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46話-2「40階層までの道のり」



 その後の37階層は順調に進み、すぐに攻略が完了した。いつも通り出口前にはモンスターが居たが、それも『コールドエア』で難なく突破した。


 それから、30分ほどの休憩を挟み38階層を進む。

 もちろん38階層もあの魔法のおかげで苦労なく進むことができた。ちなみに飲んだMPポーションは1本だけだった。思っているより魔力を抑えて使う事が出来てる。上出来だ。



 そして、38階層も終盤に差し掛かったところ、少し開けている場所に出た。


「大樹さん、ここって」


「予定通りだ。気を付けろよ。小百合、頼む」


「わかってるわ」


 森の中に突如現れた広場。どう考えても意図した何かがある。


 そして、そのエリアに踏み入れた瞬間バキバキという音が響き渡った。

 それは何かが倒れる音。

 その音は徐々に大きくなっていき、その音がする方向の木が目の前でなぎ倒された。


「来たぞ! ホーンビートル!」


 目の前に現れたのは体長2メートルほどのカブトムシだ。


「……でっか」


 圧倒される大きさ。こんなにでかいカブトムシは見た事がない。その名前の通り、一本の角がかなり太い。


「俊! 動き鈍らせろ! 初撃は俺が受ける!」


「『ファーストアップ』!」


 盾を構えた大樹さんに小百合さんが瞬時にバフ魔法をかける。そしてホーンビートルは羽を広げ助走をつけるようにバックしてから、大樹さんに向かって突撃した。


「パリィ!」


 金属が衝突した様な音が響き渡る。

 かなり堅そうだ。


 とにかく僕は構築していた魔法を発動させる。


「『コールドエア』!」


 付近の空気が一気に冷える。ホーンビートルにも霜が付くほど温度が下がっている。

 通常であればこれで動きが鈍くなるはずだが……。


「大樹さん!」


「わかってる!」


 ホーンビートルの動きは変わらず、再度バックして突撃してきた。それを大樹さんが受ける。


「あまり効いてないみたいです! 寒さに強いわけじゃ……」


「……もしかして、外骨格が原因かも」


 外骨格か。なるほどな。カブトムシの外骨格は発達している。見た目からして堅そうだから、その分ぶ厚いって事だ。それだと気温が低下してもすぐに影響が体内まで届かない可能性がある。

 だったら……。


「小百合さん、ここなら火使っていいですよね!」


「ここなら……大丈夫よ!」


「了解です! 動きます!」


 そう言って僕は走りながら魔法を構築する。


 大樹さんは助走ありの攻撃にも耐えていたから、止まって角で攻撃されているうちは大丈夫だろう。

 大樹さんが攻撃を受けている間に僕は横に回り込み、少し大きめの『ファイアーボール』を2個展開しホーンビートルの真横に向かって攻撃する。


「もう一回!」


 もう一度展開して火球で撃ち込む。


 三回ほど当てたら少し効いたのか僕の方に意識を向けた。

 しかし、その意識を大樹さんが『挑発』で自分自信に向けさせる。そして、その間も小百合さんの矢がホーンビートルの関節に吸い込まれる様に刺さっていく。命中度が凄い。


 これなら少し集中できる。


 河合さんが居ない今日の僕の役目はダメージソースだ。僕の攻撃で倒せる威力を出さないといけない。

 今まで通り火魔法を使えばダメージを与えやすいだろうけど、この場所が少々開けていても近くに木が多いから高威力の火の魔法は使いにくい。だから少し魔法の属性を変える。あまり使わないから他よりも不慣れだが、物理的に威力が大きくなる属性。


 イメージは石よりも岩よりも固く。鉄以上の強度を持ち、硬い外骨格をも貫くように鋭く、巨大に。

 念入りに魔力を練る。


 そして、構築した魔法は直径1メートルほどの円錐状に黒く尖り、ドリルの様に回転していた。


「『アイアンドライブ』!」


 その声と同時に高速で打ち出された黒い鉄の様な弾は勢いよく弾けるように飛び、ホーンビートルを吹き飛ばした。

 広場を飛び越え、周りの木を巻き込みながら吹き飛んだホーンビートルは動かなくなる。


 その状況を見て息を吐く。


「すみません、少し溜めるのに時間がかかりました」


「いや、あの威力なら仕方ない。というか、一撃か……?」


 ホーンビートルが通った後の木が全てなぎ倒されているので、倒れているホーンビートルがここからも見えている。黒い円錐の弾がきれいに横っ腹に刺さっている。

 そして、今光の粒に変わった。


「倒せたみたいですね」


「あのホーンビートルを一撃って……真由ちゃんも火魔法使いながら数分は戦ってたわよ。物理的な魔法にしたのがよかったの?」


「そうですね……まず、大樹さんが注意を引いてますし、小百合さんが関節狙って動きにくくしてるので、僕はじっくりと魔法を構築できました。あの魔法を使ったのも、冷やした後に急に温めることで硬い外骨格も脆くなるからですし。その一点を物理で風穴を開けるイメージですればいけるかなって考えてました。思ったよりうまくいったのでよかったです」


「そこまで考えてたの。なるほどね。そう考えたら冷やして温めて脆くなるのは当たり前だけど、ここまで上手くいくものなの?」


「まあ、冷やすのは杏子さんに教えて貰ったのでできるようになりましたから、あの魔法が無ければ河合さんと同じように火魔法でチクチク戦ってたと思います。僕の場合は剣も使いますけど」


「俊は魔法の使い方が上手いな。俺の予定では俺が受けている間に小百合がダメージを与えた関節を俊が落としていって最後に『リア・スラッシュ』で止めって感じだったけど、この戦い方も頭に入れておかないとな」


 二人とも感心したようにうなずく。

 でも、魔力が無い時はその戦い方をするしかないし、あの魔法で倒せなかったらそうなる予定だった。


「とにかく、ドロップ拾って出口に向かうか。前回もこいつが出てきたら出口まであと少しだったからな」


「わかりました」


 そしてドロップアイテムを拾う。


「ドロップアイテム、外骨格の欠片と折れた角ですね」


「こいつのドロップアイテムはかなりいいぞ。というか、昆虫系モンスターのドロップアイテムは有効利用しやすいから、高く売れるし防具にもなる。ここを狩場にしたら割と稼げるようになるぞ」


「そうなんですね。だったら、ここらへんの階層を縄張りにするのもありですね」


「少し耳をすませてみたら聞こえるだろ?」


 そう言われて耳をすませたら、微かにだけどガサガサというか、人の声と戦っている音が聞こえる。

 少し遠いようだけど、微かに聞こえる。


「周りにもいるんですね」


「俺らみたいに49階層まで到達できたらいいけど、45階層にかなり強いモンスターがいるからな、そこを突破できてない中級冒険者はここで稼いでる。まあ、大抵の中級冒険者はここらへんの階層にいるな」


「そうなんですね」


「虫が大丈夫だったらいいけど、私はここで稼ぐのは諦めたわ。ちなみに46階層からの4階層の方が稼げるのよ」


「そりゃな。あっちの方がモンスター強いからな」


 笑い合う二人。

 そんな話を聞くと早く先に進みたくなるじゃないですか! わくわくしてしまう!


「じゃあ、さっさと進みましょう!」


「そうだな。でも今日は時間的にもこの階層までだけどな」


「明日はまゆちゃんも交えてだからね。というか、俊くん本当に38階層までの攻略早かったわね」


「二人にここまで連れてきてもらったからですよ。あと、河合さんにもお世話になりましたから」


「そう言ってくれると嬉しいわね。でもこっちも嬉しいのよ。50階層攻略の目途が付きそうだもの」


「だな。このままレベル上げたら49階層着くころには俺らを余裕で抜かしてそうだけどな」


「そんなわけないですよー」


 と言うと、なぜがジト目で見られた。でも、あそこは謙遜した方がいいですよね。


 でも実際にレベルはまだまだ追い付ける気がしない。

 さっきホーンビートルを倒して26レベルに上がった。一応ここを攻略したら河合さんと攻略階層が同じになる。それでも河合さんはこの前31レベルになったって言ってたし、大樹さんと小百合さんは37レベルまで上がっている。10もレベル差があるとあと10階層で抜かせるとは到底思えない。


 そんな事を考えていると、大樹さんが僕の肩を叩く。


「なんか色々と考えさせたみたいだな。俺らが言ったのはレベルだけじゃなくて、戦闘センスとかも含めてだからな。とにかく俊はそのまま突き進めばかなり強くなれる」


「大樹の言う通りね。俊くんはそのまま進めばいいわ。しっかり考えられてるから自然と強くなるはず。だから謙遜しなくていいわよ」


「そうですか……わかりました! ありがとうございます!」


 僕が謙遜するのは社会人になってからあまり褒められた事が無かったからだ。だからこう褒められるとまず否定したくなるのだろう。でも褒めてくれるなら素直に受け取ってもいいとわかった。


 でも今思い出すと、社会人になるまではよく褒められてた気もする。


「よし! じゃあ、残り進むぞ。30分も進めば着くはずだからな」


「了解です」


 そして、少し自分の感情を整理しながら38階層の残りを進んで行った。





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