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53話-3「50階層の一歩手前」



 翌日、予定通り49階層を進んで行く。


 攻略を始めて2時間程経過した後、目的の場所であるオーガが大量に出てくる場所に到着する。

 現時点では『サークナ』に数体引っかかるモンスターがいる。同じように小百合さんも『感知』に反応した数を兼次さんに伝えていた。


 そして、兼次さんが全員を止める。


「じゃあ、ここからは俊の指示で動くからな。ええか?」


「「了解です」」


 その言葉に少し緊張が走る。


 するとオーガが現れた。その数は5体。まだ群れというほどではない。だけど、昨日の話ならここから増えていくのだろう。

 とにかく指示を出す。


「まだ、数が少ないのでいつも通りの連携でいきましょう。その代わり、河合さんはいつでも範囲魔法を撃てるように頭にいれといて。数が増えた時点で指示するから」


「「了解」」


 そして、戦闘が始まった。

 オーガの数が5体という事で連携は今まで通り、僕は牽制だけで周りを見渡しながら次の行動をどうするか考える。

 それにしても少し厄介なのは、オーガの強さだ。武器を使っての対応が上手い。ホブゴブリンなら一撃で倒していた彰さんと美優さんだったが、オーガ相手には一撃では倒せないようで1体ずつ数回攻撃している。だから、僕達の援護の数も多くなり、兼次さんと大樹さんの仕事も増える。


 そうしていると、木の陰から別のオーガが数体湧いて出て来た。


「……なるほど、こうやって増えていくのか」


 僕の『サークナ』には引っかかっていない。と言う事は、リアルタイムでオーガが出現しているという事だ。集落があれば『サークナ』にも小百合さんの『感知』にも引っかかるはず。

 なら、さっさと片付けないと量が増えていくだけだ。


「彰さんと美優さんは一撃で倒せるようにSPを調整してスキルを使ってください! 時間がかかれば増え続けるだけです! 一気に突破します!」


「おう」


「わかった」


 他にも指示を出す。


「桐島君はもう一段支援魔法を彰さんと美優さんに! 小百合さんは、あぶれているオーガを牽制じゃなく仕留めてください! 援護は僕と河合さんだけでやります!」


 僕も話しながら並行して『ファイアボール』を形成する。


 しかし、たったのこれだけでもきつい。戦場を把握しながら自分でも攻撃して、全員の指示を飛ばす。敵のレベルが強い程、仲間のレベルが自分の手足の様にわかっていないと指示が難しい。

 この人数の指揮は僕には向いていないのかもしれない。というか、一人か河合さんと二人で戦っている方がかなり楽だ。


 でも、ここで結果を出さないと自分のプライドが。啖呵を切ったのにできませんとは言えない。


「奥山! 一撃では無理だ! 3撃は必要だ!」


「こっちも普通に無理! もう少し援護を貰わないと、一撃で倒せる隙はないよ!」


 前衛のアタッカーがそう言う。一撃で倒せないのは仕方ないけど。

 というか、そんな見たわかる報告はいい。とにかく1撃で倒せるぐらいのスピードで倒してほしいと言う事だ。


「でしたら、1撃ではいいです! とにかく数を減らしてください!」


 小百合さんは文句を言わずに2撃でオーガを倒している。

 次々と出現するオーガを一体一体相手取っていたら、この場はオーガに埋め尽くされる。そうなると、ボス戦に支障をきたす。


 そう言っている間に、オーガは増え続ける。

 すでに最初の5体は倒しているが、現時点でこの場にいるオーガは10体。

 タンクの二人が2体ずつ相手取り、アタッカーの2人が1体ずつ相手取る。そうなると4体があぶれる事になる。それを僕達が牽制したり、小百合さんが倒すが、それでも残ったオーガがタンクに集まる構図は、タンクの二人に大きな負担となる。


 それにたぶんこのままだと、さらに一気に増える。


 そう思った瞬間『サークナ』に複数体の反応があった。


 今のままじゃ、埒があかない。倒すのが遅いとこの場所は突破できない。


「すみません! 作戦変更します!」


「「えっ!?」」


 と、前と後ろから聞こえる。反応したのは彰さんと美優さんと桐島君だ。しかし、そんな反応は放っておく。


「河合さん、援護は彰さん側中心でお願い。それと僕が前に出てオーガの数を減らすから、合図で炎魔法放てるようにしておいて。いつもので」


「う、うん。大丈夫?」


「大丈夫」


 そう言って、僕は前に向かいながら前衛に指示を出す。


「兼次さんと大樹さんはそのまま『挑発』を維持してください。美優さんはそいつを倒したら、タンク2人のオーガをお願いします! 僕が前に出ます!」


「はっ? 奥山くん何言って……」


 僕はすでに持ち替えていた『紫影』にSPを込める。このタイミングでSPはケチらない。


「パワーチャージ」


 そして、全員の前に出て、あぶれている1体のオーガを見定める。


「スラッシュ!」


 そしてオーガを一頭両断する。すると奥から一気に10体以上のオーガが出てくるのが見えた。


 それを横目に、あぶれている残りの2体のオーガを見る。そしてすぐに1体目を『リア・スラッシュ』で沈める。そして、その勢いのまま『パワーチャージ』を使う。そして、『スラッシュ』でもう1体沈めた。


 3体減らせば後は大丈夫だろう。その間に彰さんと小百合さんが1体ずつ倒したから残り5体。それなら余裕で対応できると思う。

 SPを多めに使ってもこの一瞬の空白を作り出せたのは大きい。ここでうだうだしていたら撤退する事になる。


「俊! 奥から10体来てるぞ!」


「わかってます! その10体は僕がやります! そこの残りはお願いします!」


「おい! お前一人でか! 連携した方が……」


「彰! 俊に任せろ! それよりもここの5体倒すぞ!」


 僕の行動を知っている大樹さんが文句を言いそうだった彰さんを止めて戦闘に戻す。やっぱり何回も同じパーティで攻略しているメンバーはやりやすい。


 距離は10メートル。しかし走って向かって来ているオーガにとってその距離は短い。だから、早急に魔法を構築する。

 イメージするのは氷。それもこの一瞬では完全に凍らせない。だから、地面だけ凍らせるように!


「『アイスエイジ』!」


 向かってくるオーガの足元が氷で覆われる。そして凍り付いた足で動こうとして前のめりに倒れた。


「河合さん!」


「了解! 『フレイムバンナート』!」


 そこに河合さんの魔法が炸裂した。

 燃えるオーガ達。この安定した魔法。流石河合さんだ。


 炎が晴れると一気に5体減っている。加えて、残っているオーガもかなりのダメージを負っている。これなら、スラッシュだけでなんとかなる。


「はあぁぁぁぁっ!」


 SPをふんだんに使いながら残りのオーガを一気に片付けた。


 そして僕が倒しきったすぐに、後ろでも彰さん達がオーガを倒し終わったようだ。


「奥山、一瞬でオーガが居なくなったな。これなら……」


「いえ、すぐにここを抜けます」


 彰さんが何かを言おうとしたが、それに被せてこの場から早急に去る事を提案する。

 すると兼次さんが質問した。


「なんかあるんか?」


「ここはオーガが無限に出現するエリアだと思います。小百合さん今の時点でモンスターの反応はないですよね?」


「……ないわね。なるほど、そう言う事ね」


「はい。たぶんこうしている間にももう10体が出てきますよ。それがでたら追加でもう10体出ると思います。そんな真面目に戦ってたらキリがないですから、ここでゆっくりする意味がないです」


「なるほどな。わかった。じゃあ、お前ら進むで!」


「「はい」」


 僕の指示の元、兼次さんの号令でオーガがまだ出てこない間にオーガエリアを抜ける事に成功した。






 そして49階層も半ばを過ぎて、7割に達した所で、少し休憩を入れる。


「俊もよくあれに気付いたな。俺ら初見で気づかなかったぞ」


「私も何かおかしいとは思っていたけど、ああいう事だったのね」


「後々考えればそういう事や、ってわかるけどな。毎回遠回りしていた俺らはちょっと観察しなさ過ぎたな」


「そうだな」


 まあ、僕も常に自分で『サークナ』を使って探知しているから気づけたことかもしれないけど。

 しかし、あれを正面から挑み続けたら被害が大きくなるのは確実だ。早めに気づけて良かった。


「小百合さんならもう少ししたら気づいてたと思いますよ」


「そうね……次からそこも考慮しながら探知するわ」


「はい。それと……」


 このついでに気付いた事を伝えようと思う。


「彰さん、ああいう場合は相手の武器ごと斬り倒す勢いでやっちゃわないと、多勢を相手するのは大変ですよ。彰さんなら一撃で倒せたと思うんですけど……」


「まあ、俺なら一撃で倒せる。あの状況がわかった今ならそうするのが正解だと思う。けどな、俺らからすると急に指示が「一撃で!」だぞ。もっとわかりやすく指示してくれないとわからないぞ?」


「うん。私もアキくんと同じ。一撃で倒すことが重要なのか、それとも早くモンスターを倒すのが重要なのか、どれに重点を置けばいいのかはっきり言った方がいいよ」


「……ああ、そいう事だったんですね。わかりました。気をつけます」


「ああ。そこは直した方がいい」


 そうだな。僕の指示が微妙だったので対応がおかしかったのは理解した。でも、それぐらい49階層まで来ている冒険者なら自分の判断でわかるものじゃないのか?


「まあ、彰も美優もその気持ちはわかるよ。兼次さんの指示がわかりやすいから、俊の指示は少し雑に感じたかもな。でも、自分で指示する様になればこの難しさはわかるぞ」


「それはそうかもな。でもアタッカーが全体を指示する事は無いから、俺らは気にする必要は無いと思うけど」


「そうだけど、少しは考えるのもありだろ? ってことだ」


「少しは考えろか……でもこのパーティならほとんど必要ないだろ。兼次さんの次はお前。お前の次は小百合が指揮を執ることになるだろ? そうでなくなったらこのパーティは崩壊してるからな」


「だけどなぁ……」


 すると兼次さんも入ってきた。


「まあ、彰の言い分もわかるわ。けど、大樹の言う通り少しは考えた方が動きやすいってことや。目の前のモンスターを倒すだけやなくてな、もっと周りを見たら彰はもっと上に行けると俺は思うで」


「……まあ、兼次さんがそう言うならそうなんだろうけど。ま、おいおい考えてみるよ」


 と、兼次さんの言葉でその場が収まった。


 そこで少し思ったのは、このパーティは兼次さんに頼りすぎなんじゃないだろうか、ということ。特に、彰さんと美優さんと桐島君が。


「ちなみに真由と佑は俊の指揮はどうやった?」


「私はいつも通りだなーって感じでした。元々大樹さん達と潜っていた時も、奥山君の指示は飛んでたので。二人で攻略する時もお互い考えていたから特にやりにくいとかはなかったです」


「ほんとですか? 河合さんやっぱり凄いですね。俺ははっきり指示が来なかったんで、彰さんと同じでやりにくかったです。どの支援魔法を使うとかもっと細かく指示を飛ばしてくれた方が俺はやりやすいですね。支援は何を求めてるかが重要なんで」


「そっか。わかった。俊、一応周りの意見全員分を聞いたから、それを加味してしっかり次に繋げられるようにせえへんとな」


「……わかりました。次指揮するなら、全員がどれぐらい戦えるのか、どんな攻撃パターン魔法パターンがあるのか把握してから指示します」


「それがええな。またじっくりミーティングせなな」


「はい……」


 と、返事はしたが、腑に落ちない。

 僕が気にしすぎで我がままなのかもしれないが、このレベルで中級冒険者がここまで指示待ちでいいのだろうか? 桐島君に至っては完全な指示待ち人間だ。どの支援魔法を使うとか状況を見たら自分で考えられるだろ。

 大樹さんと小百合さんは僕の動きを知っているから対応してくれた事に感謝しないといけないけど。


「じゃあ、10分休憩したら出口に向かうで。次は俺が指揮するから。俊もそれでいいか?」


「はい。お願いします」


 このパーティは兼次さんが指揮する方が上手く回るだろう。それが一番効率が良い。


 このパーティでの僕の役目は、気づいた事を兼次さんに話して、兼次さんから指示してもらう事なんだと思う。

 全員が兼次さんの指示がなければ動きにくい。つまり、兼次さんの指示がある前提だから、自由な行動を取ると自分勝手な行動になりかねない。


 そうなると、今は僕にとってちょっと動きにくい。慣れるとこれが楽で、効率化になって、稼ぎやすくなるんだろうけど。


 でも、大樹さん達との時は自分の考えで自由に動けてたからやりやすかった。

 悩むところだ。


 自分を押し殺してグループとして動くか。自分を出してグループの和を乱すか。まあ、兼次さんが居るからグループの和が乱れる事は無いだろうけど。

 このパーティは兼次さんのレベルが高いから、たぶん上位に上がれると思う。だから、目的の安定した稼ぎは手に入れられるだろう。


 現実の会社と比べると上司が良すぎるから文句の付け所はない。


 僕もこのやり方の方がいいよなーって思ってきたけど……。



 やっぱり、悩む。






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