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ドラゴンの駆除はブラックの薫り

作者: カワユキ


4月


「俺この仕事向いてない気がする。」

「・・・・・・」

「もっとこうクリエイトな感じの仕事の方があってると思うんだよ、どう思う。」


ハンター歴15年のおっさんが新人の私に質問してきた。


「田原さんふざけて無いでグリーンドラゴンの解体手伝って下さいよ。

狩ったの田原さんなんだから。」

「なぁ松田ちゃん、この業界ってさぁ後始末は新人に押し付け━もとい経験させるのが暗黙の決まりだったりするのよ。

と云う事でお疲れ様。」


そう言ってハンター協会の先輩はグリーンドラゴンの死体と私を残して定時に家路に帰って行った。


・・・私の名は松田今日子

この春ハンター専門学校を卒業したルーキーにして早々に就職間違っちゃったかも知れないと後悔している女の子だ。



5月


朝からの待ち伏せに飽きたのか近藤さんが話し掛けてきた。


「松田、ちょっと聞きたいんだけど?」

「近藤さん集中して下さい、獲物に気づかれたらどうするんですか。」


そんな私の忠告も聞かずに、このおっさんは話をしだした。


「今時の子って草食系って云うだろ、」

「はぁ?」

「だから松田も草食系なのかなって思って」


マジで死ねっ!

そう思った私は半ばキレながら答えた。


「はぁ?

ナニ言ってんですか?

私はバリバリの肉食系ですけど。」


この中年セクハラ親父はどうせこんな答えが欲しかったんだろ、

私の答えに満足したのか中年上司は笑って答えた。


「そっか、じゃあ後ろから迫ってくる肉食竜はヨロシク!

俺は少し先にいる草食竜を相手するから。」


そう言うと近藤さんは私を残して颯爽と前方の草食竜に向かって行った。


上司を見送る私の背後でグルルルルと唸り声が聞こえるんですけど・・・草食系万歳



6月


「雨が落ちてきたね。今回の狩はキノコの採種にして正解だったね。」


野村先輩は穏やかな表情で私に話し掛けて来た。

色々な先輩(バカ)達の下に着いたがこの先輩が一番まともだ。


「この先の小高くなっている場所を登れば、希少なキノコ類が採れます。

松田さんお任せしても宜しいですか?」


こうやって一声掛けてくれるこれが嬉しいんだよな。


「はい、任せて下さい。」


私は笑顔で答えた。


「なぁ聞いたか、野村の所の新人ハンターが寝てる大型龍の背中に登って貴重なキノコ類の採種に成功したらしいぜ。」

「はぁ〜そりゃ命知らずな新人だな、龍が目を覚ませば100%挽き肉確定だ。」


知らないハンター達の会話を耳にした私は遠い目をして呟いた。


「・・・野村お前もか。」



7月


雨季が終わり太陽が顔を出す頃になると我々ハンターはより忙しくなる。

各地に居た竜の移動が始まるからだ。


田原は聞いた。


「松田ちゃん大型龍の移動の監視と小型の竜の卵の駆除どっちが良い?」


近藤が答えた。


「松田は肉食女子だから駆除じゃね、」


野村は笑いながら頷いていた。


私はテメェらのいない部署なら何処でも構わないとの思いを込めて言った。


「今回は他の先輩方の下で勉強したいと思います。」


私の答えに3人は心配そうに答えた。


「他の奴等は後輩をゆっくりじっくり育てる気がないからな〜」

「あぁ、まったくだ新人を都合の良い盾ぐらいに思ってやがる。」

「松田さん、奴等は新人に平気で無茶をさせます、行くなとは言いませんが充分気を付けて下さいね。」


コイツらは私を心配そうに見ながら言いやがった。

定時に帰りたいだけで私に解体処理を押しつけて、

小型とは云え背後から迫り来る肉食竜を丸投げし、

挙げ句の果ては大型龍の背中に登らせての茸取り・・・


どの口でコイツらは喋ってんだか、キレそうになりながら私は笑顔で答えた。


「無理はしませんから安心して下さいね。」



私は協会事務所を説得して何とか隣の部隊の現場に潜り込んだ。


「やぁ君が松田君だね、私が新人教育担当の渡だ、ヤル気のある若者は大歓迎だ。

今日はゆっくり見学していきなさい。」


そう言うと渡教官は私を連れられて現場を見にいった。



「トカゲ共が突っ込んで来るぞ!」

「ナニやってんだ新人!」

「言われる前に前に出て止めろボケが!」

"ギャ〜腕が〜腕が〜"

「煩せぇ泣いてる暇があったら一匹でも多くのトカゲを殺せ!」

「左弾幕薄いぞ分かってるのか!」


1日の見学を終えて渡教官が笑顔で話し掛けて来た。


「松田、君も明日から一緒に頑張って行こう。」


渡教官の笑顔に私も笑顔で答えた。


「前の部隊に戻ります。」


無理しません。


8月


暑いむしろ痛い。

8月の暑さにジリジリと焼かれながら私は近藤先輩に文句を言った。


「何も砂漠地帯を通らなくても良いじゃ無いですか。」

「仕方ないだろ、行き先決めてるのは前を歩く群のボス龍なんだから。」

「クッソ〜ボスめ!」


私がイライラしていると田原先輩から注意がとんだ。


「ほらっ、ボ〜っとしてない!

ウンコに突っ込むぞ。」


前を見ると大型龍の尻尾が持ち上がりお尻から人の背丈ほどの糞が私の前方に落ちてきた。


"臭っ!"


私の悲鳴を無視して野村先輩は私に命令をしました。


「松田さん、うんこをトラックに積み込んで」


私が心底悲しそうな顔をしてると、先輩は真剣な顔で諭した。


「大型龍のうんちは高級肥料として高値で扱われるんだから嫌な顔しない、むしろ大型龍さんに感謝して拾いなさい。」


そう言うと野村先輩は私にシャベルを押し付けた。


「クッソ〜大型龍め〜」


9月


大型龍の移動が落ち着き私の体がウンコ臭く無くなった頃、会社から私に単独の依頼が来た。

仕事としては小型の竜が山から降りてきて町中のゴミ箱を漁ると云う物だ。

会社としては、この手の安い仕事は本来敬遠したい所だが、許認可の仕事であるハンター業界は役所には逆らえない。

結果として安い仕事は私の様な新人に廻される。


「松田ちゃん一人で大丈夫か?」

「松田、とにかく無理はするなよ、小型とは云え野性動物には代わりはないんだから。」

「基本ワナを使いなさい、間違っても正面に立って処理仕様としちゃ駄目ですよ。」


田原、近藤、野村の3馬鹿にが珍しく心配して来た。


「じゃあ誰か着いてきて下さいよ。」


私の問いに、


「ゴメンねその日は子供の発表会が、」

「お前ならヤれると信じてるぞ!」

「誰にも最初は在るものです。皆松田さんを信じてますよ。」


3馬鹿の暖かい言葉に送られ私は初めての狩に向かった。



3日後


「ハンター協会から派遣されました松田です。」

「あ〜悪いね、あれ地元の猟友会が駆除したから」

「・・・そうですか、では此方にサインと判子お願いします」

「はい、ご苦労様」

こうして私の最初の単独狩は終わった。



10月


秋に入ると私達ハンターは強制的に1つの依頼を受けさせられる。

竜の遡上である。

産卵の為に海から戻って来る海竜を待ち構えて捕獲する、秋の風物詩。

当然私も3馬鹿に連れられて強制参加させられていた。


「松田さん落ち着いて、」

「松田ちゃん、狙うのは首の急所一撃でね。」

「松田ァ、外すなよ、暴れられるとスゲー面倒だ。」


私達は3馬鹿の指示通り竜の喉元目掛け槍を突き付けました。

・・・外れました。


海竜は私の攻撃に畏れをなしたのかその場で暴れ出し腹に蓄えた卵を撒き散らした。


「おい、ハンターさん困るよ大事な売り物を!」


漁協の方の言葉に私達はひたすら頭を下げて謝った。

その後売り物にならなくなった

秋竜を格安で引き取り皆で食べた。


"旨い!"


偶にはこんな日もありだ。



11月


「取りこぼしがおきました。」


朝のミーティングにおいて田原先輩から報告を聞いた近藤先輩はマジかと呟き頭を抱えた。


野村先輩も苦虫を噛み潰した表情で訪ねた。


「場所と規模は?」


その問いに田原先輩は、書類をめくりながら説明をしだした。


「場所はS県K市、規模は不明。何処ぞのチームが新人に丸投げしたらしい。」

「その新人が見落としたか、」

「何でもかんでも新人に押し付けるから」


3人の会話を聞きながら、これは私の事を遠回しに言っているのかと思い質問した。


「あの、取りこぼしって何ですか?」


その言葉を聞いた近藤先輩が松田は知らなかったか、と聞き返して来た。

質問に質問で返すなと言いたい所だがここは黙って頷いた。


「夏に大型草食竜のウンコ拾いと卵の駆除どっちが良いか聞いたろ、あれで卵の駆除仕切れなかったヤツが孵化したんだ。」

「それって不味いんですか?」


私の質問に今度は田原先輩が答えた。


「数匹程度なら良いけど、大量発生となると最悪だね。」


田原先輩の答えに私が納得してない様子を見て野村先輩が噛み砕いて説明してくれた。


「松田さん、卵が孵化して子供が大量に生まれるとそれを狙って小型中型の肉食竜が集まってくる。

その集まった肉食竜を目指して今度は大型の肉食竜が集まる。

結果としてその周辺地域は封鎖され人の立ち入れない場所になる。」


この先輩を話を聞いた私は武者震いを感じながら言った。


「つまり今度の任務は大型肉食竜の討伐ですか?」


"スパーン"


聞き返した私の頭を田原先輩は書類で叩いた。


「馬鹿も休み休み言いなさい。」


田原先輩の言葉に続いて近藤先輩が私に言った。


「大型肉食竜の討伐なんてのは自衛隊の案件だろうが。

民間のハンターに許されてるのは中型の竜の処理迄だ。」


二人の言葉を継いで野村先輩が喋った。


「自衛隊出動何て事にならない為に僕ら民間のハンターが居るわけだろ。」

「つまり?」


私の問いに3人は声を合わせて言った。

「「「産まれた子供の竜を捕まえるんだよ」」」


講して数千匹に及ぶ子竜の捕獲業務が開始された。


「そっち行きましたよ!」

「網掻い潜ったぞ!」

「捕まえたかれ、急いでカゴ持ってこい!」


この数日近県のハンター総出で子竜の捕獲業務を行って要るが、とにかくコイツらチョロチョロとすばしっこい。


大きさは仔犬程度のなのに敏捷に走り回る。

正直もうほっときたい、しかし何故か3馬鹿を始めベテランのハンター達は脇目も振らずに作業に励んでいる。

私は休憩の合間に聞いてみた。


「何時もいい加減な皆さんが今回はえらく頑張りますね?」


私の問いに田原先輩が笑いながら答えた。


「松田ちゃん、コイツらは知らないが俺は何時も真面目だよ。」


その答えに近藤先輩は嫌そうな顔をしながら答えた。


「ハンターを長くやってると多かれ少なかれ今回みたいな案件で市や町が潰れる姿を見てるんだ。」


その答えに続けて野村先輩が話した。


「そして竜に荒らされて故郷を追われた人達は竜の絶滅を望む様になる。」

「ハンターは竜を滅ぼさない。俺達は竜と共に生きる。

だから松田ちゃん、もう一頑張りしようか。」


田原先輩はそう言いながら作業に戻って行った。



12月


2ヶ月に及ぶ業務によって殆どの子竜を捕獲出来た。

その間、中型の肉食竜が数匹現れたがそれも他のハンターによって処理された。


「それにしても農家の人達にとっては最悪ですよね。」

「そうだな、だが俺達の出来るのはここまでだ。」


近藤先輩は荒れ果てた畑を見ながら呟いた。


この市はこれから長い時間をかけての復興が始まる。

私と近藤先輩が畑を見ていると田原先輩が声をかけてきた。


「ほらっ出発するよ!」


田原先輩の声に振り向くと、そこには大型トラックに乗った田原先輩と野村先輩が待っていた。


「すいません、今行きます。」


私達がトラックに向かって足を向けると、"ガンッ"と何処からか石が飛んできてトラックのボディーに当たった。


「不味いですね、始まりましたよ。」

「松田ちゃん、早く乗って!」


二人の言葉を聞いて慌ててトラックに乗り込むと近藤先輩が声をかけた。


「いいぞ、出せ!」


近藤先輩の声に反応した田原先輩はトラックを走らせた。

そして走り出すトラックに向かって幾つもの石が投げつけられた。


「一体何なんですか!」


慌てる私に向かって野村先輩が寂しそうに話した。


「町の人達にすれば我々ハンター位しか八つ当たりする相手がいないんだよ。」

「だからって!」


私の悲鳴を押さえるように近藤先輩が話してきた。


「分かってるのさ、町の人達も、分かっちゃいるが人間どうにもならない時もある、だからな俺達はさっさと逃げるのさ。」


そんな先輩の言葉を聞いて落ち込んでる私にも何処からか石が投げつけられた。

私は投げつけられた石をサッと掴みとり投げてきた百姓に向かって全力で投げ返し、中指を立て怒鳴った。


「てめぇら、ナニ調子くれてんだボケが、やられっぱなしの人間ばかりじゃねぇぞコラッ!」

「松田ちゃんヤメテ〜!」

「松田ァ火に油を注ぐな!」

「ギャ〜農家の人達が鍬持って追いかけて来る〜!」


こうして私は人生初の始末書を書いた。

投石反対!




1月


長く厳しい戦いの後、今私の目の前には巨大肉食竜Tボーンレックスが横たわっている。


この肉食竜を倒すためどれ程多くの犠牲者が出た事か・・・3馬鹿(センパイ)達を筆頭に大勢のハンターや自衛隊の皆さんが散っていった・・・

ならばこそ生き残った私達はこの勝利を喜ばなくてはならない。

私は生き残ったハンターの筆頭としてこう叫んだ。


「明けましておめでとうございます。今年も宜しいお願いします。」


・・・と、こんな初夢を見ました。


そう言った後、私を見る3馬鹿の目がとても可哀想な者を見る目をしていた。


・・・潰したろか



2月


この季節のハンターは基本暇です。

獲物である竜の活動が殆ど無くなるからです。


「センパイ暇ですね。」


私の言葉に近藤先輩は不機嫌そうに答えた。


「暇なのはウチの所位だ、回りを見てみろ。」


近藤先輩に言われて回りを見回して見れば確かに・・・


私が不思議そうにしてると田原先輩が答えてくれた。


「この時期は何処の部隊も来年度獲得する新人のリクルートで大忙しなのさ。」


今さらっと大切な事を言われた私は質問を返した。


「ウチは?」


この質問に野村先輩は穏やかな表情で答えた。


「ウチは基本来るものは断らないから」


「つまり?」


「他の部隊で引き受けての無かった子を預かる事になります。」


・・・え〜とつまり今年この部隊に来た私は引き取り手の無かった子と云うことか・・・聞かなきゃ良かった。


私は静かに席を立ち給湯室で3人分のお茶をいれた。


あ〜忙しい



3月


私がハンターになって怒涛の1年が過ぎようとするころ、我々の上役であるMr.Jから呼び出しを受けた。


まったく身に覚えの無い私は体調不良を理由に早退(とうそう)しようとしたが、敢えなく3馬鹿に捕獲された。


「ご苦労さん良く来たね。」


縛り上げられて転がされている私の姿を気にする事なくMr.Jは話し始めた。


「松田さん、1年間の新人研修ご苦労さまでした。

本日を持って新人研修を終了とします。

本当にご苦労さまでした。」


・・・マジか、私はMr.Jの言葉を聞き、感動に浸っていた。

簀巻きにされながら感動に胸を奮わせている私に、Mr.Jが話かけて来た。


「松田さん、今後の事だが何か希望はあるかね。」


Mr.Jの言葉に私は・・・


4月


「先輩、待ってください!」

「悪いね新人君、私は残業はしない派なんだよ。」

「そんな事言われても僕一人でグリーンドラゴンの解体何て無理です!」

「大丈夫、皆そうやって(押し付けられて)一人前のハンターになっていくのさ!」

「待ってください、松田先輩!」


そう言って泣きをいれる後輩を置いて私は家路に着いた。



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