47話-1「40階層」
目が覚めると冷たく固い地面の感触が体全体に伝わってきた。その感覚が、プレステージの『虐殺のオーガ』を倒した後の転送された地面と同じで、跳ね起きる。
「はっ!! ここはっ!?」
上半身だけ起こし周りを焦った様に見る。
すると、大樹さん、小百合さん、河合さんが心配そうに僕を見ていた。
「おう、大丈夫か、俊」
「俊くん大丈夫なの?」
「起きた。よかったー」
三人の顔それぞれに安堵の色が見える。
良かった。この三人がここにいるって事はまだダンジョンの中ってことか。
ダンジョンの中で死ぬとどこで生き返るのかは教えて貰っていない。
一応ダンジョンの外で生き返るようだけど、少なくともここがダンジョンの外ならこの3人も冒険者の恰好ではないはず。
「すみません。僕、どれぐらい気絶してましたか?」
「そうだな、15分ぐらいか?」
「15分もですか……今出口の中ですよね?」
「そうだよ。大樹さんが抱えてきてくれたよ。デリジェンスビーは奥山君の魔法で全滅したからね。あの魔法は凄かった」
河合さんがうんうんと頷きながら説明してくれる。
そっか、全滅させれたか。良かった。
「奥山君が倒れてからドロップアイテム拾ったからもうすることないし、まだゆっくりしてていいよ。私達もさっき拾い終わったばかりだから」
「そうなんだ、ありがとう」
倒れるまで全力で魔力を使ったわけだから、少し倦怠感はある。『ポケット』からMPポーションを取り出し飲む。
徐々に魔力が回復している感覚がる。それに伴い倦怠感も少しずつ解消される。
「大樹さん、ここまで担いでもらって助かりました。ありがとうございました。小百合さんも河合さんも後の事任せてしまいすみません。助かります」
とにかく3人にお礼を言う。
しかしその3人は驚いたように声を上げる。
「いやいや、今回は俊のお陰だろ。逆に俺らがお礼を言う側だぞ! 助かった。ありがとう」
「そうよ、生きていられたのは俊くんのお陰だからね。ありがとう」
「そうだよ奥山君。あの魔法があったからあのモンスター全部倒せたんだよ。ほんとにありがとう」
3人ともお礼を言ってくれた。
その事が少し僕の心を温かくする。
自分が生存する事が第一の行動だったけど、あの場で倒れられるまで魔力を使えたのはこの3人が居たからだ。そうやって自分を任せられると思えられるのがパーティの良さなんだろう。この3人とパーティを組めて本当に良かったと思った。
その後もお礼を少し言い合い、永遠にお礼を言い合いそうだったので、無理やり話を変えられた。
「で、どうする?」
「どうするって、どういうことですか?」
「いや、かなり疲れてるだろ? このまま40階層のボスはきついだろ?」
なるほど。ボス戦の事か。
「ボス戦ですね。うーん……いや、大丈夫そうですよ。今ポーション飲んで魔力回復してるんで。少し準備運動したら行けると思います」
ポーションを飲んだことで魔力も半分は回復してきている。それに予定通りに行くには今日はまだ休めない。
しかし河合さんが心配そうに僕を見る。
「ほんとに? 流石にもっと万全の方がいいんじゃない? ボス戦だよ?」
「そうだけど、ここで攻略しとかないと次は来週になるから。来週は3連休だし41階層以降を一気に攻略したいからなー」
「俊が言う気持ちもわかるな。早く49階層まで到達した方が俺らも何かと動きやすいからな。49階層に到達してもそこから50階層に挑戦するにはレベル上げをしないといけないし」
「そうですけど。奥山君本当に大丈夫?」
「大丈夫。今喋っているだけでも休憩できてるし。それに、僕が倒れたのって魔力が無くなったからだし。別にダメージで倒れたわけじゃないからなー。体力的には平気」
「うーん、でもなー」
それでも悩む河合さん。何が引っかかっているかわからないけど、この状態でもボス戦は大丈夫だと思う。魔力もあと一本ポーション飲めば全回復するし。
すると見かねた大樹さんが提案した。
「じゃあ、今回は俺らも入るか。40階層は真由と俊と二人で入ってもらうわけだしな。その時点でソロでの強化ボスでは無くなるし、俺らが入っても変わらないだろ。だから、もし危なかったら介入する感じにするか?」
「大樹、それはいいわね。別に今回は外で待つ必要が無いものね。どう? まゆちゃん?」
「そうですね。だったら安心です。私の懸念は万全の状態じゃない奥山君がもし倒れたらどうするかなんで。二人が危ない時に助けてくださるならそれでいいです」
「オッケー。じゃあそうするか。俊もいいよな」
「はい。それでお願いします。河合さんごめんね。心配してくれたみたいで」
「そうだよ。目の前で気絶されたらまじでビビるからね。心配はするよ。それに、奥山君がいないとたぶん私一人ではボスを倒せないと思うから……」
「そうかな。河合さんの実力なら大丈夫だと思うけど」
次のボスがどんなモンスターか知らないけど、今までの感じであれば大丈夫だと思んだが。
でも、河合さんが一瞬顔を少ししかめてから言った。
「たぶん、遠距離から攻撃し続けられるなら勝てると思う。ボス戦は関係なしに火魔法使えるし、出てくるボスモンスターは虫系統みたいだし。でも一人だったらそこまで完璧に立ち回れないよ。はっきり言って、さっきの奥山君の魔法を見てわかった。悔しいけど、奥山君はもう私を抜かしてるから」
そう言う河合さんの顔は悔しい表情をしながらも少しスッキリした様な表情だった。
「私ではあの魔法は使えないし。あそこまでの威力は出せない。たぶんイメージが足りてないんだと思う。だから、奥山君の魔法を見て勉強させてもらおうって思ってる」
そう言われるとどういう反応をしたらいいか困る。
「なんか……うん。ありがとう」
「でもね、また追い抜くよ。私の方が先にダンジョンに潜ってるからね。負けてられない」
しかし河合さんは負けないと気合を入れるように拳を握る。
それに感化されたのか小百合さん達も、
「まゆちゃんの言う通りよ。私もこのままじゃ俊くんに追い抜かれるからね。大樹もでしょ?」
「ほんとにそう思う。俊の成長スピードが半端ないからな。でも、先輩として負けてられないな」
みんながやる気に満ちた顔に変わる。
でも、この感覚嫌いじゃない。
「わかりました。僕も全力で追いかけます。それで強くなって上級冒険者になりましょう」
「だな」
「そうね」
「うん」
4人の気持ちが一つになり、次の目標が決まった。
「よし。じゃあ、40階層ボス討伐しに行くか!」
「はい!」
そして大樹さんが立ち上がる。それに続き小百合さんと河合さんも立ち上がり、最後に僕が立ち上がった。
向かうは40階層ボス。まずはこんな所さっさとクリアして49階層に合流だ。
40階層。10階層毎にある一区切される階層。そこのボスは5階層毎にあるボスに比べて強い。今回は35階層がミノタウロス2体だったので、それよりも強いことが予想される。
ミノタウロス2体よりも強いモンスターって、昆虫系モンスターで想像できない。人型カブトムシとかそんな感じか?
そんな事を考えながら階段を降りると40階層の扉が開いていて、中は暗い。直近に誰かが挑戦したわけではないとわかる。
ちなみに、ボス部屋はボスがいると扉が開いているのだが、5階層毎の小ボスは扉があったりなかったり、開いていたり開いていなかったりしている。演出なのだろうけど、扉を開いて入った方がボス戦っぽい感じがすると思うんだけどな。
「じゃあ、俊が先頭な。真由と二人なら前衛は俊になるからな」
「わかってます」
一番前に向かい、河合さんを後ろにする。
「河合さん。もしできるなら、出会い頭に最強の一撃食らわせてもいいから」
「そのつもり。入った瞬間から詠唱し始めるからね」
「了解」
そして、40階層ボス部屋に足を踏み入れた。
壁に設置されている松明が順番に燃えていく。
暗い部屋が松明によって明るくなるのだが、いるはずのボスモンスターが目の前にいない。
「いない……」
河合さんの声が後ろから聞こえた瞬間、バッと上を向く。
「河合さん、詠唱続けて!」
この演出は2体のミノタウロスの時と同じ。上から降ってくるパターンだと直感が告げる。
そして、見上げた空間でうごめく黒い影。数十体のモンスターの羽の音がボス部屋に響き渡る。
「上に向かって全力で!!」
「わかってる!」
そして河合さんの詠唱が終わる。それに合わせて僕も魔力を込めた。
「『フレイムバンナート』!」
「『ウィンド・ストーム』!」
河合さんの爆発的に燃え上がる炎に合わせて全力で燃え上がらせる合体魔法。魔力温存も考えながら威力を調節した方がいいが、この一撃で終わったらいいと思いながら魔力を込める。
「……うわっ!」
黒焦げに燃えた何かが上から降ってくる。それを避けるために少し壁際に寄りながら魔法の状況を見る。そして、黒焦げになった何かは光の粒となって消えた。
魔法を放ってから数十秒。いつも通りならもうそろそろ魔法が終わるころだ。燃え広がるこの魔法ならこの一撃で燃やしつくる事も可能だと……。
「……っ!! うそっ!」
「……っ!! 河合さん! ポーション飲んで魔法の準備して!」
「わ、わかった!」
燃やし尽くしたと思っていたが、全くだ。たぶん黒焦げになった何かは周りに跳んでいるモンスターなんだろう。
その飛んでいるモンスターの中心に一段と大きいモンスターがいた。
少し焦げている個所もあるが、ほとんど無傷の状態でそのボスモンスターはゆっくりと下降して来る。
蛾の様な羽を持ち、ハチの様な針を持つ。2種類の昆虫の特徴を持った3メートルを超える巨大なモンスターはキラキラと光る粉をまき散らし、周りに数十体の蜂の様なモンスターを携えながらボス部屋の中心に降り立った。