退屈3
小説に関しては初心者なので、この作品で勉強できたらなと思います。
視界の遠くに街が見える。もう少しで街に着きそうだ、少年がどんな食べ物があるのかなと考えていると、
「 ルルは何処に住んでいたの?そんな服の生地は見た事ないのだけど。」
と、唐突にアズハが言った。それもそのはずである。アズハは魔物狩りがメインと言った事もあり、最低限の急所と関節を守る程度の革の鎧を装備し、黒い綺麗な長い髪が腰まで伸びている。槍を装備しているが、髪は刻印術があるので長くても問題ないのであろう。
それに対して少年は、今はマントを羽織っているが、隙間からは綿でも絹でもない不思議な生地がチラチラ見えている。見た事もない物があれば、アズハでなくても気になるのは当然である。
少年は、異界にある生地です。と言うと、説明が面倒であり、まず信用して貰えないという経験則があった。
「 これは他国の服ですね、1度訪れた際に気に入って着ているのですが、少し待ってくださいね。」
そして、少年はマントで服を隠し自分に手を翳した。すると、次にマントから見えた服は、使い込んだ綿の旅装束に変わっていた。
「 え……、何をしたの……?」
アズハは目を丸くした。刻印術が発動した風には見えなかった。目の前で起きた事が理解出来なかった。
「 刻印術みたいなものですよ。」
少年は笑みを浮かべながら答えた。ルル(鳥)は自重しろよと言わんばかりに頭皮を突く。しかし、少年は自分の能力を自重する気はない。そもそも、退屈で来た世界に長居するつもりがない。見られても見た相手が理解できないし、他の人に喋られても信用されないからである。残ってもおとぎ話程度である。
「 それより、もう街に着きますよ。」
少年は言った。アズハは戸惑いつつも、
「 ええ、そうね。仲間に無事を伝えたいし、協会に報告してからお礼の食事でもどうかしら?この街ラードは肉料理が美味しいのよ。」
「 ぜひ、お願いします!! 食べるの好きなんですよ!!」
少年は目を輝かせて言った。
街の名はラード、内地に位置し人口は一万人程、この世界では比較的大きい街である。農業が盛んであり、食べ物に困る事は少なく、海料理以外は充実している。商業も発達し、周辺地域のハブ的役割を担っている。
アズハが所属する協会は、商業地区から少し外れた場所にあった。協会の中に入ると、慌しく人が動いていた。その中で長身の男がこちらに気付き、驚いた顔をした。
「 無事だったのかアズハ、今治療ができる刻印者を連れて救出に行くところだったんだぞ。」
「えぇ、彼のおかげで助かったの、後でお礼の食事をするつもりよ。」
と、アズハは駆けつけてきた長身の男に答えた。
「俺はトニー。瘴気に囲まれた状況は、俺だけでは何も出来ない。助けを求めに急いで街に戻ったんだが、少年、アズハを助けてくれて有難う。」
「 散歩してたら、偶々アズハさんが倒れているのを見つけましたので。」
少年は和かに答えた。
「とりあえず、報告を先にして良いかしら? ルルもすぐ終わるから少し休憩してて」
と、アズハが言いトニーと別の部屋に向かった。その間、少年は退屈だったので協会内で情報収集をすることにした。ちなみにルル(鳥)は、街を見たいと飛び立って行った。
情報収集の結果、刻印術とは身体に術印を刻み、刻印を使う事により体内の力を具現化する術であった。生まれ持った力の特性が人それぞれで異なる為、刻印術の種類を選択する事は出来ないとのこと。アズハは戦闘タイプに特化し協会でもトップのやり手だとか。
また、この世界には魔物がいる、アズハが戦った魔狼は本来なら集団で動く珍しい種類だそうだ。普通の魔物は単体で動き、複数の刻印者で討伐する。アズハは単体の魔物なら1人で簡単に倒すとのこと。集団の魔狼でも1人で倒すらしいが……。
ある程度、この世界の常識を教えてもらったところでアズハ達が戻ってきた。
「 ルル、終わったわ。食事に行きましょう。協会の向かいの店は美味しい肉料理店で有名なのよ。」
「 待ってました。美味しい肉料理!楽しみです。」
少年は食べることに頭のスイッチを切り替えたのだった。
肉、肉、肉、予想以上に肉、そして、美味しい。少年は頬を膨らませながら歓喜した。
「そんなに、喜ぶとは思ってなかったわ……。」
と、呆れ気味にアズハは言う。少年はすでに五人分ほどのステーキを食べているのだが、一向に食べ終わる気配はない。むしろ、食べるスピードが上がっている。
「この肉汁たっぷりで、口の中であっという間に溶けるのですから、たくさん食べない訳にもいかないでしょ!!」
別に食べる必要はないとアズハは思うのだが……。少年はさらに七人分程食べた後、満足したようでデザートを頼んでいた。命の恩人なのだから許してねと言わんばかりの頼み方である。そして、デザートが来る前に少年はアズハに確認をした。
「そういえば、アズハさんを追い詰めた魔狼はそんなに強かったのですか?アズハさんは複数の魔狼でも1人で倒せる実力と聞きましたが……。」
少年は気になっていた。協会でトップであるアズハの実力と、そのアズハを死の直前まで追い詰めた魔狼の強さを。
別に少年は戦闘狂ではない。少年が本気を出したら負ける事は基本的にないのだ。異界に自力で行ける相手に勝てる者だと普通は居ない。少年もそれは自覚している。だが、トップと言われればどれだけ凄いのか気になるのが人の性である。少年は異界まで自由に行けるのに、それは人でいいのかと偶に考えるが……。
「 強かった…、今回で確信したわ。あの魔狼は私より強い。傷を少しは負わせたと思うけど、確実に生きてる。偶々、別の依頼で遭遇したから戦ったけど1人じゃ無理ね。」
アズハは意外にも開き直った口調だった。そして、少年の顔を真剣に見つめ言った。
「 ルル、私と一緒にあの魔狼を倒してくれない?」
「 え……、何で……?」
少年は予想外のアズハの依頼に困惑した。そして、頼んでいたデザートが丁度来たのである。
頑張って1日、1投稿…。