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43話-3「姫宮杏子」



 その後、杏子さんと兼次さんとでダンジョン攻略について数分話したのち、別室を出てみんなと合流した。


「あ、俊くん終わったの?」


「お疲れ、俊」


 僕が最初に戻ってきたので、小百合さんと大樹さんが椅子から立ち上がり、僕の方に来ようとして少し驚いた顔をした。


「あれ、兼次さんもいたんですね?」


「おう、お疲れさん」


「兼次さん、お疲れさまです」


 僕の後ろから出て来た兼次さんを見た二人が挨拶をする。

 少し驚いている所を見ると、この二人も兼次さんがいる事は知らなかったようだ。


 そして最後に出て来た杏子さんを見て河合さんが声をあげた。


「あ、杏子さん! お疲れ様です!」


「まゆまゆー! そっか、まゆまゆも同じパーティなんだね! 今日はよろしくねっ!」


「はい! よろしくお願いします! ……って、どういうことですか?」


 急によろしくと言われた河合さんが困惑する。


「えー、どういうことだと思うー?」


「えっと……」


 急に振られた質問に悩みながら河合さんが僕の顔を見て、「あっ」と声をあげた。


「これからどこか行くんですか? 攻略しに行くとか?」


「うん! 正解! 今からしゅんしゅん達とダンジョン攻略に行くんだよ? まゆまゆも来るでしょ?」


「杏子さんとですかっ!? 行きます! ぜひ行かせてください!」


 その言葉にテンションが上がる河合さん。杏子さんを見て一気にテンションが変わるのは本当に師事しているのだろう。


 そして杏子さんが小百合さんと大樹さんも見て尋ねる。


「そっちの二人も来るでしょ? えっと……?」


「初めまして、宮城小百合と言います。姫宮杏子さんですよね。噂はかねがね聞いてます。ぜひ私もご一緒にさせてください」


「俺も初めましてだな。佐野大樹だ。よろしく」


「うん。よろしく。小百合さんと大樹さんね」


 小百合さんも大樹さんも今日一緒に攻略するとは聞いてなかったのにすぐに話を合わせていた。

 少なくとも自分より強い人と行動することは勉強になるから、こういうチャンスはものにするのだろう。


「よし、今のやりとりでこれからの事が分かったやろ。早速やけど、32階層と33階層攻略についてこの6人で話あおか」


「「了解です」」


 兼次さんの言葉に各自頷き、大樹さんが隣のテーブルも持ってきて6人で話し合える状態にする。


「メインで動くのはもちろん俊やけど、それをバックアップする形で小百合達3人が動く今までやって来たことと同じやな。俊とは1週間ぶりやけど、一応4人で動いてるところを外から見たいと思ってるし、まずは4人でな。やから、俺と姫宮はまずは後ろで見学やな」


「うん。そのあと、わたしはしゅんしゅんに魔法を見せる約束してるから、何体かモンスターを倒す予定だよ。まゆまゆもいるし、少し魔法について教えてあげるね」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 河合さんがテンション高く声を上げる。


「じゃあ、それを前提として32階層の攻略の話を進めよか」


 そして簡単にだが、32階層攻略の話が始まった。





 32階層。そこは31階層と変わらずに草原と森で構成されている。

 出てくるモンスターも変わらず、31階層と同じように29階層までとそう変わらない延長線上の様なエリア。その代わり違うとすれば探索エリアの広さだけである。


「俊くん最後お願い!」


「了解です!」


 小百合さんの声を合図に最後のホブゴブリンを剣で斬り倒す。光の粒となったホブゴブリンを見送って剣を鞘に納めた。


「中々ええ感じの連携やな。俺いいひんくても十分回るやん」


「まあね。俊くんとはまだ数時間しか潜ってないけど、俊くんが良い動きするからね」


「それに俺も兼次さんほどじゃないけどタンク上手くできてると思うからな」


「ですね。大樹さんはうちの二大タンクですからね。4人パーティでも十分すぎる安定感ですよ。ね、奥山君」


「そうだね。僕ずっと一人で潜っていたから思いましたけど、安定したタンクがいるとアタッカーは凄く動きやすいですね。攻撃がかなりしやすいです」


 兼次さんに褒められそれぞれが意見を言い出す。


「で、姫宮。どうや?」


 と、後ろで僕達の戦闘を見ていた杏子さんに兼次さんが話を振った。


「うん。悪くないと思うよ。わたしもソロだからパーティでの戦闘はあまりわからないけど、安定してるってのはわかったよ。それも、おじさんの指導の成果なんだってわかる」


 杏子さんが僕達の戦闘を見てそう感想を言う。しかし、その言葉にもう一言付け足した。


「この階層がみんなの適正より低いから余裕だね。だから全部わかるわけじゃないけど……しゅんしゅんって今21レベルだよね?」


「はい、そうですけど……?」


 急に僕のレベルについて言われて疑問符が浮かぶ。


「普通32階層のソロ適正レベルは27レベル以上。パーティでの適正なら階層とレベル差10なら十分に対応できるけど、しゅんしゅんって、今余裕だよね?」


「えっ? まぁ、そうですね。大樹さん達がいるのでかなり動きやすいですからね。これだけ動きやすいとレベル差があっても十分対応できますよ。それにレベル差も10ですから」


「そうじゃない。しゅんしゅん一人でも余裕だよね? ってこと」


 その言葉に僕の心臓が一瞬激しく鳴った。


 そして杏子さんが真剣な口調に変わる。


「はっきり言って、わたしが見くびってた。流石『虐殺のオーガ』を初見で倒しただけあるよ。動きが同じ21レベルの人と違う。それに、攻撃が普通そこまで強くない。その剣ってただの鋼の剣だと思うんだけど」


「そうですね、ただの鋼の剣です」


「だよね。わたしは魔導士だからはっきりとはわからないけど、通常の威力とは違うって思う。普通しゅんしゅんと同じレベルの冒険者は大体29階層までにいて、30階層をどう抜けるかを考えている人が多いんだよね。どういう風にしているかはわからないけど、その冒険者と比べても明らかに違う」


 そう指摘されて周りを見る。


 すると大樹さん達も「そうか」と言いたげに僕の事を見てた。


「確かに、俊は21レベルだったよな。それにしては攻撃の威力が高いのは確かだな。ステータスの恩恵を受けてもホブゴブリンを一撃では斬り倒せないよな」


「前にも色々と聞かないとねって話してたけど、魔法だけじゃなくて剣もそうなのね」


「俊、ちなみに何をしてるか聞いて良いか? 無理にとは言わないけど」


 そういう大樹さんが真剣な顔をする。


 これは自分で編み出したわけだから別に言う必要もないのかもしれない。まあ、気付く人なら気づくだろうし言ってもいいんだろうけど。


「『スラッシュ』やろ?」


 と、僕が言うかどうか悩んでいる横で兼次さんがそう言った。


「えっ『スラッシュ』? レベル21の時点で?」


 兼次さんの言葉に大樹さんが戸惑うように言った。

 しかし、兼次さんの言葉と大樹さんの反応に少しショックを受ける。今の反応は『スラッシュ』の常時使用は普通の事なんだと言う事だ。


「そうやろ、俊?」


「……そうですね。『スラッシュ』の常時使用です。やっぱり普通の事なんですね」


「いや、普通ちゃうで。大樹が驚いている事がその証拠やけど、通常やったら中級冒険者になってから覚え始める事なんやわ」


「中級冒険者からですか……」


「例えば通常の『スラッシュ』がSPを10使うとしたら、常時使用の『スラッシュ』はSPを5ぐらいにして抑える。それでただ単に剣で攻撃するよりも強い威力が出せる。でも『スラッシュ』を使うよりかは威力が劣るけど回数出せる。それを中級になってモンスターの防御力が上がって苦戦し始めてから訓練するんやけどな。それを俊はすでに覚えてるって事や」


 なるほど。すでに僕はそれをマスターしていたと言う事か。

 でも普通に30階層までのモンスターも鋼の剣では一撃で倒すことが難しいから、そうしないとモンスターを何度も切りつける事になる。そうなれば武器の消耗も激しくなるし、みんなしてることだと思っていた。


「俊のその剣っていつから使ってるやつや? 防具を新調したってのは見たらわかるけど、武器を新調してるって聞いてないんやけど」


「えっと、もうそろそろ変え時かと思ってましたけど、プレステージで宝箱で出てからまだ変えてないですね」


 その言葉に周りから「えっ!?」って声が聞こえる。河合さんに至っては「プレステージで宝箱ってあったの!?」と驚いている。


「やろ。俊はダンジョン1階層から32階層まで武器を全く変えてへん。普通やったら初めて1か月で変える事があんま無いから気にしいひんかったけど、階層が30階層を越えてたら普通2回は武器を新調する事になるんやわ」


「えっ、ほんとですか……!?」


「ほんまや、ほんま。大樹もそうやったやろ?」


「そうだな。中級に上がるまでに2回。そこから今で3回。5回は変えてる」


「そうなんですね……」


 その言葉に驚きを隠せない。

 今の時点であまり武器やアイテムの消耗が少ないから、モンスターを倒して手に入れたアイテムの換金分や報酬はほとんど減っていない。ポーションを少し補充したぐらいだから8割は使ってない計算になる。ほぼ丸々利益だ。

 だから稼げると思ってたんだけど。


「それを加味したら俊が『スラッシュ』を常時使用してるって事はわかるわけや。大樹ももうちょっと観察したらわかるはずやで」


「ですね。気つけます」


「って事が、俊の攻撃力が高い理由やろな。それ以外は何かやってるか?」


「そうですね。他に何か攻撃時にしてるって事はないですね。とにかく、モンスターは一撃か二撃で倒せるように威力を調整してます」


「それが、これから必要な条件になってくることやからな。まあ、俺は俊と初めて戦った時に気付いてたけどな」


「そうなんですね」


 だったら先に言ってくれたらよかったのに。自分だけのオリジナルと思って少し恥ずかしかったんですけど。

 そう思いながらも兼次さん達の話を聞いていた。




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