤさんのことが放っておけないらしくて、ダンジョンまでついてきたみたいです」


「そうなんですか」


 別にあいつの関係とかどうでもいいが、あの二人が大変な目を見るのはかわいそうな気もする。まあ、昔からの付き合いなら大丈夫だろうけどな。

 まだまだ会わないだろうからまあいっか。


 切り替える。


「よし! シルクさん。僕ももう行きますね! 5階層まで今日は行くつもりなので!」


「はい! 頑張ってください。別にシュンさんの実力ならもっと先まで行けると思いますけど。自分のペースで!」


 シルクさんは優しい。僕に気を使ってくれていることがわかる。その期待に答えようと思う。

 そうして僕もギルドを出る。よし、楽しもうか。







「さて、階段を下りますか」


 昨日の続き。3階層への下り階段の前にいる。転移ゲートは便利だな。セーブ場所みたいだ。

 階段を下りて行く。1階層の時と同じで緩やかで短い螺旋階段だ。すぐに3階層へ到着する。入り口も同じ。一歩踏み込む。


「3階層も同じか。2階層とほとんど変わらないな。モンスターは……」


 3階層に踏み込んだ瞬間、草陰から何かが出てくる。別にそこまで驚きはしない。

 やっぱりだ。予想通り。


「コボルドか。武器は、持ってるな。ボロボロの剣だが、注意しようか」


 こっちも剣を抜く。雰囲気からして勝てない相手ではない。ほとんどゴブリンと変わらないだろう。

 出てきたのは三体。すぐに叫びながら走ってくる。


「ごぎゃぁぁぁぁ!」

「ぐぎゃぁぁぁぁ!」

「ごぎゃぁぁぁぁ!」


 こっちも対処する。動きは見切れる。こいつらのスピードなら別に大丈夫だ。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 コボルドの攻撃を避けながら攻撃をする。コボルドもゴブリンと同じで単調な攻撃だ。このレベルなら関係ない。一体ずつ丁寧に倒す。とにかく目の前のコボルドは殲滅する。


「よし! 調子いいな! 朝からの運動にはもってこいの相手だし。でも、なんだこいつら、」


 光の粒になっていくコボルドを見ながら思う。何か必死さが伝わって来る。人間に恨みがあるみたいに。何となく雰囲気が怖かった。


 でもまあ、そういうのは考えても仕方ない。ゴブリンの時に学んだことだ。

 そのまま剣を戻さず奥に進む。




 歩けば歩くほど出くわすモンスター。


「っくそ。なんだこいつら」


 3階層のモンスターは量が多いと思った。出会ったら襲って来るのは変わらないが次々に出てくる。襲ってくるモンスターはゴブリンとコボルドだから対処はできるが。連続での戦いは疲れる。


「それに何か必死だ」


 やっぱりこいつらただ襲ってくるのではなくヤル気が凄い。怖いくらいだ。


「ごあぁぁぁぁぁ!」


「っ! うっとうしい! はあぁぁ!」


 今襲ってくる最後の一体を斬り捨てる。


「やばいくらいしつこかったな。数十体は倒したぞ」


 普通に歩いていただけで草陰から襲ってくるから剣を納める暇も無かった。

 まあ。こいつらがこんなに必死だったのはなんとなく想像できるが。


「祐也って奴だろうな。何階層から来たか知らないけど、通った所手当たり次第に倒して来たんだろな」


 あそこで会ったのはそういうことだろう。


 そしてこいつらモンスターの復讐的なやつか。こいつらも感情はあるみたいだしな。


「まあ、そんな事は置いておいて。ここまで出くわすのは、レベルアップできるし好都合か。このまま進もう」


 まだまだ体力は残ってるし、階段入り口前まで行けばより出てくるだろう。いなかったらそのまま4階層まで進めばいいしな。


 僕は足を止めずそのまま進む。







「レベルが上がらない」


 あれからゴブリンとコボルドを倒しながら4階層の半ばまで来ている。しかし悩みが出てくる。レベルが上がらない事だ。


「モンスターも4階層はコボルドばかりだし、飽きてくるし。まだレベル6だし」


 2階層でレベルアップしてから、これだけモンスターを倒しているのにまだレベルが上がらない。レベル6になったのはすぐだったのに。やっぱオーガを倒した経験値が大きかったからか。しかし、あいつを倒してレベルが1も上がっていないのは理不尽すぎる。

 まあ、4階層に対してレベル6っていうのもあれなのかな? 仕方ないこのまま進んでもレベルが上がらなかっても5階層に進もう。悩んでいても仕方ない。別にレベルが上がらなくてもモンスターは普通に倒せるのだから。


 とにかく階段まで進む。

 出てくるコボルドは倒しまくる。それでもレベルが上がらない。階段入り口前まで到着してしまう。


「いるのは……五体か。さあ、後五体でレベルは上がるのか?」


 とにかく走り出す。戦いにも慣れているので大抵一撃で倒せるようになっている。攻撃も受けることもほとんどない。それはそうと、やはり雑魚をどれだけ倒してもレベルは上がらないのか?

 まず、一体目、横薙ぎで倒しす。次の二体目は切り返しで首を飛ばす。これができるのは鋼の剣様様だな。レベルは上がらない。


「つぎだぁ!」


 とにかく叫んでみる。三体目も倒し、四体目も倒す。レベルが上がらない。


「はあ、上がらないな。諦めようか」


 最後の五体目と対峙する。コボルドも必死だろうが、こっちも必死だった。向かってくるコボルドをカウンター気味の横薙ぎで斬りとばす。

 そして光の粒となり、


『レベルが7に上がりました』


「上がるんかよ!」


 もう、何か図られたようにレベルが上がった。最後に上がるとか、絶対仕組まれてるだろ!


「もういいわ。疲れたし。休憩してから5階層に行く」


 とにかく休憩する。通路を通り階段前まで歩く。下り階段を目の前にして座り込む。


「5階層は小ボス戦だったよな。何が出るのかな」


 オーガは嫌だ。今すぐ戦いたくないし。でも、シルクは簡単だと言ってたし大丈夫だろうか。

 水を飲み、剣に『ウォッシュ』をかける。魔法も練習しないとダメだな。

 そんな事を考えながら割と休憩はできた。


「よし、行きますか」


 剣を鞘に戻しその場で立つ。いつも通りの螺旋階段を何も抵抗なく下りる。何も違う事はない。5階層に到着する。さて、


「ああ、いるな」


 5階層は4階層までの草原ではなくチュートリアルの時のような石造りのステージだった。その中央に三体のモンスターが立っている。


「小ボスらしい演出だな。チュートリアルを思い出す。こいつらは……ゴブリンか。でも、大層なカッコしてるな」


 ゴブリンだ。だが、いつものゴブリンではない。武器は剣と槍と斧。ボロボロではなく使い込まれた感じのオーラがある。そして、身につけているのは防具。鎧だ。しっかり身体を守れるモノだ。僕より良い物っぽい。

 そうだないわゆるこいつらは、


「ゴブリンソルジャーってやつだな」


 そこにはチュートリアルで戦ったゴブリンよりも強そうなゴブリンが立っていた。





 

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