10話「ゼロ階層」
緑の光が完全に僕の傷を治してくれる。見える傷は綺麗に消え、折れていた左腕は繋がっている。痛みは感じない。完全回復だ。
「シルクさん。ありがとうございます!」
「いえいえ、これが仕事ですから」
はっきり言ってここまで綺麗に治るとは思わなかった。魔法って予想以上に凄いと感じた。
「じゃあ傷も治ったことですし、この部屋から出られるんでっい、い、痛い」
全身に電気が走る様な刺激が駆け巡った。
え、全身が痛い。特に左腕が痛い。怪我というか、何かに引っ張られる様な痛みが全身を走る。
「痛い、痛い、いたい、いたい、いた……い……」
なんじゃこりゃ、回復したわけじゃないのか? さっきまでの痛みとは違うが、全身に走る痛みで体が固まる。
「あ、すみません。その痛みはですね、急に怪我が治ることは体の異常みたいなものなので、体がびっくりしてるんです。初めての経験なので皆さん驚かれますが、まあ言うと、筋肉痛みたいなものです」
「え? じ、じゃあ毎回怪我するとこんな感じで苦しむんですか?」
「いえ、何回か治すと体が慣れてきますので痛みは感じなくなるはずです。それまではそんな感じですが」
そうなんですか。まあ、怪我した時の痛みよりは我慢できる痛みだからいいか。切り傷だったところは痒い程度だし。
ん? 動けるけど少しふらつくな。流した血は完璧に戻らないのかな。
「改めて。回復ありがとうございます。一応動けますし、大丈夫です。で、ちなみにその二人は同僚ですか?」
お礼を言って、疑問だったことを質問をしてみる。
「あ、そうですね。じゃあ紹介しますね。水色の髪の姉さんがシュナさんです。私の先輩ですね。で、黒髪のちっさい子がサラちゃんです。この子は私と同い年です。今回はこの三人で冒険者様のお手伝いをさせていただいてます」
ふーん、なるほどね。ということはギルド的なモノが存在しているということだろう。ここを出ればわかることだな。
「シュナさんとサラさんですね。よろしくお願いします。僕は奥山俊といいます」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします」
二人から挨拶が返ってくる。どっちも個性があるな、覚えやすい。
「皆さんご挨拶できたようですし。ではオクヤマシュン様、ここを出ましょうか」
「そうですね。僕も動けますし、この部屋にいると息が詰まりますもんね」
そういい、立ち上がる。
「あ、あとシルクさん。僕の担当さんなんですよね」
「え、あ、はい。その通りです。どうしましたか?」
「でしたら、毎回フルネームじゃなくて、シュンでいいですよ。というかフルネームで呼ばれるの慣れてないんで」
ずっと思っていたことを口にする。
「あ、そうですか。でしたらシュン様でよろしいですか?」
「えーっと、様もなしで、いっそ呼び捨てでも構わないですよ」
様呼びはなんかむず痒い。
「あ、いえ呼び捨てはできませんので。ではシュンさんでいいですか」
「じゃあ、それでお願いします」
まあ、内心下呼びされるのもドキッとするのだが。一応これで気は楽になったな。
「では行きましょうか、って、あ。シュナさん、サラちゃん先行かないでくださいよー」
いつのまにか二人に置いていかれているシルク。そう叫びながらシルクは二人の後を追うようにこの部屋から出る。僕もそれに続いて扉に向かった。
少し長めの廊下を歩く。石造りの様で、何というかあの部屋を隠そうとしている感じがする。そう思いながら前を見ると出口が見えてくる。逆光で先があまり見えないが。
「さて、シュンさん。驚かないでくださいね」
そう言いシルクがくるっと回り、僕の方を向く。そして全てを見て下さいと言わんばかりに両手を広げた。
「ようこそ! ダンジョン『ライトロード』へ! そして改めて、ゼロ階層へようこそ!」
シルクはそう大きな声で言った。ライトロードそれがこのダンジョンの名前。直訳したら「軽い道」か。初心者用とか? それならあのオーガはやばかった。まあでも大阪ダンジョンじゃ無いんだよな、そりゃそうか。
そんなことよりも、その言葉につられるように前を見る。眩しい光が僕を誘っているように感じる。そのままシルクの横を通り抜け、外を見る。
「っ!!! まじか!? ここがあのゼロ階層なのか?」
目に映る景色に驚きの言葉が漏れる。それはそうだろう、見える景色が初めて見たゼロ階層と全く違うのだから。
目に映る光景は立派な町だった。色々な建物が建ち並び、人々が行き交っている光景が目に入ってくる。
初めて来たゼロ階層は何もないただの洞窟で、ただダンジョンへの入り口が遠くにあるなー、ぐらいの認識しかなかった。その記憶があるのにここがゼロ階層と言われても疑問に思うのも無理はないだろう。そう思ったところシルクの説明が入る。
「そうですよね! 皆さん初めはそう戸惑われます。しかしですね、本当にここがゼロ階層なんですよ!」
「そうなんだよ。初めての冒険者はね、この……」
「シュナさん! それは私の役目ですから、私が説明しますよ!
……すみません。で、初めての冒険者様はこのゼロ階層に認識阻害がかかっていまして、この景色が見れないようにされているんです。そうしないと、階層に潜らずここに滞在される方も多かったので」
シュナから補足が入ろうとしたところ、食い気味にシルクが被せた。
「少し奥を見てもらうと見えると思うのですが、ダンジョンの入り口があります。あそこから入られて来たのですよ」
そうシルクはまっすぐ奥の方を指差す。目を細めて見ると見えた。僕が通ったであろう入り口が。
うん、これは凄い。ここで住みたいと思っても仕方がないくらいだ。ここで生きるために大抵の物は揃うだろう。早く町を回りたいと思ってしまうほどに。
「そしてここからの景色は、始めに冒険者様に見せたい景色。チュートリアル攻略の特典と言うのはおこがましいですが、ここからの景色はほとんどの方が感激してくださいます」
なるほどな、この景色を見たらダンジョンの中だけど休憩できると一目でわかる。あの戦いの後にこの景色を見たらご褒美になるのもわかる。
しかし、ここは何かの建物の一部なのだろう。周りを見てもこの建物より高い建物がなさそうだ。そこまで言っても全体的に建物は1、2階建てぐらいの高さばかりだが。
この町の中にざっと見渡して100人、いや200人はいるだろう。ざっと見渡しただけでこの人数だ、見えない所にまだまだ人がいるはずだ。しかし、内心こんなにダンジョンにいるとは思っていなかった。
「すごい、色々あるな。見えるだけでも、武器屋、雑貨屋、飲食店に宿泊場所まであるし」
「そうですね。ここにはここで過ごせるように大体のものが揃っています。住むことはできませんが、滞在はできますよ」
住むことは出来ないが、滞在はできると。住んだら何か悪い事があるのだろうか。まあ、全員が全員住めば住む場所が無くなるか。
「そして、今いるこの建物が私たちの所属ギルドの建物となってます。基本的なものならここでも揃えられます!」
「ギルドか」
やはりそうだった。この三人を見た時点でギルドのようなものがあるだろうと思っていた。確実にここはダンジョンに潜るために用意されている場所なのだとわかる。冒険者のために作られている。
「では、もうそろそろ下へ行きましょう。ギルドのことやダンジョンについて説明させていただきますので」
そう言いながらシルクは出口もとい入り口に向う。戻ったところ先ほどいた部屋の隣ににあった扉を開ける。
いや、そこに扉があったのか。見てなかった。
その扉を開け階段を降りる。するとすぐに扉がある。その先にが。
「「「ようこそ冒険者ギルドへ!」」」
その言葉に向かえられエントランスに到着する。周りを見渡すとよくゲームで見るような感じだった。これを実際にみるとワクワクが込み上げてくる。
「では、シュナさん、サラちゃんありがとうございました」
「はーい、お疲れー」
「お疲れ様です。後はよろしくお願いします」
返事をして二人が奥の方へ去っていく。
あれ、あの二人何もしてないよな。ちょっかい出されただけなのだが。
「シルクさん、あの二人って」
「あー、二人はですね。もし、シュンさんが死にかけてたなら私の魔力だけでは助けられませんのでサポートとしてついてきてもらってます。実際シュンさんは骨折程度だったので私一人で大丈夫でしたのですが」
笑いながらシルクはそう言う。死にかけって、やっぱりそういう時もあるのだろうな。あのオーガとならあり得ただろう。てか、死んでいた可能性も……
「シュナさんはこのギルドで一番の回復魔導師で、ちぎれかけまでなら治す事は出来ますよ」
まじか、これはシュナさんとは仲良くしておいた方が良いな。
「それは置いておきまして、ギルドとダンジョンについて説明しながら回りましょうか」
そう言いシルクはギルドを回りながら説明を始めた。マニュアルでもあるのだろうか、中々理解しやすい話し方だった。
簡単なことで、まずダンジョンの攻略について、
初めはチュートリアルステージといってダンジョンに慣れてもらうために作られたステージ。冒険者を選別する役割もあり、観光客などはここで退場させる。後の階層は一人で攻略しても良いが、パーティを組んでそれぞれが同じ階層に潜ることになる。冒険者が多い時は1階層、2階層は凄いことになっているらしい。
それぞれきりの良い階層に帰還ゲートがありそこからゼロ階層に戻る事ができる。
勿論イメージ通りに階層の数字が大きくなる程得られる利益も大きくなる。ある一定の階層を攻略するとギルドからの報奨金もでるらしい。
他の事はダンジョンに潜ればわかることばかりと言うことで、初めのことしか伝えられなかった。後々気になった時やタイミングで説明をしてくれるらしい。まあ、かなり長くなりそうだから端折ったのだろうか。
ギルドについては、ギルドは冒険者のためにあり、ダンジョンへ潜ることへのサポートは全力でする。回復なども担当が行う。
クエストやイベント等行う時もあり、報酬がある。大抵は階層攻略のついでにクエストを受ける冒険者が多い。
ダンジョンでのモンスターのドロップアイテムはギルドだけでしか換金できない。
通貨は金貨、銀貨、銅貨。これは冒険者にわかりやすいように作られた物らしい。そして、外に持ち出せるのは金貨のみ。価値はそれぞれ10倍。イメージは銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円だと考えられる。そうなるとどれだけ小金を稼いでも持ち出せない。まとめてじゃないとダメだと言うことだ。通貨についてより詳しい事は聞けなかった。別に知らなくてもいいらしい。どう言うことだろう。
まだ色々あったが、重要なところがこんな感じだった。すぐにには覚えられないのでゆっくり覚えていこうと思う。
ちなみに持ち帰ったドロップアイテムは、魔玉(小)のかけら、ゴブリンの牙、オーガの角で合っており、金貨2枚と銅貨8枚となった。オーガの角が金貨2枚で一番高かった。合計で20800円ぐらい。中々結構な金額になった。この調子ならダンジョンで稼げると思うが、ビギナーズラックか?
で、宝箱でゲットした剣。あれはミスリルではなく鋼の剣だった。ちょっと残念だが、当たり前だろう。もらった最初の剣は鉄の剣だった。ゲームなどでは青銅の剣が主流なのだが。
「あー、この鉄の剣はどうしたら売れますか」
「その剣ですね。えーっと、ボロボロすぎてギルドでは引き取れないので町の方でお願いします」
そう言われると、企業の裏側が見えるな。じゃあついでに、
「もし良かったら町の方も案内していただけませんか?」
「もちろん、この後はそうさせていただくつもりです」
お、まじか。可愛い子に町案内してもられるとか、テンション上がるわ。
「では、説明も一旦この辺にしまして、外に出ましょうか」
「はい、行きましょう」
そしてシルクについて行く。少し外の景色が観れるとワクワクしながら、ギルドの正面玄関を出た。
◇
ぐるっと町を見て回った。しかし、ダンジョンの中にこんな空間があることに驚く。町の景色、とくに建物は簡素な作りでもなくしっかりとした建築物だ。コンクリートではないだろうが重厚感がある建物も多い。一番はやっぱりギルドだろう。
そんなことを思いながら、まあまあ町は回れた。武器屋も行ったし露店も回った。割と食べ物も美味いし。あと、カフェがある。この存在は大きい。この快適さなら、やばいここで生活していたいと思ってしまっている。
大分ダンジョンの中にいる気がする。ダンジョンの中にいると時間がわからないな、何時だろう。
「シルクさん、今何時かわかりますか?」
「時間ですね。えーっと、今は16時ですね。ちなみにダンジョンの中も日本時間と同じ動きをしてます。チュートリアルをクリアされたのが13時だったので割と時間が経ってますね」
「えっ! 16時ですか? そんなに時間が……ちょっとまてよ……」
こんなに時間が経っていると思っていなかった。急に込み上げて来る不安の感情。理由はいつもこの時間に営業を一旦終えるからだ。で、もうその時間になっていることが急に我に返った原因となった。
朝ダンジョンを目にした時は、今日一日ズル休みするつもりでダンジョンに入ったのだがやはり我に帰ると焦りが出てくる。このままなら明日が怖い。
「シュンさん大丈夫ですか? 何か顔色が悪いですが」
「あー、大丈夫です」
シルクさんが心配してくれているのに空返事で返す。しかし、これはどうしたものか、一応今日はこれで終わった方がいいのか。そうだな、そうしよう。
「えーっと、やっぱりお急ぎですか?」
「いや、大丈夫と言えば大丈夫なんだけど。あー、やっぱし急いでます」
まあ、こんな事で焦っている僕はあれだな、真面目すぎるな。
「わかりました。では今日はここで終わりにしましょう。他の案内は別に次回でも大丈夫ですので」
「本当ですか。なんかすみません」
「いえいえ、あのチュートリアルをクリアされた方ですもの、特別にさせていただきますよ」
そう言うって事は何かあのチュートリアルが特別だったみたいな。
「では最後に渡す物がありますので少しギルドに戻っていいですか?」
これから必要な物らしいのでギルドに戻る。そこまで急いでももう同じだろう。
◇
「すみません、お待たせしました。ではこれを渡させていただきますね」
ギルドの中で5分ほど待ち、シルクに手渡される。ん? これはカードか?
「これはギルドカードです。自分のステータスやジョブなど、後はギルドマネーを確認できます。あ、時計の機能も付いてますよ」
「っ? え? ギルドマネーですか」
ギルドカードはわかる、時計機能よりもギルドマネーって、金貨とかいらんやん。
「通常はギルドマネーでの支払いになりますが、ギルドカードができるまでの繋ぎとして最初は金貨等を渡させて頂きました。ダンジョン外に持ち出す時は金貨でないと無理ですので、その時もギルドで交換となります」
そういう事ですか、納得はできる。金しか持って出れないのなら、そうか。
「でも、町の方は金貨とか、使いますよね?」
「そうですね。使ってましたが、ギルドマネーも使える店もあります。後々全部ギルドマネーにするつもりですが、現状中々難しいところで、」
なるほど、このダンジョン内でも色々とあるんだな。まあ、全部が電子マネーになれば価値が変動してしまう可能性があるから金貨の方がいいかもしれないな。いや、この範囲だけならどっちも同じか。
「お疲れ様です。今日の説明はこれで終わりにしておきますね。ちなみに次回はいつ来られますか?」
「ありがとうございました。
って、え? その聞き方って、ダンジョンって予約制なんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが。今回私が担当になれたのは私が丁度空いていたからでして。一応他の冒険者様も任されていますので、時間を空けておこうと思いまして」
「あ、なるほど」
そりゃそうですよね、僕だけ見て貰っているわけじゃないですよね。町を散策している時もかなり声を掛けられてたし。
「そうですね、はっきりは分からないですが、次の土曜には来ます」
「えっ! 一週間も空くのですか? いえ……わかりました。その日は開けれるようにしておきます」
「あ、はい。お願いします」
こんなやり取りをしていたらなんかデートの約束してるみたいですね。いやいや、そんな事考えてなくて、早く戻らないと。
「ありがとうございます。では、僕はもうそろそろ戻らないと」
「そうですね。では出口までお送りします」
出口、つまり入ってきたダンジョンの入り口まで歩いていく。
歩きながらダンジョンでの出来事が色々と思い出される。ひっくるめて全て楽しかった思い出になる。特にモンスターを倒せた時は嬉しかった。そんな感傷に浸りながら出口に到着する。
出口の前に立つとまた異様な感覚に陥る。門のような建物は扉ではなく青い光で埋め尽くされている。吸い込まれるような、まさしくゲートと呼ぶに相応しいモノだ。
「シルクさん、色々とありがとうございました。またすぐに戻ってきますので、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございます。シュンさんは期待の新人ルーキーとして宣伝しておきますので。ギルドからも期待されてますので出来れば早めに戻ってきてくださいね」
おお、そこまで期待されてるなら悪くない気持ちだ。プレッシャーはあるが。しかし、やはりあのオーガを倒したのはすごい事だったのだろうか。
「では、失礼します」
名残惜しいが、お礼を言いゲートに向かう。内心、別にすぐに会社に戻る必要はないかもしれないが、この時間まで連絡無しはかなりやばいだろう。そんな事を考えるとかやっぱり真面目すぎるだろうか。
そんなどうでもいい事を考えながら、僕はダンジョンのゲートをくぐった。
◇
目の前を白い光が包む。
水の中に浮かんでいる様な感覚。
思考を置き去りにし、何かに身を委ねる様な感覚。
その感覚を言い表すなら、ほとんどの人間は覚えていない、母親のお腹にいたような、始まりの感覚。
◇
目を開き周りを見渡す。青年を追いかける事に集中していたのであまり覚えていないが、来た時と同じ光景だと思う。まだそこまで寒くない時期なので日は暮れていない。
服装はここに来た時のスーツ姿に戻っている。すぐにでも会社に行ける筈だが、今僕はダンジョンの入り口を背にして立ちつくしている。そこからまだ一歩も動いていない。会社に行きたくないのもあるが、それが原因ではないだろう。どっちかというと座り込みたいぐらいな怠さが全身を覆っている。一歩を踏み出しにくい。体が重い。
「すっげー疲れてる? いや、怠いだけか?」
ダンジョンで負った傷は回復して今は痛まない。痒いくらいだ。しかし、動きたくない。何というか、物理的に体が本当に重い。
ここは邪魔だろうか、無理やり動かし脇にそれる。一旦座ろう。
「多分あれか、ダンジョンで慣れていた身体の状態と今の状態は違うからか。やっぱりレベルアップの恩恵はすごいな」
レベルアップでの身体能力の上昇で軽かった体が急に重くなった。差が少しでも体は正直だ。でも、ここまで差があるとは魔素の存在は体に影響がある。体に悪くないかな。
そう思いながらも座り込む。まあ、人はいないから大丈夫だろう。
ピピピピピピ
「っうお! びびったぁー」
休憩しているところに着信音が鳴り響く。
「やべ、課長からだ。まじか」
このタイミングで掛かってくるとはやばいな。どうしよう、、、よし出るか。
「はい、奥山です」
『おい! 奥山! お前何してんねん! 電話何回かけたら出るんや! おい!』
ですよねー。怒られますよね。無断欠席ですからね。
「すみま……」
『お前どこいるんねん! ちゃうわ、どこいるか関係ないからとにかく会社来い! 今すぐ来い! わかったな!』
「でも、もうおそ……」
『時間なんか関係あるかボケ!』
その言葉で電話が切れた。
やべえ、ガチギレやん。笑える。普通これだけ連絡取れなかったら心配するやろ。
「はあ、これは行きたくないな。でも行かないとダメよな」
嫌な考えがぐるぐる回る。こうなるとわかっていたのにな。うわ、着信17件あるやん。30分毎に来てるし。
仕方ない。
力を入れ重い腰を上げる。今の体にも慣れて来たところだし、とにかく向かおう。
「あーあ、嫌だなー」
そんなため息を吐きながら重い体を引きずり、会社に向かった。
第1章、完結です。