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54話-3「50階層のボス」



 漆黒の体躯に変わったワイバーンの周りを囲むかの様に稲妻が走る。

 そして、稲妻と暴風が止んだ瞬間に始まる。


 ワイバーンが大きく息を吸った。


 ……やばい! 来るっ!


 僕は歯を食いしばり全身に力を入れて剣を構える。



――咆哮



 変化前のワイバーンの咆哮とは比べ物にならない圧力が全身を襲う。これは『独眼のウェアハウンド』と比べても遜色がない。気を付けないと意識が持って行かれそうになる。

 だが、これなら耐えられる。あいつと同じレベルなら耐えられる。


 耐えきった。

 しかし、咆哮が止んだ時点で周りの状況は変わっていた。


 地面に片膝を立てる彰さんと美優さん。桐島君に至ってはうずくまっている。それに河合さんと小百合さんはかろうじて動けそうだが、咆哮を耐えた事で息を荒げている。大樹さんは動けそうだが、一歩後ずさりした。


 そして、ワイバーンがこちらを怒気を帯びた目で見据えた。


「来るでぇ! お前ら! 下がれぇ!!」


 兼次さんが叫ぶ。

 今動けるものは兼次さん……そして、


「ここだろっ!!」


 僕はスキルを発動する。


「パワーチャージ!」


 黒紫に光る剣を構えながら、黒く染まったワイバーンに向かって走り出す。

 どれだけ凶悪になったとしても、今まで見た事がない攻撃パターンになったとしても、ここまでダメージを与えた事実は消えない。

 なら、倒すことはできる。


 というか、今ここがチャンスだろうが!


「瞬動」


 ある一定の距離まで近づいたら一気にワイバーンに接近した。そして、片方の翼めがけて飛びあがる。

 振り上げた剣は紫の軌跡を描く。


「リア・スラッシュ!」


 そして、黒いワイバーンの翼を切り裂いた。


 唸るワイバーン。なぜこのタイミングで攻撃されたのか想像できていないような叫び。


 そりゃそうだろ。このタイミングが一番隙だらけだ。

 何度僕が強敵と戦ってきたと思ってるんだ!

 まあ、強敵と戦ったって言うならもう一人、息を荒げながらも行動していた人もいるけどな。


 そう思って僕はワイバーンから距離を取った。その瞬間、


「『ライトニング』!」


 黒いワイバーンに雷が落ちた。轟音と激しい閃光をまき散らしながらワイバーンを攻撃する。


「……効いてない?」


 しかし変化前とは違い、ワイバーンはダメージを食らっていない様に見える。


 まさかと思うが、魔法耐性の属性が変わった?

 それに翼を落とすつもりで放ったスキルも切り裂くだけしかできていない。防御力も上がっている。


 でもこれで終われない。


「まだまだぁ!」


 再度『瞬動』で距離を詰めて剣を振る。常に『スラッシュ』を全開で放っているが、その黒い皮膚は微かしか攻撃を通さない。少なくとも『リア・スラッシュ』か『パワーチャージ』を使うしか攻撃を食らわせられない。それか魔法メインに変えるか。

 そう思った時、河合さんの声が飛んだ。


「奥山君!」


 その一言で僕はその場から離脱する。

 その瞬間、『フレイムバンナート』がワイバーンを包み込んだ。

 それはさっきの『ライトニング』と違って、中にいるワイバーンが唸る様に動いた。つまりこれは効いている。


 それを見て僕も魔法を構築する。河合さんと同じ炎の魔法だ。


「『フレイムバンナート』!」


 数メートル離れた位置からまだ消えていない炎をさらに燃やす様に、爆発するような炎をワイバーンに食らわせる。

 これでダメージが与えられたらいいが。


 しかし、そこまで甘くない。


 その炎から逃れるようにワイバーンが僕に向かって飛びだしてきた。燃える炎を纏いながら突進してくるワイバーンを見て対応を考える時間はない。

 これは食らうしかないと思った瞬間、


「パリィっ!」


 目の前に盾が現れワイバーンを受け止めて弾いた。燃えるワイバーンを盾一つで受け止める。


「すまん俊!」


 謝りながら割り込んでくれたのは兼次さんだ。


「助かりました!」


「一瞬あの変化にあっけに取られてたわ。あのタイミングで俊が仕掛けへんかったら俺ら終わってた可能性があった。ほんまに助かったわ!」


「いえ。あれが最善だと思ったので。でも、今のタイミングは助かりました」


「後で反省会はしっかりするわ。やし、今は乗り切るで!」


「はい!」


 目の前にいるワイバーンはまだ攻撃態勢だ。左手腕を上げ、回復した爪を振り下ろしてくる。


「パリィ!」


 それを兼次さんが受ける。

 そのタイミングで僕は横をすり抜けてワイバーンの左足に向かって突撃する。剣を横に振り抜く。


「リア・スラッシュ!」


 その一撃でワイバーンの左足の肉を断つ。骨まで断てないが『スラッシュ』に比べてダメージを与えられる。

 すると目の前に尻尾が迫り来ていた。


「……っ!!」


 しかしそれを割り込んだ盾が弾いた。


「大樹さんっ!」


「こっちは俺に任せろ!」


「はい!」


 その言葉を背中にして、再度ワイバーンの同じ足を狙う。


「リア・スラッシュ!」


 二度同じ場所に攻撃を食らったらワイバーンでも耐えられないようで、左足から血を流しながら翼を使いバックステップを踏んだ。


 その瞬間、ワイバーンが炎に包まれた。河合さんは本当にタイミングがいい。

 じっくりと練っていたのだろう、最初の『フレイムバンナート』よりも威力が高い。


 それを見て兼次さんと大樹さんと合流する。


 SPポーションを飲みながら作戦を立てる。


「俊、『バーストブレイカー』は使えるか?」


「多分。一応今の戦いで覚えました」


「おいおい。このタイミングでスキルレベルアップか。タイミング良すぎるな。そやったら俺らでもう一度隙を作るから一発かましてくれ」


「わかりました。でも、兼次さん達は使えないんですか?」


「俺も大樹もまだ使えへん。盾の方のスキルがメインやからな。まだや」


「そう言う事だ。俊がやれ」


「……わかりました」


 そしてワイバーンの炎が消える。

 そこには足を引きずるワイバーンの姿。体は3回の炎で所々が焦げ、ダメージを負っているのが見える。それはまだ回復していないようで、


「なるほどな。黒くなれば回復はするけど今受けたダメージは回復できひんって事か。チャンスやで! 大樹!」


「おう!」


 そして二人が走り出した。その後をついて行く。


 新しい剣スキル『バーストブレイカー』ギルドマスターのを初めて見て、彰さんで何度も見たスキルだ。どうすればいいかわかっている。後は、全力で撃ちこむだけ。


 近づいて来た兼次さんと大樹さんに向かって咆えた瞬間、矢がワイバーンの目に命中した。小百合さんもまだ戦える。

 矢のせいで雑に振り下ろされた両方の爪が兼次さんと大樹さんの剣に『パリィ』で弾かれる。そして続けさまに盾がワイバーンの顔面に合わせられた。


「「シールドバッシュ!」」


 二人の盾によってワイバーンの顔面が振り上げられた。それは絶好のチャンスだ。


「俊いけっ!」


 二人の間を通りワイバーンの懐に入り込む。そして振り上げた十分にSPが籠った剣を振り下ろした。


「バーストブレイカー!」


 振り下ろした剣が今までの他のスキルよりも大きな光を放ちながらワイバーンを斬り裂いた。胴体から噴き出る鮮血。それは確実に大ダメージを与えているはず。

 僕の今出せる最高の一撃だ。SPもほとんどなくなった。これで倒せなかったら……


 ……ワイバーンが僕を睨んだ。


「……っ!!」


 その瞬間、ワイバーンの周りを弾くように暴風が吹き荒れた。


「ぐっ……」


 それに対応できずに吹き飛ばされる。吹き上げられる身体。

 空中を舞いながら周りを見る。兼次さんと大樹さんも僕ほどではないが吹き飛ばされて地面を転がっている。


 倒しきれてなかった。


 練度が低いスキルは他のスキルに比べて威力が大きくてもその力を最大に引き出せない。だから、初めて使う僕の『バーストブレイカー』ではワイバーンを倒すレベルにまで至っていなかった。

 それにSPの問題もある。自分の最大SPを全てつぎ込んでいられればもっと威力は上がっただろうが、ポーションを飲んでも瞬時に回復するわけではない。ゆっくりと回復するSPを待たずに攻撃したのもあった。

 まだまだレベルが低い事が悔やまれる。


 ……あと一撃、一撃の威力を込められたら。


 するとワイバーンの周りが赤く光った。次の瞬間、


「『エクスプロージョン』!!」


 河合さんの声と共にワイバーンを中心として爆発した。『エクスプロージョン』も炎属性の魔法だ。

 これは効いている。河合さん完璧だ。


 そして僕は自由落下していく身体の体制を整えて着地体制を取る。


「瞬動っ!」


 地面につく瞬間、足にSPが集まり地面との接触威力を相殺した。

 そしてワイバーンを見る。


「まじか……」


 しかしワイバーンはまだ生きている。

 黒く染まった皮膚が所々赤く染まり、両方の翼は飛べるとは思えない程ボロボロになっている。僕がつけた傷も閉じておらず血を滴らせているがまだ生きている。河合さんの攻撃は大ダメージを与えたが、まだ足りていなかった。


 SPポーションも続けて飲めない。今あるSPでどうにかするしかない。それか魔法に転じるか。とにかく前衛に戻らないと。


 そう思った時、近くで声が聞こえた。


「おい、奥山……」


 その声の元を見ると、そこに居たのは大剣を地面に刺したまま立っていた彰さんだ。

 ……忘れてた。ワイバーンが黒く変わってから自分の事で一杯だったから、彰さんの存在もすっかり忘れていた。


「彰さん、どうしました?」


 今すぐ前衛に向かいたいが、彰さんに返事をする。すると、彰さんがボソッと言った。


「俺も行くぞ……」


 ギリっと音がするほど歯を噛みしめたその顔は焦りと不安、そして苛立ちを抱えている様に見えた。


「お前ばっかにいい所取られてたまるか。俺がこのパーティのメインアタッカーだ。俺が倒す……」


 すると横に居た美優さんに声をかけた。


「美優、お前は小百合の所に行っとけ。もう無理だろ」


「……うん」


 ……美優さんの事も忘れてたな。


 それにしてもこれはありだ。今のところ僕ではあのワイバーンを倒しきれない。とにかく大きい一撃が欲しい。そう考えると彰さんはピースとしてはまる。

 それに今あいつを倒すのは僕の力じゃ無くていい。ワイバーンをとにかく倒して50階層を攻略したいという気持ちの方が勝っている。今遠目で見たが、河合さんも再度魔法を放つには魔力が足りないだろう。ポーションを飲んでも同じ威力は出せない。

 だから彰さんを使うのはいい判断だと思う。


「行きましょう。彰さんの力は必要です。ラスト一撃、お願いします」


「当たり前だ!」


 そして二人で走る。


 爆発を耐えきった反動でまだ動けていなかったワイバーンがゆっくりと兼次さんに迫る瞬間だ。


「兼次さん、大樹さん! 最後彰さんでいきます!」


「そうか! 彰いけるんやな!」


「当たり前だ!」


「なら、俺らが道を開けたる!」


 そしてワイバーンが迫って来た。


「こっちも最後の悪あがきや! 終わらせるで!」


 振り下ろされた爪に対して兼次さんが盾を合わせる。


「カウンターシールド!」


 その瞬間ワイバーンの右腕が弾かれてその勢いでワイバーンがバランスを崩す。しかしワイバーンも食らいつく。尻尾を器用に振り下ろした。しかしそれを大樹さんがはじく。


「カウンターシールド! 俺は尻尾ばっかだな!」


 流石にそれで体制を崩したワイバーンはダメージがある左足に体重がかかる。それが嫌なのか右足に体重がかかった。そこを見逃さない。


「リア・スラッシュ!」


 右足に斬りかかりバランスを崩させた。

 すると耐えきれなかった左足のせいでワイバーンがそのまま崩れる。そして倒れたワイバーンを前にするのは彰さんだ。振り上げた剣は『パワーチャージ』により最大まで威力が高まっている。


 そして振り下ろした。


「バーストブレイカー!!」


 一閃。そう呼ぶにふさわしい一撃がワイバーンを両断した。

 今の僕ではまだまだ練度が足りなく出せない威力が軽い衝撃波となり風が巻き起こる。


 まだ動き出そうとする意志は感じる。だが、それは僅かな動作で終わり、力を失ったワイバーンはその場に崩れ落ちた。そして、目の前で光の粒となって消えた。



 一瞬の沈黙。そしてそれを破るかのように誰かが叫んだ。


「お、おお、うおおおっ!」


 それは歓喜の声。今まで倒せなかった50階層のボスワイバーンを倒した喜びの声。

 たぶん僕も叫んでいただろう。全員が叫んでいたと思う。誰が叫んでいたかわからない程このボス部屋に声が響き渡っていた。

 そして、


『50階層、ボス「ワイバーン」を討伐しました。これにより50階層クリア条件を満たしました。』


 久しぶりに流れたアナウンスを耳にしながら僕はその場に座り込んだ。






50階層ボス撃破。これでダンジョン半分突破です!

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