43話-4「姫宮杏子」
それからも兼次さん続こうとしたが、一瞬兼次さん達の話が途切れた一瞬を狙って、横でじっと聞いていた杏子さんが話を中断させる。
「ねぇねぇ、わたしの質問が違う方向に行っちゃったけど、話を戻してもいいかな?」
「ああ、すまん、すまん。ええで」
「うん、えっとね……しゅんしゅん魔法でも何かしてるでしょ?」
「魔法でもですか?」
杏子さんが僕を見定める目をする。
「……しゅんしゅんって魔法も使うよね? ここまでの戦闘で魔法を全く使ってなかったから隠してるのかなーて思ってたけど、わたしの魔法を見たいって言ってたからはっきり聞いてもいい?」
「いいですよ。別に隠してたわけじゃないですし。ここまでの戦闘では魔法を使う役割じゃなかったですから」
「使う役割ねー……わかった。じゃあ、せっかくだしわたしの魔法を見せる前に少し魔法について話すね。魔法ってイメージが大切なのは知ってる?」
「はい、シルクさんが最初に言ってましたから。イメージが全ての認識で僕も魔法を使ってます」
その答えを聞いた杏子さんが驚いた表情をする。
「……その答えが来るとは思ってなかった。しゅんしゅんがメインに使うのが剣だから剣よりで少し魔法を使うだけってイメージだったけど、訂正するね」
すると、杏子さんが「はぁ」とため息をついた後、「じゃあ、しゅんしゅんの番だよ」と言いたげに僕に手をかざした。
「簡単には話す事が無くなったから、しゅんしゅんの魔法を見せて」
「えっ、話が聞けると思ったんですけど」
「たぶんしゅんしゅんとはしっかり魔法理論を話す方が楽しいと思うし、勉強になると思うよ。だから先に魔法を見せてくれたら話しやすくなるかなって」
魔法理論か。なるほど、面白そうだな。
「なるほど、わかりました。じゃあ、見せますね」
「ちなみに、一番威力が高い魔法でもいいかなぁ? 今日は2回目の攻略だから残ってる魔力で出せる魔法で良いけどね。それにしゅんしゅんの魔力が0になってもこのメンバーならモンスターも脅威じゃないから安心して見せてくれていいよ」
「わかりました。その代わり、杏子さんの高威力の魔法も見せてくださいね」
「わかってるよー」
杏子さんのその声と同時に僕は魔力を練り、魔法を構築する。
イメージは炎。そして31階層での河合さんと合わせた魔法を思い出す。
「じゃあ、いきます。『フレイム・ピラー』!」
発声と共に少し離れた場所に直径2メートルほどの炎の柱が立ち上がった。
そしてそれだけではなく、炎の柱が立ち上っている間に別の魔法も構築して放つ。
その魔法のイメージは風。
「『ウィンド・ストーム』!」
暴風の様な風が炎の柱にぶつかり上昇気流によって直径2メートルほどの炎の柱が直径5メートルほどに膨れ上がる。
「奥山君!? それさっき私と合わせた魔法じゃない!? えっ、自分一人でできちゃうの!?」
「あれとは全然違うよ。今ぶっつけでやったけど、どう見ても前の方が威力が高いし、持続時間だって全然短い。ほら、もう炎が弱まってる。あと数秒で終わるんじゃないかな?」
「いやいや、それでも似たような魔法を一人で作ってるってことだよ!? ちょっと、奥山君の魔法のイメージをしっかり聞きたいんだけど!」
詰め寄ってくる河合さんの圧力がいつもより強い。でも、これぐらいなら河合さんだって簡単にできるだろう。
そう言ってる合間に炎は小さくなり消えた。魔法で燃えている炎はダンジョンの外で燃えているのより、消えるのが早い。
すると、少し黙っていた杏子さんが口を開いた。
「……しゅんしゅんも短詠唱なんだね。すごいっ! 思った以上だよっ!」
と一瞬でテンションが上がっていた。
「うん! さっきはごめんねっ! しゅんしゅんの事見極めるみたいな態度出してごめんねっ! でもこのレベルなら見極めるとかの問題じゃないよっ! うん。すごい、すごいよしゅんしゅんっ!」
ハイテンションで飛び跳ねるように僕に近づいてくる杏子さん。
「杏子さんっ!? どうしたんですか!?」
それを制止する様に間にはいる河合さん。
「どうしたって、まゆまゆもわかるでしょ! こんなに魔法がしっかり構築できてるんだよ! 詠唱もなくて短詠唱での魔法は魔法への理解力が深くないとできないからねっ! すごいことなんだよ!」
「わかりますけど、興奮しすぎですよ!」
しかし河合さんの制止も虚しく杏子さんの興奮は冷めない。
「普通なら詠唱が必要で、2種類の魔法を合わせるとなると、時間がかかるから奇麗に交わらないの。でも短詠唱なら魔法の名前だけで済むから、事前に2つ分の魔力を練っていればタイミングよく合わせられるのっ! あー、嬉しいなぁ。わたしの周りにはここまで魔法を使える人いなかったからなー。あっ、ちなみに、しゅんしゅんって魔法はどうやって覚えてるの?」
「えっと、大体は自分で考えて試してます。既存の魔法だったら、自分で作ったと思っても完成したら自動的に魔法の名前がわかるので」
「わぁー、わたしと一緒だぁ。ねぇねぇ、しゅんしゅん。剣士辞めて魔法一本にしない? 絶対しゅんしゅんには魔法の方が合ってるからっ。ぜったい楽しいよ!」
「そうですかねー……」
そう言われても剣も使って魔法も使う方が絶対かっこいいから、剣を辞める事は無い。というか、剣と魔法の両方を使いたいからこのスタイルにしているんだけど。
「魔法の魅力をもっと伝えたら魔法だけに集中できるかな?」
「魔法だけは無理ですよ。せっかく剣と魔法が使えるんですから、両方使わないと」
「むー。魔法だけの方がもっと効率的に強くなれると思うんだけどなぁー。……あっ! じゃあ丁度いいから、わたしの魔法も見せるねっ!」
そう言って振り返った杏子さんの先にいつの間にか数体のオークが向かって来ていた。
「魔法ってイメージできて、その通りに魔力を動かせればできるから、一度見た魔法は想像しやすいよね。今回はわたしからのプレゼントって事で広範囲の魔法を見せてあげるねっ。しゅんしゅんの得意な属性は?」
「属性ですか? どれも均等に伸ばしてきてるんですけど、最初の適正は水でした」
「じゃあ水だね。それに派生する氷をイメージしてみよっか」
そして杏子さんの魔力が動く。
杏子さんの周りを渦巻くように魔力が流れ、イメージする属性に変化する。
「魔法は一度作り上げたり、覚えることで、その魔法を簡単にイメージできれば短詠唱……いわゆる魔法の名前を発声するだけで発動できる。でも上級の魔法になればイメージが複雑になるから、決まった詠唱をしないと発動しない事が多いんだよね」
説明している間に杏子さんの周りにあった水が薄く地面を這うようにしてオーク達に向かって行く。
「でも上級魔法も、複雑だけど具体的なイメージができれば短詠唱だけでも発動する。それもイメージが強ければ強い程、威力を強くしてね」
そして準備ができた様に杏子さんが笑った。
「だからこんな風にできるんだよ。『アイスエイジ』っ!」
上に腕を振った瞬間、十数体居たオークが全て凍った。
一瞬にしてオークの周りごとその場が氷河だと思えるほどに気温が下がり、景色が変わった。
「す、すご……」
「やばい……。杏子さん凄すぎです……」
僕も河合さんも全てを凍らせた魔法を見て声をこぼす。
後ろにいた大樹さん達も同じように驚いている。
「これが、中級冒険者のトップの魔導士の実力か……」
「魔法って、こんなにきれいなのね……」
「50階層をソロで突破するんはこのレベルなんか。魔法でこの威力が通常なら、剣と盾なら……ああすべきやろか……」
そして満足そうな笑顔で振り向く杏子さん。
「どう、しゅんしゅん? この階層だからここまできれいに凍ったけど。魔法ってすっごく奇麗で壮大でかっこよくて、凄いでしょ?」
「そうですね、凄いです」
僕もかなり興奮している。杏子さんの魔法を見て、ボキャブラリーが無いがその言葉が一番しっくりくる。魔法はとにかく凄い。
今まで自分が使っていた魔法はまだ序の口。31階層で河合さんと合わせて作った魔法も良かったけど、一人で発動した杏子さんのこの魔法も凄い。それだけ僕に衝撃を与えている。
その興奮も束の間、杏子さんが俯きながら僕の方に歩いてくる。
「……でも、これを言ったらやっぱりだめだよね。でも、言わないと伝わらないし……うん、言おっか」
とブツブツとつぶやきながら僕の前に立った。
「だからね、しゅんしゅん……」
そして杏子さんが顔を上げる。
その顔はなぜか僕と同じように興奮した様に少し赤らんでいて、
「やっぱり、わたしと一緒に攻略しようよっ!」
はっきりとそう言った。