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52話-2「パーティの全メンバー」



 そこまでの話を聞いていた兼次さんが口を開く。


「ってことは、32階層らで俺が同行してた時よりもかなり強くなってそうやな。一旦46……いや、45階層で確認してからやけど、50階層まで一気に攻略ってのもありやな。今は佑もいるし、回復もできるしな」


 そう兼次さんに見られた桐島君がペコっと頭を下げる。


「でも、兼次さん。僕が今言った事は例えばなので、実際に僕も挑戦しないとわからないんで。もしかして僕が調子乗ってただけで、ボロボロになってる可能性もあるんで」


「そんな否定すんなや。さっきの言い方やったら自信があるんやろ? そやったら試してみてもええ。50階層は俺ら5人で何度か挑んでるから逃げ方はわかってるし、もしもの時は逃げればええしな」


 その言葉に彰さんが口を挟む。


「おい兼次さん。それなら兼次さんのリスクが高くなるだろ。それでいいのか?」


「そんなんええ。俺のリスクなんて大したことないし。俺だって『独眼のウェアハウンド』から生きて帰って来た実績があるんやで? 50階層ボスから逃げるだけやったら大丈夫や」


「うーん。兼次さんがそう言うならそれでいいけどさ」


 彰さんは少し気に入らないみたいだ。


「ま、そう言う事で。判断は俺がするけど、一気に50階層攻略も視野に入れとこか」


「はい。でも、すみません。なんか僕が要らない事言ったようで」


「いやそれはええんや。俺としては俊の判断は悪くないと思ってるし」


「そうなんですか?」


「そりゃな。俊は20階層の時俺がボコボコにして死にかけたやろ? 死ぬ怖さは知ってるやん」


「そうですけど……」


「そやから……」


 と、その言葉に河合さん以外のメンバーが反応した。


「はぁ!? 兼次さんそれどういう事だ!? 俊をボコボコに?」


「そ、そうよ。死にかけるってどういう……」


「兼次さん? あれ、まじでやったんですか? 冗談じゃなくて?」


「えっ、アキ君。あれってどういうこと!?」


 それぞれが口々に話す。


「え? 言ってなかったか? ……えっとな、俊はこれから一人でも強くなるやろから、先に死の恐怖を乗り越えて貰おうと思って。あのままやったら中級冒険者にすぐなると思ってな、実際にそうやったけど。中級の方がモンスターが強いやろ? 強いモンスターの方が死ぬ可能性高いし、それでぽっくり逝かれるより、先に俺がしたほうがええかなって思っただけや。死にかける事で死に対する恐怖がセンサーになるから、無理はせえへんやろって事でな。それで、20階層のボスを倒した時にボコボコにしたんや」


 みんなの目が「何をしたんだこの人……」になっている。


 でも、僕自身もあれ以来全体的に見方が変わった感じがするから、あれは必要な事だったと納得している。そのお陰で、本当に危ない時は即座に逃げる選択肢を持つ自信はある。

 そう考えると、『虐殺のオーガ』『西川兼次』そして『独眼のウェアハウンド』は僕のレベルが飛躍した相手だろう。こう並べてみるとたぶん兼次さんもモンスターの部類になってしまうな。


「まあ、僕はあれの事は感謝してるんで全然気にしてないですよ。逆に今ならお礼をいいます。兼次さんありがとうございました」


「そうか。俊がそう言ってくれるならよかったわ」


 と、兼次さんとノリで握手を交わす。


 それを見て各々が呟いていた。


「えっ……奥山君ってエムなの?」


「あの冷静さと強さはそれがあったからか……」


「俊くん……やっぱり規格外よ。考え方からして変」


「そこまでしたからこのスピードで上がって来たんかよ……」


「いや、私なら無理だよ。絶対」


 それぞれ色々と口に出してるけど、河合さん、僕はエムじゃないからね。


「ま、話戻すけど。俊は死ぬ怖さを知ってるから、本当に無理なら先に進む決断はせえへんやろ。それでも行く言うんやったら大丈夫って事や。やし、俺は心配してへん」


「あ、ありがとうございます」


 兼次さんが僕を信頼してくれている。そのことだけで嬉しく思う。


「じゃあ話進めるで。えっと、50階層突破までは土日を中心に攻略する事になる。で、50階層を攻略してからは、平日攻略に戻す。平日は真由と俊がまだ来れへん状態やから、50階層以降は真由と俊を覗いたメンバーで攻略やな。それで、俊は一応ダンジョンで稼げるようになったら外での仕事は辞めるって話やったよな?」


「はい。一応その予定です。50階層突破したら退職願出しに行くんで!」


 これは今のところ決定事項だ。曲げるつもりはない。


「ははっ! 意気込んでるな! じゃあ俊はその予定で考えてと……真由はどうや? 平日に行動できそうか?」


 すると河合さんは少しバツが悪そうな顔をして答えた。


「……それは、まだ答え出さなくてもいいですか? もう少し考えたくて。はっきり言って仕事辞めれるぐらいこっちで安定して稼げるかわからないんで。実際に稼げてからじゃないとなんとも……」


「そうやな。真由はそれでええで。魔導士は魔導書買わなあかんし、武器使ってる俺らより金使うしな。仕方ない。決まるまでは土日に行動でええ。俺らも土日も行動するようにするし」


「助かります」


 まあ、すぐには会社を辞める判断はできないだろう。僕の場合はあの上司の元で仕事するなら辞めてやる! って思ってるから辞める気満々だけど、河合さんの場合は成功してるからな。それに会社には谷口もいるし。辞めにくいよな。


「河合さん、土日に行動するなら僕も手伝うし、大丈夫だよ」


「うん。ありがと」


 同期はかけがえのない仲間だ。蔑ろにはできない。

 でも足並み揃えて行かないと後々問題が発生しそうだけどな。


 ふと辻本夫妻の方に視線を向けてみると、僅かに眉をひそめていた。




「ってことで、50階層以降はどれぐらいのスピードで攻略できるかわからんから何とも言えへんけど、確実に49階層までとはレベルが変わるはずや。細かい行動は50階層突破してから再度話合おか」


「了解です」


 兼次さんの言葉に各自頷く。


「じゃあ、今日の予定を伝えるで」


 そして、今日の予定についてだ。


「まずは45階層のボス戦で俊と真由がどこまで動けるか確認する。『独眼のウェアハウンド』が出た事でお前らはあのボスと戦ってへんやろ?」


「そうですね。気にはなってます」


「私は別に戦わなくていいならいいんですけど……」


「まあ、あいつとは戦っておいた方がええから、残念やけど真由も戦闘に参加してもらうで」


「……わかりました」


 事前情報では巨大なムカデだもんな。それに遠目にだけど全長を見たから嫌悪感が出るのはわかる。


「そのあと、46階層を攻略する。45階層を攻略できるなら46階層は8人でなら余裕やろな」


「「わかりました」」


「じゃあそれで進むで。大樹と小百合はいつも通り頼むな」


「おう」


「わかってるわ」


「彰と美優と佑はこの二人と組んだことないから、この二人の動きをしっかり見ててくれな。46階層ですぐに連携取れるように」


「了解」


「はーい」


「わかりました」


 全員に兼次さんからの指示がでる。


 そして兼次さんが立ち上がった。


「よし! じゃあ、行こか」


 全員がその言葉に反応して立ち上がる。


「楽しみにしてるぞ奥山」


「奥山君どんな感じで戦うのか見ものだね」


 少しプレッシャーに感じるが純粋に言ってくれてるなら気張っていこう。


「そんなに期待しないでくださいね」


 そして45階層に向かうためにギルドを出発した。







 一度攻略したボスと戦うには少し面倒臭い行動をしないといけない。

 まず、転送ゲートは攻略した一番深い階層のゲートにしか繋がらない。『独眼のウェアハウンド』になる前にユニークモンスターだったコボルトを探した時と同じ行動だが、今回はまず45階層のゲートに移動する。そのあと一旦無人の45階層のボス部屋を通り抜ける。逆から通る時は誰かが45階層を攻略していない限りモンスターは出てこない。一応シルクさんに今45階層攻略しているパーティが居ない事は聞いている。

 そして、44階層に一度出てから再度階段を降り、45階層の扉を開けると、ダンジョンボスが出現するという仕組みになっている。

 逆に言えば、この行動さえ取れば何度もボスと戦える仕組みというわけだ。




 扉を開けた状態で一歩足を踏み入れただけで様子を見る。


「こう見ると、まじでやばい……でかすぎるし、気持ち悪いを通り越して、怖い……」


「同じ。この大きさは、化け物だ……」


 目の前に現れた45階層のボスモンスター、巨大ムカデ『フェアシュリンガー・ヒューサー』。その見た目はムカデをそのまま巨大にしたようで、顔面だけでも僕の身体より大きい。それに加えて、黒く光る強固な外骨格に守られた長い体躯に、百以上ある脚。そして鋭く尖った顎。それは、44階層でみた『ジージュファング』よりも凶悪に見えた。


「さっきも言った通り、危険やと思ったら俺らも参加するけど、それまでは二人で頑張ってな!」


 兼次さんのスタイルはいつもこうである。

 でも河合さんは隣で「私の時は兼次さんこんな突き放すような教育じゃなかったのに……」と言っていたので、申し訳ないが河合さんは僕に巻き込まれた形になる。


「ごめんね」


「……いい。やってやる」


 いつも通りのやる気ですね。


 しかし、この巨大なモンスターをどうやって倒すか。『クイーンビーモス』と違って空は飛ばないしその分やりやすいと思うけど、他に何か特殊能力がある可能性も……様子を見ながらやるか。


「河合さん。いつも通り僕が突っ込むから、魔法で援護して。できる限りヘイトは僕に来るように僕も魔法を撃つけど。とにかく、外から何か特殊能力があるか見て」


「わかった。でもその前に一発撃つけどいい?」


「了解」


 それもいつも通りだ。

 二人で魔力を高める。練るのは虫系統に強い火属性の魔法。



 そして、8人全員が入った所で扉が閉まった。


 その瞬間放つ。


「「『フレイムバンナート』!」」


 両方同じ魔法で爆発する様に燃える炎が巨大ムカデを襲う。それでもムカデの全てを燃やすことはできていない。頭に向かって放ったことで、尻尾を含む半分以上は無傷の状態だ。

 しかし、炎の中に見える上半身の影は炎から逃れようと動いている様に見える。


「これでは倒せないよな。河合さん、作戦通りで」


「了解。魔法が食らうなら様子見て特大のぶち込むから」


「お願い」


 まずは小手調べ。そんな事はしない。最初から全力だ。


「パワーチャージ」


 剣を下段に横薙ぎができるように構える。


 光の反射で薄っすらと青紫に輝く剣。この前命名した『紫影しえい』だ。この名前を河合さんに伝えた時は「中二病全開だね」と優しい笑顔で言われたのは少し恥ずかしかったが、僕は気に入っている。


 そして炎が弱まる前に巨大ムカデが炎から飛び出した。


「瞬動」


 それを見て僕も一気に距離を詰める。

 勢いを殺さずそのままぶつかる勢いで肉迫した瞬間、剣を振り抜いた。


「リア・スラッシュ!」


 そして、斜め上に切り上げるように振りきった一閃が、巨大ムカデの片方の顎を斬り落とした。






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