鼻
朝起きたら、鼻が伸びていた。
下あごよりも垂れたそれは、赤紫色で苺の表面の如くぶつぶつと膨れている。天狗のように鼻高々ならまだしも、こんな不格好な見た目では人目にも晒せない。
現代医学に頼るしかないと思い立ち最寄りの医院で診察を受けると、医者は
「まるで芥川龍之介の小説ですな。何もかも同一の症状だとしたら、熱した鼻を散々踏みつけ、中に溜まった老廃物を取り除かなければならない」
「そんな荒療治ですか?最先端医学どころか昔の馬鹿話に頼るなんて、どんな温故知新ですか」
「ならば他に心当たりが?こういう皮膚の異常は、口内炎みたいなものだよ。自堕落な生活習慣が体に噴き出たものだ」
「どんな生活したら鼻が伸びると?」
「自慢ばかりしていたのではないかね」
あくまで医者は暢気に言う。
しかし素人の私に反論する知識などなく、渋々治療を承諾した。
「痛みを感じたら言ってくださいよ」
そう確認されたものの、長い鼻先には神経が通っていないのか、どんな仕打ちを受けても殆ど痛みを感じなかった。
一通り終わった結論を言うと、鼻からは何も排出されなかった。熱しようが踏みつけられようが、我が長鼻は相変わらずその形を保っている。
身体検査ではどこにも害は与えておらず、肥大化した鼻は生活に支障を来すようなものではないと告げられた。
「まあ多少見た目は悪いが、個性だと思えば良いじゃない。こうして見るとテングザルに近い愛嬌もある」
「テングザルに愛嬌ありますかね?それに、食事の際は不便で仕方ないですよ。まさか鼻擡げ係を付ける事もできないし……」
「何の時代だと思っている。パックのゼリーなどは口内炎が悪化した時に最適だぞ」
「何でいちいち例えが口内炎なのですか」
私は二度とこの医者の世話にはならないと決意し、医院を後にした。
外に出ると、近所の子供達とすれ違った。
「うわ、お化けだ!鼻のお化けがいる!」
子供達は、肥大化した二つの眼球で私を見ながら騒いだ。私も大きな目で睨みつけ追っ払い、辺りを見回すと巨大な目をした人々が街を闊歩していた。
この「巨眼国」では、蛙か出目金のような目を持つ人間達が生活している。動物の角がそうであるように、より大きな眼球をした者ほどもてはやされる風潮があった。
ああ何故目ではなく鼻が大きくなったのだと、私は運命を呪った。
(完)




