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取り巻く環境

 俺と玲奈と美羽は学園の廊下を走っていた。

 チャイムが鳴るまで後五分だった。

 走ればまだ間に合う時間だ。

 しかし、俺は不満だった。

「なんで朝から走ってんだよ」

「あはは、仕方ないだろ。学食で結構長話しちまったんだから」

 笑いながら走る玲奈。

 どこから笑いながら走れる体力があるんだろう。

 俺は後ろでつらそうに走っている美羽を見る。

 いつ倒れてもおかしくないほどにきつそうに走っていた。

「美羽、大丈夫か?」

「もう……疲れた。先に……行って……いいよ?」

 明らかに失速して足を止めてしまった美羽。

 このままだと美羽だけが遅刻してしまう。

 俺は美羽のところに行くと美羽をお姫様抱っこして玲奈の後を追う。

 抱かれた美羽は、驚いていた。

「置いて……行っても……よかった……のに」

「そんなことしたら、ここまで一緒に来た意味がなくなっちまうだろ。それに美羽だけを置いて行くなんて俺にできるわけないだろ」

 美羽は顔を赤くして俯いた。

「ありが……とう。やっぱり……海斗……君は……大きく……なっても……変わら……ないね」

「そうなのか。いつもこんなことしてたのか?」

「違う……。いつも……みんなに……やさし……かった……から」

「そういうことか。前の俺もこんなにやさしかったのか」

 美羽からそう言われてとても嬉しかった。

 話しをしているうちに俺たちは教室に着いた。

 チャイムはまだ鳴っていない。

 どうやら間に合ったみたいだ。

「あれ、玲奈はどこに行ったんだ?」

「玲奈……ちゃん……なら……もう……先に……教室に……入った……よ」

「そうか。じゃあ、俺たちも早く教室に入るか」

 俺は美羽を降ろそうとした。

「待って……。もう少し……このまま……いさせて」

「いいけど、どうして?」

「海斗……君」

 美羽の顔が少し赤かった。

 熱でもあるのかな。

「保健室に行くか?」

「大丈夫……。だから……その……目を……瞑って」

「え、ああ。わかった」

 俺は言われた通りに目を瞑った。

 すると、俺の頬に何かが触れた。

 とても小さくて柔らかいものが触れた。

「もう……開けても……いいよ」

 美羽に言われて目を開ける。

 美羽は顔を真っ赤にして俺の腕の中で縮こまっていた。

「もう……降ろしても……いいよ」

「あ、ああ」

 美羽を降ろす。

「何をしたんだ」

「えっと……ちょっと……ね」

 そう言って、美羽は教室の中に入った。

 俺は頬に手を当てる。

 あの感触っていったい何だったんだろ。

 俺の頬に一番近かった部位って。

 一つの答えにたどり着いた時、俺は顔が熱くなるのを感じた。

「まさか、な」

 相手は美羽だ。

 そんなことをするわけがない。

 やがて、学園内にチャイムが響き渡る。

「やば、早く席に着かないと」

 俺は急いで教室に入ったのだった。


 教室内はとても冷めていた。

 俺に鋭い視線がたくさん注がれている。

 黒板に自分の名前を書き終えて、前を向く。

 少女たちが俺に冷たい視線を浴びさせていた。

「えっと、出雲海斗です。みんなと同じで動物の耳と尻尾を持っている。まだ、ここに来てから間もないからわからないことがあったら教えてほしいと思う。これからよろしく」

 一礼する。

 ほんの少しだが、拍手が聞こえる。

 俺は少し安心した。

 それでも俺のことを受け入れない人が多かった。

「先生」

 俺の前の席に座っていたツインテールの女子が手を上げて立ち上がる。

「なぜ、この学園に男子が転校してくるのです?今まで女子しか転校してきてないじゃないですか」

「まあ、そう言うな。彼だって君らと同じなんだ。仲間として受け入れてやれ」

 担任の水野由江が女子に強く言うと、女子はこれ以上何も言わなかった。

「じゃあ、出雲の席は……寧子の隣の席だ」

 水野は、寧子の隣にある空席を指さす。

 俺が寧子を見ると顔を赤くしながら手を振ってくれる。

 朝の一件があったので、寧子が機嫌を損ねてないか心配したが、この状態なら大丈夫だろう。

 俺は言われた席まで歩く。

 俺が目の前を通ると、女子達は俺を見つめたり、ひそひそ話を話したりしている。

「これから頼むな、寧子」

「こちらこそ、よろしくね」

 寧子は微笑みながら俺を迎え入れてくれた。

 目が笑っていなかったことは、見なかったことにする。

「さて、転校生の紹介を終えたところでこれから実践訓練を行う。各自、演習用のジャージに着替えるように。それから、出雲は私とモニタールームで訓練を見てもらう。時間に遅れないように」

 そう言い残して、水野は教室を出た。

 俺は女子たちに何か言われる前に教室を出た。

「出雲」

 教室を出たところに水野が立っていた。

「寧子から話しを聞いたぞ。獣を追い払ったらしいな」

「そのことですか。たまたまですよ。寧子に言われたことをその場で実践したまでです。それにあの後、攻撃の反動でしばらく動けなかったんです」

「まあ、訓練を受けていないんだ。動けなくなるのは仕方のないことだ。それにしても、寧子の説明で成功するとはな」

 俺は、水野が言った言葉が引っかかった。

「どういうことですか」

「寧子は、今までの実践訓練で一度もクラスの女子に勝ったことがない。それに、あいつは攻撃に対して独自の考えがあるらしくてな。出雲、お前は寧子からどのように教えられた」

「動物の気持ちになれ、と」

「やはりな。実はその方法は間違っている。訓練でちゃんとした方法を教えてやるからな」

 水野は、俺の肩を叩いて去って行った。

 それにしても、寧子が訓練でクラスメイトに一度も勝ってないのか。

 空から降ってきたことと何か関連性があるかもしれない。

「出雲海斗」

 突然、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、自己紹介の時に俺の転校に不満を言っていたツインテールの女子が立っていた。

「私はあなたをまだ認めてないですから。認めてほしかったら、せいぜい頑張ることですね」

 女子はその場から立ち去ろうとする。

「待てよ。まだお前の名前を聞いてないぞ」

「あなたに名乗る名前なんてまだありませんですから」

 そう言い残して立ち去った。

 俺は、彼女に相当嫌われているようだった。

 こんなので、果たして全員とキスできるのだろうか。

「手荒い歓迎されてんのな」

 玲奈がジャージ姿で俺の元へ来る。

「まあ、今まで女子高状態だったわけだし、そんな中にいきなり俺が入ってきたわけだからな。あんな風に言われても仕方ないんじゃないか」

「そうだな。まあ、少しずつ慣れればいいんじゃないか」

 笑いながら玲奈は言う。

 慌てても仕方ないからな。

 ゆっくりと時間をかけて馴染むしかないか。

「それよりも、あいつは誰なんだ」

「神崎原美沙紀。学園の中でも実力は上だよ」

「そうなんだ」

「そのせいで見下し癖があるけどな」

 困り顔を見せる玲奈。

 てことは、さっきのあれも一種の見下し癖なんだろうな。

「二人ともそろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」

 寧子が声をかける。

「お、もうそんな時間か。海斗、行くか」

「そうだな。それよりも、モニタールームってどこにあるんだ?」

「モニタールームなら演習場の隣の部屋だから一緒に行こうか」

「ああ、案内を頼むよ」

 俺たちは美羽と合流して俺はモニタールームに、寧子と玲奈と美羽は演習場にそれぞれ向かった。

「登場人物」

・水野由江…年齢不詳。女。テンジン学園の教師。海斗たちの担任教師。主に演習や訓練を担当している。元・自衛隊陸軍所属。独身。身長百七十二。

・神崎原美沙紀…十六歳。女。モモンガの耳と尻尾を持つ。口癖は「です」。父親が有名会社の社長である。今までツインテールしか髪形を変えていない。高所恐怖症。好物はアクセサリー、サクランボ。嫌いなものは高いところ。身長百六十二。体重「聞いたら殺るですよ?」

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