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51話-1「ギルドマスター」

6章開幕です!



「河合さん、おはよう」


「奥山君、おはよー。今日もダンジョン攻略日和だねー」


「だね。って言ってもダンジョンの中って毎日晴れてるんだけどね」


「だよねー。どうなってるんだろ。中なのに外みたいだしね。魔法ってすごいよね」


 平日が過ぎ、土曜日になった僕は河合さんと予定通りダンジョンに潜っていた。

 集合場所はギルドではなく、前に行ったカフェだ。


「えっと、今日は大樹さん達無しでどうする?」


「一応、46階層行ってみるのもいいけど、二人だけだし少し心配だよね」


「楽観視すると、別に今の実力ならいけなくはなさそうだけど。少し安全マージンを取れば止めとくべきか。だったら、44階層とかで行動してみる?」


「……いや、44階層はできれば行きたくないな。虫が無理。だったら46階層の方が断然いい」


「そこまで虫嫌?」


「嫌、女の子はほとんど虫嫌だから。あの大きさの蜘蛛なんて化け物だよ! 一度見たら二度はもう見たくない!」


「でも、もしまた出てきたら?」


「その時は仕方ないけど……潔く戦いますけど……」


 と言いながら河合さんは嫌な顔をする。


「だから、今回は、ね? 46階層にしよ?」


「ははは。了解。元々僕も46階層にしよって思ってたから。じゃあ、46階層の入り口付近を様子見してみようか。大丈夫そうなら先に進んでもいいけど。46階層は虫系統のモンスターじゃないみたいだったし」


「うん、そうしよ。様子見で。終わったら魔法の訓練って事にしたら時間も勿体なくないし」


「了解」


 今日の行動方針が決まったところでカフェを出る。


「それにしても、河合さんもここ毎週土日はダンジョンに来てるよね。リアルは大丈夫なん? あっ、ダンジョンって言ってもゲームじゃないからここもリアルなんだけど」


「そうだね、今は、ね。別に外でしないといけない事ないし。あとは、なんて言うか……ゲームとか嵌った時とか1か月ぐらい丸々それに集中しちゃう時とかない? 他の事とかちょっとおざなりになるとか」


「めっちゃある」


「だよね。今がダンジョンに対してそんな感じになってる。それもこれも、奥山君のせいでもあるんだけどね」


「つまりダンジョンにはまってるってことだよね? 僕のせいって言ってもダンジョンに潜る事はいい事なので、僕のおかげって言っても過言じゃないよね?」


「なにそのドヤ顔」


 と笑いながら脇腹を小付かれた。


 そんなやり取りをしながらギルドに到着する。

 扉を開けると、いつも通りの雰囲気だ。

 ギルド内をきょろきょろ見渡すと、掲示板の方でシルクさんが作業をしていた。


「シルクちゃーん」


 河合さんがシルクさんに声をかける。


「あ、マユさんとシュンさん! おはようございます!」


「おはよー、シルクちゃん」


「おはよう、シルクさん」


 元気に挨拶をしたシルクさんは今日もいい笑顔だ。


「今日もすぐ攻略に向かわれますか? ……ダイキさんとサユリさん達はいないみたいですけど?」


「今日は二人だけ。一応46階層の様子見だけにしようかなって思ってるよ。二人だけじゃもしもって事があるかもしれないし。その後は魔法の訓練をしようかなって」


「そうなんですね」


「ですね。河合さんがそう言ってるんで今日は様子見です。なんで少しゆっくり行動する予定です」


「わかりました……でしたらシュンさん、今から少し時間を取ってもらえないでしょうか?」


「僕ですか? いいですけど。河合さんいい?」


「うん。別に急いでるわけじゃないしいいよ」


 なんだろ。シルクさんから僕に誘いがあるなんて。少し構えてしまう。


「ギルドマスターから指示がありまして、シュンさんが来たら声をかけろと」


 あー、ギルドマスターですか。

 と言うか、ギルドマスターに目を付けられてるんだけど。


「少し待ってくださいね」


 そう言ってシルクさんは奥に消えていく。




 数秒後シルクさんは戻ってきた。


「シュンさん、えっと、ギルドマスターがお呼びです」


「呼ばれ……えっ? 僕なんかやりましたっけ?」


 呼ばれるって、いつもの応接室だよな。重要な事が無いと呼ばれないはずだけど……


「えっ、奥山君なんかしたの?」


「いやいや、僕前回以来今日がダンジョン初めてだから、何もできないんだけど」


「だよね。シルクちゃん、なんか理由知ってる?」


「えっと、詳しくはわからないんですけど、訓練場の方に連れて来いって言われてまして……」


「訓練場……」


 ギルドマスターが訓練場って、何が起こるんだ。

 まさか、ボコボコにされるんじゃ。訓練にかこつけてやっぱりこの前の『独眼』の件を怒られるんじゃ。


「奥山君、頑張って!」


「ちょっ、河合さんも来ないの!?」


「そりゃそうでしょ。ギルマスの所でしょ? そんな大層な所にいけないよー」


 と「私は行きません」とひらひらと手を振ってる河合さんだが、


「えっと、マユさんも連れて来いって言われました」


「……えっ?」


 河合さんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。「なんで私も……」って呟いているが、一緒に巻き込まれたらいい。


 と言う事で、僕達はシルクさんの後ろを歩いて訓練場までついて行った。 






 訓練場。最初にシルクさんから魔法などについて教えて貰った以来数回しか来ていない。河合さんは杏子さんと訓練する時に使ってるみたいだけど、僕はもっぱら攻略ばかりで訓練をしていない。訓練する場合も攻略階層でだ。


「お、来たね」


 そう言ったのは訓練場の中心で木剣を握っていたダークエルフの女性だ。


 ギルドマスター。ダークエルフもエルフたちと同じで美形だが、その風貌から威圧感が漂っている。それが木剣を握っている事でとても強く見える。


「オクヤマシュンとカワイマユ。丁度良かったよ。今日は誰も訓練場使う奴がいなかったからね」


 訓練場を使う奴がいないと何がいいのだろうか。

 まあ、想像できるんですけど。


「えっと、どんな御用でしょうか?」


「ここまで来てわかってるだろ? あんた達に稽古をつけてやろうって思ってね」


 稽古って、ギルドマスターがですか? 河合さんなんて横で「まじで!?」って驚いて固まっている。


「ヒメミヤアンズから聞いてるけど、カワイマユも中々やるようだからね。少し魔法を見てやろうかなってね」


「えっ、杏子さんがですか!?」


 少し嬉しそうに河合さんが驚く。

 河合さんは杏子さんを崇拝してるからな、間接的でも少し褒められて嬉しいだろう。


「ギルドマスター、私は……」


「シルクも見ていきな。担当なんだから今のこいつらがどれぐらいのレベルか実際に見ておいた方がいい」


「わ、わかりました」


 シルクさんが僕達の隣で背筋を伸ばす。


「でも、ギルドマスターが僕達に稽古って、個人を特別視していいんですか? 他にも沢山冒険者はいますよね?」


「何言ってんだい。他の冒険者もアタシが良いって思ったら、稽古をつけてるよ。それにこの前言っただろ。いい人材は贔屓するってね」


「……言ってましたね」


 ギルドマスターに贔屓してもらえるのは嬉しい限りだけど、ちょっとこの人の威圧感から考えると、想像通りボコボコにされそう。


 すると横にいる河合さんが僕の顔を見て呟いた。


「奥山君とパーティ組んでから次々とありえないイベントが舞い降りてくるんですけど。今までにこんなことはなかったよ……」


「……ラッキーだね」


「ラッキーって……いや、ラッキーだよ。普通ギルドマスターと話すこともほとんどないのに、稽古までとても嬉しいですけど。こんなに立て続けに色々な事が起こるのは、かなり面喰いましたっ!」


 怒るのか喜ぶのかどっちもつかない顔をする河合さんは面白い。


「でもこれが、いつも僕が出会ってることなんだけどなー」


「くっ……今度から奥山君をフラグメイカーって呼んでやる!」


「至極光栄です」


「なんなのそのドヤ顔!」


 今までに巻き込まれた事が無い出来事に河合さんがパンクしているようだ。いつもよりもツッコミのキレがいい。


「あんた達、二人で言い合ってるのはいいけど、こっちの話に戻していいかい?」


「あっ、すみません」


「あんた達を贔屓するからって言っても、アタシもしっかりと実力を見ておきたいからね。少しあんた達が本気を見せるように褒美も考えてきた」


「褒美ですか?」


「ああ。二人とも魔法を使うからね、好きな魔導書を一つずつ買ってやるよ」


「「本当ですか!!」」


 その報酬にとても食いついた。

 特に河合さんが饒舌になる。


「魔導書をプレゼントってまじで太っ腹だよ! 私が仕事を辞めずにダンジョン攻略してるのって、魔導書を買うお金が大きいって事があるからね! これはちょっとどころか、本気で挑まないと!」


 河合さんが興奮している。

 まあ、僕も気になって魔導書の値段を聞いた時はびっくりしたからな。強い魔法なら10万は余裕で飛ぶ。僕が剣に懸けたお金を河合さんは魔導書に使ってるって事だからな。というか、僕が剣を1回しか買ってないのに対して、河合さんは魔導書を何冊も買っているみたいだし、使ってる金額のレベルが違うけど。


「まあ、喜んでるところ悪いけど、条件はあるよ」


「ですよね。わかってます」


「それで条件は?」


「アタシに一撃を食らわせたらってのが条件だね」


「ギルドマスターに一撃ですか」


 その条件は難しいのだろうか。

 でもこの言葉の裏を返すと、ギルドマスターにとって僕達の攻撃は頑張っても一撃ぐらいしか当たらないって事だ。

 僕達も強くなっている。もう50階層に手が届くレベルまで来ているし、あの『独眼のウェアハウンド』も倒した。通常のボスなら河合さんと二人でも倒しきれている。ギルドマスターでも余裕ではないと思うが。


「その一撃っていうのは、どれぐらいの一撃ですか? 軽く手が触れても一撃ですか? やっぱり魔法や武器での攻撃が直撃したらですか?」


「そうだね、流石に掠るでは一撃とはみなせないね。あんた達も強くなってるから、アタシでもそこは大目に見てもらいたいね。だから、魔法でも武器での攻撃でもいいから直撃させたら一撃とみなすよ」


「わかりました。奥山君、おっけー?」


「おっけー。これって、二人がかりでいいんですよね」


「ああ、二人いっぺんで来な」


「わかりました」


 そして話が終わる。

 稽古と言う名の模擬戦闘。これに勝利したら素敵な報酬が待っている。


「シルク、オクヤマシュンに木剣を渡しな」


「はいっ!」


 シルクさんが入り口近くにあった木剣を渡してくれる。

 手になじんだいつもの剣の方がいいが、これは軽くて丈夫っぽい。軽く『スラッシュ』を込めたら十分耐久力も上がるし大丈夫だ。


「じゃあ、始めるよ」


 ギルドマスターが訓練場の中心から少し移動する。それに従って僕達も動き、ギルドマスターと数メートルの距離を開けて向かい合う。


 そして、河合さんは杖を取り出し構えた。


「これはあくまでも稽古だからね。逃げないようにね」


 そしてギルドマスターも木剣を構えた。


「当たり前です。絶対報酬貰いますから」


 僕も木剣を構える。


「シルク、合図!」


「はいっ! では、皆さん良いですか!」


 息を飲む。そして、


「それでは……はじめ!」


 シルクさんの号令がかかった。

 その瞬間、


「『ファイアーボール』!」


 短詠唱によって無詠唱に比べて数が多い十個を超える火球が河合さんの周りに展開され、ギルドマスターに向かって一斉に放たれた。






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