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44話-1「杏子との合同攻略」



「やっぱり、わたしと一緒に攻略しようよっ」


 杏子さんが言ったその言葉にその場が静まり返る。


 ちょっと待って、杏子さん……今なんて言った?


 しかし、その空気に杏子さんが言ってはいけないことを悟ったかのようにハッとした顔に変わった。


「ごめんっ! 今のは無しで! なしっ! えっと、えっと……それぐらいしゅんしゅんに魅力があるってこと!」


 その言葉にもその場が静まるが、


「そ、そうですよね。流石に杏子さんでも堂々と引き抜きはしないですよね。奥山君はこのパーティに入ったばかりですし」


 杏子さんの言葉にいち早く反応した河合さんが苦笑いをしながら話す。

 すると、周りもそれに合わせるようにぽそぽそと話し始めた。


「そうですよね。姫宮さんも流石にこんな場所で引き抜きの話しませんよね」


「一瞬だけどビビったぞ。流石にないよな」


 そんな中僕は何も言えずにいる。

 というか、仲間の前で直接引き抜きの話が出たら固まるしかない。


 すると兼次さんが杏子さんをの名前を呼び、親指を後ろに指した。


「姫宮、ちょっといいか」


「……うん。わかった」


 そう言って兼次さんと共に少し離れた所に歩いて行った。


「あー、びっくりした。流石に姫宮さんがこの場で俊くんの引き抜きするとは思わなかったわ」


「いや、まじでビビったぞ。俺らの前で直接なんて、少し神経疑ったぞ」


「大樹さん……杏子さんもたぶん言うつもりはなかったんだと思います。あの言葉が出る前にかなり興奮していたのでそれが原因だと思いますし。そうじゃなければ、杏子さんがそこまで空気を読まない事言わないですし……」


「まあ、そうだろうな。でも、誰もいない所ならまだしも、リーダーもいる中で引き抜きはえぐい。最悪俺らを敵に回すぞ」


「でもまあ、私達を全員敵に回しても対応できるレベルって考えたらあの発言も納得できるわよ。姫宮さんとやり合えそうなのって兼次さんだけでしょ。私達兼次さんとレベルは似ていても技術に差があるし、私達個人では歯が立たないと思うわよ」


「個人ならな。3人でかかれば……いけなくないと俺は思うけどな。魔法使い相手になら使える手段はいくつかあるし……」


 大樹さんが少し物騒な事を言い始めた時、河合さんが止めに入る。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! そんな話しないでくださいよ! 杏子さんも戦う気はないですから! 最後に訂正していたでしょ? 落ち着いてくださいっ!」


 そう言われて大樹さんが頭を掻く。


「そうだな。ごめんな真由。ちょっと俺も頭に血が上ってたな。急にああ言われたら警戒するだろうし。でも、言いすぎたな」


「いや、まあ、私もかなり驚いたので仕方ないです。でも、少なくとも杏子さんも申し訳なさそうにしてましたし、大目に見てくださると助かります」


「まゆちゃんも大変だね。魔法の師匠が担当違いってちょっとフォローしにくいわよね」


「普通はそんな事思う事もないんですけどね。今回がちょっと……」


 僕はそんな河合さん達の話を聞きながら、と言うかほとんど聞かずに少し離れていた杏子さん達の声を頑張って盗み聞きしようとしていた。

 少し離れた所で二人が話しているのが微かだけど聞こえる。


「ごめんね、空気悪くしちゃったね」


「流石にあれはないわ。俊とダンジョン潜るだけやろ。話ちゃうで」


「うん。本当にごめん。わたしもあの場で言うつもりはなかったんだけどね……」


「そうやけどな、流石に言ったらあかん場はあるやろ」


「ごめんなさい。でも、これだけは言わせて。それだけしゅんしゅんが魅力的って事だから」


「それはわかってる」


「おじさんも気付いてると思うけど、しゅんしゅんって……」


 と、杏子さんが何か言いかけたところで、小百合さんに肩をゆすられた。


「俊くん! 聞いてる? あなたの話なんだけど?」


「え? あ、すみません。えっと……」


「奥山君、聞いてなかったの? はぁ……まあ、あの場で直接杏子さんに誘われたらそうなるよね。私ならそうなる自信あるし」


「そりゃそうよね。まあいいわ。とにかく、あの調子ならまた誘われることになると思うからしっかり考えててね。ってこと。わかった?」


「あ、はい。わかりました……」


 また誘われるから考えておけか……。このプレッシャーは断れって事だろうな。

 でも前も言ったけど、元々このパーティから抜ける気はないから断るつもりなんだけどな。


「で、小百合達、モンスターが来たみたいだぞ」


「わかったわ」


 声をかけられた僕達は大樹さんが指を指さす方向を見る。

 十体ほどのオークがこちらに向かって来ているのが見える。話し込んでいるうちに集まってきたようだ。


「じゃあ、倒しに行きましょうか。兼次さん達はまだ話しているみたいだけど」


「了解です」


 あの二人がどんな話をしていたか少し気になるが仕方ない。今は目の前のオークに集中するか。


 僕は剣を鞘から抜きながら向かって来ていたオークに向かい走る。


「俊、合わせろ!」


「了解です!」


 大樹さんが盾でオークの攻撃を受けた瞬間、そのオークの首を狙い強めの『スラッシュ』を放つ。


「次! 俊くん、右の狙って!」


 そう言った小百合さんの矢が右に迫っていたオークに刺さる。それを見て僕はそのオークに切りかかる。


 そして反対方向では河合さんの火の魔法が炸裂していた。


「俊くん! 漏れたオークに止め! 大樹も向かって!」


「はい!」


「おう!」


 燃えてるが倒しきれていないオークに止めを刺しに向かう。

 光に変わる瞬間を見ずに次のオークに向かう。


 そして残っていたオークを大樹さんとで片付ける。合計11体の向かって来ていたオークを全滅させた。


「お疲れ様です、大樹さん」


「おう。俊、やっぱいい動きしてるな」


 剣を鞘に閉まって大樹さんと合流する。


「俊くんお疲れ様。大樹もお疲れ」


「奥山君、やっぱり動き良いね。大樹さんとも連携できてたし、いい感じだったよ」


 そこに小百合さんと河合さんも合流する。


「ありがとうございます。僕の方こそ、指示も的確ですし、動きやすかったですよ」


 お礼を言いながら、4人で落ちていたドロップアイテムを拾う。


 しかし、この3人の余裕な感じ、やっぱりこの階層は楽なんだろうな。21レベルの僕にとってもパーティで挑めば楽だし。内心、杏子さんが言った通り自分一人でも大丈夫だと確信できている。


「さてアイテムも拾えたし、先に進もうか。まゆちゃん、申し訳ないけどあの二人を呼んで来てくれる?」


 小百合さんが指さす先にはまだ話していた兼次さんと杏子さんがいる。


「わかりました。呼んできます」


 そう言って河合さんが二人に向かって駆けて行った。


 それにしてもやっぱりあの二人がさっき何の話をしていたかが気になる。それとなく聞こうにも聞きにくい内容だろうし、あのまま聞き耳立てたかったなと思う。

 そう考えていると河合さんが二人を連れて戻ってきた。


「すまんすまん。少し話こんでたわ。先進もか。姫宮もええやろ」


「うん、大丈夫。まゆまゆごめんね、ありがと。じゃあ進もっか」


 そして32階層の残りを進んでいく。





 その後、無事に32階層を攻略して出口に到着した。


 前階層より少し早く3時間ほどで到着したのはたぶん兼次さんと杏子さんがいた事もあるだろう。少なくとも河合さんが杏子さんにいいところを見せようとして張り切っていた。

 しかし、今日もこれでダンジョンに7時間ほどいる事になるな。31階層で一旦切り上げていたから少し不完全燃焼になるかもと思っていたけど、31階層以降にかかる攻略時間が長いのが思っているより疲れた。


「じゃあ、どうしますか? 今日は2回目の攻略ですし、時間的にはもういい時間ですよね。戻りますか?」


 そう僕が提案すると、全員が「えっ?」という顔に変わる。

 そして河合さんが教えてくれる。


「そっか。奥山君31階層以降は初めてだった。えっとね、31階層以降は毎回帰還ゲートがあるわけじゃないよ」


「まじで? 毎回ないって事は、何階層ごとにあるの?」


「31階層からは、31、33、35、36、38、40階層の出口にあるよ。私も38階層までしか行けてないからその先はわからないけど、その先もそんな感じですよね?」


「そうね。41階層以降もそうなるわね。でもやっぱり進むにつれて攻略時間は長くなるわ」


「そうなんですね。って事は、33階層も攻略しないといけないって事ですか。あと3時間ほど」


 と言う事は、合計10時間ほどか。

 体力はレベルの恩恵でまだまだ動けるけど、精神的に疲れるな。


「これからは2階層毎攻略するのが通常になるからな。一回の攻略に時間がかかるけど、俊は俺らがいるから一直線に出口まで向かえるからな。ちょっとズルって思うかもしれないけど、合流するのが先決だと思ってくれ」


「それは大丈夫です。最短で向かいましょう」


「最短でかー。だったら、私がいる38階層まですぐ到達しそうだね」


 そう言って「ははは」と乾いた笑いをする河合さんの肩に杏子さんが手を置く。


「そんなまゆまゆにっ! 33階層はせっかくだからわたしとしゅんしゅんの三人で魔法戦闘の連携の練習をしながら攻略よっか!」


「いいんですか! ぜひ! 奥山君も嬉しいよね!」


「うん! それは願ったり叶ったりです!」


 魔法も教えてもらったし、それに加えて魔法戦闘も見せて貰えるのはかなり嬉しい。ここで盗めるモノは盗もう。


「じゃあ、俊くん達、行くわよ」


「了解です」


 そして小百合さんの声で僕達は33階層への階段を下りる。




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