表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/150

45話-1「35階層と換金」



 朝目が覚めるとそこはいつも見る天井とは違った。


「……そっか、今日もダンジョンに泊まったんだな」


 昨日の今日だが、昨日とも違う天井なのでそんな事を言ってみたり。

 まあ、酔っていたから寝る時に天井なんか見ずに意識を失っていたんだけどな。


 もぞもぞと体を起こしベットの上で伸びをする。


「昨日は久しぶりに飲んだな」


 昨日はあの後3件ほど店を回りお酒を飲んだ。通常ならお酒はそこまで強くないんだけど、ダンジョンの中ではお酒に強くなっているようだ。これもレベルアップの恩恵なのか、ちょっと嬉しい。

 特に二日酔いが無いのが一番うれしい。

 まあ、ちなみに二日酔いはポーションで治るらしい。便利だな、ダンジョンは。


「えっと、時間は……まだ大丈夫だな。用意してすぐ下に降りるか」


 今日の朝食も河合さんに誘われていて、どこかカフェ的な所に連れて行ってもらえるらしい。

 そう少しワクワクしながらさっさと支度をして、部屋から出る。


 宿屋の受付には鍵を返すだけでいい。お金は先払いしているから、そこらへんは外と変わらない。


「おはよう河合さん」


「奥山君おはよー」


 すでにローブに身を包んだ河合さんがロビーで待っていた。


「じゃあ行こっか」


「はーい」


 宿屋を出て河合さんに連れてもらった所はカフェだ。

 そのカフェの建物は日本の喫茶店ではなくおしゃれなカフェって感じだ。テラス席があるだけでおしゃれと思うのは僕のレベルが低すぎるだろうが。


 店の中に入り、紅茶とバゲットのサンドイッチ的な物を頼む。こういう時は無難な物がいい。河合さんも似た物を頼んでたしそれでいいだろう。

 席は一旦外に出てテラス席に座る。


「ダンジョンの中って外じゃないのに太陽があるのって不思議だよね」


「不思議だな。初めて来た時にどういう原理なのか考えてみたたけど、魔法で片付いちゃうからもう考えないことにしてる」


「はははっ。そうだね。どう? こうやって外で食べるのも雰囲気いいでしょ?」


「うん。いい感じ」


 そんな話をしながら、ハムとレタス的な物が挟まれたバゲットを食べる。

 ん? ここはおいしいな。


 そんな僕の反応を見て河合さんが笑う。


「ここのお店の味は日本人が監修してるんだって。ラポールの姉妹店みたいな感じらしいよ」


「だから、おいしいのか」


 今思うとあの居酒屋ラポールがいつも賑わっているのはただ単に冒険者にとって味がいいからだろう。ダンジョンにずっと潜っていると日本人の味覚に合わせた味付けを望んでしまうのもわかる。

 だって2日しか経ってないけど、今でも普通に米が食いたくなっているし。


「あれ? 俊くんとまゆちゃん? こんな所で朝ごはん?」


 朝食を満喫していると通りから見知った声が聞こえた。


「あ、小百合さん。おはようございます」


「おはようございます」


「うん、おはよう」


 手を振りながら近づいてきたのは小百合さんだった。

 この前もギルドで一番に会ったのは小百合さんだったな。少しデジャブだ。


「小百合さんもどうしました? ギルドに行く道からは外れてますけど……?」


「え? ああ、私も朝食食べて来ない日はここで食べてるのよ。ここおいしいでしょ?」


「小百合さんもですか。私はまだ数回しか来てないので会わなかったかもですね」


「そうね。私も毎日来てるわけじゃないからね。注文してくるわ」


 そう言って、小百合さんが店内に入って行った。


「時間も早めに出てるから余裕あるし、小百合さんもいるし、ゆっくりする?」


「そうだな。小百合さんと一緒でいいんじゃない? 別に早く行ってもギルドで待ってるだけだし」


「だね」


 そう話しているうちに小百合さんもサンドイッチ的な物を持ってやって席に座る。


「30分もいないけど、朝の優雅な時間を楽しみましょうか」


 防具を付けていない状態の小百合さんを見ると、できるOLみたいなイメージだな。


「それで、昨日は楽しかった? まゆちゃんにダンジョンの中案内してもらったんでしょ?」


「そうですね。中々楽しかったですよ」


 そこから小百合さんも含めて30分ほど色々と話をして、朝の有意義なひと時を過ごした。





 34階層。31階層からは各階層に帰還ゲートがあるわけではなく、今回は35階層攻略までに帰還ゲートがないので、慎重かつ一気に攻略を進める事になる。

 34階層の攻略目安時間は5時間。初見であればモンスターやエリア探索をしながらになるのでそれぐらいかかるが、僕の場合は兼次さん達と合流することが先決なので大樹さん達の案内の元、3時間ほどで攻略する事になる。

 現行の階層は日によってや攻略者によってエリアの構成や出口が変わる事が無いので、大樹さん達の記憶通りに一直線に進めばそこまで大変ではない。ちなみに直近で河合さんの攻略も手伝っていたのでルートの記憶は鮮明らしい。


「33階層がちょっと訓練していたので時間がかかりましたけど、通常ならこのスピードで攻略できるんですよね」


 34階層はほぼ31階層と同じスピードで攻略できている。たぶん31階層を攻略した時よりも一直線に進むことに集中していたので早いかもしれない。


「でも、少し攻略の面白みは減ったかなって思うけどね」


「だよな。俺が攻略した時はもっとワクワクしたけど、その感覚を申し訳ないけど俊に味わってもらえないからなー」


「これでも十分わくわくしてますよ。楽しいですし」


 まあ、大樹さんの言う通りもう少しゆっくり攻略して景色やエリア探索を楽しみたかった気持ちはある。でも、先を求められている現状ではこの状態を受け入れる気持ちの方が強い。


 僕達は34階層の出口の中で話しをしながら休憩していた。

 この階層も33階層までと特に変わらず、エリアが広くなっただけだ。


「さて、休憩もこれぐらいにして、35階層の小ボスを攻略しようか」


 そう言って立ち上がった大樹さんが腕を伸ばす。


「今回も兼次さんから俊くん一人で攻略する様に言われてるんだけど、それでいい?」


 小百合さんが確認を取る様に聞く。


「兼次さんが言っているんでしたら大丈夫です。今回もレベルアップになるでしょうし」


「負けるって考えはなさそうね。じゃあ、行きましょうか」


「はい」


 そして4人で35階層の扉の前まで降りる。


「奥山君。一応、どんなモンスターか教えとこうか?」


「いや、いいよ。何が出るかわからない状態で対応する方が経験値の入りはいいはずだから」


 経験値はどれだけ自分がしっかり対応できるかで経験値量が大きくなると考えている。理由としては同じモンスターに対して新しいことをすると、レベルが上がるスピードが早かったからだ。つまり、ピンチの時に対応できた方が強くなれる。


「わかった。じゃあ、頑張って」


「行ってこい」


「俊くん、頑張ってね」


「行ってきます」


 3人に送られて35階層の扉を開く。

 ギギギっと音をたてながらゆっくりと開く重厚な扉。それが3分の1ほど開いた所で僕は一歩足を踏み入れる。そして、全身が部屋の中に入った瞬間に独りでに扉が閉まり、壁に掛けてあった数十個の松明に火が灯る。


 その瞬間、真上から威圧が振り注いだ。


「っ!!」


 それと同時に、上から巨大な人型のモンスターが2体降ってきた。

 地面に降りた瞬間、地響きが鳴り、地面が陥没したようにひび割れる。


 そして、


「「グモォォォォォッ!!」」


 2体の咆哮の様な雄叫びが響き渡った。

 咆哮による威圧が物理的な圧力となり風を生み出し髪を靡かせる。


「ミノタウロスが、2体……」


 それも確実に20階層のボスよりも一回り大きい。そして、その時よりも圧倒的な強者感がある演出。


「これが、小ボスかよ……」


 呟きながら握っていた剣を鞘に戻す。


 どう考えても30階層のボスよりも厄介だぞ。一回り大きいどころではない。全長3メートルは越えてそうなその巨体は明らかに20階層の時とは違う。

 片方が大きな斧で、もう片方がこん棒。それぞれの武器の一撃を食らえば一溜まりもないだろう。


 この2体をどう対処するか。

 瞬時に思考を巡らせる。とにかく牽制に魔法を使うのは必須。


 昨日の訓練を思い出し、魔力を練る。

 そして無詠唱で作り上げた『ファイアーボール』を4つ展開し、両手を前に出し、それを2体の顔面に向かって2つずつ撃ち出した。


「「グモォッ!」」


 ミノタウロスもその火球を打ち落とす様に武器を振り下ろすが、自由に動かせる火球には当たらない。当たる寸前のところで左右に分かれた二組の火球はまっすぐに振り下ろされた武器を回避してその勢いのまま2体のミノタウロスの顔面にぶち当たった。


「「グモォォォォォッ……ッ!?」」


 威力はそこまでないが、火の攻撃に少しひるんだようだ。その隙に僕は魔力を地面に這わせて動かす。

 やはり先手必勝だ。


「杏子さん、さっそく使わせてもらいますよ」


 その魔力は水属性となり、地面に霜を走らせたようにミノタウロスに向かって一直線に白く色付く。

 そして、


「凍れ! 『アイスエイジ』!」


 2体のミノタウロスを足元から凍らせた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ