48話-2「3連休は全てダンジョンに潜ります」
「で、さっそくだけど俊、剣見せてくれるか? 俊が作った剣だから楽しみなんだよな」
翌日、42階層の入り口で大樹さんが楽しみそうに言った。横では小百合さんと河合さんも「どんなんだろ?」と言いながら待っている。
「ふふっ。中々の出来ですよ?」
僕は自信ありげに『ポケット』から昨日受け取った剣を取り出す。
剣の形は今使っている剣と同じで西洋風の片手剣だ。しかし、黒く光っていて、光の加減によっては青紫色に光っている様にも見える。
「おぉー、いいなそれ。どの素材を使ったんだ?」
「えっと、『ジャイアントマンティスの鎌』と『ホーンビートルの外骨格』、『クイーンビーモスの毒針』ですね」
「手に入れた使える素材全てだな!? その使い方は大胆だなー」
「ですよね……頼んでからそう思いました。割とお金もかかりましたからね……。通常使用はいつもの剣で、これはボス戦とかいざという時に使う用にします」
「まあ、通常使用してたら消耗も激しいからな。それがいいかもな。ちなみに『クイーンビーモスの毒針』って事は、毒もついてるのか?」
「そうですよ。ついてます。まあ、今のところ低確率ですけどね。なんか仕組みが、僕の魔力が変換されて毒になるみたいなんで、毒に変換するコツを見つけないといけないみたいです」
「ってことは魔剣か。かなりいい品だな。ちなみに、いくらかかったんだ?」
「……言いにくいんですけど。……いや、後悔はしてないんですけど。少し面喰いました」
「面喰うって、そんな高かったんか? やめる選択もあっただろ?」
「ありましたけど、性能聞いて衝動買いですね。15万でした」
「たかっ! 今の俊の15万ってかなり高いだろ!? 大丈夫か?」
「いや、まあ、ダンジョン潜り続けたら稼げることはわかったんで、初期投資ですね。そう思ってます」
そう言うしかない。もう少し考えたらよかったとは思ったが。
「あははっ。奥山君ってそういうところあるよね。思ったらまっすぐな事とかさ。また、頑張って稼がないとね」
河合さんにそう言われても仕方ない。
「ちなみに虫の素材で作った剣ってどういう感じなの、大樹?」
「虫の素材と言うか、俊の使った素材で作った場合は、まず切れ味が良い。それに、今回みたいに何かしらの効果が付くことがある。それだけで十分だけど。あとは、外骨格を使ってるから耐久性も無くはない。ぐらいかな。まあ、鉱石から作る剣に比べては耐久性は低いけどな」
「だったら、使い方次第ではすぐに折れたりするの?」
「まあ、乱暴に使ってたら鋼の剣よりも折れやすいな。俊は丁寧に武器を使ってるし大丈夫だろ。それを踏まえても付随する効果が良すぎるから、俊の剣は大金出しただけあると思うぞ」
「そうなんだ」
「そうなんですね」
「なんで俊くんも頷いてるのよ」
なんでって言われてもあのエルフの鍛冶師にはそこまで詳しく教えて貰ってないからだ。ただ単に魔力変換による毒の付与と切れ味が良いとだけ言われた。詳しく聞かなかった僕も悪いけど。
「奥山君って納得すると自分の中で完結する節があるよね」
「うっ……それはそうかも。気を付けるよ」
常々気を付けようと思っている事だけど、積み重ねられた癖はすぐに変わらない……と思う。
「まあ、僕の剣の事はこれぐらいにして、とにかく進みましょうよ!」
「そうだな、性能見た方が早いしな」
「そうね、進みましょうか」
「じゃあ、小百合。ここからは『ペネトレイター』で確認しながら進むぞ。頼むな」
「わかったわ。少し通常の索敵が弱くなるけどカバーはまゆちゃんと俊くんお願いね」
「「了解です」」
そして42階層を進む。
ここからは『独眼のウェアハウンド』が出現する可能性があるから注意深く進んで行く。
42階層のメインモンスターは蟻だった。
目の前には地を這う30センチを超える蟻が、大量に押し迫っていた。
「『コールドエア』!」
しかしそれもいつもの魔法で対処が可能である。
体温が下がった蟻の動きが一気に鈍くなる。それを河合さんが風魔法で切り刻む。
「『ウインドカッター』!」
風の刃が巨大な蟻を切り裂いて行く。
巨大なカブトムシやクワガタに比べて、すんなりと冷気が効くモンスターはやりやすい。
僕が冷やして河合さんが大多数を倒す。そして漏れたモンスターを一体ずつ大樹さんと小百合さんが倒していく。
「この階層のメインモンスターは数だけですか?」
「そうね。デリンジェンスビーみたいにシバリングもないし倒しやすいわね。クイーン系のモンスターもいないし、この『ワーカーホリックアント』を倒せばそれだけよ」
名前からして働きすぎだろとは思うが、蟻の種類が軍隊では無くて良かったと思う。
単純に数で攻められるだけであれば、虫系統のモンスターであれば魔法で片が付く。
「俊、あの剣の切れ味はどうだ? この蟻も他のモンスターに比べて固いけど、斬れるか?」
「あっ、試してみますね。……うおっ、かなりいいです。さくさく斬れますよ」
言った通りさくさく斬れた。
前までは関節を狙う方が倒しやすかったが、そのまま頭に突き刺せば突き刺さる。常に少量のSPでの『スラッシュ』を使っているが、それでも切れ味は前の剣とは違う。
その代わり、鍔迫り合いなど守るような戦いでは心もとない感じはする。
「おお、目に見えていい剣だな。じゃあ、ここからもこいつらが所々で出てくるから今の感じで進むぞ。これなら、早く42階層は抜けられそうだな」
大樹さんがそう言って、42階層を進んで行く。
はっきり言って42階層は蟻の大群だけで大したことも無く、他の階層よりもあっけなく突破する事ができた。
◇
42階層も難なく突破したあと、1時間の休憩を挟み、43階層の攻略を開始している。
「43階層のメインモンスターは何なんですか?」
「ここはサソリだな」
「サソリですか!?」
どんな昆虫系モンスターが出てくると思ったら、昆虫じゃないぞ?
「サソリって昆虫でしたっけ?」
「いや、サソリは昆虫じゃなかったはず。と言うか、別に昆虫系モンスターじゃなくて虫系モンスターが出てくるだけだからな。さっきもダンゴムシみたいなのが転がってただろ? あれも昆虫じゃないし」
「大樹さん詳しいですね」
「息子がな、虫図鑑ばっかり見てるから覚えさせられたんだよ。たぶんあいつをここに連れてきたら大喜びだぞ」
「いや、大きすぎてびっくりするわよ。小さくても虫って怖いからそれがこの大きさって恐怖以外の何物でもないもの」
「小百合さん、わかります。少しマヒしてきましたけど、私はまだこの階層早く抜けたくて仕方ないですから」
女性陣はこの階層は億劫なのは変わりないらしい。
僕としては何と言うか、もう素材にしか見えてないけど。
「まあ、とにかく先に進むぞ。ちなみにそのサソリは毒があるから注意しろよ。それに尻尾が2本あるから、まずはそれをどうにかしないといけないからな」
それから43階層も順調に進んでいた。
36階層からここまでそれぞれ虫系統のメインをはるモンスターが居た。それが少し厄介だったのだが、それ以外はそこまで何ともないエリアだ。エリア内の雑魚モンスターは虫と言うだけで嫌悪感があるが、それだけで別に強いわけでもない。森の中と言うだけで少し歩きにくい程度で特に問題はなかった。
この43階層もそうで、ここまで順調に進めていれば難なくクリアできそうで、階層出口付近まで基本的な攻略時間である5時間以内で突破した。
「あと少しで出口だけど、ここから注意しろよ! さっきから言ってるが、森の中であいつは襲ってくるぞ」
そう大樹さんが言った途端、小百合さんが叫ぶ。
「大樹! 来たわよ!」
その声と共に一番後ろにいた河合さんの背後に影が迫った。
「カバームーブ!」
しかし、河合さんとの間に大樹さんが割り込んでその攻撃を盾で受けた。
「体制整えろ!」
大樹さんが叫ぶ。
僕は剣を構えて、河合さんは距離を取りながら杖を構える。そして小百合さんが矢を射った。
その矢がそのモンスターの外骨格にはじかれて地面に落ちる。
「硬いわね。まゆちゃん、俊くん、見た通りあれが『ダブルテールスコーピオン』よ。名前の通りだし、さっきも大樹が言った通り2本の尻尾がある。あれに毒があるから、まず尻尾をどうにかしないといけないわ」
体長2メートル。尻尾を合わせたら4メートル近くはある巨体が鋏を上げながら威嚇する様に対面していた。
その巨体でよくこんな木と木の間が狭い中で動けることに驚きだ。
「とにかくあの尻尾を落とすぞ! 俊、頼めるか?」
この森の中じゃ今まで使った合体魔法も使えない。雷でも燃える可能性がある。
だったら、剣を使うのは必然だ。
「行けます!」
ってことは、この剣の見せ場が来たって事だな!
今までのモンスターでははっきりこの剣の性能がわからなかったからな。このモンスターが初陣みたいなものだ。
期待してるぞ。
「じゃあ、頼む!」
大樹さんの一言で走り出す。この木々の中走りにくいが逆に木を利用して見えにくいように大回りしてダブルテールスコーピオンに接近する。
それに、大樹さんが『挑発』を使った事で僕の存在がより見えにくくなっているだろう。
その間にも小百合さんの矢がダブルテールスコーピオンの関節に刺さり、河合さんの風魔法が少しずつ体力を削っていく。
そして僕は、いつも通り最後の距離を埋めるため跳躍する様に『瞬動』を使い、目的の尻尾に接近した。
「まずは一本目! リア・スラッシュ!」
白く光る軌跡が少し青紫にも光りながらダブルテールスコーピオンの片方の尻尾を切り落とした。
「うぉ! むっちゃ斬れる!」
その切れ味に驚きを隠せない。
はっきり言ってそこまでSPは込めていない。
それでも、あの硬そうな尻尾を簡単に切り落とすなんて、武器の重要性を強く感じた。
ちなみに、普通の鋼の剣ではスキルを使ってもホーンビートルの身体には一撃で刺すことはできなかった。このモンスターも同じ硬さなら一目で武器が凄いとわかる。
「俊、うしろ!」
着地した瞬間に大樹さんから声が飛ぶ。
後ろを振り向くと、ターゲットは僕に移っていたようで。
「やばっ……」
ダブルテールスコーピオンの片方の尻尾が僕にめがけて振り落とされる。
しかし、ギリギリ交わし、そのまま木に隠れるように逃げる。
その間に大樹さんが再度ダブルテールスコーピオンに『挑発』をかけ、盾と剣で攻めていた。
そうなれば、僕の役割は同じ。
再度、回り込むように逆側に走り『瞬動』で接近して、
「リア・スラッシュ!」
さっきと同じようにもう片方の尻尾も斬り落とした。
「ナイス俊!」
尻尾を斬り落としたら後は鋏だけ。
大樹さんが前で受けながら後ろから残り全員で攻めればいい。
僕が後ろから攻めたあと、後ろに回った小百合さんが矢で攻めていく。その攻撃の隙間に河合さんが風魔法で傷をつける。そして小百合さんがまた矢を射って、大きいダメージを僕が剣で与える。
それを何度かすると、ダブルテールスコーピオンは光の粒となって消えた。
「いい感じだな。お疲れ」
「お疲れさま。今回が初めてしっかりした連携だったんじゃない?」
「だな。今まで俊と真由の魔法で終わってたからな。こいつは勉強になったんじゃないか?」
「はい。よかったです。この剣も使えましたし。勉強になりました」
「まあ、これが普通の連携だよね。って言うか、奥山君のその剣、切れ味よすぎ!」
「だよな。一撃で斬り落としたのはびっくりしたぞ。スキル使ってだけど、あれは凄い」
「そうよね。俊くん、いい買い物したわね」
「ですね。ここまでだとは思いませんでしたけど。15万払ったかいがありますよ」
今の攻防だけでも、この剣の有用性がわかった。切れ味だけでも十分だ。あとは毒をどうやって与えられるか。ここまでだけではあまりわからなかったから、もう少し考える必要がありそうだ。
「じゃあ、進みましょ。ここ抜けたら43階層攻略完了よ」
「ですね。行きましょ」
ドロップアイテムをしっかり拾い、出口に向かって行く。
そして無事に43階層も攻略完了した。