海斗の部屋
手続きを終えたのは、外が真っ暗になる頃だった。
俺は自分の部屋を探しに学生寮をうろついていた。
「てか、外の光って入るようにちゃんと工夫されてたんだ」
どうやらここの学園は色々な魔法がかけられているみたいだ。
「俺の部屋ってどこだよ」
道に迷ったわけではないが、学生寮が異様に広いので部屋が探しづらい。
さらに探すこと体内時計で十分くらい、ようやく目的の部屋を見つけ出した。
「ここが俺の部屋か。なんで部屋見つけるのにこんなに苦戦してんだ、俺」
今日の疲れが一気に来たんだろうな。
今日はもう早く寝た方がいいな。
そんなことを考えながら鍵を使って部屋を開ける。
「はー。早く部屋を片付け……て……」
後悔先に立たず。
ノックするなんて考えが出てこなかった俺を責めたかった。
「ぅぇ…………ぁ…………」
まさか部屋に着替え途中の少女がいるなんて考えもしなかった。
経った数秒の出来事なのに俺には永遠にも想えるほどの時間が流れていた。
低い身長に見合ったほどの小さな胸に水色の縞パンを履いていた。
て、何見てんだよ俺!
「あ、そ、その、ごめん!」
俺はそれだけ言って部屋を出た。
額には嫌なくらいに脂汗をかいていた。
いっそさっきの出来事が夢だったらいいなとか考えてしまう。
「他の部屋を探そう」
別の部屋に行こうとしたとき、立ち去ろうとした部屋の扉が開いた。
俺が部屋の方に振り向くと着替えていた少女が顔を覗かせていた。
「その……入っても……いい……ですよ」
顔を真っ赤にして俯いたまま俺に部屋に入る許可を許してくれた。
部屋は何もなかったようにきれいに片付いていた。
奥にはダンボールが積まれていた。
「ここは俺の部屋であってたのか」
「ごめ……な……さい。誰も……いない……から……勝手に……使っちゃ……た」
「いいさ。それに、あの時ノックしなかった俺が悪かったんだし」
部屋が暗いこともあり、居心地が悪かった。
何か話さないといけないのはわかっていたが、何を話せばいいかわからなかった。
お互いに黙り込んでさらに居心地が悪くなった。
俺は何か話題を振らなきゃいけないことでいっぱいになっていた。
この沈黙を破ったのは俺ではなく少女からだった。
「あなた……出雲……海斗……だよね」
「俺のこと知ってんのか」
少女が俺の名前を呼んだことに驚いた。
「うん……。私の……友達……覚え……てる……?」
「すまん。出てこない。何かヒントになるものとかないか」
「それなら……見て……」
そう言って少女は後ろを向いて俺に尻を突き立てる。
かわいらしい白い尻尾を振る。
「これで……どう……かな」
「出来れば耳も見せてほしいな」
「うぅ……もう……恥ずかしい……けど……特別……だよ」
少女は俺に顔を近づけた。
そして、頭に生えた耳を見せてくれる。
白くて長い耳が生えていた。
俺はそれが兎の耳だとすぐに分かった。
そして、ある名前が浮かび上がった。
「もしかして、小倉美羽か?」
「ようやく……名前……呼んで……くれた」
美羽がにっこりとほほ笑んだ。
顔が近いのもあってとても可愛く見える。
ようやく顔が近いことに気付いた美羽は顔をリンゴのように真っ赤にしてすぐに俺の近くから離れた。
「ごめ……。顔……近かった……よね?」
「あ、いや、大丈夫だ。でも、思い出せたよ。恥ずかしかったのにありがとな」
美羽はすぐに顔を伏せてしまった。
でも、彼女の口元は笑っていた。
「じゃあ……私……もう……戻るね」
「そうだな。もしかしたら俺が美羽を襲っちゃうかもしれないしな」
冗談交じりに言う。
しかし、彼女の目は真剣そのものだった。
「海斗……君は……そんなこと……しないよ」
窓から射す月明かりに照らされた美羽はとても美しかった。
「それもそうだな。明日も早いんだろ。早く自分の部屋に戻りな」
「うん……。じゃあ……お休み……なさい」
「おう、お休み」
美羽は扉の前で一礼して部屋を出た。
「俺も早く寝るか」
俺はベッドに倒れこんだ。
眠気はすぐに襲ってきた。
俺はそのまま眠気に身を任せたのだった。
窓を閉めていなかったので日光の光が入って来る。
身体を起こそうとしたがなぜか体が重くて起き上がれない。
頭は自由に動かせたので体の方に顔を向ける。
そこには、寝るときにはいなかったはずの寧子が俺に抱き付いたまま寝ていた。
寝ながらマウントを取っていて簡単には動けそうにない。
流石の俺もこれには困った。
「とりあえず起こさないとまずいよな」
遅刻するのも大変だが誰かにこの格好を見られるのが最も大変なことに気付く。
それはわかっているが俺にはそれが簡単にできない理由があった。
「すー……んん……」
とても気持ち良さそうに眠っていたからだ。
普段絶対に見せない顔に少しドギマギしてしまう。
さらに息遣いも聞こえて、このままずっと居てもいいと考えてしまう。
「何考えてるんだ、俺!」
自分の頬を叩く。
とにかく寧子を起こさないと。
「おい、寧子起きろよ。もう朝だぞ」
体を揺する。
でも、寝返りをうつだけで起きる気配は全くない。
さらに荒く揺するが全く起きない。
「これだけやっても起きないとか」
ほとんど諦めかけていた俺。
その流れで俺はある考えが頭をよぎる。
いけないことだとは分かっていたが、ここまでやって起きないから何やっても起きないだろうというわけのわからない根拠が出てきた。
「ちょ、ちょっとだけなら……いいよな」
俺は寧子の頬をつついてみる。
女の子の頬ってこんなに柔らかいんだ。
「んん……、飴さん……ですか」
よくわからない寝言を言う寧子。
何の夢を見ているんだか。
「飴さん……おいしそうです」
俺の右手を掴んでくる寧子。
あれ、寝てるのに結構力が強いぞ。
「いただき……ます」
そう言って俺の人差し指を舐め始めた。
舐められた瞬間、体中に電気が走ったような感覚に襲われた。
寝てるのに舐め方がエロいぞ。
さらに俺の指をしゃぶりつく寧子。
なんかすごく色っぽくて、背徳感を感じた。
「ん……むぁ……?」
ようやく目が覚めた寧子。
「えっと、おはよう。今朝の目覚めはどうですか?」
まだ意識が覚醒していないのか俺の顔を見つめる。
そして、ようやくしゃぶっていた俺の指を口から出した。
俺の人差し指は寧子のよだれで濡れていた。
それを見た寧子は顔を真っ赤にした。
どうやら完全に目が覚めたみたいだった。
「な、な、なな、なななななななななな……」
寧子の手に自然と力が入っているのがわかる。
めちゃくちゃ痛いんですけど。
「な、何で私がウミ君の指を加えてたの」
「いや、お前がなかなか起きないから頬をつついて遊んでたら寝ぼけたお前がおれの指を……な」
寧子の顔が茹でだこのようにさらに顔が真っ赤になったのが分かった。
寧子はベットから飛び降りると扉の前に立った。
「早く着替えて学食に来てね」
そう言い残して出ていった。
結局、何で寧子が俺の部屋で寝ていたのか理由を聞くことができなかった。
「登場人物」
・小倉美羽…十六歳。女。兎の耳と尻尾を持つ。恥ずかしがり屋で人見知りが激しい。声が小さく聞き取られないことが多い。男子が苦手だが海斗だけは大丈夫。七月九日生まれ。好物は苺大福。嫌いなものは男子、虫。身長一四六センチ。体重「恥ずか……しい……です」サイズは上から七四、五五、七五。