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45話-4「35階層と換金」



 ギルドを出てダンジョンの出口に向かいながら気になる事を河合さんに確認する。


「ちなみに、河合さんも今はこれぐらい稼いでるんだよね? 中級冒険者なら稼げるって小百合さん達が言ってたから。冒険者だけで食べて行かないの?」


「冒険者だけでかー。うーん、今のところはまだ考えてないかな」


「今のところはってことは後々考えてるって感じ?」


「まあ、そうなるかなー」


 少し曖昧な返事だったけど、河合さんは後々か。僕だったら稼げたらすぐに会社を辞める自信はある。

 実際今手元に金貨20枚ある。金貨と言うだけあるなら1枚で十分な価値があるだろう。例えば、金貨1枚1万円として考えても充分な生活費になるだろう。


「まあ、換金してみたらわかるよ。あ、それと、ちなみに私が2か月で金貨20枚貯めたって言ったけど、それはダンジョンに潜り始めてから2か月って事じゃ無いからね。20枚貯めるのに頑張って2か月かかったってことだから。今はもうちょっと早く貯まるけど」


「そうなの?」


「そうなの。奥山君はポーションあまり使わないからピンとこないかもしれないけど、ポーションは毎回使う消耗品で特にMPポーションをよく使うけど、それだけで金額は馬鹿にならないからね」


「……そう言われたら、そうか。なるほどな……」


 やりくりして貯まる金額がそうなるのか。そう考えたらポーション使うのが勿体ないって思うよな。

 だからみんなより高く売れるアイテムを手に入れるために先に進もうとするんだろうけど。


「それも含めて稼ぐのは大変だけど、奥山君はなー。今の時点でこれだからもっと簡単に稼ぐんだろなー。もしかしてダンジョンが天職なんじゃない?」


「天職かー。なるほど……」


 人には天職というものがあると聞く。これが僕の天職なら……うん、うれしい。


「まっ、とにかく換金してみてたらわかるよ」


「そうだね。ありがと。行ってみたらわかるか」


 そこでふと思った。なぜかわからないけど、ダンジョンの中では金貨1枚が1万円として考えていた。だから20枚で20万円ほどだと。

 でも、その考えは違うんじゃないか? 金貨1枚あたり10gと聞いている。実際の今の金の相場は純金1gあたり14000円ぐらいだから、下手したら金貨1枚で14万円ぐらいか? 20枚なら280万円!? いやいや、それなら一瞬で金持ちになってしまう。そんなに稼げるなら河合さんも仕事辞めてるだろうし、小百合さん達もかなりいい暮らしができているはずだ。


 いや、小百合さん達は元の仕事を辞めてダンジョン攻略を仕事にしているんだから、かなり良い暮らしをしているのかも?


 だったら河合さんのさっきの言葉の意味は?


 ……うん。とにかく換金すればわかる事だ。


「よし。早く向かおう」


「そうだねー」


 そして少し速足で僕達はダンジョンの出口に向かって歩いて行った。







 いつも通り水に浮かんでいるようなふわりとした感覚に包まれてから僕はダンジョンから出た。


 それと同時にいつも通りの倦怠感が押し寄せてくる。


 いや、今日はいつも以上に体が重く感じる。3日間連続でダンジョンの中に居続けた事で、実際の身体との間隔がズレ過ぎているのだろう。

 海で数時間泳いでから陸に上がった時の間隔に似ているけど、今日はそんなもんじゃない。いつも通りならすぐ慣れるけど、ちょっと今日は慣れるのに時間がかかりそうだ。


 そう思いながらためため息を吐いていると僕の後に出て来た河合さんに肩を叩かれる。


「何してるの? こっちだよ」


「う、うん」


 河合さんに促される様に後について行く。小百合さん達はその後をついて来ていた。


 ダンジョンの入り口と出口は同じ場所で、その周りには色々と施設が併設してある。

 その中の銀行の様な建物に僕達は入る。

 まあ、ほとんど銀行なんだけど、国が作ったダンジョンの金貨専用の換金施設らしい。


「いらっしゃいませ」


 中は銀行の様にカウンター受付があり、窓口に1人だけ女性従業員が待っていた。


「すみません。この人初めての換金なんで、諸々手続きいいですか?」


 河合さんが僕を連れて窓口の女性従業員に話しかける。


「はい。新規のお客様ですね。対応いたしますのでそちらのブースでお待ちしていただけますか?」


 その女性の指示通りに隣にある半個室のブースに向かい、椅子に座る。

 隣には河合さんが座り、小百合さん達は他から椅子を持ってきて座った。


 少しすると別の女性スタッフがやって来た。


「お待たせいたしました。新規の冒険者様ですね。皆様パーティメンバーですか?」


 新規の冒険者様って、現実でも聞くと凄い違和感があるな。しかも、銀行の制服を着た人が言うのはパワーワードに聞こえる。


「はい。そうです。えっと、新規の手続きは僕だけなんですけど……何か必要なものとかありますか?」


「大丈夫ですよ。手続き自体簡単なので。身分証明書と振込口座さえわかれば大丈夫です。あと、手続き終了後に換金されますよね?」


「あ、はい。お願いします」


 少し簡単に話した後、淡々と手続きが行われた。

 手続きは簡単で女性スタッフが持ってきた書類に記入していくだけだ。氏名、生年月日、住所、電話番号、それとダンジョンに初めて潜った日だった。あとは、換金したお金の振込先口座の設定だけだ。それぞれの書類に記入していく。


「はい。ありがとうございます。これで手続きは完了です。では、早速ですが換金される金貨をお見せ頂いてもよろしいですか?」


「わかりました。これでお願いします」


 ダンジョンから出てからすぐにポケットに入れていた金貨20枚を取り出し机に置かれたトレーに置いた。


「1、2、3……20枚ですね。承ります。では、本日は現金で持ち帰られますか? 次回からは振込のみになりますが、初回のみ現金でお渡しできます。一応、最初は皆様現金で持って帰られることが多いですが」


「あ、でしたら現金でお願いします」


「わかりました。では、すぐにお持ち致しますのでお待ちください」


 女性スタッフは立ち上がりブースから出ていく。


 その後姿を見送ってから気になった事を隣に座っていた河合さんに尋ねる。


「あれ? こういうのって先に金額教えて貰えるんじゃないの?」


「普通の貴金属買取店ならそうだけどね。ここでは扱ってるのがダンジョンの金貨だけだし。いざこの金額ですよ、って言う方がわくわくするからこういう演出にしてるんだって」


「へー。そうなんだ」


 そう言われるとわくわくする。というか、ドキドキする。


 そしてすぐに女性スタッフは戻ってきた。


「お待たせしました」


 その声に心臓が少し跳ねる。あの金貨20枚はいくらになったのか。安い場合と高い場合の金額が頭の中でぐるぐると回っていた。


 女性スタッフが椅子に座りお金が乗ったトレーを机にある金貨20枚のトレーの横に置いた。


 そして僕は衝撃を受けた。


「金貨20枚で、14万円です」


「……えっ? え、えっと……14万円ですか?」


 その金額に僕は驚いた声で繰り返す。


「はい、14万円です。初めて換金される方は驚かれますね。こんなに立派な金貨なのにって」


「そ、そうですよね……」


 その通りだ。たぶん今までの人と同じように驚いている。というか、落ち込んでいた。


 え? まじでこの値段? 普通、金貨10gだったら1枚10万するでしょ? というか、20枚で14万円だったら1枚……7000円? 1枚1万円でもない!? どういうこと!?


「では、説明いたしますね」


「あ、はい……」


 僕の感情を読み取ってなのか、女性スタッフが説明を始めた。


「金の換金金額は金の含有量によりますので、この金貨にはどれだけの金が使われているのかが換金の基本になります。一番最初にこのダンジョン金貨が流通した時に鑑定したのですが、その時の金の含有量と現在の含有量は変わっておりません。金の相場がこの数年で上がってきてますので金額の変化はありますが、それもこの金貨に対してはそこまで大きく影響しておりません。その為、ダンジョンができてからの金貨の価値はそこまで大きな変化はありません」


「あ、はい……」


「具体的な数字を言いますと、こちらの金貨の金の含有率は変わらず5%ほどになります。つまりこの金貨1枚に対して金の量は0.5グラムしかありません。なので、ほとんど入っていないと言っても過言ではないですね。一応メッキではなく中心に金が埋め込まれている形です。金色に光っているのはその様な加工を施されているようです」


「……はい」


 ショックすぎる。目の前の立派な金貨の金がたったの0.5グラムしかないのか。こんなに金ぴかに光ってるのに。


 一応隣に座っている河合さんに目を向ける。すると河合さんは「こんなもんだよ」と言いたげに頷いた。

 つまり、そう言う事なのだ。


「では、よろしければこちらにサインをお願いいたします」


「あ、はい……」


 ペンを渡されて書類にサインをする。その領収書の様な書類にはしっかり「ダンジョン金貨20枚。14万円」と記載されていた。


 換金した14万円を封筒に入れて渡される。


 まあ、14万円も十分な額なんだよ。1ヵ月の副業での14万円は凄いんだよ。


「あ、それと。ダンジョン金貨の換金は譲渡所得になりますので、年間の換金金額が50万円を超えましたら確定申告をお願いします。その時になりましたらこちらかもお声がけいたしますので」


「わかりました……」


「では、本日は以上となります。お疲れ様でした」


「……ありがとうございました」


 最後の一言でまだお金が減るのかと思いながら僕は席を立ち、とぼとぼと出口に向かった。



 換金所を出て僕は夜風に当たる。


「と言う事で、私が仕事を辞めない理由がわかった?」


「……うん。そう言う事かぁ……」


 僕はため息を吐く。


「俊くんでもみんなと同じ反応するのね」


 そりゃ僕も人間ですから同じ反応しますよ。というか、僕をなんだと思ってるんですか?


「まあ、みんな通る道だからそんなに落ち込むな。その落ち込みは最初だけだから」


「そうなんですか……」


 落ち込むのは仕方ないだろう。

 思った以上に金貨の価値が少なすぎるのだ。あれだけ命懸けでモンスターを倒して得た利益が想像の10分の1以下。まあ、14万円も大きい金額だけど、費用対効果を考えたら……。

 本当にダンジョンが好きじゃないとやっていけないな。


 思っているより稼げない。仕事にはできないってわけか。


「はぁ……」


 ため息が出た。


 ダンジョン攻略が楽しいから僕はダンジョンに潜るのは確実だけど、もう少し金貨の換金率が高ければもっと楽しかったのに。

 それに最後の確定申告が地味に痛い。


 そんな僕を見かねてなのか、大樹さんが僕の肩を叩き、笑った。


「そんな落ち込むな。よし、良い事言ってやろうか?」


「良いことですか……?」


「おう」


 そう言った大樹さんは小百合さんをちらっと見て話した。


「俺と小百合は今ダンジョンの外から通ってて、これを仕事にしてるよな」


「そうですね」


「他に仕事もせずにダンジョンだけで食っていけてる。それだけで意味わかるだろ?」


「ダンジョンだけで食っていけてる……あっ」


 そうだ。その通りだ。大樹さん達はダンジョンだけで食っていけてる。つまりは!


「稼げてる実績が目の前にいます!」


「そういうこと。別に金貨20枚しか稼げないってわけじゃないんだから。ダンジョンを進めは稼げるようになる。というか、35階層以降で1ヵ月行動してたら一般的なサラリーマンの稼ぎぐらいにはなるからな。俊は1ヵ月で1階層から36階層まで一気に上がって来たからそこまで利益になるドロップアイテムを手に入れてないだろ? それでも金貨20枚以上稼げてるのは凄いことだぞ。それにな、40階層や45階層を越えるともっと稼げるわけ」


「そですよね! そう言う事ですよね!」


「そう言うことだ。40階層付近でうだうだしててもそれなりのモンスターがいるから十分に稼げるわけだな」


 それなら十分に稼げる! 少なくとも金貨40枚稼げたら28万円。自分で福利厚生を考えないといけないけど、やっていける金額だ!


「河合さん! 稼げるって!」


「まあ、私も到達階層が38階層って言っても毎日潜ってるわけじゃないからね。週2回以下だったら副業ぐらいだよ。嘘はついてないでしょ?」


「うん。ついてない。でも、もっと良いように話してくれても良かったんだけど」


「そうだね。でも私の状況も現実だから。大樹さんか小百合さんからフォロー入ると思ってたし」


 でも河合さんの言う通り休みの日だけでは無理だ。毎日……少なくとも週5でダンジョンに入らないとしっかりは稼げないだろう。


 だったらどうして稼ぐようにしていくか……そんなことを考えようとしていたら、


「あともう一つ」


 指人差し指を立てて大樹さんが言った。


「金貨の上には聖金貨がある。上級冒険者にならないと知れないから俺もこそっと聞いただけだけど、それが通常の金貨の何倍の換金金額になる金貨なんだが……」


「……えっ!?」


 聖金貨!? そんなんあるの!?


「それを手に入れられたら儲けもんだろ?」


「そうですけど? それって……」


「上級冒険者になればそれを手に入れられるぐらい稼げるらしい」


 その言葉に自分の目がより輝きを取り戻した気がした。


「つまり、50階層を越えたらそれだけ稼げるようになれるって事だ」


 大樹さんの言葉に僕は新たな目標と希望が湧いてきたのだった。






完全歩合なので働けば(潜れば)働くほど(潜るほど)稼げるのがダンジョンの魅力ですよね。


それにしても、金貨って言ってもほぼ金じゃないとか詐欺ですね。一応、金貨の金以外の主な材質は銅です。

だったら『金』以外もダンジョンの外に持っていけるんじゃ? とも思いますが、『金貨』のみダンジョンの外に持っていけます。その中には後々出てくる予定の『聖金貨』も含まれます。

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