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45話-2「35階層と換金」



 ミノタウロスの足元から胴体に向けて這うように白く凍りだしだ魔力は腰を越えたあたりで止まった。


「……魔力が足りなかったか」


 その光景を見て剣を抜きながらミノタウロスに向かって走り出す。

 その間もミノタウロスは雄叫びを上げながら足を動かそうとするが、瞬時に氷は壊せない。

 それが最大のチャンスとなる。


「瞬動」


 その距離を一瞬で縮めると同時にミノタウロスの目線の高さまで飛び上がる。

 そして目一杯振り上げた剣から繰り出す一撃は、


「リア・スラッシュっ!!」


 白い軌跡を残しながら吸い込まれる様にミノタウロスの首めがけて振り下ろされ、一瞬にしてミノタウロスを光の粒に変えた。


「まずは1体!」


 地面に着地しながら叫ぶ。そして次の動作はバックステップ。

 滑る地面を気にしながら、その場から瞬時に離脱する。

 その瞬間、もう一体が持つ棍棒棒によってさっきまでいた場所が氷ごと粉砕された。


「グモォォォォッ!!」


 自分の相方が倒された事に怒りを見せながら縦横無尽に棍棒を振り回す。そのひと振り一振りが当たれば終わりだとわかる威力だ。振り下ろされる度に地面が破壊されている。


 しかしそれを回避し続ける。

 逃げる僕を追撃しながら振り回される棍棒によって今はこれ以上近づけない。3メートルを超える巨体の一歩は大袈裟に避ける僕の距離を瞬時に詰めてくる。

 かなり厄介だ。


 やはりさっきの1体は出会いがしら早々に隙を作り、全力で詰めたのが勝因だろう。しかし、全力で放った『リア・スラッシュ』によってSPは半分持っていかれている。

 魔力も半分を切っているし、さっきと同じようにすれば魔力は尽きる。でも、ぎりぎりまでポーションは使いたくない。

 だったら……。


 走りながら作り出すのは『ウォーターボール』。それを2つ展開する。『ファイアーボール』と一緒にこれも無詠唱で練習している。どちらかと言うとイメージは水の方がしやすかったので、扱いやすさもこっちの方が上だったりする。

 そしてミノタウロスの顔面に向かって放った。

 振り回される棍棒に当たらないように動かしながら2つの水球はミノタウロスの顔面まで到達する。


 そしてその瞬間に違う魔法を発動させた。


「『ウォータープリズン』!」


 2つの水球が合わさる様にしてミノタウロスの顔面を埋め尽くす。一瞬の呼吸の阻害にミノタウロスが取り乱したように動く。しかし、この魔法だけでは倒すことはできないのはわかっている。こいつなら窒息死する前に咆哮一発で終わる。

 しかしそれまでにできる、この一瞬の隙を生み出したかった。


「瞬動」


 スキルでミノタウロスの背後に回り、左手を前に構える。

 そして構築するのは雷の属性の魔法。


「『サンダー・ボルト』!」


 左手から放たれた雷の魔法は一直線にミノタウロスに向かう。そして弾けるようにミノタウロスの身体を這い、感電させた。

 その衝撃にミノタウロスが叫び声を上げる。


「これで倒せたらいいけど……」


 その場で苦しむように動いているミノタウロスを観察しながらMPポーションを飲む。


 どう見てもこれで倒せてはいない。耐久力はかなり高い。

 だから、魔力を練り上げる。さっきとは違い中途半端にならないように。全てを凍らせるつもりで。


「グ、グモォォォッ!!」


 感電が収まり、その原因を作った僕を探すために見渡す。そして、見つけた瞬間に雄叫びを上げた。


 しかし、それを合図に僕は魔法を発動した。

 昨日見た杏子さんの様に手を振り上げる。


「『アイスエイジ』!」


 その瞬間、一瞬にしてミノタウロスの全身が凍った。


 今の僕が出せる最大の魔力による魔法。


 それは前に杏子さんが見せてくれた様に一瞬にしてミノタウロスを含めてその周りが青白い氷の世界に変えた。


 それを見て呼吸を整えるように深く息を吐く。


「……やばいな。ここまで完璧に凍らせるために僕の魔力をほぼ全部使うのか。切り札かモンスターが大量の時の範囲殲滅魔法として今の所は考えるか。それか魔力を減らしてさっきみたいに足止めに……とにかく、魔力を増やし続けるしかないな」


 凍っているミノタウロスに向かって歩きながら考える。まだ光の粒となって消えていないそいつを見ながら。


「でも、まだ生きてるんかよこいつ……」


 光の粒になっていないと言う事はまだ生きていると言う事。今にも動き出しそうな威圧を放っているミノタウロスはやはりボスだと認識させられる。

 しかし、杏子さんの訓練を達成した僕にとっては一人で倒せる相手だったって事だ。


 そして剣を構える。


「ふぅ……」


 息を整え、ジャンプした。

 そして、


「リア・スラッシュ!」


 剣を横一閃に白い軌跡を残しながら振り抜き、目の前の高さに合ったミノタウロスの首を刎ねた。

 凍っているミノタウロスは断末魔も上げず、瞬時に光の粒となって消えた。


「35階層攻略完了」


 着地して剣を鞘に戻す。


 魔力が体に入ってくる感覚。その感覚に心地の良さを感じながら、いつもの様にレベルアップの音とアナウンスが脳内に流れていた。これで24レベル。杏子さんとの訓練でも上がったし、エリアが広くなっただけでも、31階層からの環境が変わった事による経験によりレベルアップもした。今回のレベルアップもミノタウロスに新しい魔法を使ってスムーズに討伐した事で大きく経験値を得られたのだろう。

 まだ河合さんのレベルには遠いが、少しずつ近づいてきた。駆け足でどんどん進んでいこう。


「今回も早かったわね」


「10分経ってないぞ? ソロではおかしいぐらいの速さだな」


「奥山君、お疲れ様ー」


 ボスを倒したことによって扉が開き、扉の外で待っていた3人が部屋の中に入ってきた。


「何ここ、寒っ! これって……この前杏子さんが見せてくれた魔法?」


「もう自分の魔法にしたの? すごいわね……」


「すげーな俊。これだったらミノタウロスも簡単だっただろ」


「えっ? いや、中々強かったですよ。ポーション飲みましたし」


「ポーション飲んだことが強さの基準って……。これはアレね。俊くん、今度時間があれば強化モンスターじゃなくていいから、どうやって倒すのか見せて貰ってもいい? 普通のモンスターとは違ってボスは特別だから。参考にしたいわ」


「それいいですね。奥山君、私も」


「じゃあ、俺も見せて貰おうかな」


「えっと、いいですよ」


 まあ、見せるならいいけど。でも僕よりも杏子さんの戦闘を見た方が勉強になると思う。というか、僕が杏子さんのボス戦を見たい。


「いいの? だったら、今からもう一回する?」


「えっ、今からですか!? ……MPとSPポーションを頂けるならしてもいいですけど」


「えっ、いや、冗談だったんだけど……できるんだ……」


 なぜか引かれた。

 いや、小百合さんが提案したんですけど?


「まあ、それは置いといて。俊、36階層には今日進むか? まだ昼だから時間的には進めるけど、ボスを倒したから疲れてるだろうし」


「そうですね……1時間ぐらい休憩挟んだら行けると思います。37階層以降は今日中に進むのは勘弁してほしいですけど」


「わかった。じゃあ、昼休憩挟んでから進むか。小百合も真由もそれでいいだろ?」


「うん、大丈夫よ」


「私もそれでいいです」


「じゃあ、そうするか。帰還ゲート前で休憩って事で向かうぞ」


「了解です」


 そして僕達は35階層の宝箱の中身を回収してから昼休憩に向う。


「あっ……次って36階層ですよね……いっ……」


 向かいながら河合さんがそう声を漏らしていたのは気になったが。







 36階層は34階層までと違って森の割合が9割ぐらいだ。草原が多い方が周りを見渡せて攻略スピードが速くなるが、森だと障害物が多すぎて思う通りに進めないこともある。


「36階層からどれだけ急いでも3時間では攻略できないから覚悟しといてくれ」


 そう言っていた大樹さんの言葉が耳に残っている。

 しかし、それよりもここに出てくるモンスターの方が少し厄介だった。


「大樹さんっ! さっさと進みましょうよっ! 私このエリア嫌です!」


「わかってるよ! 俺だって嫌だ! これでも全力で急いでるだろ!」


「小百合さん! 火魔法使っていいですかっ!」


「ダメよ! ここで使ったら進む道も逃げる道もなくなっちゃう可能性あるわよ! まゆちゃんもわかってるでしょ! ちょっと冷静になって!」


「わかってます! わかってますけど……っ! ひぃっ! む、虫は嫌なんですっ!」


 と、河合さんが爆発しそうな勢いで叫んでいた。


 36階層に潜ってから3時間は経っている。その間モンスターが出てくるたびに河合さんが叫んでいたので、少し面倒に思ってしまったけど……まあ、その気持ちもわかる。


 36階層に出てくるモンスターは相変わらずゴブリンやオークも出てくるが、比較的にと言うか8割方昆虫系モンスターだった。

 はっきり言って僕も虫は苦手だ。それもダンジョンの外で見る虫に比べて、ここの昆虫系モンスターは大きさが違う。最低でも1体の大きさが人の頭ぐらいあれば恐怖の対象だろう。


 特にその大きさの黒い悪魔が出た時は阿鼻叫喚だった。その巨体でカサカサ動かないでくれ。

 なので、はっきり言ってこの階層は体力よりも精神的に疲れた。


「とにかく、走り抜けましょうっ! この階層は2回も攻略したくなかったですっ!」


 と、河合さんがまともに機能しないので、モンスターとまともに戦わずに休憩も無しで走り続けた。

 そのお陰もあってか、


「真由、もう出口だぞ!」


 あと十数メートル走った所で森から抜けるだろう。


「はいっ! 森を抜けま……っ!!」


 一目散に森を出ようとする河合さんだったが、その寸前で急ブレーキをかけた。

 そして、すぐに木の陰に隠れる。


「どうした!」


「います!」


 叫んでいるのに声が小さい。それだけ河合さんでも警戒しているのだろう。僕達も木の陰に隠れる。

 森を出たらそこは36階層の出口だ。そして出口付近にはモンスターがいる事が多い。そしてこの階層も例外ではなく、モンスターが数体いた。


「あれは……『ジャイアントマンティス』か」


 ジャイアントマンティス。その名の通りの大きいカマキリが出口前を陣取っていた。






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