表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/150

45話-3「35階層と換金」



「強いんですか?」


「ジャイアントマンティス……強さで言うと普通のオーガぐらいだな」


 ここから見ただけでも大きいとわかるが、洞窟となっている出口と比較してたぶん体長1メートルぐらいだろう。そして、その両腕には30センチほどの巨大な鎌を持っている、茶色いカマキリだ。


「それも3体。他にもいたら考えるが、1種類だけだからまだましか。どうする?」


「そうね……1体だけ先制して倒せたら2対1に持ち込めるんだけど……私がいつも通り牽制するから俊くんが特攻してみる?」


「そうですね、強さがどれぐらいかわからないですけど、残り2体の注意を引き付けてもらえるならやります」


「わかった。じゃあ、5分休憩したら攻撃を開始するぞ。組み合わせは俊と小百合、俺と真由でいいな」


「「了解」」


 ジャイアントマンティスに対しての戦闘方法を決めた大樹さんに僕と小百合さんが返事をする。

 しかし、河合さんの声が聞こえない。


「真由どうした? それでいいか?」


「……ます……」


「ん?」


「……私が魔法で駆逐します」


「はぁっ?」


 最初聞こえなかった河合さんの言葉を聞き返した大樹さんがはっきり聞こえたその言葉に目を開く。そしてその先にいる河合さんの目が燃えるようにやる気に満ちていた。


「奥山君、魔力はまだ大丈夫だよね?」


「えっ……まあ、ここまで魔法は使ってないけど小ボス戦でほぼ使ったし。えっと、今のところは3分の1ぐらいは回復してるかな」


「じゃあ、大丈夫だね。私の魔力全部使って放つから」


「それって……」


「うん。前の合体魔法使うよ。あれはさっさと燃やし尽くすのがいい」


 そう言った河合さんの目が怖かった。


「5分経ったら、やるよ。奥山君」


 じっと目を見られる。昔グループで仕事をした時に見せた目だ。こういう時は従った方が効率がいいのは知っている。

 僕は今日のリーダーである大樹さんに確認を取る。


「大樹さん、いいですか?」


「俊が大丈夫ならいいけど、いけるか?」


「大丈夫です」


「じゃあ、やってみろ」


 このパターンは前にもあったけど。今回は河合さん主体で動くことになった。




 そして5分が過ぎた。


「奥山君、いくよ」


「了解!」


 そして魔力を練る。


「『壮大なる火炎の王よ。我に全てを燃やし尽くす一撃を貸し給え。放て。』」


 それに合わせて僕も魔法を構築する。心なしか少し早い気がするが、


「『フレイムバンナート』!」

「『ウィンド・ストーム』!」


 そして前回よりも盛大に炎の柱が立った。


 たぶん、河合さんの魔力量がかなり多かったんだろう、僕の少しの風の後押しで火炎旋風がごとく燃え上がった。

 魔力を打ち切り、燃え上がる炎を眺める。


 時々大きく弾ける音がする。たぶんジャイアントマンティスが弾けた音だろう。火に強い生き物などほとんどいないだろうが、モンスターは違う可能性はある。しかし、やはりモンスターでも昆虫系は火に弱かったらしい。モノの数分で炎の中に微かにだが光の粒が見えた。


 そして10分ほど炎を眺めてたら魔力が切れた様に徐々に収まっていって消えた。炎が消えた事を見計らって歩いて行くと、その場所には黒く燃えた地面とジャイアントマンティスのドロップアイテムが落ちていた。


「燃えてるの、思ったよりも長かった気がする」


「それだけ魔力込めたからね。威力重視で漏らさず撃破だよ」


 河合さんがすっきりした顔になっている。よほどストレスが溜まっていたのだろう。発散できて良かった。あの目はちょっと怖かったからな。


「河合さん、ドロップアイテムはどうする?」


 そう言いながら僕は落ちていたドロップアイテムを拾う。ドロップアイテムはジャイアントマンティスの外骨格と鎌か。これは防具でも武器にでも使えそうだな。


「いい。私受け取れないからいらない。奥山君貰っていいよ」


「まじで? こいつ倒したのほぼ河合さんだけど……」


 いらないと言った河合さんにどうしようかと思っていると小百合さんが話してくれた。


「前に攻略した時もまゆちゃんは昆虫系モンスターのドロップアイテムは私達に渡してたわね。徹底してるわ」


「俺達のルールでドロップアイテムはその場で分配して各自が持つことになるからな。持てなかったら持った奴の物だからな。遠慮しなくていいぞ」


「そうなんですね。わかりました。それなら遠慮なく。ありがとう、河合さん」


「私が持てないからいいよ。やっぱり見ただけでも鳥肌が……」


 どれだけ虫嫌いなんだよとツッコミたくなるが、我慢する。


 お礼を言ってアイテムを『ポーチ』にしまった。


「さて、じゃあ、36階層も攻略したし、帰りますか」


「そうね。時間も少し早いけど下手に進むと2階層連続だからね。帰りましょう」


「そうですね。今日は終了って事で」


「私も魔力が限界なので、帰りましょう」


 全員の了承を得て、36階層の攻略は終了した。







「あと2階層で私に追いつくね」


 ギルドについてシルクさんにアイテムなどを換金して貰っていたら河合さんがぽそりと呟いた。


「河合さん38階層だっけ? ほんとだな、あと少しだ」


 少し得意げに僕は笑顔を作ったが少し悔しそうに河合さんは笑う。


「はっきり言って奥山君には才能があると思う。たったの1ヵ月で私と同じ階層まで来るなんて私にはできない事だもん。でもね、なんと言うか、やっぱりこう簡単に攻略されたら悔しいなーって思う」


 その気持ちはわかる。このダンジョンでは僕がいい感じだから嫉妬を受ける側だけど、仕事で僕が積み上げたノウハウを1年目の新人に同じことをやられたらかなり悔しかった。

 まあ、この場ではわかるとか言ったら怒られるから黙ってるが。


「でも、まゆちゃんも半年ほどで38階層は早い方だと思うわよ。私達は49階層だから10階層の差よ」


「10階層って言っても41階層からがかなり厳しくなってくるんじゃないですか」


「それもそうだけどな。まあ、俺達がいるから49階層まではすぐに行けるぞ。一番大切なのは50階層を攻略することだ。こんな所でうだうだしてもらってたら困るからな。そこまでは俺達が引っ張っていく」


 と言いながら大樹さんが僕と河合さんを指さして言った。


「と言うかな、俺達は1年以上やって49階層だぞ。俺達に比べたら真由も十分才能あるからな」


「そうよ。まゆちゃん自信持っていいのよ。隣にいる奥山君がおかしいと思ったらいいのよ」


 えっ? 僕はおかしいんですか?


「そうですね……小百合さんの言う通りに考えます。奥山君ごめん。奥山君とは比べないようにするね」


「う、うん……?」


 なんかそう言われると釈然としない。おかしいんじゃなくて才能があるんだよね。才能が。


 そんな話をしながら戻ってきたシルクさんからお金を貰い今日の攻略は終了する。

 次回のパーティでの攻略は土曜日だ。前に話していた通りそれまでにダンジョンに来れるなら個人で行動するか河合さんと行動することになる。河合さんとなら会社で会った時にでも話せばいい。

 でも、平日に1回はダンジョンに来るだろうが、一人で色々と試したいこともあるし一人の時間を作ろう。


 そう考えていると河合さんが小百合さん達に何か話していた。


「あ、小百合さん、大樹さん」


「どうした?」


「えっと、言いにくいんですけど……37と38階層は私無しでお願いしてもいいですか?」


「ん? なんかあるのか?」


「いや、えっと……」


「あー、虫が嫌なのね。まあ、まゆちゃんは攻略してるから別にいいと思うけど。大樹どう?」


「まあ、別にいいんじゃないか? はっきり言って常にあの状態だったら居てもなーとも思うし」


「……ごめんなさい。本気で早くこの階層抜けたい気持ちが強くなるんで私がいない方がいいかと思います。私は39階層の入り口で待ってますので」


「わかった。そうするか。俊もいいだろ?」


「いいですよ」


 今日の最後の魔法を使えるなら河合さんが居てもらった方がいいけど、その前の攻略がダッシュだったからな。内心もう少しエリアを見てみたい気もあった。来週は通常通り探索したい。


「ありがとうございます。それでお願いします」


「了解。じゃあ帰るか」


「そうね。じゃあ、みんなお疲れ様」


 みんなが帰ろうとする中僕は少し用事を思い出す。


「お疲れ様です。あ、すみません。僕ちょっと用事あるんで先帰っててください」


「ん? なにかあるの?」


「えっと、お金の件なんで」


 そう断りを入れてカウンターにいるシルクさんの元にそそくさと向かう。


「シルクさんすみません」


「あれ? シュンさん、どうしました?」


「えっと、このギルドマネーから金貨20枚分換金して貰ってもいいですか?」


「金貨20枚分ですか? いいですけど……あっ! ふふっ。ダンジョンの外で換金するんですね?」


 そう。目的は金貨の換金だ。今まで貯めた金貨をやっとお金に変える時が来たのだ。


「その通りです。やっと貯まったんでこれぐらいならいいかと」


「大丈夫ですよ。すぐに交換しますね。ギルドカードいいですか?」


「はい」


 シルクさんにギルドカードを渡す。


「少しお待ちくださいね」


 そう言ってシルクさんは金貨を取りに奥に向かう。


「そっか、奥山君って換金まだだったんだね」


「初めてね。初々しいわ」


「懐かしいな。俺も初めて換金しようと思った時はどきどきしたな」


「あれ、みなさん帰らないんですか?」


 帰っていいって言ったのになぜか全員僕の後ろにいた。


「いや、金貨を換金するって聞こえたからな。気になってな」


「俊くんが初めて換金する反応を見たくて」


「なんですかそれ。人が換金する所なんて見ても面白くないでしょ?」


「いやー、初めての換金は面白いと思う。大体みんな同じ反応するからな」


「同じ反応ですか? どんな感じで?」


「それは実際にしてからの楽しみだな。ちなみにいくら換金するんだ?」


「えっ、言わないとだめですか?」


「いや、いいけど。大10枚か20枚だろ? 俺は20枚だったし」


「私は一気に30枚したわね」


 大体そんな感じなのか。まあ、一緒に攻略していたらどのアイテムを課金したかわかるし、均等分配してるから金額は把握できてるんだよな。まあいいか。


「20枚ですよ」


「20枚かー。奥山君初めて1ヵ月でってかなりペースが速いよ。私はそれだけ換金できる分用意するには2か月以上かかったし」


 まあ、早い方なんだろうな。最近自分のレベルが普通より上だって認識できて来たからな。上を見ればまだまだ自分より強い人はいるからここで甘んじないけど。


「シュンさんお待たせしました」


 するとシルクさんが金貨20枚を持って戻ってきた。大樹さん達にも見られてたらここでばれてたか。


「ありがとうございます」


「金貨の外での換金については私達は不干渉なのでどうするかもわかりませんので、マユさん達に聞いてくださいね。金貨自体はこのまま手で持ってダンジョンから出てもえれば持ち出せますので」


「わかりました」


 そうだよな、エルフはダンジョンの外に出ないからわからないよな。エルフたちを最初のダンジョンができた時以来は外で見た事がない。出られない制約か何かがあるのだろうか。

 しかし、金貨だけ持って出られる仕組みって、どうなってるんだろうか。


「うん。じゃあ私が教えてあげるよ」


 シルクさんの話を聞いていた河合さんがニコッと笑う。


「ありがとう」


「じゃあ、出よっか」


 そしてシルクさんに挨拶をして僕達はギルドを後にした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ