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56話-3「先に行く前に」



 シルクさんがバインダーを見て話し始める。


「まず、51階層からは49階層までとは違い、ダンジョン攻略の時間が大幅に増えます。1層あたり最低でも1日はかかると思ってください。それで、60階層までの帰還ゲートは51,53,55,56,58,60階層にありますので、52階層からは2日以上かかります。なので、階層内で寝泊まりする事になります」


「えっ、まじで!? そんなに攻略時間がかかるのか?」


 話の内容に全員が驚く。


 ダンジョン攻略中に寝泊るするとは思ってもいなかった。そうなると、さっき杏子さんが言っていたパーティ以外の人間が一緒ってかなり気を使う。というか、パーティメンバーでも気を使うぞ。


「なので、攻略中の寝泊まりセットなどはギルドで貸し出しも販売もしてますので、ぜひご利用ください」


 そう言ってシルクさんが兼次さんに紙を渡した。今話していた必要な物の一覧のようだ。


「これもミーティングの内容に加えなな」


 兼次さんのつぶやきに全員が頷く。


「次に、モンスターの強さです。もちろん階層ごとに強くなるのは今まで通りですが、49と51階層の差は今までよりも大きいと思ってください。50階層ボスまでとは言いませんが、私としては毎回50階層ボスと戦うつもりで挑むことをお勧めします」


「おいおい、そんなに強いのかよ。一体一体が50階層ボスレベルって……」


「いや、すみません。ボスレベルってわけではないです。そこまでは強くないですけど、49階層よりも1体の強さが上がっているので、気を付けてと言う意味で言っています」


「なんだよ。それならまあな。まじで毎回ワイバーンと戦うって考えたら51階層は諦めた方がいいって思ったからな」


 彰さんが息を吐く。


 51階層は諦めるまでは言わないが、ワイバーンレベルばかりなら骨が折れる。それに加えて1日以上の攻略時間になるなら、かなりハードな攻略になりそうだと。


「すみません。ギルドマスターにビビらせて慎重にさせろって言われたもので……」


「シルクちゃん、それは言っちゃダメなんじゃない?」


「えっ、あっ! 今のは聞かなかったってことでっ!」


 慌てて頭を下げるシルクさん。今日はかなり真剣な顔していたので少し変わったかなと思っていたけど、今までと変わらないな。ちょっと和んだ。


「まあ、それはええとして。シルクちゃん、それ以外に何かあるんか?」


「えっと。ダンジョン攻略の時間にモンスターの強さ。基本的にはこの二つが大幅に変わる事なんですけど、もう一つ注意点があります」


「うん、それは?」


「ユニークモンスターです。55階層から59階層の間にユニークモンスターが目撃されています。高確率で出現する可能性があるので気を付けてください」


「ユニークモンスターですか……?」


「それはかなり重要な話だな」


「はい。そのユニークモンスターに50階層を超えた冒険者のほとんどが出会っています」


 それってまさか。


「今までにもそのユニークモンスターに殺されている冒険者もいる、かなり凶悪なモンスターです」


 その内容にさっき話した杏子さんの言葉が蘇る。


「……そのユニークモンスターの名前は?」


「名前は『暴虐の鬼王』。鬼のモンスターです」


 その名前に僕の背筋に冷汗が流れた。


「ちょっと待って。50階を超えた冒険者のほとんどが出会って、中には死んだ冒険者もいるユニークモンスターって、かなりやばいよねっ!?」


「ああ。やばい。この前の『独眼のウェアハウンド』みたいにギルドで討伐隊は組んでないのか?」


 美優さんと彰さんの質問にシルクさんが頷く。


「討伐隊を組んで何度も捜索はしました。ですが、ユニークモンスターの性質上、上位の冒険者相手に出てくる事はないんです。そして、なぜか出現する階層は60階層以下なのに『暴虐の鬼王』の強さは60階層以降の強さなんです。上位の中級冒険者数人か上級冒険者でなければ確実に倒すことができません。ですが、そのレベルの冒険者と行動を共にすると、『暴虐の鬼王』は姿を晦ませてしまいます。だから、未だに『暴虐の鬼王』を討伐する事が出来ていません」


「まじか。だったら今から攻略する俺らは危険じゃ……ん? いや、待てよ?」


 シルクさんの話に眉間に皺をよせていた彰さんが組んでいた腕を解いた。


「今の話だと『暴虐の鬼王』が出てくるのは55階層以降なわけだろ? じゃあ、55階層からギルドの権限で上位の中級冒険者か上級冒険者を数人付けてくれたら安心して攻略できるんじゃないか? ギルドもここまでしっかり説明するぐらいだ、俺らには死んでほしくないわけだろ?」


 その提案に美優さんが手を叩く。


「ほんとだね! 流石アキ君! 私もそれがいいと思うよ!」


 しかしシルクさんは顔を暗くする。


「すみません。それは、えっと……例えば、中級上位の冒険者が1人だけでは危険です。一人だけなら『暴虐の鬼王』も出てきますし。そうなると、皆さんを守りながら戦うのはかなり厳しい話になります。なので、数人は付ける事になります。だから、パーティ単位での同行になりますよね。その人数の中級上位の冒険者を雇うお金が必要になります。かなり高いですよ」


「高いってどれぐらい?」


「1日あたり最低でも1人金貨5枚は必要です。なので、5人パーティなら1日金貨25枚で、55階層からはゲート仕様上無理なので、54階層からになると60階層までに早くても5日はかかるので、最低でも金貨125枚になりますね」


「……はぁ!? ちょっと待て! そんなに金がかかるのか!?」


「はい。中級上位になると60階層以降の冒険者になりますから、1日でそれぐらいは稼いでます」


「おいおい、まじかよ……」


 えっ、それが本当なら、とても夢があるんですけど! 1日金貨5枚で20日攻略すれば金貨100枚!? すごっ! 中級上位冒険者ってすご! その情報聞けて嬉しいんだけど!!

 夢が、夢が広がる!


 しかし彰さんの反応は僕とは違った。


「いや、俺らが死なないようにするんだから、ギルドがその金額持てないのか?」


「流石にそれは……難しいですね」


 シルクさんがバインダーを確認しながら答える。


「今まで60階層まで上級冒険者を雇った例はなくはないんですけど、皆さん自費でしたし、それだけの金貨をギルドが出資するという訳にもいきません。中級上位以上の冒険者が数人となればユニークモンスターが出現する確率が減るので、討伐の可能性も減ります。そうなると、ギルドとしても利益が無いので出資が難しいみたいですね。だから今ギルドができるのはレベルギリギリのメンバーで討伐隊を組むぐらいしかできていないです」


「じゃあ、ギルドは俺らが死んでもいいって事か?」


「そいうわけではないです。今まで死人は出ていますが、『暴虐の鬼王』と出会っても生還している冒険者は多数います。とにかくギルドから言える事は、出会ったら即逃げる事です。それが注意点です」


「逃げるって、逃げられなかったら……」


「ちょっ、あき……」


「おい、彰。それぐらいにしとけ」


「兼次さん……」


 彰さんがシルクさんに声を大きくし始めたので、僕が止めようとすると、先に兼次さんが止めた。

 ちょっと彰さんのシルクさんへの態度がきつい。ギルドの方針だからシルクさんに言うのは違うだろって言いたかったんだが。


「『暴虐の鬼王』と出会うのも55階層以降なんやろ? だったらそこまでは俺らは攻略できるわけや。まだ先の話やろうから、もう少しゆっくり考えたらええやろ。それよりも先に目先の51階層の事を考える事の方が大事や」


「……それもそうだな。すまん、兼次さん」


「俺に謝らんでええ。ごめんなシルクちゃん」


「いえ、大体の冒険者の方はこの話を聞いて戸惑われるので。でもこれだけは言わせてください」


 そう言ってシルクさんが彰さんを見る。


「ギルドは冒険者を見殺しにしません。ですが、手伝えるところと手伝えない所がある事はご了承ください。それに私は皆さんの力になりたいです。なので、できるかぎり私ができる事はしますので、お願いします」


 頭を下げるシルクさん。

 この様に献身的にシルクさんはいつも僕達にしてくれる。それなのに彰さんはちょっとシルクさんに当たりすぎだ。


「……俺も言いすぎたかもしれないな。ごめんなシルク」


「いえ、大丈夫ですよ」


 ……彰さんってシルクさんの事呼び捨てか。まあ、人それぞれだからそれはいいけど。


「ってことで、シルクちゃん。説明はそれぐらいか?」


「あ、はい。言わないといけない事はこの3つだけです。他何かあればいつでも聞きに来てくださいね」


「ありがとな、シルクちゃん」


 兼次さんの言葉にペコっと頭を下げたシルクさんは受付に戻って行った。


 シルクさんがいなくなった事で、兼次さんが椅子に座りなおす。


「ってことで、今からさっきのも踏まえて51階層の話をしよか」


 全員が了承の返事をする。


「まずは俺の意見から言わせてもらうわ。まず、51階層からは攻略時間、モンスターのレベルが変わるわけやけど、今は51階層だけの事を考えてたらええやろ。先の事はまだええ。理由は、51階層を攻略したらそこに帰還ゲートがあるからや。それもシルクちゃんが言うには1日あれば攻略できるわけやから、今までの俺らの2階層攻略と同じって考えたらそこまで時間の拘束の変化はないやろ」


「そうね。同じって言えば同じよね。51階層を攻略したら帰還ゲートがあるのはラッキーだったわね」


「だな。様子見って事にすればその先に進むか、滞在するか考えられるってことだな」


「そう言う事や」


 普通ならその意見になるだろう。まあ、後で杏子さんと兼次さんに話す内容を踏まえると、僕的にはもう少し先に進められたらいいんだけどな。

 その気持ちを持ってる隣の河合さんも黙って聞いている。


「55階層以降に行くならユニークモンスターが出るから、そこまでに金を稼いだ方がいいって事だよね。だったら、ゆっくり攻略していけばいいんじゃないかな? だよねアキ君」


「そうだな。さっきはユニークって聞いたから焦ったけど、今は気にしなくていいわけだからな。50階層攻略するまで数か月かかってるんだから、ゆっくりでいいだろ。先に急いで進む必要もないだろうし」


 彰さん達の意見は消極的だが、今から未知の世界となるとそうなるのもわかる。


「俺もその意見になるな。別にゆっくりというわけやないけど、しっかりと石橋叩いて渡る事が大切やしな。それに俺らはそれの方が合ってる」


 兼次さんの言葉に初期メンバの4人が頷く。途中から入った僕達3人はみんなの意見を聞く事に徹していた。と言うか多数決になればあっちの方が有利だからな。従う事になるだろうし。


「真由達はどうや? 黙ってるけどなんか意見はないか?」


「……私も今話されてた事でいいですよ。未知の領域なので慎重になる事は大切なんで」


「俺も河合さんの意見と同じです」


 河合さんと桐島君は同意する。

 ここは僕も同意した方がいいが。


「今は僕もそれで大丈夫です。まあ、先に進みたい気持ちはありますけど」


「俊はそうやろな。まあ、先に進むのは51階層攻略してからしっかり話し合えばええやろ。51階層がもしかしたら簡単かもしれへんし、難しすぎるかもしれへんし。わからへんことだらけやから慎重に行こか」


 まあ、そうなるよな。慎重な事に越したことはないから僕もそれで大丈夫だ。

 少し杏子さんとの約束がどうなるかが気になるだけだからな。


「ってことで、今からの方針はまず51階層突破ってことやな」


「「了解です」」


「じゃあ今日は、51階層の様子見で今の俺らが進めるかどうか3、4時間程探索してみて、本番は明日や。今日の結果を元に明日1日かけて攻略してみよか」


「「はい!」」


 これで今日と明日の方針が決まった。


 今はまだ平日に僕がダンジョンに来れないので、土日をメインに攻略して貰っている。そう考えると、52階層以降は3日かかる日もあるわけだから、土日だけでは足りないな。……だったら、河合さんも攻略が難しくなるんじゃ。


「河合さん、3日も拘束は難しいよね……」


「だね。これは本格的に考えないといけないね……」


 河合さんも悩んでいた。






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