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54話-2「50階層のボス」



 剣と牙がぶつかり合う。『リア・スラッシュ』をワイバーンの攻撃の威力と渡り合うためにSPが削られていく。


 でも、これで一撃は耐えきれた。

 これで間に合ってくれればいいが。そう思ったと同時にワイバーンが左腕を振り上げた。


 回避か受けるか。


 瞬時の判断で足にSPが溜まる。そして『瞬動』で離脱しようとした瞬間、


「カバームーブ!」


 その声が聞こえ、兼次さんが目の前に割り込みワイバーンの攻撃を受けた。


「すまん、俊!」


 間に合った。


 これで『瞬動』の方向を変えれば!


 そして僕は勢いよく飛び上る。


「大樹さん! 顔をぶち上げて!」


 近くに来ていた大樹さんが兼次さんの前に割り込みワイバーンの顔の下まで潜り込んだ。


「行くぞ俊! シールドバッシュ!」


 ドンッ! という衝撃音と共にワイバーンの顔が上がった。それを見た僕が落下する威力のまま剣にSPを込める。


「うおぉぉぉぉっ! リア・スラッシュ!」


 振り下ろした剣は青紫の軌跡を描きながらワイバーンの顔を切り裂いた。


 鮮血が飛び散りダメージが与えられたことがわかる。しかし、顔面を斬るだけでは決定打にはならない。地面に着地した瞬間兼次さん達に声をかける。


「離れて! 立て直します! 河合さんっ!」


 僕の掛け声に反応した河合さんが魔法を放つ。


「『ライトニング』!」


 雷が落ちる瞬間に僕と兼次さん、大樹さんが『瞬動』で距離を取った。

 そしてすぐに轟音と共に、雷がワイバーンに落ちた。


「ゴガァァァァァァァッ……!」


 ワイバーンの叫び声。


 この反応は今までの魔法とは違う。つまり、水属性ではなく雷属性が効くと言う事だ。


「すみません。水が効くと思って、間違えてました。効くのは雷です」


「しゃあない。俺も効いたと思ったからな。あれは間違うわ」


「気にするな。とにかく立て直すぞ!」


 雷でダメージを負っているワイバーンから離れ、彰さんと美優さんに合流する。


「大丈夫か彰!」


「ああ。大丈夫。落とされただけだし、そんなにダメージ負ってない」


 息を吐き、近くに落ちていた大剣を拾った彰さんが兼次さんに並ぶ。


「兼次さん。私の攻撃で『首狩り』以外はそこまでダメージ与えられそうにない。どうしたらいい?」


「そやな。なら、タイミング計って『首狩り』して、それ以外は牽制に回ってや。俺らから少しでも意識外れたらやりやすいからな」


「わかった。でも『首狩り』使った後はまともにダメージ与えられないと思って」


「わかっとる。せやから、その代わりに俊が前衛に入り」


「わかりました。ダメージ与えていきます」


「よし。じゃあ、もう一回行くで!」


「「はい!」」


 ワイバーンも河合さんの魔法を耐え終わり、僕達を狙いを定めたところだった。ワイバーンが僕達に突っ込むために後ろ足を引いて力を溜めた。


 それを見て兼次さんが大樹さんと合わせる。


「大樹、合わせるで!」


「ああ!」


 そして、ワイバーンが突進してきた。その勢いは大型トラックが走ってくるようなイメージ。しかし、その攻撃を二人は盾で受け止めた。


「「カウンターシールド!」」


 その瞬間ワイバーンが吹き飛ばされたようにのけ反った。


「合わせろ奥山!」


「はい!」


 そして次に合わせるのは僕と彰さんだ。

 彰さんが兼次さんの横から、僕が大樹さんの横から出て、左右対称に横薙ぎの構えになる。


「「リア・スラッシュ!」」


 白い軌跡を左右に残しながらワイバーンの浮き上がった胴体に斬撃が二本重なった。


 そして最後にその首を狙うように美優さんが飛び上がる。


「首狩りっ!!」


 そして、ワイバーンの首から鮮血が飛び散った。


 短剣スキルの『首狩り』はその名前の通り、首を狩る。大抵のモンスターならその一撃で首が飛び、倒すことができるが、ワイバーン相手ではそこまではいかないみたいだ。しかし、その一撃はかなりダメージを与えていた。


 ワイバーンがその場で倒れるように突っ伏す。これはかなりダメージが与えられたはずだ。

 あの暴風で一瞬やばいと思ったが、逆にここまでのチャンスを生むことができた。これならワイバーンを倒せる未来が見える。


 しかし、それも束の間、ワイバーンがバックステップと同時に飛び上がった。

 二本の翼で器用に空中に浮かび上がる。


 49階層の『ファルドラ』と違って飛ぶための翼は機能している。そして、飛ぶモンスターは厄介となる。


「飛んだ。ここからが、きつくなるで!」


 そして次の攻撃を耐えるために全員が身構えた瞬間、


「『サンダー・ボルト』!」


 僕はワイバーンに向かって稲妻を放った。

 それにより、ワイバーンが一瞬膠着した。それが隙となる。


 見計らったように河合さんの魔法が放たれた。


「『ライトニング』!」


 分厚い稲妻がワイバーンを襲う。

 本当に河合さんはナイスタイミングで魔法を撃ってくれる。この短時間で魔力を完全に練り上げていなかっただろうが十分なダメージだ。


 ワイバーンは空中でバランスを崩した様に高度を下げ、地面から2メートルぐらいの位置まで落ちる。


 それを見逃さなかった彰さんが走った。『瞬動』による跳躍で2メートルほどの高さのワイバーンまで飛び上がる。


「さっきのお返しだ!」


 光る大剣は今一番の輝きを放つ。


「バーストブレイカー!!」


 弾けるような一撃。その一撃でワイバーンに深い斬り傷が生まれる。

 そして大きな地響きを上げながらワイバンが地面に落ちた。


「しゃぁっ!」


 彰さんが吠える。


「畳みかけるで!」


 落ちたワイバーンを見てチャンスだと兼次さんが叫ぶ。

 そして僕達は一斉にワイバーンに攻撃する。


 しかし、彰さんの攻撃をもってしてもまだワイバーンは動く。一度は倒れたが、すぐに起き上がり咆哮した。その咆哮は当初の圧力は無いが、まだ力が籠っている。

 そして、大きいダメージが入った事で、今までと動きが変わった。爪と牙での攻撃がメインだったが、バックステップを使い尻尾での攻撃が多用され始めた。

 ワイバーンのバックステップの一歩は大きい。その距離を埋めるには『瞬動』を使わないと一呼吸では埋まらない。それに加えて、タイミングを見て飛び上る動作も増えた。それによって風が起こり、こちらの攻撃がキャンセルされる。


 つまり、畳みかける事が出来ない状態だ。まだ早かった。そのため、タイミングが外されて連携が雑になってしまっている。


 それに加えて厄介なのが、ワイバーンの再生力。僕達が攻撃した個所も、彰さんの攻撃個所も傷が少し塞がっている様に見える。完全にという訳ではないが、ワイバーンの再生力に驚かされる。


「兼次さん! 一旦、立て直しましょう!」


「そやな! お前ら一旦俺の後ろや! もう一度連携調整するで!」


「「はい!」」


「『サンダー・ボルト』!」


 飛んでいるワイバーンに牽制の魔法を放つ。それに、後ろから河合さんと小百合さんの牽制が飛んでいるので、前衛5人が攻撃を一瞬なら止められる。

 兼次さんの指示のもと再度桐島君の支援魔法がかけられる。桐島君は今回、回復と支援魔法の両方を担っているから、忙しそうだ。


「大樹、もう一度合わせて隙を作るで。それを3人で当たってくれ」


「「了解」」


 全員が息を整える。

 ここまでは、はっきり言って余裕だ。数十分戦っているが連携がまともである限りこちらが優位に戦えている。水魔法でミスった時と今のバラバラな連携で回復の隙を与えてしまったけど、このまま連携できれば大丈夫だろう。再生と言っても体力まで回復できているわけではないから、地道に攻撃を続ければ倒せる。

 それに、彰さんも美優さんもさっきから倒せそうだと息巻いている。明らかに5人で戦っていた時よりも手ごたえがあるようだ。


「いくで!」


 その掛け声で兼次さんと大樹さんが『シールドバッシュ』で攻撃する。

 それからの攻撃は今までと同じで隙を僕達3人で攻撃する。バックステップに対しては僕達とワイバーンの距離が開いた事で河合さんの魔法が炸裂し、空中に逃げたら僕と河合さんが魔法を放つ。こちらの攻撃が止むタイミングは無く、隙は全て小百合さんの矢が埋めてくれる。

 しっかりと連携が取れるようになると、イレギュラーがなくなってくる。ワイバーンの攻撃パターンも再度インプットして、新しい行動パターンも分かった。


 この8人という人数での攻略は確かに50階層ボスを倒せるレベルだと僕は思う。


 そう思いながら戦っていると、ワイバーンの傷も増えていた。特に顔には複数の傷がつき牙にヒビが入っている。両方合わせて6本の爪も2本砕け、翼も飛べる状況ではないほどボロボロになっている。


 このまま倒しきれると思った。


 しかしそのタイミングが一番注意が必要だ。

 だから、兼次さんも気を引き締める為も含めて叫んだのだろう。


「もうちょっとや! ここで畳みかけるで!」


 先ほどとは違いこのタイミングは完璧だろう。そう思い、前衛5人全員が突撃した。

 各自それぞれの攻撃スキルが発動する。その攻撃は確実にワイバーンにダメージを与えた。そして、攻撃が止み僕達がワイバーンから離れると、河合さんの雷魔法が炸裂した。


 しかし、これでもまだ消えない。


「タフやな」


 兼次さんもこぼした。それほどワイバーンはタフだ。しかし、確実に弱ってきている。もうすぐ倒せると、再度連撃を入れようとした時だった。



 それは突如来る。


 油断はしていなかった。その可能性もあると僕は今までのボス戦で学んでいた。他のメンバーもそのはずだろう。だから、その暴風は予測できた。


「耐えぇ!」


 再度近づいた瞬間に吹き荒れる暴風。それは、最初の水魔法の時と同じ。

 兼次さんが叫び地面に足を固定する様に踏ん張る。一度飛んだ彰さんも大剣を地面に突き刺し耐え、その体を美優さんが掴んで飛ばないようにしている。

 一度食らった攻撃なら二度目は対応できる。


 そして、全員が暴風を耐えきった。これがワイバーンの最後の悪あがきであれば次の連携で倒せるはず。


 そう思った。




 しかし、予想外は突如やってくる。


「ちょっと待て……なんだそれは……」


 暴風を耐えきった瞬間、ワイバーンに変化が起こり始める。それを見た彰さんが目を見開き呟いた。


「おいっ! 聞いてないぞ! そんな情報なかっただろ!」


 慌てる様に叫ぶ彰さんがその場で固まる。そして彰さんと同様、他のメンバーもワイバーンを見て固まった。

 黒く染まり始めるワイバーンの体躯。頭の先から尻尾の先まで全身が黒くコーティングされる様に色が変わっていく。それに伴い、今まで与えた傷が見えなくなっていく。


 それは明らかにワイバーンの第二形態への変化。


 しかしその情報は兼次さん含めてメンバーは誰も聞いた事がなかったようだ。


「俺も、聞いてへん。この変化は初めてや……」


 兼次さんが行動せずにその場で立ち止まっている事が珍しい。それほど、想定外の事が起こったのだとわかる。


「おいおいおい! なんだよこれ!」


「50階層ボスの情報収集した中にこんな情報はなかった。何十もイメージした中にもなかったぞ……」


「う、嘘でしょ……」


「まじかぁ。想定外や……」


 そして、漆黒に染まったワイバーンの周りを暴風が生む稲妻が走り始めた。






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