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56話-4「先に行く前に」



 ミーティングが終わり、兼次さんが席を立った。


「じゃ、みんなはちょっと待っててくれ。なんか姫宮に呼ばれてるみたいやから行ってくるわ。真由、俊ええか?」


「あ、はい!」


 兼次さんに呼ばれて河合さんがシャロンさんの所にいる杏子さんを呼びに行った。


 そして、杏子さんに手招きされ、ギルドの奥の部屋に案内される。


「なんや、個室取るぐらい大事な話なんか? せやったら、真由も俊も一緒でええんか?」


「うん。まゆまゆもしゅんしゅんもさっき話したから、一緒に聞いてもらうよ」


 奥の部屋に入るとそこは前に兼次さんと杏子さんと3人で話した部屋だった。


 そして正方形の机を挟んで杏子さんと兼次さんが座り、僕と河合さんが対面に座った。


「じゃあ、時間も無いだろうし、単刀直入に話すね。『暴虐の鬼王』の討伐の為に、ここにいる4人で臨時パーティを組んでほしいんだ」


 ちょっ! 杏子さん! それは単刀直入に言いすぎでしょ! 河合さんですら戸惑ってるし。伝わらないだろ。


 案の定兼次さんも頭にはてなを浮かべていた。


「はあ? どういう意味や? ちょっと話が見えへんのやけど……」


 なんで? と、杏子さん自身も困った顔をしている。

 ちょっとこれは助け船を出さないと。


「兼次さん、僕から説明しますね。河合さんフォローお願い」


「うん」


 そして、さっき杏子さんと話した事を兼次さんに話した。






「……なるほどな。姫宮の敵である『暴虐の鬼王』を討伐するために、俺らのレベルがちょうどええわけで、『暴虐の鬼王』に対応できそうなんが、俺と俊と真由ってことやな。だから、最初に言ってた臨時パーティをこの4人で組む話になるんか。意味は理解したわ」


 兼次さんが腕を組みながらうなずく。


「まあ、臨時パーティを組んでもええんやけど……」


「本当!? だったら、臨時パーティを組んで……」


「それより、姫宮が俺らのパーティに臨時に入ればええんちゃうか?」


 兼次さんの言葉に驚いた。まさか兼次さんもその提案をするとは。


「わたしがおじさんのパーティに?」


「そや、たぶん他のメンバーは納得するで」


 えっ、納得するのか? でも兼次さんがそう言うならそうなのか?

 杏子さんも心配そうに兼次さんを見る。


「大丈夫? わたしがいても『暴虐の鬼王』は出てこないわけではないよ?」


「それはわかってる。でも、さっきのシルクちゃんの話なら『暴虐の鬼王』に遭遇する確率は高いわけやろ。せやったら俺らは中級上位か上級冒険者を雇わな安心して攻略できひん、と彰達は思ってるわけや。でもそんなお金は俺らにない。そうなると、少しでも生還する確率を上げるために、姫宮がいた方が俺らは助かるってわけや。それに、そっちが言ったんやから俺らに同行する依頼費用はかからへんやろ?」


 兼次さんがニカっと笑う。


「そうだね。うん、その場合のお金はいらないよ。でも、わたしが全員守れるわけじゃないよ?」


「それはわかってる。でもこっちには俊も真由も俺もいるわけや。つまり姫宮が誘ったメンバーの俺らがいるわけやし、守り切れるやろ。それにあいつらも弱くないで。もし『暴虐』に圧倒されたとしても、俺らを囮にその場から逃げることぐらいは最低でもできるやろしな」


「なるほどね。おじさんはそう見てるんだ。まあ、わたしがいれば生存可能性は上がるのは確かだね」


 兼次さんの意見には納得した。彰さんなら「生還できる確率が上がるならいいけど」とか言いそうだ。


「それに、彰と美優と佑はユニークモンスターと出会ってへんから、一度見た方がいいと思ってるしな。経験させるために『暴虐の鬼王』はうってつけや。ほとんどの冒険者が通る道やろしな。せやから、姫宮がいたら安心感が倍増するわけや」


「なるほどね。だったらこれはおじさんの思惑通りって事になるのかな?」


「いやいや、これは棚ぼたやわ。俺も姫宮が誘ってくれるとは思ってへんかったし。ラッキーやで」


 はっはっはっと豪快に笑う兼次さん。この話なら全員納得しそうだ。


「だから、俺ら4人でじゃなくて俺のパーティに臨時として55階層攻略時から姫宮が加入するでどうや? はっきり言って俺ら4人パーティは無しやな。その間のあいつらにどう説明したらええかわからんわ。プライドズタズタやで」


 ですよね。


「それと、55階層まで行くのはたぶん時間がかかると思う。未知の状況やから情報収集から始めなあかんしな。数か月後って話にもなるかもしれへん。それでもええんやったら、俺らのパーティに臨時に加入って話でええか?」


 その言葉に杏子さんが目をつぶった。考えているのだろう。ブツブツと何かを呟いている。




 そして一分後目を開けた。


「わかった。それでいいよ」


 その言葉に河合さんが「やった!」と声を上げる。


「私も『暴虐の鬼王』を倒す為に半年以上ここにいるから、別に数か月ぐらい待ってもいいからね。じゃあ、それで交渉成立ってことで」


「ああ。それでいこか」


 そして55階層から杏子さんが僕達のパーティに臨時加入する事が決まった。

 詳細は53階層を突破した後で話し合う事になり、今日の杏子さんとの話はこれで終わる。


 そして兼次さんが「あっ、そや」と、立ち上がりながら杏子さんに質問した。


「ちなみにやけど、姫宮はその『暴虐の鬼王』を倒せそうなんか?」


 その言葉に杏子さんが厳しい顔になる。


「確実とは思ってない。もしかしたら逃げるかもしれない。でも、今回で倒すつもりだよ」


 そう言って僕達を見た。


「しゅんしゅんとまゆまゆの力も借りてね」


「「はい! もちろんです!」」


「そか。姫宮でも難しいって思ってるんやったら、こっちも慎重に行かへんとあかんな。そう考えるとほんまに姫宮が声をかけてくれたんはラッキーやったな」


 そう言いながら兼次さんが部屋を出て行った。それに続き僕達も部屋を出てみんなの場所に戻る。




 戻ると大樹さんらが席に座りながら僕達を見ていた。


「兼次さんどんな話だった?」


「簡単に言うと、姫宮が55階層以降に同行する事になった。費用はタダや」


「へぇー。それはいいんじゃない? 姫宮さんが一緒なら安心できるわね」


「まあ、実力は確かだからな」


「大樹、あいつはそんなレベルなんか? 俺は噂しか聞いてないからな。まあ、実力は中級上位ぐらいなら『暴虐』が出て来なくならないけど、生還の確立は上がるか」


「私は女の子が増えるからいいと思うな。泊りになるから男性よりも女性の方がいいよ。それで強いなら上々だね」


「まあ、実力は俺が目にしてるから大丈夫や。はっきり言って俺らよりもかなり強いからな。それでも『暴虐の鬼王』を確実に倒せるかわからんって言ってたから、俺らは逃げ切れるようにしとかなあかんで」


 杏子さんが臨時に加入する事に全員が良い反応をしていた。兼次さんの言う通りだった。


「やっぱり兼次さんに早く話してよかったな」


「だね。兼次さんの信頼が厚いから、杏子さんへの反応も悪くないんだろうね。杏子さんは強いからそこは疑う事ないんだけど」


 良かったと、横で胸を撫で下ろしている河合さん。

 当の杏子さんは部屋を出た後、用事があるようでさっさとどこかへ消えていた。


「じゃあ、用事はこれで全部済んだから、今から51階層に出発するで!」


「「はい!」」


 そして、僕達は51階層に足を進めた。







 51階層。そこは今までの階層とは違った。


「おおっ! ダンジョンだ!」


 その光景を見て声が漏れる。


 それも仕方ない。何て言ったってその光景がダンジョンだったからだ。

 いつも通りの階段を下りた先は、ここまでの自然の光景とは違い、ダンジョンと言う言葉が正しい、広い洞窟の様な空間が広がっていた。


「事前に聞いてた話通りやけど、自分の目で見ると思ったよりも感動するな」


「そうね。初めてダンジョンに来た時やチュートリアルやプレステージのダンジョンとはまた違った雰囲気よね」


「おい、俊! ワクワクするな!」


「はい! 大樹さんもですか!」


「当たり前だろ!」


 大樹さんとこの光景を見てはしゃぐ。

 これを見てはしゃがないわけがない!


「あいつら、子供かよ。事前情報あるからわかってた事だろ。そんなはしゃぐこと無いと思うけどな」


「そんなこと言って、アキ君もワクワクしてる顔だよ?」


「うるせぇ」


「あははっ」


「河合さんははしゃいでないですね?」


「そう? 奥山君みたいにははしゃがないけど、私も割とワクワクしてるよ。この景色凄いもん」


「ですね。俺もはっきり言って驚いてます」


 全員がこの光景に驚いていた。


 洞窟と言っても横50メートル以上の広さで、高さは10メートル以上はある。でも、そこら中に謎に光る鉱石があり、充分な明るさを保っている。先は暗くて見えない部分はあるが、光る鉱石によって100メートル以上先まで見えている。視界は十分にある、広い空間だ。

 だから、今までと違う異世界らしい、ダンジョンらしい雰囲気である事に僕は滾っていた。


「ダンジョンって言ったら洞窟ですよね! ここまではダンジョンって言うより異世界って感じだったんでこの光景が見れて僕は嬉しいですよ!」


 この光景が見れただけでも、50階層を突破できて良かったと心から思える。


「だよな。俺もこの景色には感動してる。ワクワクが止まらないな!」


 隣に居る大樹さんも笑っている。


「今見えてる光景も実際は謎の認識阻害がかかってるやろから、実際はもっと広いかも知れへんけどな」


 後ろから近づいて来た兼次さんがそう言う。

 なるほど。それもあるのか。でもそれらなもっとワクワクする!


「この光る鉱石って、ゼロ階層でも使われてたっけ?」


「店や宿舎の柱についてたのがこれじゃないか? 普通に電気じゃなかったから、可能性はあるだろ」


「多分これだと思うわよ。ギルドで51階層以降にある鉱石採取のクエストがあったから、たぶんそうだと思うわ。一応採取用の道具持ってるから数個持って帰るわね。クエスト受注してるからその分ね」


「さゆちゃんは準備がいいね!」


「まあね。51階層は今までよりも稼げる匂いがするもの」


 そこまで小百合さんは見てたのか。事前情報と準備がしっかりしている人がいると行動が楽になる。僕も見習って観察する様にしよう。


「よし、みんな。興奮してるところ悪いんやけど、行動するで。今日の探索は4時間にする。今から2時間進んで、すぐ折り返してここに戻ってくる。目的はどの種類のモンスターが出るか、強さはどれぐらいか。今まで以上にマッピングする必要があるかや。そこを中心に確認していくで。進めるレベルやと思ったら明日1日かけて進むことになるから、それを念頭に行動と思考をしてくれ」


「「了解です」」


「ここまで戻って来たら、小百合が持ってきたクエストを終わらせてギルドに戻ってミーティングや。それでええか?」


「「はい!」」


「じゃあ、51階層、攻略開始や!」


 そして、僕達の51階層攻略が開始した。






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