11話「ステータスと生活魔法」
2章始まりです。ダンジョン攻略します。
「来てしまった……」
僕の目の前にあるのは、ギルドの入り口だ。つまりダンジョンに潜っているわけだ。
土曜日に来る予定だったのだが、少し早く来てしまっている。はっきり言うとダンジョンに潜りたくて仕方なかった。足が勝手にダンジョンに向かっていたけだ。
しかし、あの後かなり怒られたな。ただ怒られたで済んだのは僕の日頃の行いが良かったからだと思おう。あ、怒られただけではなくて、週末まで営業室に缶詰状態だったけど。その反動か、フラストレーションが溜まりすぎた。ここに仕事終わりに直行してしまっている。
「すみません、シルクさんいますか?」
ギルドの中に入り、窓口にいる人に声をかける。
「あ、オクヤマさん? ……あれ? 少し早いですね。一週間後って聞いてたんだけど?」
「あ。シュナさん。ご無沙汰です。いやぁ、土曜日まで待てなかったので。ははは……」
「へー、そうなんだ。今ちょうどシルクもいるし、呼んでくるよ。ちょっと待っててね」
そういってシュナさんは奥の方に入っていった。
あっ、そうか。早くきたけど、もしかしたらシルクさん忙しい可能性もあったんだよな。でもまあ、呼びに行ってくれたし大丈夫か。
「あ! シュンさん! お早いお戻りですね!!」
少し待ったところ、シュナさんがシルクさんを連れて戻ってきた。この前通り元気だなシルクさんは。笑顔がかわいい。
「すみません、少し早く来てしまいました。早くダンジョンに来たかったので。でも今思ったんですけど、この時間から潜る人もいるんでしょうか?」
仕事終わりだからもちろん夕方だ。ここから潜ったら夜遅くなるだろう。
「そうですね、昼間よりは少ないですけどいますよ。夜にしか出ないモンスターもいますしね」
これからはフィールドを探索するタイプのダンジョンだったな。色々な人がその階層に集まる可能性がある。だからそういうのもあるか。レアモンスターってやつだな。
でも、潜る人はいるとの事だ。だったら今から体力が続く限り潜ろうと思う。もし限界で戻って来ても、ゼロ階層に戻れば睡眠も取れるしな。でも、眠すぎて死なないようにしないといけない。
「ということは、少しだけ潜るんですね。わかりました。もしかして忘れられてるかも知りませんが、その前に前回の続きをしてもよろしいですか?」
「続き……あ、そうでしたね、忘れてました。途中で帰っちゃって。すみません」
「いえいえ、そんな。別に分けても大丈夫な内容ですから。良ければ2階の訓練室に行きましょう。いいですか?」
「は、はい。何も用意するものないなら。武器は常に持ってますし。えー、訓練室ですか?」
訓練室か。このギルドは大きいから他にも色々な施設があるんだろうな。しかし、そんな場所を使わないとダメな事をするのだろうか?少し不安になりながらシルクの後を付いていく。
「こちらです」
階段を上る。上ったところにある大きな扉をシルクが開けると、その中には小学校の体育館ほどの部屋が広がっていた。
「ここが訓練室です。この訓練室は誰でも使えますので、いつでも申請してくださいね。仲間や自分の技の練習をする方も多いですので」
「わかりました。じゃあ、また使いますね」
「では早速始めましょうか。これから覚えてもらうのは、魔法です。まずは生活魔法から、」
「え? え!? ま、魔法ですか!」
ま、ほ、う、だ、と。魔法をもう、覚えられるのか。夢に見た魔法を。
「そうです、魔法です。と、言いましても生活魔法ですが。初級魔法みたいなモノです。
シュンさんはモンスターを倒してレベルアップをしましたよね。その時に魔素が取り込まれます。その魔素が魔力となり魔法を使う事ができます。よければ、ギルドカードを見てください。自分のステータスが見れるので確認してもいいですよ?」
そう言われギルドカードを取り出す。簡素なカードだが、表面にはステータス、裏面にはギルドマネーが表示されている。
そっか、自分のステータスをじっくり見ていなかったな。どんな感じだろうか……
オクヤマ シュン
レベル 5
HP 50
SP 60
力 10
体力 12
速さ 12
運 60
魔力 15
ちなみに今の魔力は15。多いのかどうかわからないな。というかステータスの平均基準がわからない。
「すみません、ステータスってどういう基準なんですか?」
「そうですね、まずHPは命に届くまでの数値ですね。HPが無くなれば一撃で死んでしまいます。まあ、無くなるレベルの攻撃を受けるとその時点で死んでしまいますけどね。
次にSPは精神力みたいな感じです。主にスキルに使用されます」
やっぱりHPはあると。で、あの時の、スキルを使った時何か吸われた感じがしたのは思った通りSPが無くなったのか。
「力、体力、速さはそのまま自分自身の行動に影響します。大体、元々持ってるものにパーセントで掛け算されるようですね」
「掛け算ですか。そうなると、今僕は今までの1.1倍の力が出せる、ということですか」
身体への影響はそういう仕方か。これも全部ダンジョンと魔素の力ってわけだ。魔素が体の中に残っているから外でも少しは影響するっていう予想は合っているってことだな。まあこの程度なら外で影響は殆どなさそうだけど。
「そして、運はそのまま自分の運の数値です。平均が50ですね」
ほう。僕の運はみんなより少しある程度か。まあ、そんなもんかな。
「そして、最後に魔力ですが。これはそのまま自分が使える魔力量です。数値が高いほど沢山魔法が使えますし、魔法に力を込めることがでます。つまり魔法に関しては魔力がないとお話にならないと言うことですね」
まじか、魔法は魔力が全てってことか。
「でもですね、魔法の技術をあげると使用する魔力も少なくなるので練習をすれば魔力を凌駕する方も出てきます」
納得はする。何に関してもだが技術が上がればその分行動にロスが無くなると一緒だろう。
「ちなみに僕の15って魔力はどんな感じなんですか?」
「そうですね。他の人に比べて少しだけ多いかもしれませんが……」
「お! よっしゃ……」
「それでも普通ですね」
普通なんかい! ちょっと喜んでしまったわ。まあ、でも最初なんてこんなもんだろう。
「でも、レベルが上るにつれて増えていきますし、後々魔力が多くなる方も出てきますので安心してください」
うん。そんなもんだろうな。
「最後にギルドカードにこれが一番重要かもしれないのですが。出ているステータスはコンディションが良い時の数値ですので、実際はそこまでの数値ではない時があります」
良い時の数値なのか。常にこの数値が固定ならわかりやすいけどな。毎日いつでも数値は変わっていると。じゃあ実際の数値はどう確認したら良いのだろうか。
「では今回、ステータスについてはそれぐらいにしておいてですね。まだ少しですがその魔力を使って魔法を使います。と言っても生活魔法なのでとても簡単です」
そう言ってシルクが僕から一歩距離を取る。
え、このまま魔法に入るの? まあ、それが目的だしな。聞こうか。
「まずは光を浮かべる魔法、ライトですね。魔法はイメージが大切です。まずは人差し指に集中します。そして、その人差し指の先が光るようにイメージします。そこでライトって唱えてください。こんな感じです。いきます。『ライト』」
そう言ったシルクの指先が光る。おお、すげぇ! 異様に光っているのが厨二病心を刺激した。
「そして、最終的には、『ライト』。
こんな感じで光の球を出すところまでできてマスターです。まあ、誰でも出来るのですぐ出来るようになりますよ」
シルクの手のひらの上に拳ほとの大きさの光の球が浮いている。光を抑えてるのか眩しすぎる訳ではないが、なんか強そうだな。なんだかそれで攻撃出来そうだし。
「まずはものの試しです。やってみましょう!」
そうだな。よし、とにかくしてみよう。
「えーっと、まずは。人差し指に集中して、光るようなイメージっと……『ライト』。
うお! 光った!」
本当に指先が光った。まじで? すぐ出来ちゃったよ。俺って才能あるんじゃ、
「いいですね。では次は光の球を出してみましょうか」
え? 反応そんだけ? なんか当たり前みたいに流されてるんだけど。いや、これが当たり前なのかな。
「おーけーです。光の球ですね、やってみます」
別に褒められなくて拗ねることはない、次にいこう。
「光の球を作るイメージ。『ライト』。
お、できた」
手のひらの上に光の球が浮いている。シルクほどの大きさではないがまさしく、ライトの魔法だろう。
「一発でできましたね。簡単でしたでしょ? 一応これでライトはマスターです。慣れてくると光の強さや大きさを変えられますので、頑張ってください。
では、次に行きましょう」
本当に簡単だった。まあ、生活魔法なんてそんなものなんだろう。こんな感じでどんどん覚えていこう。
「では次はウォッシュです。汚れを落とす魔法です。体を清潔にしたり、武器の手入れにも使えます。モンスターの返り血とか嫌ですもんね」
「ほー、いいですね。それがあれば楽ですし」
「では、この魔法は一回体験してください。それが一番の近道なので。いきますよ、『ウォッシュ』」
シルクが僕に手をかざし魔法を唱える。すると、全身に上から下へとぞわぞわ感が、駆け巡る。そして終わると少しスッキリした感覚が訪れる。別に気持ち悪くない感覚だったが、なんだか慣れたくない感じだ。
「どうでしょう、わかりましたか?何というか上から下へとタオルで拭くイメージです。ではやってみましょう!」
「タオルで拭くイメージか……」
なんとなくわかった。ぞわぞわ感とタオルで拭くイメージを合わせてだな。
「『ウォッシュ』。う、おおぅ」
できた。ぞわぞわ感が駆け巡った。まだ全身とまでいかないができた。ちょっと癖になりそう。
「お見事です。これでウォッシュも一応マスターですね。あとで武器にも使ってみてください。綺麗になりますよ。
では、続けて次いきます」
そんな風に一つ一つ生活魔法を覚えていく。簡単だと言っていただけあって、本当に簡単だった。躓く事なく覚える事が出来た。
魔法を習う事小一時間。覚えたのは5つだ。
ライト、光を出す魔法。
ウォッシュ、汚れを落とす魔法。
イグニッション、着火魔法。焚き火をする時などに使う。
サークナ、相手のステータスを見る魔法。レベルが高い相手のは見れるモノが少なくなる。逆にレベルが低くかったり、よく知っている相手の情報は見やすくなる。レベル差が関係する。
ポケット、いわゆるアイテムボックス。しかし、片手で持ち上げられる大きさのモノまで。これはたぶん空間魔法なんじゃないだろうか。
以上が生活魔法だ。全て必要性はかなり感じた。
しかし、ポケットは覚えるのが大変かと思ったが割とあっさりいけた。魔法はイメージを掴むことさえ出来れば大丈夫との事だったが、自分でもイメージが掴めてたとは思わなけど、上手いこといけたな。割と曖昧なところがあるみたいだ。
ちなみに一度自力で覚えた魔法は忘れないらしい。威力とか出来は変わるようだが、魔法の名前を言う、つまり詠唱すれば少しのイメージとで発動するみたいだ。たぶん感覚的には自転車に久し振りに乗ると怖いが割と乗れる、みたいな感じなのだろう。
しかし、もう魔法が使えるようになったのか。その現実にかなり感動している。剣と魔法の世界が実現したのだ、興奮しないわけがない。
「シュンさん、お疲れ様です。これで基本の生活魔法はマスターですね! 生活魔法は常日頃使うと思いますので慣れるのは早いでしょうし。慣れればイメージをしなくても詠唱だけで魔法を使えるようになるので、頑張ってくださいね」
「へぇー、そこまでできるんですね」
シルクの話的にはもう身体が覚えているからちょっとのきっかけがあれば発動するのだろう。魔法は便利になるとわかった。
「では、最後に違う魔法をもう一つ覚えましょう」
「ん? もう一つですか」
もう一つの魔法? なんだろう。生活魔法は覚えたし……
「みなさんが言う普通の魔法。いわゆる黒魔法です!」