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53話-2「50階層の一歩手前」



 冒険じゃなくて作業……。

 いや、作業のように思えたとしてもだ。命を懸けてダンジョンに潜っているわけだ。その考えになるものわかる。

 逆に、これだけで稼げるならこうするべきだろう。


 僕だってダンジョン攻略で生計を立てようとしているなら、この選択も考えるべきだ。


 でも、僕らは『冒険者』なんだよな……いや、一旦この感情は胸の内に閉まっておこう。今までとのギャップがあって戸惑っているだけだ。少しみんなと行動したら考えも落ち着くだろう。


 すると、悩んでいる僕を見て兼次さんが声をかけてきた。


「どうしたんや? なんか難しい顔しとるけど?」


「あっ、い、いや。大丈夫です。大したことないんで」


「そうか? ならええんやけど」


 兼次さんはそれ以上は突っ込まず、話を終わらせてくれた。


 まずは、自分の気持ちを整理してからだ。後々悩むなら、兼次さんに相談すればいい。


「じゃあ、これで47階層も攻略完了や。続けて48階層も攻略するで!」


「「はい!」」




 そしていつも通り1時間ほど休憩した後、48階層に向かって階段を下りていく。


 階段を降りると目に映る48階層は、47階層と同じように林と岩場でできたエリアだ。


「48階層も47階層とそこまで変わらへんから、同じ連携で行くで」


「「はい!」」


 48階層を進んでいく。

 兼次さんが言った通りに、48階層のモンスターも変わり映えが無く、兼次さんが指揮した連携で簡単に倒すことができた。


 一応、モンスターがまとまって出て来た場面もあったので、そこではモンスターの数が多い時にする連携をした。

 まずは僕が『コールドエア』で相手の動きを鈍くして、河合さんの魔法が炸裂する。それで大体の数が減れば、47階層と同じ連携で倒す。


 これも見事にはまった。本当に難なく攻略できたわけだ。


 まあ、自分が魔法を使う時は面白いし、牽制で当てるだけでもどれだけ魔力の消費量を少なくして発動するか、難しい動きをさせながら当てるなど自分なりに考えながら戦えば、この楽な連携での攻略でも楽しむことはできそうだ。




 そして、5時間ちょっとで48階層の出口に到着した。

 ボス的なモンスターもいなかったので、傷一つない攻略だ。


「よし、今日の攻略は終わりや! じゃあ、ギルドに帰ろか。今日は戻ってから清算と明日のミーティングやで」


「了解です」


 そして、僕達は48階層を後にした。







 ギルドに到着し、清算を終わらせた後、ミーティングと称して晩飯をダンジョン内で食べる事になった。どっちにしても僕は今日ダンジョンに泊まる予定だったので丁度いい。


 いつものラポールの店で大きめの個室を借りて、全員が席に座る。


「今日はかなりいい感じだったな! この調子で明日も攻略していこう!」


 大樹さんの音頭で乾杯をする。


「それで、先に今日の清算について話すわね。今日の収穫は約10万なんだけど、探索じゃなく攻略でこの金額だから、もっと細かく探索すれば最低でも15は堅いわね」


「おお。等分に分けて一人2万ないぐらいか、それなら悪くないな」


「そうだね。一人1.5あれば今までより少し良くなるし、それに、月に数回ボス戦すれば「稼いでる!」って額にはなりそうだね」


「そうやな。これを基準として考えれるんやったら、かなりええな。それにこれだけ効率がいい攻略できたら、たぶんもっと稼げるようになるで」


「だったら、一人当たり3万はいける感じか?」


「ま、可能性はあるやろな」


 と、兼次さん達元のメンバーが金の話をし始める。具体的な数字が飛び交い懐が潤いそうなイメージが沸く。

 元々どれぐらい稼いでいたのか知らない僕達はその話を聞きながら、運ばれてきたご飯に手を付ける。


「河合さんは元々どれぐらい稼いでいたんですか?」


 と、桐島君が河合さんに聞いていた。


「私がこのパーティに入ってからは、そうだね……必要経費を差し引けば1日6000ぐらいだったかな。まあ、私を育てながらだからね。それも土日だけの話だし」


「必要経費引いてですよね。だったら同じぐらいですね。俺も前のメンバーの時は1万ぐらいでしたし。でも、今日の感じでも報酬が一人1万超えるとなると、かなり良くなってませんか?」


「うーん。私は魔導士だから、まだ少し足りないんだよね」


「あー、魔導士は魔導書もポーションも多めにかかりますもんね」


「そうそう」


 桐島君と河合さんがお金の話をしているから僕も話に入ろうかと思うが、先に自分で思案する。


 はっきり言って、ここまで安定して稼げるなら、このパーティの感じも悪くないな、と思い始めている。というか、お金は大事である。僕もこのダンジョンにはお金を稼ぎに来ているわけだし。


 小百合さんの言い方だったら今日の攻略の結果から月20万以上は稼げそうだし、慣れればたぶん30万は堅くなるだろう。ボス戦や新たな階層を攻略していけば今の会社での給料を超えていくのは早いと思う。

 実際に僕一人でもそれぐらいは稼いでいたわけだし。まあ、今の僕の稼ぎは攻略重視でサクサク進んでいたから稼げているのもあるが……『独眼のウェアハウンド』の事もあったしな。


 でも、パーティで安定して毎日この金額を稼げるのであれば、これほどいい話はないだろう。

 ダンジョンに来て2か月経ってない状態でここまで稼げているなら、求めすぎるのも良くない気もする。


 悩み続けるから一旦置いておいて、別の話をするか。


「河合さんは、魔導書これからも買うの?」


 と、河合さんに質問する。


「ん? そうだねー……行き詰ったら買うとは思うよ。でも、今までの魔法でもう充分に戦えるから直近は魔導書買わなくても良いかなー、とも思ってる。杏子さんの訓練もあるし」


「なるほどね。だったら、今までよりも必要経費が減るんじゃないかな?」


「それでも、今までの感覚が残ってるから、まだお金の計算がしっかりできないんだよね」


「そういうことな」


 それはわかる。慣れるまではイメージがつかないだろうし。


「えっ、魔導書は買わないんですか? それだったら、魔法はどうやって覚えるんですか?」


 と、桐島君が疑問を口にした。それに河合さんが答える。


「うーん。これは私達の魔法の根幹になるから、パーティメンバーでも教えられないかな。それに攻撃魔法と回復魔法とは違う感じだし、教えてもできないと思う」


「……そうですか。でも、チャンスがあれば教えてください! 俺も強くなりたいんで!」


「そうだね。タイミングが合えばね」


「ぜひ!」


 まあ、強さにどん欲になる事はいい事だ。でも、自分で考えて生み出せばもっと強くなれる。だから、桐島君も自分で考えてみたらいいと思う。


 と言いたいけど、なぜか僕と河合さんの秘密みたいに思ったのか、桐島君は僕を見てくる。

 睨んでるわけではないんだろうけど、少し敵意が見えるのがな。たぶん、僕を恋敵か何かと思っているけど、それは僕じゃ無くて谷口だろうからお門違いである。


 そんな感じでお金の話で盛り上がりながら夕食が進む。

 お金の話で盛り上がるって、この空気は嫌いじゃない。


「じゃあ、飯も食べ終わった事やし、明日の49階層のミーティングするで」


 全員食べ終わり、机にあった皿が片付けられて、ドリンクのみになった状態で兼次さんが本題に入った。


「特に佑、真由、俊はしっかり聞いとけよ。他はまあ、俺が間違ってたら言ってくれ」


「はい」


「まずは、49階層はここまでの階層と違って、2つ注意点がある。1つは出口を守っているボスがいるんや」


「ボスですか」


「44階層にもジージュファングが居たやろ? あんな感じで49階層にもいるんやけど」


 巨大蜘蛛の事を思い出す。あいつは中々の敵だった。


「いるんは『ファルドラ』ってモンスターや。見た目はドラゴンなんやけど、翼があるけど飛べへん。『ドラ』って名前がついてるけどドラゴンやないモンスターや」


 ドラゴンもどき的な感じか? ちょっと名前が可愛いけど。


「そんなモンスターいるんですね。強いんですか?」


「はっきり言って強い。まあ、50階層ボスのワイバーンに比べては1段弱いけど、充分脅威になるって言ってもええな。8人がかりやないと無傷では倒せへんやろな」


「だろうな。俺ら5人の時は怪我してたからな。でも、この8人でしっかり連携組んだら通用するだろうな。50階層ボスに向けてのリハーサルにもなるし」


 なるほど、つまりは……。


「強いけど、今の僕らなら連携さえしてたらそこまで気にしなくていいって事ですか?」


「そういうことや。せやけど、連携がしっかりできるようにしなあかんって事やな」


「ん? どういうことですか?」


「それが2つ目になるんやけど、それまでにオーガの群れが居るんや」


「オーガの群れですか……どれぐらいの数がいるんですか?」


「数は毎回違うけど、数十体は出てくる。ここオーガの集落なんか? って思うほどいるんやわ。流石にオーガ1体1体に後れを取らへんでも、それだけ大量にいたら厄介や。少数に分断せえへんと倒しにくいからな。そこまでがかなり大変や」


「それはきついですよね……」


 大量のオーガ。オーガは僕にとっては強いイメージがる。一番最初の強敵がオーガだったからな。それが集落レベルで大量にいるとなると、かなりの激戦になりそうだ。


 すると桐島君が質問した。


「でも、兼次さん達は50階層に到達できるレベルで突破したんですよね? それはどうやってですか?」


「それは、言いにくいんやけど、オーガに見つからへんように隠れながら行動したんや」


 見つからないようにか。大量のオーガと戦わないようにすれば突破はできるわけか。小百合さんの『感知』を使えばできなくもないのか。


「オーガがいるんはエリアの半ばらへんや。それ以降は追っても来おへんし、ましてやファルドラの所までは近づいてきいひん。その代わりかなり迂回する事になって体力と魔力を消耗するけどな」


「なるほど……」


 大量のオーガと戦わない選択をするなら迂回する。でも迂回すると時間がかかって50階層到達までに疲弊するわけか。


「まあ、今回は8人そろってるし、数十体のオーガ相手を相手しても乗り切れるとは思うけどな。でも、少なくとも無傷とは行かへんやろな」


「そうなんですね」


「で、俊に言っとかなあかんのは、初見でもほぼノーダメで49階層突破出来たら50階層ボスもその日に挑戦するって話やけど、もしするならオーガの群れを突破せなあかんで。せやないと迂回ルートやったら疲弊するから初見で50階層は俺がさせへんからな」


「えっ、ああ……わかりました」


 そう言われると僕も一度目は迂回ルートを選んだ方がいいかもしれないって思ってしまう。

 別に初見で50階層挑戦じゃなくても……。


「……ちなみに、オーガを倒すルートで進んだ場合、僕達が危なくなれば兼次さん判断で戻る選択肢はありますか? と言いますが、逃げ切れますか?」


「そやな。逃げ切れる。というか、あそこのオーガは逃げる者は追いかけへんねん。俺らも二度それで逃げ切ったからな」


 そっか、だったら。


「わかりました。でしたら、オーガルートで進みましょう」


 兼次さんの目を見てそう言った。


 すると兼次さんが笑った。


「はははっ! そっかそっか! ここまで言ってもそのルートを選択するんかぁ!」


 そして僕を指さして言った。


「わかった! じゃあ、明日は俊がこのメンバーを指揮しぃ」


「僕がですかっ!?」


「そうや。オーガルートを選んで50階層まで行くなら俊が指揮した方がええやろ。まあ、危ない時は俺がフォローしたるし大丈夫や」


 そう言った兼次さんは真剣に僕の目を見た。


 そこまで言われるとするしかない。それに、僕も啖呵を切ったんだ、やってやる。


「わかりました。じゃあ、明日は僕が指揮して49階層を突破します!」


「よし! じゃあ、他のみんなもそれでええか?」


「まあ、今までの実力をみたら奥山ならいける可能性もあるか」


「兼次さんが言うなら私もそれでいいよ」


「俊ならできるだろ。俺はぜんぜん俊の指揮下に入っていい」


「私も大丈夫よ。頑張ってね俊くん」


 みんなが兼次さんの言葉に賛同する。


「俺は……皆さんが言うならそれでいいですけど」


 桐島君だけ少し渋った感じで頷いた。


「やっぱりそうなったかぁ。話聞いてたら薄々そう感じてたんだよね。だったら、奥山君。気合入れないとね」


 河合さんは笑いながら「仕方ないなー」と言う顔をして僕の肩をコツンと叩いた。


「全力で私もサポートするよ」


「ありがとう。河合さん」


 そして、明日僕はこの7人の指揮を執って49階層を攻略する事になった。






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